挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

108/657

108

 ディオン氏族長との最後の会話は、聞かなかったことにしよう。
 その方がいい。たぶんと言うか、婿入りは無理だし。

 兎の氏族が住む都市をあとにした僕は、翌々日には商国に入った。
 商国の西の都を経由して、そのまま竜国へ。
 僕の家のあるソールの町に着いたときには、長期休みが終わる六日前になっていた。

「ただいま、父さん」
「おかえり。どうだった?」

 はて? このどうだったは、何に対してだろう。
 学院かそれとも女王陛下のことか。
 はたまた竜操者についてか、今回の指令なのか。

「まあ、いろいろだよ」
 悩んだあげく、無難な答えに落ち着いた。

「そういえばついこの前、ルッケナのお嬢さんがウチに来たぞ」

 ルッケナのお嬢さん……って、リンダだ。
 実家には帰らないって手紙を出しておいたのに。

「何か言っていた?」
「また王都で会いましょうだと。王立学校に通っているんだな」

「うん。向こうで会った」
「そうか。山のような土産を運んできたぞ。俺と母さん宛にも大量に」

「お土産か……今度会ったらお礼を言っておくよ」

 外堀を埋めに来たのか。
 過度な接触は藪蛇になるのだけど、親父さんの発案かな。リンダとは幼なじみだしな。

 竜操者の家族への接触は、原則的に禁止されている。
 バレたところでそう厳しい罰則はないけど、世間に広がると外聞が悪い。パトロンになるまえに袋叩きにあうことだってある。

 もともと知り合いだった場合などは、そうもいかない。
 関係を絶てとは言えないわけだ。

 リンダの場合、この家にも何度か来ているので問題はない。そう判断したのだろう。

「レギさんとこと、ドイルさんとこにも顔を出したみたいだったな」

 レギさんは家具屋でドイルさんは建具たてぐ屋だったな。
 親父さんの仕事を継ぎたいみたいだし、関係改善でもするのだろうか。

「そういえば技国に行ったんだけど、向こうで滞在するのに試験を受けてね」

 僕は三級の免状を見せた。
「ほう。やるもんだな」
「でしょ?」

「オレも受けてみるかな」
「父さんならきっと受かるよ」
 なんといっても、技術も体力もある。器用な父さんのことだから、二級の免状でも取れるんじゃなかろうか。

 免状を見せびらかしたら、技国のパン職人について話に花が咲いた。

 気になったので、現役復帰した父さんに〈影〉の仕事を聞いてみた。
 すでに指令をいくつかこなしたという。

「商国もきな臭いな。調査した商人はみんなクロだった。こりゃ、魔国あたりから情報を得ているのかもしれないな」

 商売は信用が第一で、情報が命。
 商国からやってくる商人は、有用な情報ならば高値で買い取る。
 竜国の情報がかなり流れたと、父さんは心配している。

「商人が得た情報ってどんな?」
「いろいろだな。ありゃ、大転移のことも知っているな。いまは領主に取り入ろうとしているだけだが、同時に裏でコソコソ動いてやがるんだ」

 まとめて処理したいところだが、そこまでの指令が出ていないと物騒なことを笑って言った。
 さすが『死神』。

 ちなみに〈影〉が独自で動いても良いことはない。
 竜国にやってきた商人たちは、商国の使い走りだ。

 そんなのを処理しても黒幕を警戒させるだけになる。
 ちなみにクロと分かった商人は監視を付けているらしい。

 彼らに指示した人物が竜国でどんな絵を描こうとしているのか、父さんでもまだ判断がつかないようだ。

 女王陛下に報告してあるので、分かれば連絡があるだろうと。

「そうそう。手の甲のシートはもう外しておけ。あと王都に帰還だが、特別に飛竜を使う許可が出ているから、それを使えとさ」

 普通に言ったけど、父さんも忠義の軍団(ロイヤルレギオン)に入っているわけか。
 考えてみれば当たり前か。父さんは女王陛下個人に忠誠を誓っているわけだし。

 ソールの町には竜操者が七人いる。
 普段は重要人物の送迎や、月魔獣出現時の応援などに駆り出される程度で、これといった任務はない。

 だから、比較的簡単に送迎許可が下りるのだと、以前学びに行ったとき教えてもらった。
 そうか、乗せてもらえるのか。

「だったら、ギリギリまでここにいられるね」
「馬鹿。早く報告に来いってことだ」

 あー、そっちか。それは仕方ないな。

「明日にでも王都に行くことにするよ」
「朝出発すれば夜には着くだろ。そのまま報告に行って来い」
「分かった」

 もう少しゆっくりできるかと思ったけど、そうもいかないようだ。
 嗚呼、遠ざかるパン焼きの日々。

 それでも今日は、久しぶりに父さんの焼いたパンと母さんの料理を堪能した。

 翌日、僕は竜操者のもとを訪れた。
「至急の依頼って、聞いたけど。……キミのことだったのか」

 応対してくれたのは、以前僕に竜操者について講義してくれた人だった。

「重要人物ではないんですけど、なぜかそうなりまして。すみません」
「いやこの町は、商国からの依頼が多いし、それほど気にしないから大丈夫だけど。でも、少し驚いた」

 いつ誰をどこに送ったのかは、完全に守秘義務がある。
 なので、僕を搬送したことはだれにもバレることはない。

 それでも、ただの学院生を王都まで送るのだ。
 僕に何かあるのだろうと、勘ぐられたと思う。

「ではよろしくお願いします」
「任してくれ」

 その言葉通り、その日の夜には王都に到着することができた。
 行きと帰りで二回も飛竜に乗ったおかげか、随分と空の旅にも耐性が付いた気がする。

「さて、女王陛下にお会いしにいくか」
 王宮を前にして、僕は闇に溶けた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