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魔王「ちょっと待て、人間どもよ」

作者:黒湖クロコ
「とうとうここまで来たんだね」
 私はピンクの枝に花を模った宝石が付いた魔法のステッキをギュッと握りしめる。すると緊張で手のひらが汗ばみステッキが震えた。何故ならば私の前にある重々しい扉の向こうには、これから戦う事になる魔王が居るためだ。きっと今までの戦いとは比べ物にならないぐらい強い相手だろう。なので部屋の前で気を引き締める。
「長かったもんな、マジで」
「これが終われば、元の世界ですから、頑張りましょう」
「……そうだな」
 私は同じように気合を入れる、一緒に運命を共にし旅をしてきた仲間を見渡す。
 青い髪に長い耳を持ったエルフ族の青年。黒色のフードで白い髪を隠した眼鏡の青年。和装のような、でも和服にしては丈が短く、その下にスパッツのような物を履いた黒髪の少女。
 見た目がバラバラの彼らは、私も含め、全員出身地が違う。
 ちなみに私はピンク色の髪にオレンジの瞳をしているが、これは魔法を使う時だけの姿で、実際は黒髪黒目の日本人顔だったりする。

 出身地が違う私達は魔王を倒す為に集められた仲間であり、唯一の共通点は、全員が召喚魔法で異世界から召喚された仲だった。
「良かった。本当に、良かった」
 やっとお家に帰れる。そう思うと、涙がこぼれ落ちる。
「泣かないで、未来」
「うう。神楽……。だって、だって――」
 私は和装もどきな少女、神楽慰められた。でもずっと、不安で不安で仕方がなかったのだ。
「――もしも、大学生の年齢になっても、この変身を続けなければいけなくなったらと思うと……いっそ私を殺してと思ってたんだもの!!」
 私の恰好は、フリフリのロリータファッションだった。フリルやレースたっぷりの服に、頭には大きなリボン……うん。別に人の趣味は否定しないけれど、私はどうしても受け入れられないのだ。でもこの変身をしなければ魔法が使えないという、罰ゲーム。
 ちなみにこの格好を初めてしたのは小学校六年生の時だ。女神と名乗るポンコツマスコットに無理やり契約させられて魔法少女となった。それから3年悪の組織を名乗るポンコツ達と戦い、ようやく終戦。これで普通の女子中学生に戻れると思った矢先、召喚され、再び戦いを強いられた。
 小学生の時はまだ許せる恰好も、中学生になるとかなり恥ずかしくなっていたのに、既に年齢は高校生に到達している。死にたい。
 召喚される前に一緒に戦っていた、クラシカル・ロリータとゴシック・ロリータは足を洗えただろうか。ちなみに私はスイート・ロリータと呼ばれていた。頭を壁に打ち付けたら、この黒歴史の記憶は消せるだろうか。

「俺のところでは、未来ぐらいの年齢の子ならそういう格好していたりするから、大丈夫だって」
「長寿なジークの所と一緒にしないで。しかもエルフ族なんて、美男美女ばかりなんでしょ?! 美少女がロリータファッションをやるならいいのよ!!」
 エルフ族の青年に慰められたけれど、全然嬉しくない。しかも彼はこんな格好をしなくても、魔法をバンバン使えるのだから、世の中不平等だ。
「まあそうだけどよ。でも、俺だってこの世界召喚されて苦労したんだぜ? なんせ、人族VS魔族なんてやっているけど、この外見じゃ魔族と勘違いされるし。召喚しておいてふざけるなだよな」
 この世界にはエルフ族というものはいなかった。その為、大体同じような外見をしている人族は、耳の長いジークの事を多種多様な姿をしている魔族と勘違いしておびえる事がしばしばあった。下手したら、いきなり街中で捕まり、問答無用で牢屋に入れられそうになった事もあったぐらいだ。
 勿論冤罪なので、問答無用で脱獄させてもらったけれど、人族の王様もそちらの都合で召喚して旅をしてもらっているんだから、ちゃんと各方面に伝達しておけよと思わなくもない。

