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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 翌日もまだ、城門は開かれなかった。
 ただし、氏族が住む本殿に通じる門は開放された。

 クーデター派の敗北である。

 トラッシュたちは負けた。
 ちなみに僕はこの政争に関与していない。たぶん……。

 さて、門が開放されても一般人は自由に行き来できない。
 ただし、これによって本殿で起きたことが広く伝わることになった。

 酒場ではその話で持ち切りとなり、黙っていても情報が転がり込んでくる状態だ。

「まさか、氏族内でクーデターがおきたなんて……」
 アンさんはいまだ信じられないようだ。

 氏族長以下、重要な地位についている者を殺害する計画だったらしい。
 それだけでは市民の支持が得られないので、いろいろと画策していたようだが。

「不甲斐ない氏族長を糾弾するためとありましたけど、実際そうなんですか?」

 決起する名目のひとつがそれだった。
 どうやら、大山猫の氏族との同盟でかなり不利な条件が結ばれているらしい。

「そうですわね。わたしも詳しく知りませんが、世間一般では属国のようだと言われていますわ」
「属国ですか。序列第二位の副首都なのにですか?」

「いまの氏族長の方は、武に優れている反面、政治的な駆け引きに疎い。そこを突かれたというのが一般的な見方ですわね。七年前はその方もまだ若かったですし」
「なるほど……」

 そういえばグエンさん、母親にいろいろと聞いていたっけ。

 でも七年前に新米の氏族長だったとしても、若くはないよな。
 まあ、いまも年齢のわりに情けない姿だなと思ったが、その当時はもっと酷かったのだろう。
 武に生きた手前、そういう経験が少なかったのかもしれない。

 本人も息子も娘もやたらと強者の殺気を放っていた。あれも武人だよな。
 兄の方と話したことはないが、あれが氏族長になったらまた同じことがおきるんじゃないかな。

 人の考えの裏を読むとか、騙して利益を得るとか、あまり考えない性格かもしれない。
 とすると、トラッシュがクーデーターをおこしたのも、勝算あってのことなのか。

「クーデターに至るストーリーがお粗末でしたね」
「ええ、矛盾しているというか……」

 本殿の門が開かれたのと同時に、今回の声明が立て札にて発表された。
 不安に思っていた民向けの、事後説明である。

 本殿は平静を取り戻し、首謀者は捕まったこと。
 クーデターに加わった者たちはみな投降したことなどがそれに載っていた。

 立て札を読んだ民たちは、首謀者であるトラッシュの名前と、彼のお粗末なストーリーも知ることができた。

 トラッシュが味方を抱き込むのに使った偽りのストーリーはこうである。

 彼がずっと一人で戦っていた。
 不利な同盟を結んだ氏族長に対してモノ申していたのだと。

 すると、その過程で氏族長以下、重要なポストに就いている者たちの不正が見つかった。
 民を蔑ろにしつつ私腹を肥やしていたというのだ。

 それを正そうとしたら命を狙われ、抵抗するしか生き残る道がなかったと。

 それらはすべて事実無根であり、たとえどこかで聞いたとしても騙されないようにと、声明文は締めくくられていた。

 門が開かれる前日の時点で、グエン氏族長たちは本殿を取り戻している。

 トラッシュは当初、本殿の外に出ていたらしいが、何を思ったのか中に舞い戻り、捜索の陣頭指揮をとっていたところを拘束されている。

 クーデターが成功する直前までその存在を秘しておく予定だったらしいが、彼がなぜ舞い戻ってきたのかは分かっていない。

 クーデター側に付いた駆動歩兵隊だが、最後は壊滅的な被害を受けて投降している。
 無力化していた駆動歩兵隊がなぜ復活したのか、クーデター派の中に裏切り者がいたのではないかと思われるが、いまのところその痕跡は発見できていない。

