挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

116/660

116

 アンさんに連れて来られたのは、ガス灯の下だった。
 ガス灯は王都の夜を照らす明かりだ。

「これも技国の技術だったんですか」
「はい。従来のものは火をともすときに、長い火付ひつけ棒が必要でした」

「ああ、僕の町にもありますね。ガスに火をつけて回る人が持ってました」
「その手間を省くために、鍵の操作ひとつで、点火と消火ができるようにしたのです」

 鍵穴がある。なるほど、ここに専用の鍵を挿して、灯をつけたり消したりするようだ。

「技国の技術は、生活を便利にするものが多いですね」
「そういうわけではないのです。竜国は、率先して民の生活を豊かにする技術を求めているようです」

 すると女王陛下の発案かな。
 けど、こういう技術があるって知らなければ、導入もできない。
 女王陛下は各国にいろんな人を派遣して、政治や経済以外の情報も集めているんだろうな。

「技術の平和利用は僕も賛成です」

「はい!」
 アンさんは最高の笑顔で同意してくれた。

 駆動歩兵だって、家を運ぶようなものばかりだったら、どんなによかったか。
 もっとも、竜を持っている竜国が言えることではないだろうけど。

「他にもいろいろ見て回りたいのですが、そろそろ暗くなって来ましたし、食事にしましょうか」

「そうですね。周囲からもいい匂いが漂ってきました」
 ガス灯の明かりがゆらゆらと揺れている。
 夕方から夜に差し掛かろうとしていた。

「レオンくんに技国の食事をと考えたのですが、あまりおすすめできそうなお店が見当たらなかったのです。ですから、こちらへ」

 アンさんは僕の手を引き、堅牢な建物の前に連れてきた。
 どうみても食事をするような場所ではない。

「……ここは?」
 はじめて見る。けど、ここは商業街と貴族街の中間にある。一等地だ。

「ここはですね。技国会館と言いまして、技国で要人をもてなすときに使用するのです」
「……はい?」

「つまり、竜国のどなたかをもてなすのに、技国専用の建物、内装、食事を揃える場が必要になったので、建てたのです。今日はレオンくんのために使用許可をいただきましたので、大丈夫ですよ」

 忘れていたが、アンさんは序列第三位、兎の氏族長の孫娘だった。
 竜国でも、『権力』という魔法の力を使える存在だった。

「いいのですか? 僕ごときに」
 僕は竜国の要人ではない。それだけは言える。

「はい。まったくもって問題ありません!」
 アンさんは大きな声で断言した。
 もう一度言おう。断言した。

 すでに食事の用意が調っているらしく、僕は流されるままに大人数が会食できる部屋に通された。

 壁や天井には精巧な彫り物がビッチリと描かれている。
 竜と月魔獣との戦いらしい。竜国に配慮したのかな。

「レオンくんには、技国の料理は口に合わないかもしれません。ちょっとドキドキですわ」
「えっと、町中でもふつうに売っていますよね」

 屋台だと技国式のものが多いくらいだ。
 やや香辛料を効かせた肉料理が思い浮かぶ。

「いえ、氏族料理なのです。……一応、代替だいたいの料理も用意してあるので、お口に合わないようでしたら、遠慮無く仰ってください」

 そんなに奇抜なものなのだろうか。こっちもドキドキだ。

 アンさんが静かに合図をすると、何人もの給仕きゅうじが様々な皿を目の前に並べていく。
 どれから食べればいいのだろうか。

「……これは?」
 複雑な味だ。辛いし、甘い?

「どうでしょうか、レオンくんのお口に合いますか?」
「とても個性的な味ですね。いままで食べたことがないような」

 決して不味いわけではない。それどころか、ひとつひとつはすごく美味しい。
 ただ、味付けが妙に複雑なのだ。
 一口でいろんな味が楽しめる。これは未知の味だ。

「氏族料理は、多くの料理人を使った一風変わったものなのです。使用するスパイスも数十種類と多く、スパイス専門の方がいるくらいなのです」

 どこの王族だ! と思ったら、似たようなものか。
 なるほど。そりゃ、いくら竜国の王都とはいえ、そこらで食べられるようなものじゃない。

 というか、わざわざ僕のために数十種類のスパイスを用意したのか。
 食事をする僕らの脇で静かに佇む彼らもまた一流なのだろう。

 なんとなく、場違いな気がしてきた。

「はじめての経験で、緊張しますね」
「わたしもレオンくんと一緒の食事なので、緊張します」

 その後はややぎこちない会話を続けながら、会食は進んだ。

 並べられた皿の数に比べて、食事の量はそれほど多くない。
 一品、一品が少ないのだ。

 それでも、会食が後半になるにつれて、腹も膨れてきた。

「……それで、レオンくんにはぜひとも助けていただいたお礼をしたいと思いまして。いろいろ考えたのですけど、なかなかいい案が浮かびませんでした」

「本当に気にしないでください。その言葉だけで満足ですし」

「いえ、そういうわけには参りません。ですので、レオンくんの希望を聞こうかと思いました。……急なことですが、何か叶えてほしいものとかありますか?」

 真摯な態度で接してくるが、こういうのは断らない方がいいのだろう。
 だが、欲しいものもないし、お願いすることも……あっ、そうか。

「そうですね。……ひとつ思い浮かびました」
 僕はそう言った。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