夢想 ~しあわせのばしょ~
皆さん、初めましてorまた会いましたね。碧河 悟空と申します。
今作は、自分が良く行くチャットで行われた小説イベント(2008年)にて投稿したものです。
ジリリリリリリ……
目覚ましの音で僕は目を覚ました。朝ご飯を食べて、僕は学校へ行った。
「おはよう」
「昨日のドラマ見た?」
「え、マジで。それヤバくない?」
朝の学校では皆が友達と思い思いに会話を楽しんでいる。
そんな中、僕は自分の席に1人でいる。…人とコミュニケーションを取るのが怖いのだ。
小学生の時、僕は同級生から虐めにあった。
……学校に行くのが怖かった……毎日が苦痛だった。
それが理由で一度、僕は転校した。転校したての時はまだ学校が怖かったが、中学に上がると、少し落ち着いてきた。だが、人に話しかけられると体が竦んでしまう。そんな僕を相手にしてくれる人など1人もいなかった。
そして、僕はそのまま高校に上がった。そこには僕のことを気遣って話しかけてくれた人もいた。だが、僕は彼らに言ってしまった。
「僕に構わないでよ」
と。震えながら。
それから、彼らは僕に気を掛け、ことらえお見る事はあっても、話しかけて来ることはなかった。
死のうと思ったことも何度かあった。だけど、屋上の端に立ったり、カッターナイフを宛がったりすると、死ぬのが怖くなって体が竦んでしまう。
結局、僕は現実に立ち向かう事も、死へと逃避することも出来ないのだ。……僕は弱虫だから。
ご飯を食べて、勉強して、適当に時間を潰すだけの毎日。とてもつまらない。今日もそんな1日を終え、眠りにつく。
だが、そんな僕にも居場所がある。
「おはよ〜」
背後ろから女の子が話しかけてきた。
「おはよう満希」
ここは僕の夢の中。そして、この子は僕の彼女だ。
そう、あれは1ヶ月ほど前の事だった。
「ずっと好きでした。私と付き合ってください」
今、僕の目の前に女の子が立っている。歳は僕と同じくらいだろうか。髪は漆黒のストレートで肩下15cm位のロング、小柄な体をしたその女の子が僕にそう言った。
「え……?」
僕はと言うと、いきなりの出来事に思わず呆けてしまう。
「駄目、かな?」
彼女は悲しい表情をして言った。
「い、いや そんなことは……」
気が付くと、僕はそう答えていた。なぜだろう…僕は彼女に対する恐怖感は無かった。むしろ、愛しささえ感じた。
「ほんと?」
「うん……」
僕は暫く他人と話をしていなかったので、こんな簡単な返事しか返せなかったが、返事をすると、彼女は、僕に抱きついてきた。その彼女の行き成りの行為にかなり戸惑った。
暫くして、彼女が僕の体から離れるが、僕の心拍数は上昇したままだ。
少しずつ落ち着きを取り戻していくと、僕はある事に気付いたのだ。
「そういえば、まだお互い名前を聞いてなかったよね?」
そう尋ねると、綻んでいた彼女は打って変わって寂しげな顔になった。
「……そうよね、やっぱり覚えてないよね……」
そして、表情通りの感情が乗った呟きが漏れた。
「え?いつか会ったことあるっけ?」
僕は慌てて記憶を探ってみる。
「ううん、何でもないの。気にしないで」
そうは言いつつも、やっぱり彼女の顔は寂しそうだった。
「私は小野寺 満希。順番がごっちゃになっちゃったけど、よろしくね」
目の前の少女は再び表情に笑みを浮かべ、
「僕は小林 茂幸。よろしく」
自己紹介を終えると満希は、
「それじゃあ、遊びに行こうよっ」
と言って僕の返事を聞かずに 僕の手を引いて歩き出した。僕は彼女のまにまに歩く。
――ジリリリリリリ……
僕はベッドの上で横になっていた。暫くして、意識がはっきりして、さっきまでの事は夢だと理解した。
あれから、満希は毎日のように僕の夢に出て来る様になった。気が付いたら、夜が待ち遠しくなっていたのだ。満希のいる夢の中は僕の居場所になっていた。
夢の中で僕と満希が一緒に笑っている。そんな幸せがいつまでも続くと……そう思っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日も夢で満希との楽しい時間が待っていると思っていた。だが、違った。僕は今、昔の夢を見ている。
廊下で同級生と擦れ違う時に殴られる。彼らは自分から殴ったくせに、汚いものを触ったかの様な態度をとった。
教室に入ると、僕の机には僕を罵倒する言葉で埋め尽くされていた。その横に散乱しているのは何度も切り裂かれた教科書やノート。折れた傘に捨てられたランドセル······。
