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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「レオンくんの竜紋ってどこにあるのですか?」
 そういえば、アンさんは知らないのか。

 店でアンさんと出会ったときは手袋をしていたし、いまはずっと特殊なシートで隠している。
 王立学校の顔合わせ会では、お互い話もしなかったし、近くにいた記憶もない。

 同じテーブルにいた、十数人の女生徒の中のひとりという認識だ。

「機会があれば見せますよ」
「見られると恥ずかしい場所なのでしょうか。それをそのうち見せていただけると」

「いや、そんなこと言っていないから」
 微妙な話題を振ってくる。

 いまは兎の氏族の都市に向かって馬車で移動中である。

 馬車に揺られている間、アンさんはなにかと密着してきて、こうやって話題を振ってくるので、気が休まるどころではない。

 なぜこんなことをするのか。理由は簡単で、僕がアンさんの救世主となったからだ。
 誘拐されたアンさんは、自分のことだけでなく、周囲に与える影響についても思いを巡らせていたらしい。

 氏族の直系に生まれたことで、誘拐の危険性はよく分かっている。
 翌年に開かれる技術競技会が関係しているのか、それとも兎の氏族が持っている発明が関係しているのか。

 なんにせよ、アンさんが捕まっている時点で、氏族に迷惑がかかることになる。
 拐った人物と話をして目的を聞き出そうとしたら、一向に現れない。

 自分の身を盾に交渉するならば自害すら辞さない覚悟でいたが、そもそも誘拐されたこと自体、自国に伝わっているのか分からない。
 いまここでアンさんが自害しても人知れず葬り去られるだけかもしれない。

 いろんな思いが渦巻いているところで僕が現れた。
 僕はアンさんを窮地から救った英雄のように見えるらしい。

 おとぎ話に出てくる英雄や勇者になぞらえているのかもしれない。
 冷静に考えてみれば、そういう行動をした……かもしれない。

 捕まっているところを脱出させ、匿い、いま家に送り届けようとしている。
 どうりで門を出てからのアンさんの瞳がキラキラしていると思った。

 好意を寄せてくれる女性との旅……ここで既成事実のひとつ、たとえばキスでもしようものならば、どうなるだろう。

 アンさんは兎の氏族長の孫娘で、僕は竜紋を持つとはいえ、ただの平民だ。
 既成事実を根拠に結婚を迫られれば断ることはできなくなる。

 かといって、アンさんが僕に嫁いで来る未来はない。氏族が許さないだろう。
 つまり僕が竜をつれて技国に渡り、そこで氏族の一員として生きることになる。

 半年後、僕は竜を迎え入れる。
 どのタイプの竜になるか分からないが、走竜や飛竜ならば、兎の氏族が住む都市と鴎の氏族が住む都市間ならば、数人乗せても一日で往復できる。

 僕が婿入りするなら、許されるんじゃなかろうか。

「今度はレオンくんのことを聞きたいですわ」
 ……うん、気が休まらない。


 馬車を乗り継いで三日目。
 僕とアンさんは孔雀の氏族が住む都市に到着した。

 ここまではわりと順調な旅だったと思う。
 アンさんの瞳がキラキラしているのと、スキンシップがやや過剰だったことを除けば。

「申し訳ないけど、この都市の中は通りませんので」
「なぜですか?」

「兎と孔雀は同盟を結んでいます。アンさんの顔を知っている人もいるでしょう。説明がややこしくなるので、ここには寄らなかったことにしたいのです」

 知られれば、氏族のだれかと面会くらいはある。
 さらに次々と面会者が現れることになるし、毎回ここにいる理由を説明するのは面倒くさい。

 そもそも、留学していることを孔雀の氏族に伝えているのかすら分からない。
 面会で余計な日数がかかり、説明が面倒となれば、ここはスルーしたい。

 そもそも孔雀の都市も、中に入るには身分を明かして仮証を得なければならない。
 面倒だ。

 馬車は門前までなので、そこから塀に沿って歩き、兎の氏族が住む都市に向かう馬車に乗り込むことにした。

「外周にそって歩けば、都市の反対側に出ますので、そこまで歩きましょう」
「大変ですわね」

「頑張ってください。馬車に乗れば、すぐですから」

 そう励ましたのだが、さすが要塞都市と呼ばれるだけのことはあった。
 二時間歩いてもまだ都市の反対側に着かなかった。

「疲れましたわ」
 普段運動をしていない女性ならば、きついだろう。

「分かりました。ここからは僕が運びましょう」
「まあ、レオンくんはそんなこともできるのですか?」
「ええ、竜操者は軍人と同じです。体力がなければ務まりません」

「そうでしたわね。ではお願いしますわ」

 アンさんが僕の首に手を回した。
 お姫様抱っこを希望しているのだと分かったが、ここは心を鬼にして担いだ。

 うつ伏せになったアンさんを右肩に担ぐと、臀部が一番高い位置にくる。

「あの……レオンくん? なにか、思ったのと違う気がするのですが」
「これが一番疲れないのです」
 僕がだが。

「でも……わたしは、荷物ではないのですけれども」
「大丈夫です。小麦の袋よりも軽いですから」

 麻袋に詰まった小麦は六十キログラムもある。

「いえ、そういう問題では……わたしの女性としての何かが削られているのですけど」
「大丈夫です」
「………………」

 うまく丸め込んで……いや、丸め込めてないと思うが、アンさんを担いだまま僕は急いだ。
 あまり遅いとその日の馬車が全部出発してしまう。

 アンさんを荷物担ぎしたおかげで、なんとか馬車に間に合った。
 これで一安心である。しばらく独り言が隣から聞こえてきたが。

 明後日には、兎の氏族が住む都市に到着する。
 これで指令が完遂できる。

 あとは、鴎の氏族長からの手紙。
 それを直接手渡さないといけないが、それは女王陛下の〈影〉とは関係ない。

 僕個人の仕事なので、夜にでもそっと渡しに行こう。

 まあ、なんにせよ、馬車に間に合ってよかった。
 ホッとしている僕の隣で、めずらしくアンさんの目が死んでいた。

 荷物運びしたことが堪えているのかもしれない。
 あとで謝っておこう。

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