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5.コボルトキングの毛皮と爪

二人で手をとって石造りの決して綺麗とは言えないボロボロの家の中を、さながら舞踏会でダンスを貴婦人達と踊るかのように二人でくるくると回る。


「すごそう! なんだかすごそうな名前だよティズ!」


「メイズイーターですって! メイズイーター! 迷宮食らっちゃってるわよ! すごいに決まってるじゃない! こんなスキル見たこともないし聞いたこともないわ! それに、幸運19なのよ! 人の領域を超えたすんごいチート能力に決まってるじゃない!チートよチート!」


僕達は浮かれている。


「早速! 迷宮に行って試してみようよティズ!」


「あったりまえじゃない! こんなすごい能力身に着けて今日はお休みなんていったら、誰も見たことのない私の必殺のドロップキックかましてやるわ!」


「さっき見たけどね!」


完全に浮かれている。


「じゃあ早速朝ごはん食べて準備して 迷宮に……」


そういいかけた瞬間。


「すみませーん。ウイルくーん……いますかー?」


この家に住み始めて一ヶ月間一度も叩かれることのなかった玄関の扉が始めてノックされる。


「リリムさん?」


声の主は聞き覚えのあるおっとりした声音であり、すぐにリリムさんが来たのだということに気が付いた……はて、急にどうしたのだろうか。


「朝っぱらから……」


一瞬ティズがすごい怖い顔をしたが気のせいだろう。 


「いないですかー?」


「あっ! います! 今出ます!」


僕は慌てて玄関までかけていき、扉を開けると、そこにはフードをかぶったリリムさんが立っていた。


まだ日が完全に昇りきっていない時間帯だというのに、どうしたのだろうか。


「おはようございますウイル君」


「おはようございますリリムさん……えと、急にどうしたんですか?」


「えっと、その……ちょっと昨日のことで話があって」


少しバツが悪そうな表情をリリムさんはして、そう恐る恐るいう。


「昨日のこと?」


追いはぎにあった……ではなく、きっとコボルト23匹についてだろう。


「えっと、昨日のコボルトの毛皮についてなんだけど、私間違えちゃって……それで今日来たの」


「間違い……」


一瞬背筋が凍る。


昨日のことと言えば、金貨のことである。


確かに多いとは思った、一匹銅貨10枚のコボルトから金貨10枚がどうやったら出てくるのか疑問に思ったが……間違いがあったのだろうか。


「何よ、いまさらお金返してなんて言われたって返さないわよ!」


正確には返せないだけど。


あぁしかしどうしよう。 普通だったら返してあげるのが一番得策だ……リリムさんにはいつもお世話になっているし、あちらのミスとは言え、クリハバタイ商店に恩を売って得はすれど、ケンカを売っていいことなど何一つない。 勿論冒険者であればそれはなおさらだ。 金貨10枚は確かに大金だが、これからも迷宮にもぐることを考えると、金貨10枚とクリハバタイ商店との関係をはかりにかけて、どちらに傾くかは言うまでもない。


「い、いえ!? 違います、多すぎたんじゃなくて、少なすぎたんです!」


「へ?」


「すくな……すぎ?」


理解が追いつかない。 少なすぎとはどういうことなのだろうか。


僕の頭が悪いから理解が出来ないのだろうか?


あぁ、こんなことならもうちょっと勉強しておくべきだった。


「ちょっとどういうことよ」


ティズ、君もか。 これからでも間に合うし、これから一緒に勉強しようね。


「え、ええと。 先日お持ちいただいたコボルトの毛皮なんですけれども……一枚だけ良質な毛皮があったので、ものめずらしいということもあって金貨9枚って値段をつけて、

普通のコボルトの毛皮銅貨220枚分もおまけでまとめて金貨1枚で買い取ったんですけれども」


銀貨八枚分もおまけしてくれていたのか……天使か貴方は。


「そ、それだけやってまだ少ないってどういうことですか?」


「それが……その、良質なコボルトの毛皮だってばかり思ってたんですけど。 店長に鑑定してもらったら……あの毛皮……コボルトキングの毛皮だったんですよ」


【こ、コボルトキングーーーー!?】


驚くなんてものではない。 コボルトキングと言えば7階層のモンスターであり、1階層のコボルトなどとは比べ物にならないほどの力と耐久力、武芸に秀でた強敵である。


「……そ、そういえば槍の罠まともに食らって生きてたタフな奴がいたけど……まさかあれが」


「ちょちょ……でも、そうなると僕達コボルトキングに襲われてたってことだよね」


本当によかった! ティズにそそのかされて少しでも戦おうだなんて思わなくて本当に良かった!? 