次々と悪夢が繰り広げられる。
「おい、こっち来んじゃねぇよ」
「死ね」
皆が僕を罵倒する。
「やめて……やめてよ……」
痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。傷つくのは嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ······。
「もうこんな世界は嫌だっ!!」
そう叫んだ瞬間、世界に罅が入り、崩壊した。そして、新たな世界が構築されていく。
「満希……」
満希に助けを請うように呟いた。
・・・・・・・・・・
少しの間をを置いて
「茂幸……」
僕は後ろから声をかけられた。
「満希?」
僕はその存在を確認しようとする。
「大丈夫?凄く震えてるけど……」
満希は心配そうに聞いてきた。
「大丈夫だよ。だって・・満希が来てくれたから……」
だが、僕の震えは止まらない。
そんな僕を満希は後ろから優しく抱きしめてくれた。
「もう大丈夫だから……」
そう僕の耳元で囁きながら。
暫くして震えが収まると、僕はあることに気付いた。夢にしては、五感全てが研ぎ澄まされている。何かおかしいと思い、立ち上がり周りを見回すと、ここは自分の部屋だという事に今更気付く。
窓から外を見渡すと、眼下には知らない町が広がっていた。自分の手の甲を抓ってみるとリアルな痛みが走る。
「何がどうなっているんだ?」
僕が呟くと
「……新しい世界が生まれたの」
と満希は答えた。その表情は、それはとても悲しみに満ちている。
「え?」
満希が突拍子も無い事を言ってきたものだから呆けてしまった。
「茂幸は現実の世界を捨てちゃったんだよ」
そう言われ、僕はさっき自分が言ったことを思い出す。
――もうこんな世界は嫌だ!!――
「でも、何でそんな事 満希が知ってるの?」
僕は自分の感じた疑問を彼女に問いた。
「だって…私はこの世界の一部だから」
すると、満希はまた訳の分からない事を言った。
「……どういうこと」
僕が問うと、
「外を見てごらん」
と言われたので、僕はその指示に従った。
「何かおかしいと思わない?」
僕が外を見ると、満希はそう僕に問う。
僕の家は、マンションの8階にあるので、色々な所を見渡す事ができる。窓からは商店街、駅、公園などが見えた。
どこにでもあるような ごくごく平凡な町。……ただ一つを除けば。
「……誰もいない」
まだ明るいのに 商店街にも、駅前にも、公園にも誰も居ない。
「そう、茂幸は私を除いた全ての人を拒絶したの。だから、この世界に居るのは茂幸と私だけ。茂幸は、きみが恐れる人間が沢山うろつく現実世界ではなく、私と茂幸だけの虚構を求めてしまったの」
満希の説明に俺はふと疑問が浮かんだ。
「でも、僕みたいな人は他にも居るはずだよ?何で僕だけ世界創っちゃうのさ?」
僕がそう言うと、
「それは……」
満希の表情はさらに、これ以上無いって程悲しみに染まった。
「私も望んじゃったの。茂幸ともっと一緒に居たいって…」
満希の声からは後悔も窺えた。だが、そんな彼女の言葉に、僕は疑問に思う。
「ねえ、それって悲しむことなの?」
「…え……?」
僕が思ったことを口にすると、満希は驚いたように僕の顔を見る。だけど、僕には満希が悲しむ理由が分からなかった。
「だって、これからはずっと一緒に居られるんだよ?」
「でも……」
彼女は再び悲しそうにして俯く。
「それにさ、現実世界での僕は いつも空っぽだったけど、夢を見ている時はいつもその空白感が無かったからさ……」
そう、夢を見ている時、いつも僕の心は幸せで満ちていた。
「・・・・・・・」
満希は黙ってしまう。
「いつも通りでいこうよ」
僕はそう言って満希の手を引いて外に向かった。手を引かないと僕の前から消えてしまうと思わせる位、満希の顔は悲しみと後悔で満ちていた。
「・・・・・」
満希は黙って何かを考えている。
「そうだね。いつも通り楽しくいこっか」
満希の声には元気が戻っていないが、表情は柔らかくなっていた。それほ見て僕は少し安心した。
Episode 満希
「いつも通りでいこうよ」
茂幸はそう言って私の手を引いて外へと向かった。私の手はしっかりと握られていた。何かを恐れているかのように…。
私は考えた。これで良いのかと。そりゃ、私だって茂幸と一緒にいたい…。でも、それはきっと悲しいことなんだよね、茂幸にとって……。でも……もう少し身勝手でいても良いよね?
