えんじぇるず聖夜・14
チャプター・16 組長
「ちょっと失礼。様子を見てきますので」
屋敷の中で、何か騒がしさを感じた。組長は客人に断って部屋の外に出る。扉のすぐ外で待っていた者に声低く、だがドスの利いた声で「何事だ」と聞く。
「はあ、昨日連れてきた例の中学生の小娘と付き合っているらしいガキがですねえ、昨日から街で女の行方をうるさく聞きまわっておりまして、また今日も同じそのガキを見かけたらしく、先ほど別の連中がそのガキを捕まえてきたようで」
めぐりの悪そうな部下に、ちょっといらつきながら言う。
「何も只の中学生に、そこまで神経質になる事もないだろう?」
「しかし、今騒がれたら何かの拍子と言う事もあるかと」
「今、大事な客人がみえているんだ。ばたばたしている所を見せるな。とりあえずガキも女の所に放り込んでおけ。そうだな……始末するとしても女一人よりも心中の方が始末しやすいか」
頼りなさそうな部下に指示を出し部屋に戻ると、三人の屈強そうな男達を従え、ソファにゆったりと腰をかけていた老人が声をかける。
「何かありましたかな?」
穏やかに微笑んでいるが眼光は鋭く、黙っていても威圧感を感じる。この世界でのし上がるには、今後この老人の後ろ盾がなければならない。組長は取り繕うように愛想笑いをしながら言った。
「いえ、昨日捕まえた中学生の娘がおりまして」
「ほう、……中学生の娘か」
老人の目が変化し、好色そうに光る。その変化を目ざとく見逃さなかった組長は言葉を続ける。
「どうです? 捕らえている部屋には監視カメラも設置しておりますし、ちょっとどんな娘かお見せできますが」
いかにも興味を持ったように、老人は杖に重心を乗せて立ち上がる。
「最近の若い者とは、あまり話をしないもんでなぁ。是非会ってもみたいものだ」
老人を案内しながら、思わぬ所で機嫌をとれそうだと組長は胸の中でほくそえんだ。
チャプター・17 ジプシー
「中学生同士でも付き合っていたら、いろいろ話もあるだろう? 少ない時間だ。有効に使えよ」
そう言って、俺を力任せに部屋の中へ突き飛ばした男達は、薄ら笑いを浮かべて鍵をかけた。しりもちをついた俺は、思いっきりわざとらしく叫んでやった。
「何だよ、ここは! 冗談だろ? 出せよ!」
その間に男達の足音が遠ざかり、地上へ続く階段を通り過ぎて消えていった。その時になって、ようやく辺りを見渡す。ドアにもどの壁にも窓がない地下室。今は何も置いていないが普通なら物置として使われそうな埃っぽい部屋。薄暗い裸電球。手の届かないところに1箇所にだけ設置された監視カメラ。そして、部屋の片隅で俯いて膝を抱えて座っている女の子。お嬢様学校と呼ばれている、ちょっと離れた所にある女子中学の制服を着ている。腰まであるウェーブのゆるくかかった髪。
髪が微かに揺れた。彼女が少し顔を起こして俺を見たようだ。つぶやくような声。
「……誰。……私、貴方なんか知らないわ。」
俺は立ち上がりながら服に付いた埃を払う。そして彼女の方に近づいて行った。ゆっくりと彼女のそばにかがむ。連中は読唇術など知らないと思うが、監視カメラからは口元が見えない角度で彼女の耳元に唇を寄せ、ささやいた。
「でしょうね。貴女とは初対面ですよ」 |