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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 女王陛下へ報告を終えた翌日。
 僕はさっそく『ふわふわブロワール』に向かった。

「おかえり。修行はどうだった?」
「ええ、短い時間でしたが、大変ためになりました」

「そうかい。都市に行ったんだろ? どこに行ったんだ? オレは技国だと普通の町にしか行ったことがないんだがな」

「鴎の氏族ですね。三級の免状を取ってきました」
 僕がそういうと、ロブさんは満足気に頷いた。

「そいつは大したもんだ。三級は速さと正確さが求められる。息をするように自然に手が動くくらい練習を積まないと、なかなか受からないと言われている。よほど頑張ったんだな」

「ありがとうございます。制限時間内に作る量と種類はかなり多かったですね。体力勝負だと思いました」

「ああなるほど。レオンくんの仕込みは速いからな。オレもがんばればできるが、あれを毎回というと、ちょっと厳しい。よく鍛えられているよ。実家でもがんばったんだろうな」

 ロブさんは曇りなく笑う。
 そう手放しに褒められると、ちょっとこそばゆい。

「おっと、喋っていると、手が疎かにになるな。その三級の腕で仕込みを頼むぜ」
「はい、分かりました。また今日からよろしくお願いします」

 僕は仕込みに集中した。ようやく戻ってきた、安らぎの日々。



 アルバイトを終えて寮に戻った。
 学院が始まるまであと四日ある。このままアルバイト三昧ざんまいといきたい。

 ただ、本当にそうすると、いろいろと差し障りが出そうなので、僕はリンダに手紙を書くことにした。
 この幼なじみは、意外に細かいのだ。

 長期休みで会えなかったことを謝罪し、技国でパン屋の修行をしたと報告する。
 そして、実家へ顔を出してくれたことのお礼を書いた。

「こんなもんかな」
 寮の管理人さんに渡せば、その日のうちに王立学校に届けてくれる。
 まあ、道を挟んだ向かい側なので、本当にすぐだ。

 リンダはすでに戻っていたらしく、翌日には返信が届いた。
 すぐに会いたいという。気持ちは分かる。
 なので、いつものレストランでということになった。

「ずいぶんと急だったじゃないの」
 リンダは怒っていた。
 長期休みの計画をいろいろと練っていたようだ。父親と。

 それなのに、パン作りの修行に行くといって国外に出てしまったのだから、アテが外れまくったのだろう。

「運良く、話が来たんでね。ちょうどいいと思ったんだ」
「へえ、そう。それって、アン先輩からみじゃないの?」

 鋭い。
 というか、リンダの目がマジだ。
 ジト目というやつである。

「どうしてそう思うんだ?」
「だって、いろいろおかしいもの。アン先輩は急に技国に帰るし、あなたもそれを追いかけるようにして技国に行っちゃうでしょ」

 探るような目つきは、まだ確信を得ていないのか。
 だったら、言いようはあるな。

「パン屋の修行は、アンさんとは関係のないところだよ」
 僕は三級の免状を見せた。

 パン作り職人としてはこの免状だけでやっていけるほどだ。
 さすがにリンダは驚いたようだ。

「あなたいつの間に一流のパン職人になったのよ」
「一流とは少し違うかな。熟練のパン職人だね」

 一流は周りの評価であって、公的な資格を持っているだけでは与えられない。
 僕の場合は、ただの熟練者だ。
 それでもこの国ではかなり価値があるとは思うけど。

「発行は……鴎の氏族か。たしかにアン先輩とは関係ないわね」
「そうだろ? だから言ったじゃな……えっ!?」

 どうしてアンさんの氏族が分かるんだ? リンダは面識がなかったはずだろ。

「不思議そうな顔ね。アン先輩のこと、なぜわたしが知っているか気になるんでしょ?」
 僕は馬鹿みたいに頷いた。

「アン先輩の名前が出てからすぐに調べたわよ。パパのコネとお金を大量に使って」
 マジか。この長期休みで、そんなことしてたんだ。

「そ、それで……何が分かった?」
「びっくりしたわよ。序列第三位、兎の氏族出身で、本名はアンネロッタ……その顔は、あなたも知っているクチね」

「それはまあ……でも、リンダが知っていることに僕は驚きなんだけど」

「技国の技術は大陸一でしょ。ウチの家具職人の中にも技国出身の者がいるのよ。大金で雇っているわ。それで、彼らの師匠にあたる人とかがいるわけ。技国でも最高の職人ね」

 リンダはここで声をひそめて、僕に顔を近づけた。

「それはもう大金を使って、何度も頭を下げて技術指導に来てもらっているのね。そしたらなんと、兎の氏族の本殿に家具を搬入したこともあるというじゃないの。その人が言うには、去年この王都で氏族長の孫娘を見かけたことがあるって」

「………………」
 これ、駄目なやつだ。

「しかも、王立学校の制服を着ているのを見かけたのよね。アンさんの特徴を話したら、なんとビックリ。そっくりじゃないの。しかも彼女の愛称は『アン』。王立学校での名前も『アン』。……これでどうかしら?」

 お忍びで留学していても、堂々と町中を歩いていれば、そりゃ見知った人に出会うこともあるよな。
 なにしろここは竜国の王都なんだから、技国からの人も多い。

 でもよりによって王立学校の制服姿を見られていたとは。
 僕がパン屋で会ったときも一人で来ていたし、あまり身元を隠す意思はないのかもしれないけど。

 リンダは、どうだとばかりに胸を反らす。
 完敗である。

「そう。アンさんはアンネロッタだよ。まさかリンダにバレるとは思わなかったけど」
「通称で通っているってことは、竜国が認めたのよね」

「そうだね。往復に王宮から飛竜を使っているくらいだし」
「うわっ、国の重要人物と同じ待遇なわけか。ということは、交換留学生かしら」

「そのへんはよく分からないけど。なにしろ、トップ同士の話し合いだろうし」
「それもそうか。……でも、話を聞いたときは驚いたわよ。ちょっと作戦を練り直す必要があるかもしれないし」

「作戦?」
 なんの作戦だ? というか作戦って、戦争でもするのか、リンダは。

「竜国と技国の政治的取り引きのために、竜操者をひとり渡すとか。そういう取り決めがあるのかなと思って」
「それはないんじゃないか。分からないけど」

 女王陛下と会ったときも、そんな話は出なかった。
 アンさんもそういうのを匂わせる発言はしなかったと思う。

「まあ、いいわ。一応どう転んでもいいように対策を練っておくから」
 怖いことを言って、その日はお開きになった。

 なんというか、リンダってこんな性格だったっけか。
 活発な印象はあったが、ここまで策士ぶりを発揮するタイプではなかったはずだが……。

 そう思ったが、もちろん顔には出さなかった。


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