「そうだね。いつも通り楽しくいこっか」
私は笑顔を作りそう言った。これから楽しむんだから悲しい顔をしてちゃ駄目だよね?
…これが最後になるんだから。
私達は今 公園のベンチで休んでいる。あれから何時間たっただろうか。もう空からは夕日が差している。
「茂幸」
私は茂幸の名を呼んだ。
「ん、何?」
そろそろ終わりにしよう。私の決意が揺るがないうちに……。
「茂幸と一緒にいるようになってから凄く楽しかった。今までに無いくらい幸せだった」
私は茂幸に背を向けて話している。
Episode 茂幸
「茂幸と一緒にいるようになってから凄く楽しかった。今までに無いくらい幸せだった」
満希は僕に背を向けて話している。あきらかに様子がおかしい。
「どうしたの いきなり?」
何か胸騒ぎを覚え、僕は満希に尋ねる。
「やっぱり、茂幸は現実に戻るべきだよ」
満希は振り返りそう言った。満希はまた悲しそうな顔をしていたが、その表情からは吹っ切れた感じも伺えた。
「どういうこと?現実に帰るって」
胸騒ぎが段々、現実味を帯びてくる。
「私はこの世界の一部だから、私が死ねば その綻びからこの世界は崩壊する」
そう言って満希はポケットからナイフを取り出した。
「っ!?何言ってるのさ?さっき幸せだったって言ってただろ?だったら、これからも一緒に居ようよ」
僕は説得を試みる。嫌だっ。せっかく幸せを見つけられたのに。
「でもね、夢はいつか覚めるものなんだよ」
しかし、満希の意思は揺るがなかった。
「別に覚めない夢があっても良いじゃないか?それが幸せな夢だったら それで良いじゃないか!!」
それでも僕は諦めない。説得を続ける。
「そんなの悲しすぎるよ。だって、その幸せは偽りのモノだから」
満希の表情が醸し出す悲しみは更に深くなった。
「訳分かんないよ。偽りってどうゆう事だよ?」
さっきから満希の言ってることが僕には理解できない。
Episode 満希
「そんなの悲しすぎるよ。だって、その幸せは偽りのモノだから」
そう、茂幸の私に対する思いは、本当の思いじゃない。
「訳分かんないよ。偽りってどうゆう事だよ?」
訳分からないのは当然。茂幸は何も知らないのだから。
「私はね、夢が造り出した幻想じゃないの。私はね、現実世界の人間なの」
「……どうゆう事?」
茂幸は自分の思考が追い付いていない様だ。最後だし言おう、本当の事を。
「私が最初に茂幸の夢に現れた少し前、私は車に跳ねられたの。今も目が覚めないから私はもう助からなかったんだと思う」
Episode 茂幸
「今も目が覚めないから私は助からなかったんだと思う」
満希は淡々と語る。
一呼吸置き、満希は再び口を開いた。
「茂幸は覚えていないけど私達、幼稚園と中学 一緒だったんだよ」
「…え……?」
「私ね、幼稚園の時、ある男の子に虐められてたの。だから、私はその子の目に付かないように、いつも隅っこで隠れるように座ってた。そんな時ね、茂幸が私に手を差し伸べてくれたんだよ」
Episode 満希(回想)
「ねえ、そんな所で座ってないで君も一緒に遊ぼうよ」
部屋の隅でじっとしている私に、同じ組の男の子が私に話しかけてきた。でも、同じ組と言っても私はその子の事をよく知らなかった。
「でも……けんたくんが私の事を虐めるから……」
虐められるのが怖かった私はその子の誘いを一旦は断り、視線を彼から外す。
「だったら、僕が君を守ってあげるよ」
だけど、その子は引こうとしなかった。
「……ほんと?」
再び男の子を見ると、
「勿論。だからさ、一緒に遊ぼっ」
その子は私に手を差し出した。それが何だか とても心強かった。だから私は…、
「……うん」
その子の手を取った。
「僕は茂幸。君は?」
「……私は満希」
それが私と茂幸の出会いだった。
茂幸は約束通り、いつも私を守ってくれた。けんたくんと喧嘩をしてまで。鬼ごっこの時は私の手を引いて、ドッチボールの時は身を挺して私を守ってくれた。そんな茂幸が私は大好きだった。
