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万里坑

 宇宙には凄まじい数の星がある、理科の授業でも、星の名前とか色々習ったけれども、多分その何億倍もの数の星々が夜空に輝いている、それにまだまだ見つかってない星も腐る程あるのだ。

 別に難しい話でも何でも無いが、さして重要な話ではない。

 地球からずっと離れた場所にある名前のついていない星にある大陸『万里坑』一面が荒れ果てた荒野であり、草も干し草みたいのが申し訳程度生えているだけの悲しい大陸だ、星自体に名前は無いのだが大陸が有名なため、万里抗といえばこの星を意味する言葉でもある。

 かつてはこの星に移り住もうとした計画もあったそうだが厳しい自然環境、乏しい資源、そしてこの星を植民地にしようとした星の滅亡もあって、最初に移住した人間の子孫と軍関係者と星の大きさと比してごく僅かしかいない。

 そしてこの星の特徴は環境の過酷さだけではない、その環境に適応してしまった野生動物たちである、荒野を歩くと必ず目に入る死体や骨は弱い生物の末路である。





 万里抗空港から数十里先の荒野で二つの人影がのろのろと歩を進めているこの二つの影はどちらも日光を避けるための分厚い服を着ており服の下では汗が滝のように流れていた、しかし、気持ち悪いからといって脱いでしまえば日焼けで大変苦しむ事になる、やけどに比べれば汗の不快感などたいしたことはない、我慢するしか選択肢がなかった。

 前を躊躇無くずんずん進んでいく男は三十代近くで精悍な顔立ちをしているがその後をついていく男ははまだ若く、どちらかと言えば弱々しい見た目である、後をついて行く足取りは頼りなく、赤ん坊のようだ。

「兄貴ぃ、待ってくださいよ……ゆっくり行きましょう……ゆっくりぃ」

 若いほうは半べそを掻きながら前を歩く男に追いすがった。

「待っても歩く距離は一緒だ、夜になる前に抜けないと、死んじまうぞ」

 兄貴と呼ばれた男は振り返って一括し、また進み始めた。

「分かってますけどぉ……」

 当たり前のことを言われ、ため息をついた、そんなことはもちろん分かっている、だが口からは何を言おうとしても弱音しか出てこなかった。

「じゃあ少しだけ休憩しませんか」

 必死に並んで訴えたが。

「喋る元気があるなら足を動かせ」

「喋る元気も無いんですが?足動かさないでいいですか?」

「いいぞ、後悔するのは自分だからな」

「ん~」

 若いほうは呆然と止まってすぐに駆け出した、勿論止まって夜になればどうなるかはよく知っている。

 どれだけ歩こうと休もうと景色は全く変わらない、虚しさすら感じる茶色の大地、そして青い空、最初にこの地に下りたときには感動すら覚えたがこうもおんなじだと見飽きて当然だ。

「後どれくっ……くらいなんですか?」

「知らん、方向はあってる、筈だ、夕暮れまでにはつくだろう」

 前を歩く男は方位磁石を見ながら素っ気なく返事した、時計を見ると夕暮れまではかなりの時間がある。

「あってなかったら?」

 後ろのが文句を垂れた。

「別の場所につく」

「別の場所ってなんですか、いいかえれば遭難ってことでしょ」

「そういう言い方もするな」

 前の男は振り向こうともしない。

「ただでさえ人がいないんです、ちょっと方向を読み違えただけでも死ぬしかないんですよ、やっぱり、待ってたほうがよかったんですよ」

「黙って歩け、体力の消耗は命に関わる」

 もう十分命の危機だ、この灼熱の荒野で数時間歩いているのだ、こんな昼間は野生動物も歩きはしない自分たちはけだものよりも馬鹿じゃないのか、若い男はそんな感覚にとらわれた。

