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世の中がどうしても教えてくれない面白い話 作者:四友
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ナイラの涙

1990年
ある少女が
米国議会下院の公聴会で
泣いた。

少女の名前は、ナイラ。
この少女の涙が
戦争の引き金となる……。

――1990年8月、イラクは、クウェートに侵攻しました。
アメリカにとって、アメリカの油田のあるクウェートへの侵攻は、危機でした。国益の一部を失いかねません。しかし、当時の8割のアメリカ国民は戦争を反対。
そんな中、一人の少女が涙を流します。

「病院に乱入してきたイラク兵士たちは、生まれたばかりの赤ちゃんをいれた保育器が並ぶ部屋を見つけると、赤ちゃんを一人ずつ取り出し床に投げ捨てました。冷たい床の上で赤ちゃんは息を引き取っていったのです。本当に怖かった……」

 この証言をしたのは、クウェートから奇跡的に生還した15才の少女。
ナイラ。

 イラクは経済危機に陥っていました。イラクは石油に頼っていましたが、安くしか売れない。その頃の石油は1バレル15~16ドルでした(一時期、原油高が騒がれておりましたが、高い時には1バレル140ドル以上、2013年8月現在では107ドル前後となっています).
 イラクは、石油の値上げを要求しましたが、周辺諸国などに反対され値上げは行われませんでした。そこでイラクは、油田の帰属を主張し、石油の出るクウェートへとして侵攻しました。石油の値段を上げねば、生活が改善されねば、武器を持つしかないと。

 当時のアメリカ国民の多くは、この行為を理性的にとらえ、「8割」もの人が戦争を回避しようと考えました。
あの涙までは。

 ナイラが涙を流した後、その証言はメディアを通じて報道され、ブッシュ大統領やマケイン上院議員などがその証言を十数回引用しそれもまた報道されました。
その証言に、その演説に、全米が涙しました。

 そしてなんと、当初は多くが戦争反対であったはずのアメリカ国民の8割が、その後、戦争に賛成したのです。そして、アメリカはイラクへと派兵し戦争に勝利しました。この戦争は湾岸戦争|(1991年終結)として知られています。

 世界は守られたかに見えました。しかし、ここで問題が発覚しました。あの証言をしたナイラは、在米クウェート大使館の娘で、アメリカ国内で贅沢な暮らしをし、実際には、クウェートには住んでいないナイラ=アル=サバーであることが明らかになったのです。
 ナイラがクウェートから奇跡的に生還したというのも、世論がガラッと変わったあの証言も、何もかも全て嘘だったのでした。
 他にも、イラク軍による油田破壊で石油まみれになった水鳥の写真が公開されましたが、これはクウェート沖ではなくメキシコ湾でのタンカー座礁事故のものを流用したものだったということもわかりました。

 全てが、全てが嘘でした。戦争や対立は、お金の為に残され、作られているのです。
 イラクは戦後「経済制裁」が行われ恩恵に預かれませんでしたが、湾岸戦争以降石油は一気に値上がりし、アメリカを始めとする大国は多額の利益を得たのです。

 経済制裁と言えば、私達日本人にとって聞き覚えがあるのは「北朝鮮」ですが、今の日本と北朝鮮の関係も他人事ではありません。
 拉致問題やミサイル発射などの北朝鮮の常軌を逸する行為の数々は「経済制裁やむなし、場合によっては叩け」という、戦争の悲惨さを経験し学習してきた日本人にとっては、信じられないような風潮を生み出しました。
 ではなぜ北朝鮮は、国際社会から非難を浴びるのが分かっているのにこのような行為に出たのでしょう。

 要点をあげれば
1.国家を維持することが難しい。
2.資源がない
の二点が大きな原因です。

 では、なぜ1.国家を維持することが難しいのか。それは、日本の動向も大きく反映されています。
「武力攻撃事態対処法」「日米安全保障条約」なるものをご存知でしょうか。日本の法律と条約です。特に、「武力攻撃事態対処法」は、驚くべき事に小泉政権下で作成されました。ほんの少し前の話です。