小学校に上がると、私達は別々の学校に進んだ。それでも、私は茂幸への思いは変わらなかった。凄く会いたかったけど、どんなに会いたくても、私は茂幸の家も電話番号も知らなかったので、その願いは叶わなかった。
中学に上がり、私達は再開した。凄く、凄く嬉しかった。
だけど、茂幸は変わってしまっていた。私の大好きな人は周りの人を拒絶していたのだ。私は彼に拒絶されるのが怖くて、ずっと茂幸に話しかける事が出来なかったのだ。
Episode 茂幸
満希から、昔の事を一通り聞いた。確かに幼稚園の頃、そんなことがあった。でも、僕はその子の顔や名前、その子の事をどう思っていたか、ほとんど思い出せない。
「私ね、死ぬ間際に思ったの。もう一度、茂幸に会いたいって。もう一度、笑ってお話したいって。その思いはある奇跡によって叶えられた……」
「……奇跡って?」
僕が問うと、
「それはね……」
満希は再び語りだした。
Episode 満希(回想)
気が付くと、私は見覚えの無いスカスカな空間にいた。見覚えは無かったが、ここが何処だか直ぐに分かった。なぜなら、目に見えない情報がここにはあった。ここは、私の好きな人の心の中だった。でも何故、このような情報を得ることが出来たのだろうか……。いくら考えても答えは出てこない。しいて言うならば、人が誰にも教わる事もなく手足の動かし方が分かるのと同じように、私は誰にも教わる事もなく、その事が分かったのだ。私は少し歩くことにした。
三十分位時間がたっただろうか。いくら歩いても何も見つからない。少し休もうと歩くのを止めた瞬間、周りの景色が変わった。どこかの公園だろうか……。何が何だか分からない。そんな時、私の好きな人が目の前に現れた。
私は死ぬかもしれない。これが最後のチャンスかもしれない。そんな思考が頭を過ぎったから、私は今まで秘めてきた思いを彼に伝える事にした。例え幻想だったとしても何だって良い。
「ずっと好きでした。私と付き合ってください」
Episode 茂幸
「私は茂幸の心の隙間に入り込んで、その隙間を少しだけ埋めたの。それで君は私に好意を持った。だからね、君のその好意は全て偽りのものなの……。軽蔑するかな?勝手に人の心に入り込むなんて」
満希は自嘲めいて言う。だけど、今の僕にはそんな事どうだって良かった。
「嘘だよ そんなの……この気持ちが偽りだなんて」
僕は満希の言う事が信じられない。いや、信じたくなかった。
「ほんと、嘘みたいな話だよね」
そう言った満希は儚げに微笑んだ。
「伝えられないはずの思いも伝えられた。だから…私の我が儘も、ここまで。私 こんな事になって後悔してる。なのに……後悔してるはずなのに、また茂幸にあえて…ニセモノだけど、両想いになれて良かったと思ってる自分がいるの。これからも一緒にいたいと思っている自分がいるの。だか……」
目を閉じて少し間を置く。
「もう行くね。消える決心が揺るがない内に……」
満希はナイフの切っ先を自分に向けて振りかぶる。
「そんなっ、待ってよっ」
僕は満希に駆け寄りながら叫んだ。だけど、僕が彼女の元に辿り着く前に、満希は自分の腹にナイフを押し込んだ。
「満希っ!!」
僕は崩れるように倒れる満希を抱きかかえる。
「……っ。ナイフが……刺さる、のって……こんなに、痛かったんだね……」
満希は冗談っぽく言うが、その声には力が無い。
「やだよ そんなの。何でだよ……。偽者だって、幸せって感じるなら それで良いじゃないか。現実に俺の幸せなんて無いんだよ……」
僕は涙を流しながら声を振り絞り言った。
「茂幸……」
満希は力の無い声で僕の名前を呼ぶ。
「私ね、茂幸に会うまで 毎日がとても辛かった。でも、茂幸が手を差し伸べてくれてから毎日がとっても楽しかった。とっても幸せだった。茂幸にも手を差し伸べてくれる人がきっといるはずだよ」
凄く痛いはずなのに、満希は笑っている。
確かに居た。だけど……。
「でも、僕はそれを拒絶しちゃったよ。もう差し伸べてくれないよ」
