挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

10/657

010

 日が暮れるまでたっぷりと歩いたあとは、夕食用に寮の購買で軽食を買った。
 購買は出張売店のような感じだ。

 店員さんは臨時雇いらしく、ちょっと戸惑っていた。
 なんでも、この長期休み期間中だけ雇われているらしい。

 そこで売っていたのは、肉と野菜を挟んだパン。
 実家でもそうだが、この手のは手軽に食べられるので、お弁当用としてよく売れる。

 学食じゃなくても、ここのパンでもいいな。

 いまは種類が少ないが、授業が始まればもう少し品揃えが増えるらしい。
 外へ食べに出るのは面倒だし、そうすることに決めた。

 ちなみに管理人が言っていた保存食は、竜操者が移動中や軍事行動中に食べるもので、固く焼き上げた、棒状のパンのことである。

 竜操者が食べるパンとして、町でも売っているのを見かける。

 腰に差して、小腹が空いたときに食べる。だが、あれは喉が渇く。
 栄養価の高いものを粉末状にして混ぜ込み、少量で腹も膨れるようになっている。
 そのかわり喉が渇く。個人的にはあまり好きではない。

 我が家では売っていない。
 作るとなると、やたらと手間がかかる。

 しかも美味しくないので、パン屋の息子としては、遠慮したい食べ物だ。



 そして夜。
 みなが寝静まった頃を見計らって、僕はベッドから起き上がった。

「どうせ今日、馬車が到着したことは知られているだろうし。顔見せは、早々に済ませておこうか」

 女王陛下を待たせるのは本意ではない。
 だが、問題がひとつある。

 定期報告を行っている〈右足〉と違って、僕の場合、警備の者に顔すら覚えられていないことだ。

 事前に連絡を入れていない。果たして会えるだろうか。
 警護するのは女王陛下の〈影〉。

 その中でも、〈左手〉と呼ばれる、忠誠度が振りきれている連中が守っている。
 いきなり行って、暗殺者と間違えられることもありえる。

「いや暗殺者か、僕は」

 職業としては正しいので、あながち間違ってない。
 素直に女王陛下の前まで辿りつけないかもしれない。

「その時は、予約だけして帰ればいいかな」

 会える、会えないではなく、行った事実が大事なのだ。
 たぶん……。

 腹も決まったし、これから女王陛下に会いに行く。
 もし攻撃されたらどうしよう。
 反撃せざるを得ない。

 殺さないほうがいいだろうが、よほど実力差がないと、手加減できない。
 その時は申し訳ないが、死んでもらおう。

 僕は家から持ってきた黒衣に着替える。
 自室内のため、ここにはだれの目もない。

「後々、気をつけた方がいいよな」
 そんなことを考えながら、僕は闇に溶けた。



 女王陛下の〈右手〉である僕は、暗殺を基本として、指令があれば潜入や調査だけでなく、町で情報収集もこなす。

 それを可能とするのが、僕の魔道『闇渡やみわたり』である。
『闇渡り』は影の中に潜る魔道で、影が繋がっている限りどこでも移動できる。

 日中だとその能力を発揮する機会は少ないが、夜ともなれば無敵となる。
 なにしろ夜の闇は、僕にとってどこでも行ける庭なのだ。

「……なるほど、ここが地下水路ね」

 父さんに教えてもらった王都の抜け道。
 広い王都の地下には、人工的に造られた水の道がある。

 父さんは女王陛下の〈左手〉として王都で活動していたらしい。
 らしいというのは、僕が生まれる前の話なのと、その当時の様子はあまり父さんは話してくれないからだ。

 当時、サヴァーヌ王女は若くして女王となり、それにともなって〈左手〉の再編を行ったらしい。
 先代の王に忠誠を誓っていた〈左手〉たちだが、そのまますぐに女王陛下へ忠義がスライドするかどうか分からなかったからだろう。

 父さんは〈左手〉としての内向きの仕事だけでなく、王都で起こった様々なトラブルを処理したらしい。

 父さんが処理と言う場合、だいたい相手は生きていない。
 その過程で王都内の地下水路にも詳しくなったのだとか。

 ちなみに父さんは、結婚する時にソールの町の〈右手〉になっている。
 つまり王都を離れので、〈左手〉は引退したわけだ。

 さてこの地下水路だが、下水や雨水を流す目的で造られたらしく、王都の至るところに張り巡らせてある。
 当然、寮の近くにも出入り口は存在している。

 女王陛下の〈左手〉であった父は、この地下水路にも詳しかった。
 よく使っていたのだろう。

 出発前に、水路の繋がりを図におこして、説明してくれた。

「ここはたしかに、日中の移動でも使えそうだな」

 僕の『闇渡り』を見越したわけではないだろうが、王都に向かうと決まってからは、このような有益な情報をいくつか教えてくれた。

 せっかくなので、遠慮無く使わせてもらう。

 念のため、気配を探りながら、地下水道を進む。
 いないとは思うが、同業者とかち合うと嫌だからだ。

「この上は操竜場そうりゅうじょうあたりかな」

 方角と距離を考えれば、そんなものだろう。
 もしかすると、この地下水路は、毎日通ることになるかもしれない。

 地上と照らしあわせて、他の水路も覚えておいた方がいいかもしれないな。

「水路の先も反応がない。だれもいないようだ。すこし、速度を上げるか」

 僕の『闇渡り』は、そこらの馬よりも早く走れるのだ。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