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「声が聞こえなくなった…」
暗闇の中、少女の姿をしたグローミーは呟く
心の内側に問いかけるような包容力のある声はもう響いてこない
ただポツンと
闇の真ん中に少女と小さな鏡があった
「…私は欲しいと思った時、この鏡を生み出すことができた
私は自分の醜い正体を知った時、好きな形に変えることができた」
そう、グローミーはもともとドロドロで不定形な生命体だった
意志と想像により性別を女と仮定し
金の長髪に赤く大きな瞳をもつ少女へと姿を変えたのだ
これはグローミーが思う美少女像を具現化したともいえるが
彼女には過去の記憶は一切ない
何をもって、この姿が自分にとって可愛いと知っていたのか
そんな果ての無い事を考えてみようと思ったりもしたが
名前も姿も確立し、彼女は徐々に心の整理がついてくる
「物を生み出すことができる
自分の姿も意のままに変えることができる
これは私のもつ力そのもののせいか?
それともこの空間は思念を具現化できるのか?」
ひとり、ただブツブツと闇の宙を漂う…
少々哲学者気取りの女の子のようだ
「まずこの視界に入る世界には私以外の生命体が
存在しないとみていいでしょう
しかし私を生み出した者はどこかに存在する
それってつまり、この暗闇には外がある と
高い確率で考えられる…」
それっ
…と、闇の中を走ってみた
でも2秒で諦めた
無駄だと雰囲気ですぐ分かったからだ
「この闇にはまるで際限がない
境界線を目で確認するのは愚かかもしれない
…でも私の中にある無数の知識
それは記憶なの? 知識とは記憶なの?」
当然、答えを返してくれる生命体は存在しない
「自分で世界を作ればいいと思ったけど
何から作ればいいか皆目検討がつかない
…とりあえず理想の世界を創ればいいのか…」
その時、閃くのであった
「ハッ 私の中に眠る知識はこの世界にあらず外の世界にある
そうよ!
外の世界を映し出すものが欲しい!
もっと大きな鏡を!」
ボンッ!
彼女が希望を確かに表した時
眼前に池のような水面が現れた
周りは豪華な装飾を施されており
風も無いのにゆらゆらと揺れている
さしずめ巨大な水鏡といったとこだろう
「さあ、映してみなさい
何でもいいから外の世界を!」
グローミーがそう指示を与えると
水鏡は問いかけに答え、暗闇の水面を…
またも暗闇に変えた
「…ん? 壊れてる?」
そう思ったグローミーだったが
そんなことは無かった、ただの暗闇ではない
「ポツポツと明かりが見える…
これは…私の知識によると宇宙…」
水鏡が映し出したのは
どことも知れぬ宇宙だった
「なんて綺麗なの……
この光るものは星…そしてこれは銀河…!
すごいわ…とっても神秘的…」
目を輝かせて景観を楽しむグローミー
思わず水鏡に手を突っ込んでしまう
「お」
そこで何かに気づいたようだ
「おぉ …おぉ?」
今度は頭を水の中へつけてみる
「おぉぅ おおおおお!」
頭をつっこんで拍手までしだした
気でも狂った、わけではない
どうやら水鏡に映し出した世界とは
直接繋がっているようで体を投げ入れれば
その世界へ移動ができるようだ
「いい! これいい!
そんな機能つきだったんだ
えいっ!」
なので早速飛び込んでみた!
「……!!」
ところがどうしたことか!
飛び込んでみたら声になってない叫びをあげた!
思わず白目まで飛び出す
ただ事ではない
グローミーはすぐに
元の世界へ帰還した
「うぇぇ…!!!
はぁ…はぁ!! はぁ…はぁ!!!!」
本気で息を荒げるグローミー
常識か否か、宇宙には空気がない
超存在とはいえ人の姿を維持するグローミーに
この事実には抗えなかった
「…宇宙は危険ね…
生身で探索する意味もない…
他の場所を映してみよう」
そして再び水鏡に命じ今度は宇宙以外の場所を眺める
次に現れたのは岩が多くある場所だ
その大きさは大から小 とにかく岩しかない
「なにここー
つまんね、なにもないね」
一応顔をつっこんでみるグローミー
ウッという顔をしてまた引っ込む
ここも呼吸ができる環境ではないらしい
「呼吸もできねぇじゃん、しけたところだな~
生物が棲めそうにない漂流してる惑星って感じかな」
とりあえず水鏡でその惑星をジっと眺める
…しかし
「…はぁぁ…ふぅわぁぁー……ァ」
変わり映えの無い光景に飽き飽きし
大きなあくびが止まらない
ついには鏡から目を背けて仰向けに寝だした
「なんかもう疲れたなぁ
参考材料がすくないよー
もっとなんかいいの映してよぉ
…もう寝ようかな今日は
明日から頑張ろう、うんそうしよう」
グローミーはムクっと立ち上がって
また何かを思い描いた
「どうせなら王様みたいな…」
ボンッ!!
そこでグローミーが生み出したのは
まるで王族が使っているような
大きくてふっかふかなシングルベッドであった
「ふふっ…んーーーー!!」
ベッドにぼふっと飛び込んで
気持ちよさそー…に伸びをするグローミー
「そうよ! 私はこの世界の王様!
