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グローミーは悩んでいた
「うーん……」
世界創りから早一週間分の時間が経ったのだが
世界創造は難航していたのだ
規模を小さい話にすればモノづくりというものは
完全に一人だけで行うのには発想・想像・技量…
様々な分野で限界が生じてしまう
あれやこれや、と思いつくグローミーではあったが
いまひとつ一歩踏み出す事がなかなかできないでいた
そんな様子をみかね…
「……グローミー……」
闇の世界に優しい声が響く…
グローミーを産み出した例の女性だ
ここでは天の声としよう
「…あなたは…この前の?」
「えぇ…あなたの事はいつも見守っています…
世界創りは難航しているようですね…」
「…そうだね、モノを創れる力があっても
なにをどうすべきか全くわからない」
天の声はそれを聞いてフフと笑う
「…何がおかしいの?」
「いえ……私も当初は苦労したものです…
誰も相手をしてくれる方もおらず…
何が正しくて、何が美しくて、何がダメなのか…
全て手探りで創ってきましたからね…」
「…ふーん…やっぱりあなたも世界を創ってきたんだ」
「そうですね…いわゆる世界創りに関しては
グローミーの先輩ということになりますね」
先輩ね…
グローミーは呟く
「でも一番最初に言ったけど口出しはしないでほしいな
私の世界だからあなたの色をいれたくないし」
芯の通った声で言い切る
まだなにも進んではいないが…
彼女にはすでにプライドが創られていた
「え、えぇ勿論です
…ですがほんの少しお手伝いといいますか
創造が楽しくなる補助をしたいと思うのですが…」
「補助?」
グローミーは眉をしかめて復唱する
「えぇ、私がかつて創造につまづいた原因は
……孤独だったことです
もっと早く相談相手を確保する発想があれば
作業はもっと効率よく進んだかもしれません」
「…で、あなたが一緒に考えてくれて…」
と、ふてぶてしい顔で言い切る前に
「そうではありません…
あなたと同じように創造に関する
経験と知識が全く無い子を
…あなたの世界へ誘おうかと思います」
「…ふーん…」
少し興味ありげなグローミー
「…いいお友達になれるかもしれませんよ?」
声は微笑を含め優しく言う
「んー……まぁ……ねぇ……
いい…よ?
それならまぁ…許せるかなー」
素直ではない表情を浮かべ、渋々甘える
彼女とて早くも独りに限界を感じていたのだ
「フフ、わかりました
それでは運命の扉を開きましょう
…彼女は間もなくあなたの世界に紛れ込んできます」
そして声は聞こえなくなった
「彼女…女の子か…
ど、どこから…?」
急にそわそわするグローミー
「きききたらなんて言おう
…ようこそ! 私の世界…へ?
…でもまだなにもないし
……あ、そのまえに自己紹介だよねっ
んー、でもいきなり自己紹介してもおかしいような」
初めての出会いに超緊張するグローミー
提案を受けてみたものの
期待や不安で胸が破裂しそうだ
…そして
際限がないと思われていた
闇の空間に裂け目が見えた
「きた!?」
そう確信した
とにかくその裂け目からは
高速でなんらかの物体が
キィンと音をたてて現れ
グローミーの少し近くに激しく着地した
物体は衝撃のあまり
海老のように跳ねて遠くへ移動していき
やがて失速した物体は地面を引きずって停止した
グローミーはもちろん近寄る
「お、おぉ」
その物体を見てグローミーは声をあげた
まだうつ伏せで後ろ姿しかみえないが
自分と同じ金髪をした少女だった
来ている服や肌がボロボロに傷ついているのが気になる
「ね、ねぇ……大丈夫?」
とりあえず声をかけてみる
「……」
声をかけてみるが少女から反応は無い…
次は体を軽くポンポンと叩いてみる
「う…うぅ……」
かすかに呻き声が漏れた
「ね、ねぇあなた大丈夫?」
グローミーは少女を仰向けにする
すると、驚いたことに顔からは
紫の液体が血のように垂れている!
これはただごとではない
「ね、ねぇ! 一緒に世界つくってくれるの!?」
しかしグローミーはなんとも検討違いな質問をする…
たまらず天の声が戻ってきた
「グローミー…!!
その子はまもなく死んでしまいます…!
訳あって異星から逃げてきたところを
この空間へ引き寄せたのです」
「し、しぬ!?」
裏声で驚くグローミー
「さぁ…! はやくあなたの力で元通りにしなさい…!」
珍しく切羽詰まった天の声にグローミーも慌てる
急に元通りにしろ、といわれても頭が回らない
「も、元通りって…こ、こここう…!?」
ボンッ!
息絶え絶えの少女の体が
グローミーの力により妙な煙幕に包まれる
…その後、肌や衣服への外傷は完治していた
「ね、ねぇこれでよかったの!?
あ、あなたが急かすから
この子を創りなおしちゃったけどっ…!」
テンパったグローミーは傷を癒すのではなく
少女の姿を記憶して自分の創造力でそっくりに
創り直してしまったらしい…
「ごめんなさい…あと数秒遅れていたら
その子は命尽きるところでしたので……
ですが、グローミー?
