7.メイズイーター
「さて……と後回しになっちゃったけど」
「ふふ、やってやりましょう!」
【メイズイーター!(迷宮喰らい)】
迷宮内に入り、早速僕達は新スキル~メイズイーター~の効果を調べることにする。
ティズも知らないスキルだというので、何が起こるかわからないし、もし良いスキルで他の冒険者に見られてこの前のように新人潰しにあってもつまらないとのティズの発言から、迷宮入り口から少し入った大部屋で実験を行うことになったのだが。
「少し広すぎるんじゃ」
迷宮第一階層 通称何もない部屋。
敵も宝箱も何もなく、ただ広い空間のみがひろがっている何もないこの部屋は、時折徘徊をしているスライムやコボルトが出現するぐらいで、それ以外には何もない。
その為、冒険者たちもここには立ち寄らず素通りがセオリーとなっているため、心置きなくスキルの実験が出来ると踏んだのだ。
「なに言ってるのよ、メイズイーターよメイズイーター! 本来迷宮に食われる側の私達が迷宮喰っちゃってるのよ!? もしかしたらどでかいワームでも召喚するスキルかも知れないじゃない! そうなったとき小部屋だったら私達圧死するわよ!」
イメージしたら最悪な死に方だった。夢に出てきそう。
「流石にスキルで召喚魔法はないと思うんだけど」
というかそうでありませんように。
「いいのよ!誰も来ないし! 大破壊系のスキルだったりしたとき巻き込まなくて済むし、何より敵もいないし! 後ろを壁にしてるからバックアタックも心配ないわよ!」
そこは確かに重要だ。
「というわけで気兼ねなくぱーってやっちゃいなさい! スキルは魔法と違って詠唱も何もいらないから! 使いたいと思えば使えるはずよ!」
ティズは大はしゃぎだ……まぁそうか、彼女にとっても僕のスキルは悲願だったといっても過言ではない……。
なら、今ここでその期待に応えて、彼女を喜ばせてやりたいじゃないか! 相棒として!
どんなスキルかは分からないけど! 自分を信じろ!
「メイズ! イーター!!」
怒号を響かせ、僕は前方に向かって渾身の力でメイズイーターを放つ。
………………………………………………………おおっと?
何もおこらない。
「ティ……ティズ」
「もう一回! もう一回よ! 初めてだもの、失敗する事だってあるわよ!」
「そうだよね!」
深呼吸をして、今度こそきちんと心の中でスキル発動を意識する。
いける!
「メイズイーター!」
………………おおっと?
「メイズイーター! メイズイーター! めい ずいーたー! め、いずいーたー!
メイズイター!! メイドキター!」
おおっと?
「何も……起こらない……」
その場に崩れ落ちる。 まさか何も起こらないなんて、何が悪いんだ……僕か?
僕が悪いのか?
それともおちょくられてるのか? 自分のスキルにも馬鹿にされているのか僕は。
体にも何の変調もないし、力が上がったりスピードが上がってる様子も見られない。
なんだ、何が悪いんだ……。
「も、もしかしたら強力すぎてレベルが上がらないと使えないのかも知れないし!」
「そうか……そうなのかもね……うん、まぁお金がたくさん手に入ったから今日はそれでよしとしようか」
「そうよ! いい防具も剣も手に入ったんだし! 今度のお楽しみってことにとって置けばいいじゃないウイル! きっとすごいスキルなのよ!」
ティズが慌ててフォローしてくれる優しさが痛い。
やめて、これ以上優しくされたら泣いちゃう。
「ほらほら、立って! レベルアップしたんだし! 今日は少し奥まで探索しよう! 気分転換に!」
死と隣り合わせの気分転換かぁ……。
気がまぎれる前に死んでしまいそうです。
「まぁでも……落ち込んでても仕方ないよね」
そういって僕は力の抜けた脚に気合を入れながら、壁に手をかけてゆっくりと立ち上がる。
いつまでも落ち込んでいても仕方がない。 スキルは逃げないのだ、ゆっくりと向き合えばいい。 メイズイーターなんだ、きっとすごいに決まって……。
瞬間、手をかけていた壁が大きな音を立てて砕け散り、大きな穴が壁にあく。
まるで道を開けるかのように、そして組んだ組木が崩れるかのように、魔法で作られたレンガの壁は粉々になり、壁の向こうの通路が姿を見せる。
「………ご……ごめんなさい!」
とりあえず謝っておいた。
「へ? 何が起こったの今」
ティズは何が起こったか理解が出来ていないようで口を開けてぽかんとしている。
「わ、わかんない。 ただ壁を触ったら、いきなり崩れて」
「壁? 馬鹿なこといわないでよウイル! この迷宮の壁はアンドリューの魔力で形成されていて、核撃魔法であっても壊すことなんて出来ないのよ? アンタみたいな駆け出し冒険者が触ったくらいで壊れる代物じゃ」
「ええと……」
崩れた壁の面を手で触ってみると、音を立てて壁が一直線に崩壊をはじめ、通路と何もない部屋が繋がってしまった。
「……なん……だと」
ティズの顔が劇画調になる。
「もしかして、メイズイーターの能力って」
「文字通り迷宮を破壊する力……ってこと?」
………………………。
一度、僕とティズは互いの顔を見合わせ。
『ふおおおおおおおおおおおおお!?』
興奮に同時に奇声を上げる。 思えば今日何度目だろうか。
「迷宮の壁壊せるって!! これさえあれば階段の場所の座標さえ分かってれば!一直線に地下まで降りれるってこと!?」
「というかこれで私の光源の魔法があれば罠に引っかかることなんて二度となくなるし!冒険者にとっては夢のスキルじゃない!?」
「あれ、でもこれで僕達が一直線の通路までのルートを開拓しちゃったら、他の人も使えるようになっちゃうよ……それじゃああんまり意味が……」
「そ、それもそうね……ねぇ、壊れた壁直せないの?」
「そんな、直れって言った位で直るわけ」
音を立てて目前より壁が迫ってくる!
「直っどわああぁ!?」
その速度はすさまじく、僕達は投げ出されるように何もない部屋へと飛び込む。
転んで打った腰を押さえながら立ち上がると、そこにあった崩れた壁は何事もなかったかのように目の前に聳え立っている。
「あ、危なかった」
ティズは顔面蒼白で呼吸を乱している。それはそうだ、あと少しでかの有名ないしのなかにいるになるところだった。
「し、しかしちゃんと使えばすごい能力ね。壁を壊すし、直すことも可能だなんて……これはもしかしたら、使いようによっては恐ろしい能力になるかも……色々と検証する必要がありそうね」
にやりとティズは不適な笑みを浮かべ、僕のほうを見る。
あ、そういえば宝箱を開けたときもこんな顔をしていたな。
「片っ端から壁を壊していくわよー!」
「誰にも見つからないようにするって言うのはどこに言ったのティズゥゥ!?」
一応反論はしてみるも、こうなってしまったティズをとめられるわけもなく、今日一日はこのスキル、メイズイーターの検証に費やすことになるのであった。
◇