「でも何で7階層の敵が1階なんかに出てくるのよ! 」


「えぇと、それは多分。 モンスターハウスの罠の影響だと思うの」


「モンスターハウスって……同じ種類のモンスターをかき集めて召喚する魔法じゃ?」


「うん、そうなんだけど、正確には同じ名前が付いていれば問題なくて、例えばデーモンだったら、ごくまれにレッサーデーモンとグレーターデーモンが一緒に呼び出される……なんて事例も発見されてるの。 ランクは関係なしに同じ種族のものを引き寄せる魔法だね」


「……そ、そうなんですか。 ティズ」


「ごめんなさいもう宝箱なんて開けません」


罠解除のスキルなしに宝箱は開けない。 うん、ウイル覚えた。


「そ、それでコボルトキングの毛皮と爪と牙って、結局いくらになるんですか?」


「あ、そうそう! このたびは大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。

お詫びの意もこめて、コボルトの毛皮22枚は先にお渡しした金貨10枚で買い取らせていただき、コボルトキングの毛皮は正式なお値段、金貨80枚でお買取させていただきたいと思うのですが……」


腰が抜ける。


「きき……金貨80枚!?」


そういうと、リリムさんは金貨の袋を取りだす。


「間違いはないと思うけど、数えてみて」


もう胸が揺れてたとか胸元から金貨袋が出てきただとか考えている余裕など一切ない。


渡された金貨袋を開くと黄金色がまぶしいくらいに輝きを放っている……。


大金なんてものではない。


「は……はひへ!? こ、コボルトキングってそんな値段するの!?」


「7階層にまでもぐれる冒険者はめったにいなくて、7階層にしか存在しないコボルトキングの毛皮は特に最高級のローブを作るのに用いられるの。

注文は殺到するんだけど品薄で……だからこれだけ高くなっちゃうの」


コボルトキングすげぇ!?


「これでレベルアップの理由が分かったわねウイル」


「そ、そうだね」


レベル1冒険者が一人で7階層の敵なんて倒せば、それはレベル2くらいはあがりますわ。


本当に幸運である。


「ウイル君レベル上がったの?」


「えぇ、今日朝起きたら」


「わー!おめでとう!! そうだよね、7階層の敵を倒したんだもんね!

レベル3にもなれば、もっと長く迷宮にもぐっていられるし、このお金で装備だって…………ねぇウイル君。 

鑑定を間違えちゃって本当にごめんなさい……こんな私だけれども、これからも、来てくれるかな?」


申し訳なさそうに犬耳をしゅんと下げて、リリムさんは僕のことを上目遣いで見上げてくる。


「いきまふ!!」


かわいいは正義。


「このエロウイル! 犬耳か! 犬耳にやられたか!? むきーー!」


その後、金貨がきちんと80枚あることを確認し、後ほど装備を整えるために装備を見繕ってもらう約束をとりつけてリリムさんはその場を去っていった。


どうせ今日も寄るのだからそのときでいいのにと元きこりの僕は思ったのだが、誠意を見せるという名目でその実、装備の購入の約束を取り付けるためにわざわざ訪れたのだろうとティズは言っていた。


なるほど、流石は商人さんだ……断じて胸にやられたわけではない。


「まっ、あのリリムって女は危険だけども、クリハバタイ商店と仲良くしていて損はないし、なにはともあれ結果オーライよ、ウイル」


からからと笑いながらティズはそういい、僕はそれにうなずいて朝食の準備に取り掛かる。


色々と騒がしいこともあったが、これでコボルトの毛皮については今度こそひと段落である。


当初の予定通り、迷宮にもぐるのは午後からにして、昼には装備を整えよう。


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