あなた発想がまだまだ固すぎますよ?」
急なお説教にちょっとムっとするグローミー
「この場合はですね、回復ができる術を即座につくり
その術で彼女を助ければすみましたのに…」
「そーんなこといわれても!」
だってまだ私は生まれたばかりだもん!
…と、でもいいたげな顔をする
「とにかく…あなたの創造力でその子の体を
創り直した以上、その子はもう…あなたの子、同然です
…責任をもって命を預かるのですよ…?」
そして…声は消えた
「わ、わたしの子…???」
その言葉も意味も知っているのに
"子"という言葉に戸惑うグローミー
あれこれ困惑しているうちに
創り直した少女もようやく意識を取り戻した
「あ……気がついた……?」
おそるおそる声をかけるグローミー
初めての生コミュニケーションで挙動不審だ
一方、少女は辺りを見回し
グローミーをゆっくりとみつめ
今の状況を把握しようとする
容姿は程よく長い外にはねた金髪に赤い鉢巻が特徴的で
目付きはとても悪く、なんと眼球が黒い!
上半身は赤いサラシだけで
下半身はファーがついた黒生地のホットパンツが似合う女の子だ
筋肉も程よく付いているが
グローミーと同じく胸が小さくスタイルは悪いのが残念
「こ、ここは…?」
グローミーだけでなく少女もおそるおそる問う
「あ、えぇと…ここは私の世界」
「貴様の…世界…?」
何をいっているんだ? と、いう目付きで
グローミーを睨んでから周囲を見渡す
既に皆さんもご存じの通り
終わりの見えない暗闇だ
「まぁ…まだなにもないんだけどねぇ…」
少女が言いたそうな事を先に代弁する
だが少女はそんなことより眉をしかめて
「おい、超魔王様はどこにいる?」
と、グローミーに問い詰める
「は?」
始めて聞く単語だ
グローミーの知識にはそんな言葉は無い
一瞬、困惑していると
「あ、グローミー…?
それはこの子の星の王の通り名ですね…」
少し慌てた様子で突然 天の声が説明にきた
この声に少女のほうは驚きを見せなかったので
恐らくグローミーにしか聞こえないのだろう
「超魔王様だ! 知らないはずは無いっ!」
血相をかえて迫る少女
「え、えぇと…あなたのとこの王様よね?
えぇとえっと…なんていうか…なんつうか
ガキっぽい名前だねアハハハハ」
「き、貴様…!?」
信じられないといった表情をして
少女がグローミーに掴みかかった!
「わわごめんごめん!
だってだって王の前に超って ぷぷ…
ちょ、魔王! じゃないのぷぷぅ…!!」
ひとりで勝手に笑うグローミー
少女はますます血相を変える
「しょ、正気か!?
超魔王様は地獄耳…!
今の冒涜が聞こえていれば貴様は殺されるぞ…!!」
「あ、あのねぇ どんな痛い王様か知らないけど
ここは私の世界ですから!
そんな人いませんからっ!」
笑いを止め、少女に負けん勢いで言い返すグローミー
少女は一瞬、呆気に取られた
「じゃ、じゃあここに…超…魔王…は
……いないんだな…?」
「いませんよー」
それにしてもグローミーは小馬鹿にしすぎたが
ここに超魔王という存在がいない事を知ると
脱力したのかヘナヘナとらしくない女の子座りをした
「そ、そうか……
……ふぅ」
一息ついたところを
グローミーが問う
「ねぇ、あなた とりあえず…名前教えてくれるかな?」
「ん…? 私か…?
ビ…ビーチだ…」
少女の名はビーチと判明した
自分以外の名前を持つ者にグローミーは次第に興奮する
「ビーチ…ビーチちゃん…」
名前をつぶやいた後、間を置いて
「ビーちゃん!?」
「な、なななんだその名前は!」
アダ名のつもりだろうか
目を見開き仰天する
すごく気に入らなさそうな反応だ
「……ビーさん!?」
まるでその筋のような人のアダ名をつける
「解せん! 私はビーチだ!!
ちゃんもさんもつけるな!!」
顔を真っ赤にして怒る少女ビーチ
プライドがとても高いようだ
「ビーチくん?」
「だから呼び捨てにしろ!
私には似合わない!」
「そう?
ビーチちゃんとかは普通にいいと思うけどなぁ」
「ダメ!」
「ビーチちゃん!」
「ダメ!」
「ビーチちゃん!」
「ダメ!」
「ビーチちゃん!」
「……ぬぅー……しつこいやつめ…
も、もういい…
貴様の好きな呼び方にしろ…」
しつこいグローミーに折れたように思えたが
怒りつつもどことなく嬉しそうな? 表情だ
「ビーチちゃん、目こわいけど可愛いもの
女の子だし ちゃん はつけないとっ」
「ん…」
少し? 頬を赤らめる
「私の名前はね、グローミー
これからよろしくねビーチちゃん!」
「……ふんっ
ここに長居するつもりはないからな」
突如やってきた目つきの悪い女の子
果たしてグローミーの創造は捗るのだろうか?
第2話【現る!? 世界創造の助手】
~Fin~