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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 リンダと会った数日後。
 今度はアンさんと会うことになった。

 待ち合わせ場所は、貴族御用達のサロン。
 二階のフロアを貸し切りである。

 顔合わせ会の予定が近づいているので、そのことだろう。

「またレオンくんとお会いできて、嬉しいですわ」
 会うたびに素敵な笑顔を向けてくれるアンさんだが、今日は後ろに大勢の人が控えていた。

「僕も会えて嬉しいです。それで今日は一段と綺麗ですね。よく似合ってますよ」
 出会い頭にアンさんを褒めてみた。

 僕との色合せのためだろう。アンさんは次の顔合わせ会で着るドレスを身にまとっていた。
 裾を引きずるかと思うほど長いドレスだ。歩いたあとは掃除が要らなそうである。

「ありがとうございます、レオンくんにそう言ってもらえると、とても嬉しいです」

 アンさんが身体をひねった。腰のあたりから、サァーっと綺麗な曲線をつくって光が流れる。
 この手のものに疎い僕でも分かる。これは技国の最新ドレスではなかろうか。

「後ろの方々はもしかして、技国から?」
「はい。来ていただきました」
 にっこりとアンさんは微笑む。

 アンさんの衣装も夜会用らしく、薄い黒のドレスだ。
 これを仕立てた人たちならば、超一流の職人だろう。

 しかしどんな生地で出来ているのだろう。
 アンさんが歩くたびに光が流れ、まるで光の滝のようだ。

「今日はレオンくんの仮縫いです。……気に入ってもらえると嬉しいのですが」
 相変わらずアンさんは不安そうだ。

 後ろに控えている人たちが僕をじっと見つめる。
 その目は鋭い。僕のなにを測っているのだろう。

 おそらく数字上の身体と実際の僕を見比べているのだと思う。

「それではレオンくん。はじめさせていただきますね。……ヘレネさん、服をこちらにお願いしますわ。アードンさんとリザムンドさんはレオンくんの着替えを手伝ってあげてください」

 無言で三人が動き出す。
 残りの人たちは、長い定規を構えたり、巻き尺を確認したりと準備に余念がない。

 ヘレネさんが取り出した衣装は、黒地に銀のラインが入ったものだった。
 リンダが用意するガーデンパーティ用の衣装は淡い色合いらしいが、これは夜会用に落ち着いたものになっている。

 なるほど、これはアンさんとおそろいだ。
 よく見ると、同色で刺繍が施されている。

 しかしこの刺繍、同じ糸を使っているのか、近寄ってみないと分からない。
 隠されているわけではないが、ぱっと見ただけでは刺繍に気づかないだろう。

 左肩から右脇腹に抜けるようにして、竜の紋章が描かれている。
 竜操者が普段つけるような簡易版ではなく、本物の意匠だ。

 手が込んでいる。
 というか精緻すぎて、目を凝らさないと細部まで確認できないほどだ。

「……マジか」
 こんな刺繍、いつ縫いこんだんだ? 礼服を用意すると決まってから、まだそんなに日が経ってないだろうに。

 それにこの服、とても仕立てがいい。動きやすく軽い。
 仮縫いと言っていたが、これほどピッタリな服は生まれてこのかた、着たことがない。

「どうでしょうか」
「すごいです。最高ですよ」

 それ以上の言葉は思い浮かばない。

「気に入ってもらえて良かったですわ」
 これを気に入らないと言える者が果たしているだろうか。

 やはり仮縫いというだけあって、わずかな微調整が必要らしかった。
 僕にはどこが悪いのか分からなかったが。

 そしてものすごく細かな調整すらも、ほんのわずかな時間で終わらせてしまう。

「どうやらできたみたいですね」
「ええ……ですが、こんなに良いものを作って」

「レオンくんでしたら当然です。なにしろお披露目ですから」
「……?」

「昼と夜の部は、それぞれパートナーと一緒に入場ですわよ」
「……はっ?」

 聞いてない。
 そういえば、リンダはドレスコートとか言っていたっけ。
 しかもパーティだとか。

 ということはあれか? 名前を呼ばれて階段を下りてくるやつ。
 いや、貴族のデビュタントではない。そこまではしないだろう。

 互いに手を取り合って入場だろうか。そのくらいはやりそうだ。

「もしかして、昼と夜、それぞれにですか?」
「はい。途中で着替えがありますし」

 そういえばそうだった。仕切り直しがあるのだ。
 なんとなく昼の部が終了して、なんとなく夜の部が開始するじゃグダグダだ。

 そのため、昼のガーデンパーティが終わると一旦終幕となる。
 時間をおいて夜の部がはじまるのだ。

 一緒に入場するとは聞いてなかった。
 この顔合わせ会、欠席……はできないんだっけか。

 なんか、一気に憂鬱になってきた。最近多いな、そういうの。

「この前の石ですが、いま加工の最終段階に入ったようです。今回のパーティには間に合うように手配しましたので、もう少しお待ちください」

「ありがとうございます……ははっ」

 きっと急がせたんだろうなぁ。
 ごめんなさい。超一流の職人さん。

 僕とアンさんが並んで立ち、互いの衣装の出来栄えを確認しながら、バランスを取るために、さらに微調整が入った。

「終わったようですね。これで本縫いに入れるようです」
「出来上がりを楽しみにしています」

 この時点で充分すごいんだけど、そう言うしかない。



 もとの服に着替えて、アンさんと食事をすることになった。

 今回は竜国の珍しい料理を食べたいということで、サロンを出て北方の郷土料理を出してくれる店に入った。

 技国は大陸の南にあるため、アンさんは、竜国の北方料理を食べたことがないらしい。
 北方料理は僕もないけど。

 出てきた料理は煮込んだシチューを中心に、温かいものが多かった。
 アンさんに喜んでもらえるよう高級な店を選んだ。

 そのため、とても美味しかった。
 半分ほど食べたところで……。

「それでですね。実家から手紙が来たのですけど……」
 アンさんは食事の手を止めて、話を切り出した。

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