「まあね。本当に、人族の王様ってば手抜きというか。後はよろしくって丸投げするにしても、その辺りはちゃんとしておいて欲しかったわよね」
「いいじゃないですか。捕まったとしても貴方達は、自然の法則丸無視した魔法が使えるんですから。初めて見た時は異世界はこんなに理不尽なのかと思いましたよ」
「あー……うーん。私の場合は、元の世界でも特殊なんだけどね。でも、シルシルの錬金術も、私の世界だったらびっくり物よ」
 白い髪の青年、シルシルの恨みがましい言葉に、私は頬を掻く。
 流石に私の世界でも、魔法少女が大量発生している事はないと思う……知らないだけで、ポンコツ女神が量産していたらどうしようと思わなくはないけれど。
「私の世界でも、シルシルのような力はなかった」
「別に僕が特別なわけではなくて、錬金術は知識さえあればだれでもできるものですよ」
 シルシルは、科学をさらに高次化したような良く分からない技を使って、爆発を起こしたり、雨を降らせたりする。シルシル曰く、材料と知識さえあれば誰でもできるそうだが、その知識を持っているのが私が知っているかぎり彼以外には居ない。
 その技術を知らない私には魔法の様に見えるが、無から生み出している私やジークとは根本的に違うのだとシルシルは言っていた。何がどう違うのか色々説明してくれたけれど、私に分かったのは、シルシルの言っている事がさっぱり理解できないという事だけだった。うん。もしもシルシルの世界では、皆が当たり前の様に錬金術を使っているとしたら、とてつもなく頭が良い人が多い世界なのだろう。そんな世界に生まれなくて良かった。私の頭脳は変身しても良くはなってないのだから。

「その点でいくと、私も似たようなものだな。札を書き、大気に漂うマナを使って攻撃をしているのだから」
「そのマナというのが僕には存在の確認すらできないので、貴方の力も僕には未来さん達と同じように感じますがね」
 神楽の武器は札で、紙に特殊な文字を書き、大気に漂うマナというものを使って、雷を生み出したりする。私もマナというものを見る事も感じる事もできないのだけれど、神楽曰く、この世界では使う人が居ないからかかなり大量に存在しているそうだ。
 なので紙さえあれば無尽蔵に技が使えるらしい。私やジークは自分の体力を魔法に変換しているので、羨ましい。でもお札に書く文字がかなり多くの種類が存在するようで、あれを覚えるだけで頭がパンクしそうだと思った。やっぱり脳筋系な私が戦うには今の方法しかないのだろう。
 私は自分の無力さにぎゅっと唇を噛む。
「今日の為に沢山札を作って来たから、大丈夫。必ず勝てる」
「そうだな。俺もしっかり体力温存してきたし、未来は安心していいぞ」
「僕も材料を沢山持ってきましたから、大丈夫ですよ。全員の力を合わせれば、きっと魔王を倒せます」
 仲間達の優しい言葉に、また涙が出そうになる。

 この戦いが終われば彼らと離れ離れになるのだけがとても寂しく心残りだ。
 初めはパワーバランスが悪い、このパーティの仲はそれほど良くなかった。そもそも、色んな世界の人の寄せ集めなのだ。幸い言葉は通じ合ったが、常識とかいろんなものが違って苦労をした。しかも全員がなれない異世界に召喚されてきたのだ。それぞれにストレスを抱え、魔物を倒すときに色々八つ当たりをしたりもしていた。
 でもそんな旅を続けていくうちに、仲間意識が芽生え、今ではこうやって励まし合ったりもできる。理不尽きわまりない旅ではあったけれど、召喚されなければ出会う事がなかったと思えば、召喚されて良かったとさえ思えた。
「うん。私も頑張る。魔法少女は、必ず負けないんだから!」
 私はそう言って、魔王の王座の間の扉を開く。
 そして、私たちはとうとう魔王の姿をこの目で見る事になった。

「えっ」

 私達4人は初めて見る魔王の姿に言葉を失った。一体、これはどういう事だろう。
 混乱する頭で、ただ茫然と魔王を見つめる。
「一体どういうことだ?」
「何で貴方が……」
「これは……」
 それぞれ魔王を見たまま言葉を失った。それぐらい、衝撃な光景だった。
 何故ならば――。

