えんじぇるず聖夜・7
チャプター・7 ジプシー
「!」
ほーりゅうは、俺の眼鏡をかざしながら、遠くのビル街を眺めた。
「朝に見た時から気になっていたのよ。やっぱりね〜! この眼鏡、度が入っていないじゃない。何で伊達なんかかけているのよ」
俺は、無言でほーりゅうの手から眼鏡を取り上げると掛けなおした。変な女。初対面の人間に対して最初に目が行く所はそこか? ……こいつの朝の視線は、これを見ていただけなのか?
「あんたが他に行かないなら、俺がどっかに行くさ」
かなり不満げな顔で鞄の中に封筒を入れると、京一郎は一人でさっさと階段に向かって歩き出した。
「やっだなぁ。京一郎ったら、照れちゃって!」
ほーりゅうの、あまりにも大胆不敵な言葉に、ちょっと唖然とする俺と夢乃。
京一郎もさすがに振り返り、何かを言おうとしたが、どうにか耐えたようだ。踵を返して無言のまま扉の向こうへ消えていった。
その後姿を見ていたほーりゅうが、急に俺の方へ振り返って言った。
「そうそう、今、あんた達の気が付かなかった事を教えてあげる。どお? 私を仲間にしない?」
「……何の事かしら?」
夢乃が警戒しながら聞いた。ほーりゅうは勢い込んだ感じで、しかし勿体ぶって言った。
「あんた達がここで何か相談事、していたでしょ? 私が来る前にドアの影で立ち聞きして、様子を伺っていた人がいたわよ。私を見たらどこか行っちゃったけど。見たことのない男子生徒だったから、うちのクラスの人じゃないな〜」
「あなた、それって……」
言いかけた夢乃の前に、俺は片手を出して制した。
「ジプシー!」
遠慮なく俺は、裏の世界で場数を踏んで来た者だけが出せる威圧的な眼光を湛えて、ほーりゅうを見据えた。
「ご忠告ありがとう。しかしながら、これ以上俺達にかかわらない方が賢明だね。ろくでもない事に巻き込まれるだけだよ。あんただって命は惜しいだろ?」
つかの間、静けさの中で俺と彼女は睨み合う形になった。
そして、ほーりゅうはスカートを翻して扉に駆けていくと、そのまま消えていった。
「……得体の知れない不気味な人間の言う事って、妙な説得力あるわねぇ」
夢乃の、ちょっと笑いを含んだような声がした。
「それ、どういう意味だよ」
「でも、確かに普通なら薄気味悪くて、もうあなたの周りには近づいて来ないでしょうね。結果オーライ?」
そう言って夢乃は笑った。 |