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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「その質問にお答えします。今回のクーデターには、竜国は一切の関わりがございません。逆に僕は、巻き込まれた側とも言えます。正直に話しておりますので、これ以上疑われるのは心外とだけ。では、こちらからの質問です。氏族長みずから、なぜこのような場所にいるのでしょうか」

「それは時が解決するからだ」

「……答えになっておりませんね」
「そうかの?」
「すべての答えに当てはまりましょう」

「ふむ……いま都市の外に出ている第三駆動歩兵隊、あれがすべてなんとかしてくれる」

 精鋭かな。ずいぶんと信頼している。第三駆動歩兵隊ね。これはあとで調べておこう。
「いいでしょう。では、質問をどうぞ」

「おぬしは巻き込まれたと言っていたな。なにか別の目的があったはずだ。それはなんだ?」
 相変わらず直接くるな。言えるところまで答えよう。

「とある重要人物が竜国から誘拐されましたので、僕が連れ戻しに来たのです」
「誘拐?」

 グエン氏族長には思い当たるフシがないようだ。
 隣で、ベアさんが身じろぎした。

「……そういうことか。誘拐されたのは兎の氏族長の孫娘だね。なるほど、どうりで……」

 氏族長の母親、ベアさんは思い当たるフシがあるようだ。
 もちろん僕は無言を貫く。

「どういうことだい、母さん」

「フン。誘拐とは穏やかじゃないね。大方トラッシュの馬鹿者が画策したんだろう。つい最近、アンネロッタ嬢が名前を変えて竜国に留学していると言い出す者がいたんだよ。都市の外に出た令嬢なら引き込める。そんな戯れ言を真顔でほざいていたと報告があったのさ。よりによって、竜国から拐ったのかい?」

 アンさんの留学……少しは情報が入っていたようだな。
 いや、話を持ってきたのは、兎の氏族の裏切り者か? これを向こうの質問にしてしまう。

「回答します。兎の氏族から裏切り者が出ました。その者がこの都市に連れてきたようです。……では質問しますね。僕はいま客人ですが、ここを出た場合、もしくはこのクーデターがあなた方の勝利に終わった場合、僕はどのような立場になりますか?」

「客人という言葉は我が領地を出るまでずっと続くよ。敵対しないかぎり、ボウヤは客人のままさ」

 ベアさんが氏族長の代わりに答えた。
 敵対しない限りというのは微妙だが、この言葉が聞きたかった。

 ほっと胸をなでおろしていると、気配がひとつやってきた。
 足音がしないが、階上の戦闘音がいつのまにか止んでいる。

 やってきたのは女性の方だった。
 真っ赤な鎧で分からないが、滴る血はすべて敵兵のものだろう。『血飛沫』のふたつ名は伊達ではなさそうだ。

「イーナ、お待ち。このボウヤはあたしの客分だ。絶対に手を出すんじゃないよ」

 抜き身の剣が止まった。
 間合いに入った直後に斬られるところだった。

「イーナよ。いまおまえが動けば、母さんが人質になっておったぞ。軽はずみなことは考えるな」
 おっと、グエン氏族長も鋭いな。さすが脳筋。

 危なくなったら、ベアさんの足を斬って、そのまま人質にしようと思ったんだけど、見ぬかれていたらしい。

 その前に斬られていたかな。どうだろ。

「では次の質問に移ろうか」
「いえ、もう聞きたいことは十分聞けましたので」

 これ以上は藪蛇になる。
 あとは退散するに限る。

「そうか……残念だな。では、私への貸しということで少し答えてはくれんだろうか」
 変なことを言うな。だが、貸しができるならば、それもいいかも。

「答えられる範囲でしたら」
 僕がここで何をしたのかとか、このあと何をするのかは言えないけど。

「若い頃、竜国に一度だけ行ったことがある。氏族長の名代みょうだいでな」
 ん? なにか、思ってたのと違う話がでた。

「女王陛下の即位式のときだ。私もまだ若く、腕に溺れていた頃だった。女王陛下との会話の中で、とある者と腕試しをすることになってな。人払いを済ませた場所でやりあった」

 うわっ、なんだこの人。脳筋にも程があるだろ。
 国賓待遇で行ったのだろうに。そこで決闘したのか。

「勝てなかった。私の攻撃が一切通用しなかった。しかも相手は私に怪我をさせてはいけないと、ヌルい攻撃のみだったわ。寸止めというやつだ。それはもう悔しくてな。あんな屈辱を感じたのははじめてだ」

 この人、たぶん上にいる息子より強いだろ。
 それを手加減して相手するような猛者なんかいるのか? いやいるか。なんか思い浮かんだ。

「名は知らぬ。顔もな。そういえば、全身を黒衣で覆っておったのよ。おぬしと同じで。あれ以来私はおごりを捨て、武に打ち込んだが、果たしてあやつに届いたのか。私は聞きたいのは、その時の者がいまどうしているかだ。もう二度と会うことはなかろうが、消息だけでも無性に知りたくなるときがあってのう。どうだろうか」

「その者は、なんと呼ばれていたのでしょうか」
「たしか……無色のなんとかとか」

 あー、それは『無色の盾』だろうな、きっと。
 いまは『死神』だけど、『無色の盾』は父さんが魔国から来た時に呼ばれたふたつ名だ。

「偶然もあるものですね。父のことだと思います。いまも元気ですよ」
「そうか。おぬしがあれの息子か。なるほど……」

 グエン氏族長はしきりに感心している。
 長年のつかえが取れたのか、さっぱりした顔になった。

「これは勝手な頼みだが」
「……はい?」

「おぬしの後ろにいる私の娘だが、嫁にどうだ?」
「……はい?」

 後ろから殺気が膨れ上がった。
 いや、僕が言ったわけじゃないって。いまが一番、生命の危機だ。

「親子二代に渡って強力な魔道使い。おそらくははるか昔からの魔道使いの血脈であろう。どうして竜国に仕えるようになったのか分からぬが、その血に我が氏族を取り入れたいのだ。イーナならば歳も合うだろう」

「いや、いや、いや、いや。こんな怖い女性はお断りですって!」

 嫌だよ、『血飛沫』なんて呼ばれている女性とか。
 また後ろで殺気が膨れ上がった。そろそろ足が震えそうだ。

「そうか? 似合っていると思うが。おぬしはイーナのような、気の強い相手がいいと思うぞ」

「気持ちだけいただいておきます。気持ちだけです」
「残念よの、イーナ」

「私は顔を隠している者など、願い下げです」
 それでいい。覆面は取るつもりはないし。

「……ではそろそろお暇します」
 つか、退散したい。

「なんだ、もう帰るのか?」
「ええ、目的は半分だけ達せられましたし、それだけで十分です。もう会うこともないでしょう。では」

 出てくるところを見られているんだし、もういいよな。
 僕は闇に溶けた。


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