もう遅い。もう彼らは僕に話しかけもしないだろう。
「……だったら、今度は茂幸の方から手を伸ばそうよ。きっと、また手を差し伸べてくれるよ」
満希は優しく、諭すように言う。
「でも、僕にはそんな勇気はないよ……」
話しかけられるだけでも体が震えるのに、自分からなんて出来る訳が無い。
「……大丈夫だよ。私の知っている茂幸はとっても頼もしいもん」
満希の体は、ナイフの刺さったところから少しずつ光輝く砂のようになり、空へ舞い上がり始めた。
「茂幸は現実世界で本当の幸せを見つけてね」
そう言うと、満希は目を閉じ、もう半分以上消えたその体からは力が抜けた。
「そんな……満希、僕はそんな強い人間じゃないんだよ。満希がいなくなったら僕はまた一人になっちゃうよ。だから、行かないでよ、目をあけてよ。もう一人になりたくないよ」
僕の言葉は決して届かず、満希の体は完全に消えきった。僕は空に舞い上がる最後の欠片を掴もうとしたが、指の隙間をすり抜け、僕の手には何も残らなかった。
「満希ぃぃぃいいぃっ!」
僕は泣き叫んだ。
満希が消えると、世界も満希と同じようにして、徐々に消えていく。暫くすると、僕の周りは闇に、いや、無になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次に明かりを目にしたとき、僕は知らない場所で、ベッドで横になっていた。白い天井と壁に白い布団。ここが病院だと気付くのに時間はかからなかった。
何だか目の前がぼやけている。僕は目をこすると、その手は濡れた。僕は泣いていたのだ。大量の涙を流して…。
暫くすると、看護師さんが部屋に入ってきた。すると、その看護師さんは信じられない物を見た様に目を見開く。
一通り検査した後、母親から話を聞いた。母の話によると、僕は3日間ずっと眠っていたらしい。何されても僕は目を覚まさなかったから、母が異常に思い、救急車を呼んだのだ。病院に着いて、検査した結果、脳が植物人間と同じ状態だったらしく、目が覚める可能性は限りなくゼロに近かったらしい。母は話している時、涙を流していた。
奇跡的に意識を取り戻した僕は暫くの間、入院することになる。
その夜、僕は夢を見なかった。その後も満希の夢を見ることはもう無かった。
僕が目を覚ました翌日、母に幼稚園の卒園アルバムと中学の卒業アルバムを持って来てもらった。そして、そこから小野寺 満希の名前を探す。
まず、幼稚園のアルバムから。
確かに居た。ちゃんと面影がある。満希は僕と一緒に笑って写真に写っていた。そうだ。僕が幼稚園の時、ずっと守ってきた女の子。僕はその子の笑顔が・・その子の事が大好きだった。何で今まで忘れていたんだ…。
次に中学のアルバム。そこにもいた。写真を見ると正真正銘、満希である。
「あれ……?」
僕はその写真を見て涙を流した。そして確信した。あの気持は偽りのモノじゃない。僕は満希のことが好きだ。だから涙が止まらない。
その日の夜、僕は満希を思いながら寝たが、満希は夢に出てくる事は無かった。
ベットから起きる事が許可されえたため、外に出る事にした。
僕は廊下を歩いていると、廊下を歩いていると、目の前を蝶が横切る。その蝶に導かれるようにふと一つの病室の扉を見た。すると、僕はその扉にある名前を目にし、足を止めた。
――小野寺 満希――
そこには そう書いてあった。
僕は慌てて、その病室の扉を開け、中に入ってベッドの中を見る。するとそこには僕の好きな女の子が寝ていた。
「満希……」
僕は満希に囁き掛けた。
「・・・・・」
満希は深い眠りに着いている。
「どうされました?」
僕はドキッとした。振り返ると、扉の近くに看護師さんが立っていた。
「あの、彼女は?」
僕は震えそうになる体を抑え、看護士さんに満希の事を尋ねる。
「あぁ、彼女はね、一ヶ月ちょっと前に交通事故に合ってね、それから目を覚まさないのよ。もう いつ目覚めてもおかしくないんだけど……」
「そうですか……」
