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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「行ってしまったか。……しかし、見事よの」
「お父様! いまのアレはなんですか!」

「結婚のことか?」
「そうです。……いえ、それだけではありません。あれは敵です。お祖母様もなぜ客分などと」

 イーナが食って掛かるが、グエンもベアもどこ吹く風で、まともに相手をしない。

「……魔道阻害の札は正常に機能しております」
「ということは、あのボウヤの魔力が上回っていたってわけか」

「少し上回っている程度でしたら、札が焦げたり、破れたりします。それがありませんので、わたくしと比べても相当多いのだと予想されます」

「魔国十三階梯の序列七位にいたおまえよりも」
「はい」
「あの歳でか」
 グエンが息を吐く。

「また、とんでもないのを抱え込んでいるね、あの女王は」
 ベアも嘆息する。

「侵入に気づけたのも、まったくの偶然でした」

 通路に施した隠蔽魔道が破壊されたため、ここに防御結界を張ることにした。
 その準備として床から天井に起点を設置しているところだった。

 たまたま打ち込んだ起点のひとつが反応したのだ。
 驚きつつも、すぐにグエンに報告したが、自分自身でも半信半疑だった。

 だが、影から人が現れた。
 もしあれが暗殺を目的としていたら、果たして防げたかどうか。

 それくらい気づけなかったのだ。

「しかし、もったいないのう。イーナよ、考え直さんか?」
「何をですか?」

「なかなかいい男だったぞ」
「目しか見えてませんよね?」

「いい目をしていたではないか」
「分かりませんよ、そんなの!」

「では、顔が分かれば結婚するな」
「しません! どうしてそういう話になるんですか!」

 グエンとイーナが言い争ううちに、階上から兄のウォールがやってきた。
「兵を片付けておいたから、もう一度隠蔽結界をかけてくれ。……で、イーナ」

「なんですか、兄さん」
「顔が真っ赤だぞ、何があったんだ?」
「なにもありません!」

               ○

 僕は闇に潜ったまま、地下の隠し部屋から出る。
 通路ではイーナの兄が兵の死体を片付けている。

 といっても、近くの部屋に放り込んでいるだけだが。

 どうやら、追加の兵はやってこないらしい。
 外で戦闘が始まっているし、そうそう屋敷の中にまで手が回らないのだろう。

 庭園では、駆動歩兵どうしが組んずほつれつで、殴りあっていた。
 近くにボロボロの武器は落ちている。

「武器が先に駄目になるのかよ」

 あれを見る限り、駆動歩兵の装甲はかなり頑丈だと思える。

「竜と駆動歩兵が戦った場合、結構いい勝負になるかもな」

 そうなると数で負ける。
 これは由々しき事態かもしれない。ちゃんと女王陛下に伝えなきゃいけない。

 クーデター側と氏族側の戦いはまだ続いている。
 両陣営のどちらかに肩入れしてもいいが、なんかもう疲れた。

 というより、混沌としていて、どっちが優勢なのか分からなくなってきた。
 潰し合ってくれればいいので、もう放っておくことにする。

 てっぺんになりたい人だけで、好きなだけ戦えばいいのだ。
 激しい戦闘をよそに、僕は本殿を脱出した。



 酒場の二階に戻ったら、アンさんが出迎えてくれた。

「おかえりなさい、レオンくん」
「ただいま、アンさん。何か変わったことはありましたか?」

「下のお客さんの話題は、氏族の内紛のことばかりでしたわ」
 そっと階段をおりて、近くで盗み聞きしていたらしい。

「そうですか。どんな感じです?」
「本殿に通じる門がすべて封鎖されている事と、数日前に北に向かった駆動歩兵隊があって、それが関係しているのではないかと話してましたわ」

 意外と鋭いな。
 まあ、普段と違う動きがあれば、気になるよな。

「本殿の門を閉ざせば、籠城できるようにはなっていますよね」
「そうですわね。どの氏族も都市門が落ちても平気なようにしてあると思いますわ」

 僕が見たところ、都市門はかなり強固だった。同時に、本殿へ通じる門もまた同じくらい強固に見えた。

 あれは最後の砦の意味を持っているのだろう。
 しかも中に商店などが入っていて、食糧などの備蓄もかなりありそうだ。

 籠城しても、中で飢えることはないと思う。

「僕が聞いたところ、都市の外に出た第三駆動歩兵隊が優秀らしく、すぐに戻ってくるようですよ」
「そういえば、鴎の氏族は第三駆動歩兵隊が精鋭でしたわね」

「知っているんですか?」
「何年かに一度、勝ち抜き戦をしますが、三年前はわたしもやられましたの。第三駆動歩兵隊はかなりの精鋭だと思いますわ」

 なるほど。だったら、グエン氏族長の話もまんざら嘘ではなさそうだな。

「ではアンさん。こうしませんか? 本殿の中がどうなっているか分かりませんが、第三駆動歩兵隊が戻ってきたら、いつかは城門は開かれるでしょう。そのとき一気に人が流れ出ると思います」

「そうですわね。いまでも鬱憤うっぷんが溜まっている方が大勢いらっしゃいますし」
「それに乗じて脱出しましょう。僕が責任を持って、兎の氏族の都市までお送りします」

「よろしいのですか?」
「ええ。学院がはじまるまでの修行のつもりでしたので、長期滞在するわけではありません。こんな状況では、修業の継続も難しいですし」

 パン屋は今後に備えて売る量を制限するようだ。
 なので、午前中までの仕事に変更となった。

 パン粉は乾物扱いなので、長期保存ができる。
 万一籠城になった場合、食べるものがなくなると困るため、温存しておくようだ。

「ありがとうございます、レオンくん。なんとお礼を言えばいいか」

「いえ、その言葉は脱出できたときにでも。まずはアンさんを捜している人がいるかもしれないので、ここで見つからないように過ごしてください。多少窮屈でしょうが、それほど長くかからないでしょう」

「はい。レオンくんと一緒でしたら、待つのも苦ではありませんわ」
 アンさんは大輪の花のように笑って抱きついてきた。
 いや、これは困る。いろいろと。

 ゆっくりとアンさんを離して、「明日の仕込みもありますので、今日はもう寝ます」と言って、部屋を出た。

 クーデターのことを知れば、第三駆動歩兵隊はすぐにでもやってくるだろう。
 あと数日で脱出できるだろうか。

 そうしたら、ここともおさらばだ。
 とにかく、クーデターには関わらないようにするぞ。

 僕は自室に戻って、ようやく就寝した。
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