【国際貢献とは】

 一度、話を50年ほど昔に移しましょう。

――冷戦時代
 ソ連(現ロシア)や中国に広がる共産主義の考え方はアメリカにとって脅威でした。アメリカは共産主義勢力に負けないために、アジアに対し影響力を持っておきたかった。そして、第二次世界大戦中に占領下にしたアジア地域の拠点とできる島国を利用する事にしました。日本です。
 「日米安全保障条約」を結び日本の土地を守ると言って日本に基地をおかせました。それは1951年、サンフランシスコ講和条約で日本の独立を認めたときと同時にです。
 そして日米安全保障条約調印後十数年が経ち、アメリカとソ連間の対立はベトナム戦争やキューバ危機を経験し穏やかになりつつありました。そんな中、1991年にソ連が崩壊しロシアへと名前を変えます。こうして、アメリカの最大の敵が消えました。

 そうなるとアメリカは、日本から、アジアから撤退しなくてはならなくなりました。残っている理由がないからです。
 ですが、この時誰かがこう言いました。
「北朝鮮はまだ社会主義国家。その他のアジア諸国もまだ介入の余地があるぞ」

 アメリカは日本にこう言い寄ります。
「まだ残る脅威から守ってあげますよ」

 日米安全保障条約は、朝鮮半島が戦争によって北朝鮮と南朝鮮(韓国)に二分されてから数年後に「極東(日本近辺)の平和」に範囲を拡大し、1989年のベルリンの壁崩壊や1991年のソ連崩壊などの社会主義国の崩壊が起こってから1996年「日米安全保障条約新ガイドライン」なるものが作成され、日米安全保障条約体制の適用範囲が「アジア・太平洋地域」に拡大されました。
つまり、アメリカの影響力が増大したという事です。

 勿論、この動きには反対者も出なかったわけではありません。しかし、賛成論者の意見はこうです。
「今時丸腰では平和は語れない。理想論者が」

 百歩譲って、武器を持たない平和は理想に過ぎないのかもしれません。しかし、自国を守るための自衛隊が、他国を攻撃するための武装をして海外に行く必要があるのでしょうか。
 武器を持って「外に出ないと」平和を語れないとは矛盾しているのではないでしょうか。それも、日米安全保障条約まであるというのに。

 そんな、正しいとも思える意見を相手にもせず、日本国内での自衛隊や米軍駐留の問題は「現実問題」の名の下になおざりにされ、日米安全保障条約や自衛隊の話をする人間は、理想論者だと笑われ無視されるようになりました。
 こうして、日本国内の軍備拡大は進められました。 これがアメリカの狙いでした。

 なぜ「日本の軍備拡大」がアメリカの狙いなのか。それは、アジアへの影響力維持も一つの理由ですが、もう一つ理由があります。
 アメリカ軍は湾岸戦争に(ナイラの涙の時)610億ドルを費やしました。しかし、アメリカの自己負担はなんと70億ドルだけで、サウジアラビアとクウェートが160億ドル、アラブ首長国連邦が40億ドル、なんと「日本が90億ドル」、ドイツが70億ドルなどと大部分が他国の援助によりまかなわれました。(内訳は文献により異同があります)

 そして、これだけのお金を出した日本は世界から褒められたかと思いきや、むしろ怒られました。
「金だけ出して、日本は血と汗を流さない」と。

 その頃自衛隊は、野党の反対で戦地へ派遣することができませんでした。そこで日本は、遠く離れた小さな産油国のために、アメリカの油田のために、90億ドル援助しました。なのに、アメリカを中心とする参戦国からはお金を出すだけの姿勢だと批判されました。