「どうしてこうなるの……」

 後ろの男は右を向いた、右を向こうが左を向こうが、ずーっと変わらない景色である。

「急げ、食われるぞ」

「へ……へい」

 再び、歩を進めていく。

「……?あれ?……何ですかね」

 後ろのが遠くの方の動く物を指差した、近づいてくるようだ。

「……ん……ウサギか……」

 前の男も目を細めた。

 それはどんどん近づいてくる、やかましい駆動音を響かせて。

「戦車だな」

 生き物ではないことはすぐに分かった、星間防衛軍管理地区の人間なら誰でも知っている三年式偵察装甲車だ。

「三式か……助かった」

 前の男は目を輝かせた。

「こっちにきましたよ、乗せてもらいましょう!」

「おーい!」

「たすけてくださーい!」

 二人はさっきまでの疲れを吹き飛ばし一目散に戦車に駆け寄っていく、でこぼこ未知に足をとられ何度も転びそうになった、ある程度近寄ると装甲車は動きを止めた。

「おまえらー! こんなところで何やってんだ! 死にたいのか!」

 灰色の治安部隊塗装もすっかり剥げ落ち、錆だらけの車長扉から身を乗り出すようにして軍人が手を振っている。

「ひえー……助かった……熱っ」

 後ろの男はへたと地面にへたりこんだが、その暑さに耐え切れずすぐに跳ね起きた。

「住所はどこだ、海賊じゃないようだが」

「旅のものだ、載せてくれるとありがたいんだが……」

「当たり前だ、そうじゃなかったら近づかないよ」

 車長は車から飛び降りた、そして拳銃を前の男に向けていった。

「管理表を見せてくれ、義務なんでな」

「ああ、すまない」

 前の男が上着に手を突っ込み赤い手帳を取り出した。

「そっちもだ」

 車長はへたり込む男に厳しいまなざしを向けた。

 二人から手帳を受け取った車長は後ろで様子を見ていた兵隊に水を取るように命令した。

「どうぞ、冷たいですから、あんまりがっつかないように」

「ありがとう」

 車長は手帳の最初の項を穴が開くように見つめた、そしてガラスだまのように目を輝かせながら、手帳の写真と前の男を見比べた。

「山中……双さん」

「ああ」

 前の男こと山中双は車長の言葉になどかまっていなかった、必死に水をのどに流し込んでいたからだ。

「八島遼一です」

「山中さん……もしかして……」

戦車長は首を捻って唸る。

「あの風土記の?」

「そうですが」

「おおっ!山中さん、私も武春の生まれなんです、わが国の誇りにこんな所で会えるなんて」

「……そう言われるとなんか照れるな」

「私!惑星間防衛軍、万里坑方面第八軍偵察機甲隊隊長の清水晃です!」

急に態度を正し、音が出るくらいの敬礼を披露した。

「防衛軍か……偉い遠くに派遣されたんだな」

「まぁ……一回来てみたかったんです、万里坑に、冒険心ってヤツでして……来たらなんにも無かったんですけど、今回は風土記の制作ですかっ」

「いや、資料集めだが、知り合いがいてね、少し会いに来たんだ」

「そうですか、あっ、すいません、どうぞ、気を付けてくださいね、梯子が脆いんで」

「ありがとう」

二人は梯子を登って砲塔に腰掛けた。

「三番野まで戻るぞっ!話し聞いてたなっ」

清水が中に怒鳴ると、中から威勢のいい返事が聞こえた。

戦車は疲れた身体に心地良い感じに震えながら動き出した、と思えば、止まった。

「清水さあん止まっちゃいました」

ハッチから若い兵士が顔を出した。

「何、またか……あっ、小松、挨拶しろ、お客様だ」

「え? あっ、どうも、ようこそ万里坑へ」

「すまないね、私達が重かったのかもしろない」

冗談めかして言うと、小松という兵士は顔を真っ青にして首を振った。

「いやっ、これは、あのっ、よくあるんでっ、すぐ壊れるんです!」

「古いんでね」

そこからは気軽に、同郷どうし、他愛無い会話を交わした。


では、この隙に読んでくれた数少ない人達にこの星について、

少々だけ解説を。

この星は地球大の大きさで、地表に無数の穴が空いている、空気が薄い頃の隕石の衝突によるものと言われているが、よく分かっていない、穴の大きさは小さい物で五メートル程度、大きい物だと十キロにも達する巨大なのもある。

海と呼ばれる部分は極わずかで大部分が万里坑と呼ばれる大陸で構成されている、万里坑は北側の湖水地帯以外だだっ広い荒野になっており最初に書いた通り殺風景、人が住み始めたのもほんの数千年前、最初は開拓に燃える物好きの集まりだったのだが、そのうちに珍しい動物を狙う密猟師や罪から逃れた凶悪な犯罪者が移住して来、治安はみるみる悪くなっていった

そして、万里坑住民からの哀訴の叫びを聞いた惑星間防衛軍はようやく重い腰を上げ秋山大将率いる第三十軍団、十万を派遣し、まずは悪人を平らげ街や街道を整備した一昔前の無法地帯からすればはるかにマシになった、しかし、今度は海賊と呼ばれる反星間防衛軍組織が台頭し始め、各地で泥沼の戦闘が繰り広げられている。

この星が平和だったのは人間がいなかった時だけだったのだ。

三番野高射砲隊など多くの部隊が駐留している大規模の司令部である。


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