満希が夢で言っていた通りだ。
「あ、もしかして小野寺さんのお知り合いですか?」
「あ、はい……」
「だったら、ちょくちょく小野寺さんに話しかけてあげて頂けませんか?誰かが話しかけてあげた方がいいんだけど、家族の方は忙しいみたいで、ここに来れる時間が限られているのよ。友達も ちょくちょく来てくれるんだけど、そんなに長居はしないし」
「……はい」
それ以来、僕は毎日 満希の病室に通っている。
ある日、以前 僕に話しかけてくれたクラスメートの内の1人が、学校で配られた配布物を持って、お見舞いに来てくれた。
「お大事に」
先生からの伝言を僕に伝えると、最後にそう言って病室を出ていこうとした。が、僕は震えながら、彼を呼びとめた。
「ねぇ……」
彼は振り返った。その顔は、若干 驚いているようだった。
「……ありがとう」
僕は暫く間を置き、目を合わせずに言う。
「!?……ああ!」
一度は彼らを拒絶した僕に笑顔で答えてくれた。
僕は駄目人間だ。辛い事から逃げてばかりだった。でも、満希がいれば、僕は頑張れる。一人じゃ弱い僕だけど、満希が一緒にいてくれれば立ち向かえる。だから、満希も頑張れ。俺も頑張るから、満希も早く目を覚まして。
遂に僕が退院する前日になった。僕は今、満希の病室に満希と2人っきりでいる。
「2人だと静かだね……。僕は明日 退院するけど、毎日ここに来るから」
僕は、満希が夢の中で最後に言った一言を思い出した。
『茂幸は現実世界で本当の幸せを見つけてね』
僕は満希の手を握り、懇願するように言う。
「なあ満希。やっぱり僕の幸せはこっちの世界には無いよ。でも、夢の世界にあるって訳でもないんだ。僕の幸せはさ……満希がいる所にあるんだよ。だからさ、目を覚ましてよ、満希……」
Episode 満希
(暗いなぁ〜。死んだ後ってこんな風になるんだ。もう体に力が入らないや)
私は、上も下も分からないような所で漂っていた。
『〜〜〜〜〜〜』
(あれ、何かが聞こえる……)
何だか手が暖かい。何かが私の手を包んでいるみたいな……。
『〜〜〜〜〜ょ』
さっきから聞こえるのは、どうやら誰かの声だった。
(ねえ、誰なの?何ていってるの?)
『〜か〜さ』
(もしかして、この声って……)
『〜〜〜〜〜〜〜、満希……』
(茂幸っ!?)
私は握られた手を引こうとするが、体が言う事をきかない。
(茂幸、会いたいよっ。会って、また茂幸といろいろ話したいよっ)
声を出そうとしても、それは声にならない。それでも、私は力を振り絞った。上も下も分からない場所で、体を起こそうとした。
(はぁ はぁ、今 行くから……はぁ……茂幸に、会いに行くからっ)
息が切れてきたが、体は少しずつ、動き始める。
(はぁ もう少し……んっ!!)
体を起しきると、私は光に包まれた。
Episode 茂幸
僕はずっと満希の手を握っている。強く……強く……。
「茂幸……」
不意にベッドの上から良く聞きなれた声が聞こえた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二週間後
Episode 満希
今日は私が退院する日。私はパパとママと一緒に病院を出たると、病院の玄関で私を待っていた人が1人いた。私は彼の元に駆け寄る。
「退院おめでとう」
私が大好きな彼はそう言った。
「ありがとう」
こんな何とも無いやりとり。それが出来る事がとても幸せ。
「今、少しだけ2人になれないかな?」
彼は真剣な表情で言った。
「うん、いいけど、何?」
「あらためて言いたい事があるんだ……」
パパとママに断って、私と彼は少し離れたベンチに座った。
「それで、どうしたの?」
彼の表情は相変わらず真剣。
「ちゃんと現実で言いたいことがあるんだ。満希……夢で会う前からずっと好きでした。これが僕の本当の気持ちです。僕と付き合って下さい……」
茂幸の顔は真っ赤になっている。今、私もこんな顔をしてるのかな……。
「……私も茂幸の事 大好きだよ」
〜fin〜