挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

107/655

107

「たとえば、孫娘と竜操者の婚約とかな」

 ディオン氏族長の言葉は不意打ちだったが、僕は反応しなかった。上出来だと思う。
 思わず、過剰反応するところだったけど。

「……意図が分かりかねますが」
 僕が竜操者であることは知らないはずだ。

「今日戻ってきた孫娘がしきりに褒め称えていたんだがな。ここまで連れて来てもらったと」
 アンさんならそう言うだろう。予想の範囲内だ。

「どうやら誤解があるようです」
「そうかな? まあ、本当にそのくらいしか逆転の手がないのだけどな。……それとも他に、なにかいい情報を知っているかな?」

 いい情報か。
 そういえば、ここに来た目的を忘れるところだった。

かもめの氏族長より、手紙をあずかっています。直接手渡して欲しいと言付かっております」
 僕がそう言ったときの顔は見ものだった。

 素早く計算し、何かあると踏んだのだろう。
 ディオン氏族長の中で、好奇心がもぞりと動いたようだ。

「それを今になって言い出すか」
「言う機会がなかったものですので」
 とぼけてみた。

 僕は懐からそっと手紙を取り出して、ディオン氏族長に手渡す。

「ふむ……本物だな」

 これで僕が鴎の氏族長と個人的に会ったことが分かっただろう。
 ディオン氏族長が封蝋を割り、中から手紙を取り出す。
 それを時間をかけてゆっくりと読んでいる。

 僕は黙ってその場にとどまり続けた。
 待っている間、暇だったのでディオン氏族長を観察する。

 老齢とは思えないほどに、筋骨がしっかりしている。
 背筋もピンっと伸びて、矍鑠かくしゃくとしている。

 長く氏族長の座にいるのだろうし、政治的判断はお手の物だろう。
 この人を謀略で攻略するのはなかなかに大変そうだ。
 かといって、武力も相当なものだろう。

 技国は月魔獣の襲来がないから、平和ボケしているかと思っていたが、すべての氏族がこんな状態ならば、認識を改めたほうが良さそうだ。

「うむ、分かった」
 手紙を読み終えて、氏族長は力のこもった声で言った。

「ではたしかにお渡ししました」
 僕が出ていこうとすると、止められた。

「いま言った問題は、こちらの対応しだいで解決するかもしれん」
 鴎の氏族に技術が漏れた問題だろうか。

「良いことが書いてあったのですね」
「どうだろうな。良いかどうかは微妙なところだが……関係するところを少し話そう」

 手紙の内容は、さきのクーデターの経緯とその顛末が書かれていた。
 要約するとこうだ。

 アンさんを鴎の氏族まで連れてきたのは、やはり裏切ったレノーであった。
 クーデターの首謀者であることを隠したトラッシュが、偶然逃げ込んた先でアンさんを発見して保護する。

 クーデターは一時的に成功するも、長続きできるものではない。
 逃げ延びたトラッシュはクーデター派と交渉し、罪を問わないことで彼らを投降させる。
 なぜならすでに、グラロスを名乗る氏族は、大半が死ぬか捕らえられている……予定になっていた。

 トラッシュは、グラロスの名にかけて彼らの安全を保証したとしても、捕らえられていた他の氏族は何もいうことができない。そう踏んだのだ。

 軍部と駆動歩兵隊の一部を配下においたトラッシュが、新たな氏族長として立つ……これには問題が多数あるが、ここで生きてくるのが、偶然助けたアンさんの存在である。

 アンさんを拐ったのは前氏族長たち。捕らえた者に罪を着せて処刑するのは当然として、アンさんは自分を救出したトラッシュにベタ惚れ。

 アンさんとトラッシュが婚姻すれば、両氏族の同盟もあり得る話である。
 同盟が結ばれれば、トラッシュが氏族長になるまでの実績作りとしては申し分ない。
 そう考えたらしかった。

 だが、もちろん兎の氏族は反対する。
 氏族長の孫娘が拐われたと思ったら、他の氏族と婚姻するのでよろしくと言われれば、怒り心頭である。

 だが、兎の氏族が開発した新技術は、裏切り者の手によって鴎の氏族のもとにある。
 ここで同盟を破棄すれば、その技術はどうなるのか。

 それにこう考えたらどうだろうか。
 序列二位の鴎、三位の兎が同盟を組む。さらにもともと四位の孔雀とは同盟を組んでいるのだから、次の技術競技会は勝てるのではないか。

 もともとトラッシュがクーデターをおこした理由というのが、大山猫の氏族に搾取され続けたことが原因であったので、大山猫の氏族と同盟を破棄するのは容易い。
 民も軍も賛成している。

 娘ひとりと、兎の氏族の将来を考えれば、婚姻を認めざるを得ないだろう。
 トラッシュはそう判断したようだ。なかなかに策士である。

「来年の競技会で大山猫を蹴り落とし、序列二位から四位までの同盟で勝利をもぎ取れば、首都はおのずと鴎の種族になる。なにしろ、我が氏族の技術は鴎の氏族に握られたのだからな」

 アンさん誘拐の犯人を死んだ前氏族長に押し付けて、すべて丸くおさめるつもりだったらしい。
 たしかに現実味のある話だ。僕がこっそりアンさんを脱出させなければ。

「そういうことだったのですね。いろいろ胸のつかえが下りました」

「それでだ。この手紙には、どうせならば途中まで乗ってはどうかと書いてある。婚姻は別にして、同盟というのは悪くない話ではないかとな」

「鴎が大山猫を裏切ってですか?」

「裏切るというよりも、愛想が尽きたと言った方が正しいかもしれん。結局、交渉でしてやられたのだろうな。七年も我慢したのだ。もう義理は果たしたということではないか」

「そういうものですか。でも、山羊の氏族との婚姻はどうするのですか?」

「その辺だな。話し合ってみるしかあるまい。五つの氏族が同盟をすると富も分散して、結局その次の競技会までに競争力が落ちる。同盟は二つが三つが理想だな」

 これはなんとなく僕にも分かる。
 お店だって従業員を増やしても、売り上げが伸びなければ各人の儲けは少なくなる。

 氏族だってそうだ。
 得られる富は決まっているのだから、みんなで分けたら、結局ひとつの氏族が得られる量はそれほど多くない。

 その辺は氏族どうしが考えればいいことで、僕には関係ないことだ。

「分かりました。そのあたりも女王陛下に伝えておきます」
「うむ。ここしばらくは忙しくなりそうだ」

「竜国ともよい関係が続いたら幸いです」
「そうだな。孫娘は早々に戻すから、またよろしく頼む」

「そう伝えておきます」
「では、頼んだぞ。婿殿」
「………………何のことか分かりかねます」

 そう言い残し、僕は闇に潜った。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