「どうして魔王が土下座してるの?!」
 私はあまりの事に、叫んでしまった。
 そうなのだ。玉座の前で、角を生やしたマッチョなおっさんが土下座をしているのだ。更に、その家臣と思われる人たちも共に土下座をしている。意味が分からない。
「許して下さい!!」
「いや、許せって……」
「これ以上、魔国を焦土化しないで下さい。お願いします」
「多くの魔族が難民と化してるのです」
「お願いします。私の首だけで済むならば、これ以上の犠牲は出さないで下さい」
 ……ん?
 なんだか、まるで私達が悪人のような状況に、それぞれ顔を見合わせた。

「えっと、あの……焦土ってどういう事です?」
「神の世界の方々には普通の事かもしれませんが、あれほど大きな爆発や嵐や火災や雷を各地で起こされては、魔国はやっていけません。難民が沢山出てしまい、作物も育たない死の国では、人族にとってもうまみはないでしょう? だから、お願いします!」
 死の国って大袈裟な。爆発や嵐や火災や雷って……うん、そういえばやったね。
 私の魔法は、基本爆発する。何故か光り輝きピンクの爆風。一時期、苛立ちMAXで魔物狩りで魔法連発してたなと思い出す。
 ジークは嵐を起こす事が多く、水と風の属性が得意だと言っていた。シルシルは見た目は白いけれど、技は炎が多かった。酸素があれば何でも燃えるから火が一番扱いやすいそうだ。そして神楽は雷を落として一気に殲滅させていた。
 そもそも、接近戦タイプが居ない、魔法だけに偏ったパーティ。全員が遠くからの攻撃になり、命中率が下がる為、とにかく魔法連発とかしていた気がする。というか、ちゃんと剣士系も召喚しようよ。何でそんなに魔法系に偏ってるの。RPGだったら、扱いにくい事この上ないよ?

 ……それにしても、これじゃあ、私たちが悪魔みたいじゃないか。
 元々、一方的に召喚されて魔王を倒してこいと命令された被害者だと言うのに。
「えっと、魔族の方が一方的に人族に宣戦布告したんですよね?」
 なんとなく、今の魔王を見ていて、根本の情報に誤りがあるような気がして、私は確認する。
「まさか。とつぜん、魔物が暴れるのは魔王の所為だと言い掛かりをつけられ、勇者を送ってきたのは人族の方だ」
 うん。
 召喚された被害者だったとは言え、召喚なんて人攫いまがいの事をした人達の話を信じてしまった私達に落ち度があったようだ。
 私は旅の間に、喋らなくてもかなりの意思疎通ができるようになった仲間達を見る。考えは皆同じのようだ。
「魔王、ごめん」
「悪かったな」
「すみませんでした」
「申し訳ない」
 私たちは全員で頭を下げた。知らなかったとはいえ、魔国で暴れまわって申し訳ない事をしてしまった。かくなる上は。

「今度は魔王に力を貸すよ。まだ使ってない真の奥義を使って、打倒人族!」
「魔法は任せとけ。やつらには借りがあるからな」
「錬金術ですか、できる限りの事はしましょう」
「私も、できるだける」
 目指せ、最初のスタート場所。
 ここまで来るのに2年かかってしまったけれど、土地勘と力もついてきたし、全力を出せば半年で元の場所に戻れる気がする。

「待って、脳筋魔法使い様! 人族領を焦土化するのはおやめ下さい!!」

 脳筋魔法使いって、全く褒めてないと思うよ。
 しかし半泣きで、これ以上難民増やさないでと魔族の方々に言われ、私達はしぶしぶ核兵器よろしく、人族側への無言の圧力になった。これ以上やるなら、勇者を送り返すぞ的な。ちょっと待って。何その最終兵器発言。そもそも、召喚したのそっちだから。
 しかし今までの戦歴ひがいを知っていた人族は、観念して交渉の席に座った。こうして世界に平和が訪れたのだけど、なんだか納得いかない。

 とはいえ、2年の歳月をかけた『怒気っ♪魔法使いしかいないの勇者の旅』は終わりをつげ、私達は元の世界に帰ったのだった。
 その後、社会人魔女っ子と共闘したり、いつまでも新たなる敵があらわれ、魔法少女が終われない悲劇と戦うのは私の物語。その後あの世界は今回の大惨事が語り継がれ、二度と勇者魔法少女が召喚される事はなかったそうだが、大学生目前(あの格好で戦えるタイムリミット目前)の私には関係ない話だ。

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