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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 それから数日は、何かに没頭するかのように、パン屋で一日中アルバイトをしていた。

 学院の授業が始まる前日。
 いつものように、『ふわふわブロワール』の作業場でパンの成形をしていると、店から僕を呼ぶ声が聞こえた。

 呼んでいるのは、自称看板娘のミラだ。

「どうしたの?」
「あなたにお客さんよ」
「…………?」

 エプロンを変えて、手袋をしてから、店に顔を出す。
 待っていたのは、アンさん。
 兎の氏族長の孫娘で、本名はアンネロッタ。

「アンさん。戻ってきたのですか?」
「はい、つい先ほど」

 王立学校の制服は着ていない。私服だ。
 地味な服装だが、改めて見るとよく分かる。

 どこぞの貴族様より上品にみえる。服の仕立てがまるで違うのだ。
 もっともっと高級品だ。

 技国にいる最高の被服職人が仕立てたものだろう。

「無事戻って来られてよかったですね」
「はい。それもこれも、すべてレオンくんのおかげですわ」

「いえ、たまたまです」
「そんなことありません。都市を出てからも大変お世話になりました」

 アンさんはそう言うと、小脇に抱えていた小箱を差し出した。

「これは?」
「レオンくんのこと、お父様にお話しました。それでちゃんとしたお礼をと思いまして……些少ですがどうぞ」

 なるほど、お詫びの品か。
 それをもらってチャラにした方がいいだろう。

 貸し借りが互いにあると、後で困ることになるかもしれないし。

「ありがとうございます。遠慮なくいただきますね。……なんだろう」
 小箱を開くと、小さな指輪が出てきた。繊細な装飾がついている。

「わたしの氏族が代々受け継いでいる指輪ですわ。失われた技術で作られていますので、再現できないのですけど」

 ――ブフォッ!

「そ、それは、家宝というものなのでは?」
「さあ、どうなのでしょう。お父様からいただいたものですので、よく分かりませんの」

 よく見れば、小箱の方もやたらと軽い。
 これも特殊な金属でできていたりしないか?

 指輪の鑑定はできないので、どういったものか判断が付かない。
 だけど、これだけは分かる。

 この指輪、もらうわけにはいかない。

「アンさん。申し訳ないですが、これは受け取れません。さすがに氏族が持つようなものを身に付けるわけにはいきません」

 これは代々、婚姻する相手に贈った指輪だとか言われて、僕と竜が技国にお持ち帰りされても困る。
 返却しよう。絶対に。

「ですが、お父様はこれくらいでないと、感謝の気持ちが伝えられないと言いまして」
「いまの言葉で充分伝わりました。気持ちだけ、いただいておきます」

 そのお父様は、外堀を埋める気満々じゃないのか?

 何度目かの押し問答の末、なんとか返却することに成功した。
 なぜか、このまえ立ち消えたデートをやり直すことになったが。

 それと技国があの後どうなったのか、知りたかった。
 アンさんいわく、全部話そうとすると、それなりに時間がかかるらしい。

 パン屋の店内で聞くわけにもいかなかったので、しょうがないと思う。
 リンダが怒りそうだが。

 なんにせよ、明日の授業が終わった後で、僕はアンさんとデートすることになった。



「ようやく戻って来られたよ。まさにギリギリだね」
 寮に戻ると、同室のアークがいた。僕の方が遅れるかと思ったら、まさかのアークがギリギリだったとは。

 アークはヒューラー出身なので、僕より近いはずだ。
 聞くところによると、長期休みの前半は女の子とデートばかりしていたらしく。かなりの強行軍で実家に戻って、またやってきたらしい。

「久しぶり。なんだかすっきりした顔をしているね」
「ああ、聞いてくれ。いろいろと成果があったんだ。……っと、その前に、キミにお土産だ」

 アークは綺麗な石を出してきた。
 部屋が暗いにもかかわらず、石が薄水色に輝いている。

「アジオライトかな」
「おお、よく知っているな。博識だね」

「たまたまだよ。実物を見たのははじめてだ」
「そうだろうね。とても希少な石で、俺もなかなかお目にかかったことがないくらいだ」

 アジオライトは、ヒューラーの町周辺の鉱山でまれに採掘される。
 石自体の価値はそれほどない。貴金属のたぐいではないのだ。

 ただ、暗闇に薄っすらと光るのが特徴で、色は赤っぽいものから、青っぽいものまである。
 滅多に採掘されないので、見たことがある人はほとんどいないだろう。

「これを僕に? 本当に希少なものなんだろう?」

「同室のよしみと思ってくれたまえ。実は俺もひとつ持っているんだ。実家に帰ったときに思い出してね。他にもないか、町の宝石店を探してみたら見つかった」

 アークはピンク色に輝く石を取り出した。
 幼少時に親類からもらったものらしい。

「そっちもいい色だな」
「そうかい。嬉しいな。石としての価値はほとんどないが、好事家はどこにでもいるからね。本当は売り先が決まっていたらしいんだけど、俺が友に渡したいと言ったら、譲ってくれたんだ」

 宝石店の店主は、アークが竜操者であることを知っていたので、その友もまた竜操者であることを見抜いたのだろう。

 どこぞの好事家と竜操者を天秤にかけたに違いない。
 なんにせよ、いいものをもらってしまった。

「だがあいにく、僕には返せるものがないんだ」

 一瞬、アンさんの差し出そうとした指輪が思い浮かんだが手元にはない。もちろん、あっても渡すつもりはないが。

「そんなことは気にしないでくれ。これは俺がそうしたいからしただけなんだ」
 何気に格好いいな、アーク。

「分かった。有りがたくもらっておくよ。これ、加工できるかな」
「そうだね。ペンダントなんかがいいかもしれないよ」

「技国の宝飾加工職人を紹介してもらおうかな」

 アンさんがどうしてもお礼をしたいと言ったら、そう頼んでみよう。
 うん、いい案だ。

「キミは技国の職人を知っているのかい?」
「いや直接は知らない。だけど、この長期休みを利用して技国に行ってきたんだ」

「………………」
 アークの目が大きく見開かれて固まっている。

「そりゃまたどうして? たしか手紙では、遠くに行くので、期日までには帰らないかもしれないとはあったが、まさか技国に行っていたのかい?」

 そういえば、詳しい説明をしていなかったな。


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