 立て札による発表と、民たちの話を総合すると以上のようになった。
 だが、いまだ都市門は開放されていない。
 外との出入りはできないままなのだ。

               ○

「クーデターに与していた駆動歩兵隊がまだ都市の外にいるようですわね」
「そうですね。その動向が分からないうちは、都市門を開けられないようです」

 クーデターに積極的に参加していた第四駆動歩兵隊はすでに壊滅し、リガル将軍も捕まっている。
 外の第五駆動歩兵隊がどうなったのか。情報が入ってこないらしいのだ。

「酒場に来られた方の話ですと、馬車で五日の町に第三駆動歩兵隊がいるようですので、その方々が第五駆動歩兵隊を相手にしているのではと言っていますわ」

「第三駆動歩兵隊がここに来れば、城門は開かれるのかな。でも、クーデター側の第五駆動歩兵隊がやって来たらどうなるんだろう。やはり、城門を挟んで戦いになると思います?」

「どうなのでしょう。そうならないことを祈っておりますわ」
 いまの状態では、僕らは何をすることもできない。

 アンさんの存在が鴎の氏族にとってどんな価値があるのか分からない手前、身分を明かして脱出することも躊躇ためらわれる。

「とりあえず、明日に期待しましょう」
「そうですわね」

 そんな会話を交わした翌日もまた、城門は開かれなかった。

 パン屋での仕事を終えた僕は、酒場の二階に帰るとすぐにアンさんと情報の交換を行った。

「第五駆動歩兵隊のカイン将軍が拘束されたようです」

 混乱が収まったグラロス家から、追加の発表があったらしい。

 クーデターに加わった第五駆動歩兵隊の隊長が掴まったのは大きい。
 外でもクーデター側が負けたことを意味する。

 噂では、数日以内にアンガスト将軍率いる第三駆動歩兵隊が到着するそうだ。

「明日から城門が開かれるようですよ。これで帰れますね」
「ええ。嬉しいですわ」

 さらに追加の発表があり、カイン将軍の拘束によって散り散りになった第五駆動歩兵隊も、すべて投降か、戦闘不能になったという。

 グエン氏族長の言葉通り、第三駆動歩兵隊が都市の外にいるクーデター派を一掃したようだ。

 僕もアンさんと同じく旨を撫で下ろしたが、事はそう簡単にはいかなかった。

 翌日、開かれた城門に人が殺到した。
 あたりまえである。クーデターでずっと都市に閉じ込められていた人たちにも生活がある。

 なにしろ都市の宿屋はバカ高く、長期滞在には向かないのだ。
 人を多く雇った行商人などは、何日も留め置かれて大変であろう。

 さあ僕らもこれで都市を脱出だ……と思ったら、思いの外警備が厳しかった。

「わたしの都市でもそうですが、本来、出てゆく人たちに対してはあれほど厳しいチェックはしないものですのに」

 アンさんが困惑顔だ。なにしろ拐われてきたので、仮証も本証も持っていない。

 どうやら滞在証をチェックしているらしく、それがないと取り調べを受けるらしい。

 もしかして嫌がらせだろうか。
 町の人も不思議がっているが、クーデター後のことで、過敏になっているのだろうと考えているようだ。

 出て行く者全員の滞在証をチェックされてしまうのだから、いただけない。

 考えられる理由はいくつかあるが、アンさんを見つけて保護。
 兎の氏族に送りつけて貸しをつくる。

 これでクーデターを起こしたトラッシュの失点を誤魔化そうとしているのか。
 政治的に利用しようとしているのか。

 本当にただ厳しくチェックしたいだけかもしれないが、つい深読みしたくなってくる。
 さて、どうしよう。

「これは待つしかありませんね」
 通常の警備に戻れば、フリーパスとは言わないまでも、行商人の部下に紛れて出てしまえば問題ないと考えていた。

 だが翌日も同じだった。
 しかももうすぐ第三駆動歩兵隊が戻ってくるという。

 都市の駆動歩兵は、戦闘の際、ほとんどが大破もしくは中破するなどして動かない。
 無事なものは現在メンテナンス中であり、稼働できる数がめっきり少なくなっているらしい。

 都市の防衛の問題があるため、帰還した駆動歩兵隊はそのまま城門の警備に回るという噂が流れていた。

 出入りがもっと厳しくなるかもしれない。

「しょうがないな。顔を出すか」
 なんとなく作為的なものを感じるが、グエン氏族長のもとに直談判したほうが良さそうだ。

 夜を待って、僕は闇に溶けた。

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