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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 黒い鎧の男と赤い鎧の女。
 両方ともまだ若い。男は二十代半ばで、女の方はまだ十代だろう。

「それでこの殺気か。先が……いや」
 決して楽しみではない。将来敵対する可能性を考慮するならば。

「おい、いたぞ」
「なんだ? 通路に先があるだと!?」

 兵のみなさんが到着した。
 これで僕はお役御免に……。

「あの黒ずくめの怪しい奴を捕らえろ!」
「覆面までしやがって、何者だ」

 お役御免にならなかった。なぜが標的が僕になっている。
 全身黒ずくめは、どう考えても怪しいか。

 兵のみなさんは僕を捕まえようとして、男女が目に入った。

「あれはっ!」
「お、おい、いたぞ!」

 ……ん? なんだか変だ。
 そう思ったとたんに、兵と若い男女の間で戦いが始まった。

 四つの首が飛んだ。
 あの男女、一振りで二つずつ首を刈ったんだが。

 でもラッキーかも。
 僕そっちのけで斬り合いがはじまった。

 その隙に僕は闇に潜った。

「……危なかったな。たぶんあのまま戦ったら、やられていた」
 後ろから不意を狙うなら分からないが、正面切って戦って勝てる相手ではなかった。
 世の中は広い。

 それでこの先はどうなっているんだろう。
 両者が戦っている間に僕は先に進む。

 折れ曲がった通路だ。幅は狭い。すぐに階段に出た。
「地下か」

 周囲が暗くて助かった。
 闇に潜ったまま階段をおりると、その先に部屋がみえた。それほど大きくない。
 隠し部屋だろう。

 部屋には、若いのから年寄りまで幅広くいる。四十人くらいか。
 中でも一番目立っているのが、中央で椅子に座っている男性だ。

 四十代後半から五十代半ばくらいか。
 眼光鋭い感じで、威厳に満ちている。

 軍刀だろうか。杖代わりに両手で持ち、威風堂々としている。

 となりに控えていた女性、これも五十代くらいだ。
 その女性が耳打ちをする。

「いま入ってきた者。隠れていないで出てきなさい!」

 周囲がザワッとする。
 階上では剣戟の音が聞こえる。
 まだ兵と男女が戦っているのだろう。

 いま入ってきたと言ったが、それって僕のことだよな。
 どうして気づかれたんだ? ここまでに感知結界はなかった。
 他の結界も作動させていない。

「警戒することはない。そちらから危害を加えないのならば、客人として遇そう。どうかな」

 これ、完全にバレているわ。
 仕方がない、出るか。

 僕は姿を現した。

               ○

 影の中から現れた僕に、周囲は驚く。

「これはこれは、ずいぶんと若い客人だな。これでいいのか?」

 椅子に座った男が、隣の女に聞く。
 女は頷いた。どうやら女の方が魔道使いのようだ。

 あの感知しづらい結界を張ったのも彼女だろうか。
 だとしたら、相当な腕だな。

「わけあって名乗ることはできませんが、客人として扱っていただけるようなので、現れてみました」

「うむ、客人として迎えよう。たとえ名乗らなくてもな。……私がだれだか分かるかね?」
「いえ……」

「そうか。私はグエン・グラロスという。鴎の氏族長をしておる」
「………………」

 まあ、そうだろうな。他と風格が違うもの。

「驚かんようだな」
「予想はしていました」

「なるほど。おぬしは、ずいぶんと魔道に秀でているようだな。シーリーンの張った結界を見つけられる者はほとんどおらんぞ」

「たまたま……でしょうか」
 本当にたまたまだ。行き止まりで立ち止まらなかったら、分からなかった。

「謙遜する必要はない。シーリーンはその昔、魔国十三階梯に籍を置いていたものだ。魔道は一流。結界魔道ならば、超一流だ」

「となりの女性がシーリーンさんね。あんな感知しにくい結界を張る人と敵対したくないな。なんだか、ここに隠れていた人たちって、すごく能力が高いんだけど」

「して魔国の若者がなに用だ? あの結界を壊した理由を述べてみよ」

 グエンさん、そう呼んでいいのか分からないが、氏族長の雰囲気は一瞬で剣呑なものに変わった。
 どう答えようかと考えあぐねていると、ひとりの老女がやってきた。

 高齢なのに矍鑠かくしゃくとしているなと思ったら、その老女ひとがグエンさんの頭をひっぱたいた。

「あんたはどうしてこう脳筋なのかね」
「か、母さん……」

 さっきまで威厳たっぷりだったグエンさんが急にうろたえはじめた。
 とすると、あの女性が先代氏族長の奥さん、ベア・グラロスさんだろう。

「魔国の魔道使いは一般的に灰色か白色。しかもローブかマントだろうに。ああして全身を覆う黒衣は竜国だよ。それも竜国の暗部で活動する〈影〉さ。そうだろう、ボウヤ」

 うわっ、バレてるわ。
 まあ、それもそうか。
 といってもここで顔を見せるわけにもいかないので、しょうがないのだが。

「そうかも……しれませんね」

 誤魔化せていないな、うん。やり手オババみたいなイメージだ。
 口で勝てそうにない。

「竜国? 母さん、なんで竜国が介入してきたんだ?」
「さてね。このボウヤに聞いてごらん」

 さてどうしたものかな。
 泥沼の内戦にして、余裕をなくさせる予定だったんだが、うまく行かないかもしれない。
 向こうの方が海千だ。

 客人扱いしてもらっているうちに変なことはできそうにないし、どうしようかな。

「今回の件に竜国が絡んでいるのかな?」
 単刀直入に聞いてきたよ、グエンさん。

 たしかに脳筋だ。普通、そんな聞き方はないだろうに。

「交互に質問に答えるというのはどうでしょうか。答えられない場合は、別の質問で」
「ふむ……母さん、どうだろうか」

「面白いんじゃないか」
「よし、ではそれでいこう。いまの質問からでいいかね」

「僕が竜国の人間かどうか、から始めてもらって良いですか?」
「なかなかに肝が据わっているね。アンタもそれくらいの器量をみせてごらん」
「母さん……」

 マザコンか? まあいいや、これで言質は取った。

「それではお答えします。僕は竜国の人間です。女王陛下の〈影〉をしております」

 そこで僕は一呼吸おいて、聞きたかったことを素早く頭に思い浮かべた。

「まずは簡単な質問から。いま、上で戦っているおふたりについてお伺いしてもよろしいでしょうか」
 敵対したらちょっと生きて帰れる気がしないんで、早めに聞いておきたい。

「あれは私の息子と娘だ。『豪剣ごうけん』と『速剣そくけん』と呼ばれている。いまは『血煙ちけむり』と『血飛沫ちしぶき』だったかな」

 お前の子供かよ! しかもすごいふたつ名だな!
 絶対に近寄らないようにしよう。

「ではこちらの番だな。先ほどの質問だ。竜国がなぜ我が氏族に介入する?」
 事と次第によっては容赦しないぞという顔でグエン氏族長は尋ねた。
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