他の世界にも王様っているよね!
じゃあ明日はそれを見に行こう!
おやすみなさい!」
目標もそこそこに闇の世界の王は
スヤスヤと眠りについた
……まるで昔の私みたい……
…と、どこからともなく聞こえてきた気がした
それから翌日
まだこの世界には昼夜の概念が存在しないので
翌日というよりかは6時間後
睡眠時間としては微妙な感じでグローミーが起床した
「ん~~…! よく寝た
さぁ、続きをはじめないっと!」
水鏡の前まで移動し
次はこう命じる
「どこでもいいから王様のいる世界を映してみて」
そんな大雑把な注文に水鏡は丁寧に応える
今回映し出されたのはどこかの世界の城のようだ
そこにはグローミーと似た形をした生命体も存在し
やはり外界は存在するんだということを確信する
「おぉ、これが別の世界なのね
この人が王様くさい
イスもすっごい豪華だわ
いわゆる玉座ってやつね
ふーん…はいはい、どれどれ」
グローミーは早速別世界の玉座を参考に
こちらの世界でも玉座を生み出す
気分はすっかり王様気分
別世界の鑑賞を続ける
「…この鏡、音までは聞こえないのね
まぁいいわ、それより王様の隣にいる子
可愛いなぁ、ドレスっていうのかしら」
次にグローミーは姫に注目した
高貴さを漂う金の髪に煌びやかな王族のドレス
自分のほうが可愛い自信はありつつも
しばし姫を眺めるグローミー
「でもなぁ見るのは可愛いけど
実際に着てる立場からしたら動きにくそうだねー
ドレスは別にいいや、はい次!」
姫にはもう興味がなくなったグローミーは
これまたその隣にいる中年の男に目を向ける
「さっきからこのしょぼくれたオッサン
王様や姫にヘコヘコしてるわね
…あ、耳打ちもしてるー悪口かな?」
興味をもった中年の男は
恐らくこの王国の大臣だろう
「うーん、なにをしてるか鏡からじゃ
まったくわからないなぁ…
よし!」
ガマンできずにグローミーは別世界へ飛び込んでしまった
「よっと! ここは流石に息ができるわね」
鏡に映し出されていた部屋に移動したグローミー
一瞬、場の空気が固まる
どこから現れた?
だれだこの娘は?
そんな疑問を王や姫、周りの兵士達は抱いたが
すぐに兵士は仕事を思い出す
「何者だキサマは!!」
大勢でグローミーの周囲を囲み槍を突きつける
「え」
予想外の事態に困惑するグローミー
「いや、その…そこのオッサンが何してるのか
気になって思わず飛び込んじゃって…アハハ」
たまらず上目遣いで誰かに助けを請うグローミー
正直兵士達も困惑している
その中、1人の兵士が大臣に叫んだ
「大臣! もしかするとこいつは
リゲル王国のスパイかもしれません!」
「…うーむ、かような小娘が務めるとは思い難いが
あまりにも怪しすぎる!
とりあえず地下牢へぶちこむのだ!」
「ハッ!! さあこい!」
ちょ、ちょっとちょっと
聞いてませんよと言わんばかりに
突然の事態にグローミーは慌てふためく
「いきなりなにするのよ!!
やめてよ! 痛い!!」
背中に槍を突きつけられ
強制的に歩かされるグローミー
実はあんまり痛くないがだんだんムカムカしてきた
「もうこの世界は十分!
さようならあんた達!」
すっごいプンプンしてグローミーは
元の世界へワープした
取り残された人々は一体なんだったんだ
と、ずっとポカーンとしていたのは言うまでもない
そして、グローミーの世界
「もう…!
まさかあんな目に遭うなんて!」
アポもなしに現れては当然の対応だとおもうが
なにぶんグローミーにはまだ常識が無い
鏡ごしに爆弾でも投げてやろうかと
ちょっぴり思ったりもした
「いや、でも待てよ?」
しかし創造意欲が常に溢れているグローミーは
先ほどの光景を思い出す
「あのオッサンがどういうやつかはよく分からなかったけど
鎧を着たどれも同じ顔のザコっぽいのは
明らかに王様や姫より格下って感じよね
つまり兵士?」
と、いって目を瞑るグローミー
で、なにか閃いた
「そうよ! そうそう!
私の世界に足りないもの!
それは私以外の生き物!
さっそくつく…」
つくる
そう言いかけたが
「……でもつくったところで
どう動かせばいいのか……
そもそも活動拠点がないわね…
拠点をつくるにしてもどんなデザインに…
拠点より家がいいかしら?
うー…悩むぅ…」
何をつくるべきかは頭に出るのだが
もう何から手をつけていいやら…
まだ月日は全く経っていないが
いまだなにもつくることができていない
「よし今度は1つの世界に固執せず
まず私の世界に足りないもっともっと
大まかなものを探す旅にでるよー!」
…と、いってまたベッドにもぐりこんだ
起床してからまだ40分ほど
また明日がんばると誓いながら眠りにつく…
第1話【世界を勉強する】
~Fin~