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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「お礼の希望は、あるでしょうか」
「そうですね、ひとつお願いしたいことが思い浮かびました」

「本当ですか。それはなんでしょう?」

 僕がお願いしたいことがあると伝えたら、アンさんが食いついてきた。
 といっても大したものではない。

 アークからもらった石についてだ。

「寮の同室人から、石をもらったんです」
 ポケットに入れておいた、アジオライトを取り出す。

 薄水色に光る石。
 アジオライトが放つ光越しにアンさんの顔が見えた。
 僕の顔とアジオライトを交互に見ている。

「これはまた、大変珍しい石ですわね」
「友人が……アークというのですけど、実家に帰ったときに宝飾店で見つけたと言っていました」

「そうですか。石としての価値はありませんが、入手難易度が高いので、好事家が順番待ちをしてたのではないでしょうか」

「そのような話も聞いていましたが、懇意にしているところだったのか、先に譲ってもらったようです」

「なるほど。これを装飾したいのですわね」

 アジオライトをそのまま持っていると無くしそうなので、ペンダントかなにかにしたかった。
 アンさんはそのへんの意図を汲んでくれたようだ。

「ええ。これを加工できる職人を紹介していただきたいのです」

「わかりましたわ。我が氏族が抱える一流の職人に加工させましょう」
「えっ、いや……紹介してくれるだけで」

「そうですわね。お父様に聞いてみましょう。当代一の職人を手配しますわ」
「あの……アンさん? それほどの職人でなくてですね」

「土台はなにがいいでしょうか。やはり希少金属でしょうか。アジオライトの輝きに合うものでしたら……そうですね、『群青ぐんじょうの銀』などもいいですわね」

 群青の銀は、通常は銀色をしているのだが、光に当たったとき、その加減で青色が瞬いて見える銀のことである。
 キラキラと多様な青色が目に飛び込んでくることから、そう呼ばれている。

「……えっと」
 僕が戸惑っていると、アンさんはすっきりした顔になった。

「レオンくんのためですもの。最高の職人に頼んで、最高のものを作らせていただきますわ。委細お任せくださいませ」

「………………はい」
 なぜか、僕は反論できずに頷くしかなかった。

 その後も、加工代金の支払いについて押し問答があったが、アンさんのきっぱりとした態度で押し切られてしまった。
 技国一流の職人が作るペンダント……僕が払おうとしても、払える額ではないだろうし。

 これはあくまで捕らえられていたアンさんを助け、自らの所領まで送り届けてもらったお礼なのだという。
 そう言われてしまったので、アンさんの申し出を甘んじて受けることになった。

 すぐに石を実家に送っても、出来上がるのは二十日かそれ以上かかるだろうとのことだった。
 本来の仕事はあるだろうし、一流の職人をそれだけの間、拘束するのかと思うと心苦しいばかりなのだが。

 食事も終わり、あとは帰るだけとなったが、もちろん僕が送り届けるようなことはしない。
 馬車が会館の前に横付けである。

「それではレオンくん。一緒にまいりましょうか」

 アンさんも寮住まい。
 建物は道を一本挟んだ両隣。一緒に帰るのが合理的だった。

 こうして僕とアンさんのデートは終わった。
 終わったのだが、別れしな、「それではまた次回」と言われた。

 たしかに石の件もあるし、また会うことになるのだけど。

 学院の授業開始初日から、なんとも疲れる一日となってしまった。



 それから数日は穏やかな日々だった。
 二回生の演習に一度だけ付いていき、野営の手伝いや、月魔獣との戦闘を遠目で見ることもあった。

 後期になったからか、座学の内容が難しくなっていた。
 覚えることが多く、丸暗記するために何度も徹夜したりもした。

 アークは長期休み中に勉強していたらしく、最初は余裕の表情だったが、徐々にそのストックがなくなり、顔に焦りが出ていた。

「こんなに進度が速いとは思わなかったよ」

 アークはある日を境に、出歩くのをパッタリと止めてしまった。
 勉強が追いつかないのである。

 僕も同様だったので、朝のパンの仕込み以外は、ほとんど外出しなくなった。
 これは例年のことらしく、毎年この時期、一回生の顔から余裕が消え去るという。

 余裕がなくなった頃を見越して、三回目の顔合わせ会が開かれる。
 結構、いい性格しているなと思う。



「ねえ、今度の顔合わせ会だけど」

 リンダがそう切り出した。
 場所はいつものレストラン。

「どうしたんだ?」
「わたしも出席するのよ。それで着ていく服なのだけど」

 リンダの言いたいことは分かる。
 今回の顔合わせ会は、立食パーティ形式なのだ。

 場所はいつもの講堂とその外。つまり庭園で行われる。

 参加者は学院の一回生と、王立学校の成績優秀者。

 王立学校からは、三学年のそれぞれ成績上位から順に声をかけていって、各百名になったら締め切る。そんな選抜方法らしい。

 ちなみにリンダは上位五十人の中にしっかりと入っているそうだ。
 すでに余裕の表情である。
 聞いたところによると、アンさんも大丈夫だとか。

 ロザーナさんも問題なく入ったらしい。
 そもそもロザーナさんは才女で、特定の分野は飛び抜けて優秀で、天才の部類にはいるのだとか。
 好き嫌いの激しい性格がそのまま勉学にも現れていて、総合では突出してはいないようだ。

「着ていく服というと、僕の?」
「決まっているでしょ。今回のドレスコートは、日中のガーデンパーティと夜のダンスパーティ。つまり二着が必要なのよ」
「そうだっけ?」

 あまり覚えていない。というか、そんな余裕がない。
 座学で忙しいのだ。

「……まあ、いいわ。それでアン先輩と相談したのだけど」
「……はっ?」

「聞こえなかったの? アン先輩と相談したの。あなたの礼服について」

 ……いつリンダとアンさんが親しくなったんだ?
 いや、本当に親しいのか? 前回リンダは敵視していなかったか?

 というか、僕の知らないところでどんな話が出ているんだ?

「ねえ、ちょっと聞いているのかしら」

 リンダは僕の顔を覗き込んだ。


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