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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「……来たか」
 本殿を進み、氏族長の寝室に僕は姿を現した。

 氏族長の足元の影から出たのは嫌がらせである。
 グエン氏族長は驚くこともなく、ただ「来たか」とだけ。
 僕がしびれを切らすのが分かっていたのだろう。

「ずいぶんと出入りが厳しいんですけど」
 どことは言わない。分かっているはずだ。

「うむ。本来は一族の者が勝手に連れてきてしまった身。すぐにでも返したいとは思うが、いろいろと事情があってな」
 やはり、分かってやっていたのか。

「引き続き誘拐しているという認識でよろしいですね」
「だとしたらどうする?」

「もちろん出ていきます。城門から堂々と」
「滞在証をチェックされるぞ」

「まさか」
 僕は信じられないという顔をした。そして続ける。

「駆動歩兵隊や警邏隊が全滅するのにですか? だれがチェックするんです?」

 脅しではない。返答如何では、さっそく今夜から始めるつもりだ。
 立ちふさがるなら殺し尽くす。

「……できるのか?」
「言う必要がありますか?」

 難しいのはたしかだ。
 だが、できないかと言われれば、どうだろう。できる気がする。

 僕の言葉に本気を感じ取ったのか、グエン氏族長は大きなため息を吐いた。

「私は反対したのだ。だが、どうしても母さんがやっておけというのでな」

 相変わらず、親の意見か。もういい歳なのに、それはどうなんだろうか。

「べつに言い訳は聞きたくないです。出入りを制限するなら、今からでもみなごろしにします。本殿にいる警備兵からでいいですよね」

「隠し部屋の扉を見た。生身で破壊できるようなものは使ってなかったが木っ端微塵だ」
「話がないようですので、これにて」

「分かった、簡潔に言う。……執務室に手紙がある。取りにいかせてほしい」
「いいですよ」

 グエン氏族長と一緒に寝室を出る。
 相手が丸腰であるのは分かっているが、油断しない。
 この人なら剣がなくてもなんとかしてしまいそうだ。

 廊下を進み、グエン氏はいくつかの操作をして執務室の鍵を外した。

 機械式の錠らしく、時間がかかったようだが、僕には仕組みが分からなかった。
 僕の場合、入りたければドアの隙間があるので問題ない。

「この手紙を兎の氏族長に渡してほしい」
 封蝋された分厚い手紙だ。

「手紙ぐらい部下に任せればいいのでは?」

「クーデターがあったばかりなのにか? 途中でだれが読むか分からないぞ。……これは兎の氏族長に直接手渡してほしい。それを引き受けてもらえるならな、明日にも警備を見なおそう」

 僕が女王陛下から受けた指令は、アンさんを救出して兎の氏族のもとまで届けること。
 送り届けるついでに手紙くらいどうってことない。

 その前にひとつ確認しておくことがあるが。

「この手紙の内容はなんです? 宣戦布告のようなものでしたら、引き受けられませんけど」
 竜国が関与したと思われたら大変だ。

「まさか。いまの私たちには、外に出る力など残っておらんよ。これはあくまで鴎の氏族からの謝罪文だ。だが、他の氏族に知られるわけにもいかぬ。どうやら兎の氏族でも内紛の種があるようだしな。どうしても信用できる者に託すしかないのだ」

 裏切り者を警戒しているのかな。だから氏族長に直接か。

 おそらくいま、グエン氏はクーデターの背後関係を洗っているはずだ。
 その結果を僕に教えてくれることはないだろうが、氏族内で信用できるできないは、いまだ混沌か。

「分かりました。僕が責任をもって兎の氏族長に渡します」
「すまないな。城門の出入りは開放しておく。ではくれぐれも頼む」

 僕は手紙を懐に入れて闇に溶けた。



 それにしてもこの手紙、どういうことか考えてみよう。
 グエン氏というより、その母親のベアさんの発案だろう。

 鴎の氏族と大山猫の氏族が同盟を結んでいる。
 そして来年には八年に一度の技術競技会も開かれる。

 この時点で鴎の氏族が兎の氏族と親密になるのは不味いのだろう。
 痛くもない腹を探られる。

 だが、兎の氏族と敵対するのも良くない。
 氏族の者が勝手に拐ったとはいえ、なんらかの落とし前は必要だろう。

 技術供与か、機密情報か。
 氏族どうしがつける落とし前が何になるか分からないが、双方納得できるもので手を打つ必要がある。
 できれば、表に出ない方法でことを運ぶ必要がある。

「……それで僕なわけね」

 アンさんを助けた僕は竜国の人間。
 変なしがらみもないので、使者として都合が良かったってことかな。
 直接氏族長に会えるし。

 これで都市から脱出できるのならば、良しとしよう。
 うまく使われた気もしないでもないが。

 翌日、グエン氏族長が約束したとおり、城門の出入りは自由になっていた。
 クーデター派が完全に潰えたからという理由だ。

 すでに僕が修行していた『焼きたてベルナー』には、都市を去ることは告げてある。
 本来ならばもう少しいたかったと言ったら、「都市がこんなことになっちまったんだ。しょうがねえ」と納得してくれた。

 僕としても、もっといろいろ学びたかったのだが、本当に残念である。

 アンさんに城門がフリーになったことを告げたら、すぐにでも出発したいという。
 なので、挨拶もそこそこに僕たちは酒場を出ることになった。



 城門は開いたままだった。

 さすがに入門のチェックはあるが、出るときはほぼ自由だ。
 僕はアンさんを連れて、都市をあとにした。

「これであとは帰るだけですわ。レオンくんと一緒にですわ」
 晴れ晴れとした顔でアンさんはそんなことを言った。
 それだけでなく、さりげなく腕を回してきたのだけど……。

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