えんじぇるず聖夜・9
チャプター・9 ジプシー
委員会が終ると、予定通り五時過ぎだった。この高校は二学期の中間試験の終った後に文化祭がある。今日の委員会は、その連絡がメインだった。……文化祭か。クラスの女子が何人か、舞台をやりたいと言っていたな。
この高校の文化祭の基本は、舞台と展示と模擬店。一学年十クラスで計三十クラス。一年が舞台をさせてもらえるかが、まず問題だな。
そんな事を考えながら、俺は京一郎と待ち合わせをしている体育館の倉庫へ向かう。しなくてはいけない事や考える事、沢山あって忙しい。だから俺は今生きていられる。……なんていうマイナス思考になりかけて、慌てて意識を引き戻す。どんな簡単な事でも、気を抜けば成功しない。
今夜の計画一色に頭を切り替えて、俺は倉庫の扉をゆっくりと開いた。
チャプター・10 京一郎
俺は五時を告げる腕時計のアラームをとめると、大きく伸びをした。もうすぐ委員会が終ってジプシーが来る。あいつは時間に対して結構うるさい。
そして俺は、待っている間に今日の転入生の事を考える。ほーりゅうとか言うあの女。怖いもの知らずで言いたい事をいいやがって。明日も向こうから絡んでくるんだろうか。今日は余計な面倒を起こしたくなかったから無視したが、明日も寄って来たら、どうしてくれようか……。
倉庫の扉が静かに開いたので、顔をあげる。
「悪い。遅くなった」
いつもの顔でジプシーが入ってくる。こいつは転入生の事は気にしていない様子だ。引っかかっているのは自分だけか。俺はジプシーの私服が入った鞄を渡した。
「さんきゅ」
そう言ってジプシーは、鞄を受け取りながら眼鏡を外す。そして俺に背を向けると、制服の上着を脱いだ。俺はジプシーの後姿を見ながら、こいつは躊躇なく俺に背中を見せる、と、ふと考える。
着替えの間に黙っているのも何だかなと思い、俺はなんとなく思った事を口に出してみた。
「今回の相手になる連中ってよ、人数が多いけれど、なんか寄せ集めの感じがするよな。親父も言っていたけれど、最近急に大きくなった暴力団だしさ」
「さすが京ちゃん。俺もその辺の金で動くチンピラの寄せ集めだと思ってる」
「そんな仮契約っぽいすぐ裏切りそうな奴ら、俺んちでは危なっかしくて使わねぇけどな」
「いや、それなりに金さえ積んだら、これほど忠実になる部下はいないんじゃない? 連中、自分の命にさえ危険が及ばなきゃさ」
そう言ってジプシーは上半身が裸になると、そのまま、鞄から出したホルスターを脇に下げた。そしてリボルバーを抜くと、すばやくシリンダーの中の弾丸チェックをして、グリップの底にあるイニシャルの様な刻印を一瞥し、ホルスターに戻す。
俺はジプシーの、その一連の動作とその胸元で光っているロザリオを、いつもの如く不思議な気持ちで眺めていた。 |