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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 この〈影〉専用の入り口から城の中に入れるが、中も一筋縄ではいかない。

 王城によく出入りしているのは〈右足〉だ。
 守る〈左手〉と進む〈右足〉の場合、互いの事がよく分かっている。

 僕のようなイレギュラーは、どうしていいか分からない。
 なので……。

「……ええっと、〈影〉同士の合図でいいよな」

 女王陛下の〈影〉ならだれでも使える、敵味方を判別する合図がある。
 酒場とかで、「こいつ、同業者か?」と思ったときに、テーブルを指の腹で叩いたりするのだ。
 それとなく分かるように。

 僕は石の壁にまっている細い板を、手の甲でリズミカルに叩いた。

 ――タタタン、タタン、タタタッタン、タン、タン、タタタン、タタッタッタタタン、タタッタッタッタタタ。

 板が振動して、中にいる〈影〉に伝わったはずだ。

「………………」

 待っていれば、中から鍵を開けてくれる。

「………………」

 あれ? 反応がない。寝ているとか?

「それはないよな。この入り口は年中無休のはずだ」

 どういうことだ? 何か不都合があったとか?
 しょうがない、もう一度だ。

 さっきと同じリズムで板を叩いた。

 これ、間違ってないよな。
 何度も練習して覚えたはずだし。

 たっぷりと待ったが、反応がない。
 もう一度しなきゃ駄目かなと思ったところでようやく、中からかんぬきが外される音が響いた。

「いち……にぃ……さん……しぃ、ご……五本か」

 重そうな音が五回聞こえた。
 最初の入り口なのに、そんなに厳重なのかよ。

「名は?」

 殺気を撒き散らせた壮年の男が二人、開いた石扉の奥に立っていた。

「ソールの町を拠点とする女王陛下の〈右手〉、レオンです」

「………………」

「…………えっと?」

「……入れ」
「はい」

 なんだろう、さっきの間は。
 僕、なにか悪いことやったか?

 ここから先は、父と来た時と同じ手順だった。
 次の石室で身体検査をされた。

 余計なものを持っていると、かならずここで取り上げられる。

 その次の石室で、魔道封じの腕輪を装着するのも一緒だ。
 これは魔道を使える、使えないにかかわらず、付けることになっている。

 そこからは、石の通路を進み、所々で背後の扉が閉まる。
 帰りたくなっても、帰れない。

 突き当たりでもう一度小窓に向かって名乗り、閂を外してもらう。

 これをあと二回繰り返して、ようやく階段を上がる。
 本気で疲れる。

 階段を上がりきると、また身体検査され、反対の腕にやはり魔道封じの腕輪を付けられる。

 これだけやってはじめて女王陛下にお会いすることができる。
 万全を期すのは分かるけど、もう少し単純化してくれると嬉しい。

 もう二度と来たくなくなること請け合いである。

「そういうわけには、いかないんだろうなぁ」

 最後にいくつか魔道がかかった部屋を通り抜けて、謁見の間にたどり着いた。
 といっても、〈影〉専用の謁見の間である。

 女王陛下が〈影〉に会うためだけにしつらえた、表の謁見の間を模した部屋。
 その周囲には、黒衣の男たちが大勢いる。

「お久しぶりでございます、女王陛下」
 僕はひざまづいて挨拶した。

 そう、すでに女王陛下は、ここで僕を待っていたのである。

「久しいね。三年ぶりかしら」
「はい」

「立派に後を継いでいると報告を受けています。ハルイも安心していることでしょう」
「お褒めの言葉をいただき、恐縮でございます」

「レオン、そなたの竜紋、わらわに見せてくれますか?」
 周囲がザワッとした。

 女王陛下と謁見中であるが、もちろん周囲には〈左手〉の面々が控えている。
 ざっと探知したところによると、女王陛下の横に四名、僕の左右に二名、後ろに三名。

 ヒラヒラのカーテンの向こうにも気配が複数感じられる。
 どれだけ隠れているのやら。でもこんなに多かったっけ?

 なぜ隠れている者まで僕が分かるかというと、殺気をビンビンと飛ばしてきているのである。
 近寄ったら殺すぞと大声で言われている気分になる。

 なので僕は、〈左手〉の無言の圧力を無視することにした。
「これでございます、女王陛下」

 跪いたまま数歩前に出て、左手の甲をよく見えるように差し出した。

「なるほど、たしかに竜紋。優秀な〈右手〉をソールの町から離すのは忍びないですが、これも務め。己が職務をまっとうするように」

「ご配慮、痛み入ります。かならずや、ご期待に添えるよう、日々、精進いたします」
 僕は深々と頭を下げた。

「期待しておりますよ、レオン」
「はっ!」

 よし、これで謁見も済んだし、あとは帰るだけだ。

 帰るときに、〈左手〉を少し挑発していくかな。
 そんなことを考えていたら……。

「表向きの話はこれまでにして、レオン」
「はっ」

「少し話しましょうか。ハルイは元気? 意地を張っちゃって、ちっとも会いに来ないのよ。なにか聞いていて?」
「はっ?」

 なんのことだ?
 しかもいま、女王陛下の性格も変わったよね。

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