 この頃さんざん騒がれたのは「国際貢献論」。つまり、国際貢献とは何なのかという事です。

 ここであれだけの大金を払ったにも関わらず非難され、世界に貢献できなかったという事は、残る道は一つ。軍隊を作りあげてそれで支援するしかないという事です。せっかく軍備を拡大させた自衛隊をこのまま使わなければ、アメリカからすれば宝の持ち腐れなのです。
  そこで「金を払うのは当たり前、軍隊も使え、それが国際貢献だ」という国際貢献のスタンダードを作りあげ、日本を軍備拡大に追いやりました。今や、日本は世界の中でも一流の軍力(実力)を持ち、世界の警察の右腕を担っているかのような錯覚にも陥っています。
 このような動きの中で反応する国家がありました。北朝鮮です。

 日本は、戦争に関する法律を小泉政権下だけでも10個も作り上げ、特に、武力攻撃事態対処法では米軍主導であれば「北朝鮮を正当防衛の正義の盾を振りかざせば『攻める』事すら可能」となったのです。
 では、この「武力攻撃事態対処法」が出来たときニュースは何を放送していたのでしょうか。
 それは、なんと「白装束」です。

 もう覚えてらっしゃらない方もいらっしゃるでしょう。白装束とは、「スカラー電磁波は人体にとって有害である」と主張するパナウェーブ研究所(宗教団体の一部)の人々で、そのスカラー電磁波から身を守るために有効という白装束(長袖のコート型白衣・白マスク・白頭巾・白長靴)を身にまとっている集団の事です。
 その様子から、2003年の4月から5月にかけて活動がワイドショーなどで大きく取り扱われ、一時的に有名になりました。
 その白装束がニュースを賑わせていた頃、戦争をするための法律が作られていたのです。

 誰もここでは、ナイラの涙のような嘘はついていません。しかし、本当の事はほとんど放送されていない、または扱いが軽いというのが現実です。
不都合な現実が、現実の問題となって現れた一つの事例だといえるでしょう。

【イラクと人道復興支援】

 自衛隊の海外派遣について、2008年4月に自衛隊のイラク派遣が「憲法違反である」との判決が出ました。
 高等裁判所の判決でしたが、最高裁への国側の上告が不可能だった為(裁判自体は国家賠償責任なしとして国の勝訴となった為)「史上初、日本において自衛隊の任務が違憲であると『完全に』はっきりと判決が下された」奇跡的な事例となりました。
 このイラク派遣を日本国民のほとんどは、自衛隊はイラクに「人道復興支援」のために行っているのだと思っています。しかし、実態は違いました。

 イラクへ行っていた1300人の内、人道復興支援に従事していたのは「たったの30人」で、米軍の後方支援に従事していたのが1270人という内訳になっていました。
 また、戦闘地域に自衛隊は行ってはならないのですが、「イギリス軍が攻撃を受けた地域」で、自衛隊が後方支援のため米軍を輸送していたと伝えられています。
 このような地域に派遣した事について、首相だった頃の小泉氏は、ここは危険な場所ではないのかと質問された際に「自衛隊が行くところが非武装地帯なのです」と回答していました。しかし、現実は違いました。
 だから違憲になるのは当たり前なのです。なのに、ちょっと報道されただけでほとんど話題になりませんでした。

【ナイラの涙と北朝鮮】

 北朝鮮へと話を戻すと、ミサイル発射、拉致問題、核開発。これらのイメージを国民に植え付け、北朝鮮を悪の国家へと仕立て上げました。
 ここでとても気になるのは、数年前まで日本国民の「8割」は北朝鮮との「国交正常化に賛成」だったのに対し(小泉首相が拉致被害者を帰国させた時、世論は北朝鮮を開こうとするムードに包まれていました)、今では国民の「8割」が「経済制裁に賛成」という、「ナイラの涙」と世論の動き方が酷似している点です。

 テポドン発射により世論がいっきに経済制裁へと変わったのですが、テポドン発射は「2006年」、武力攻撃事態対処法ができたのは「2003年」です。テポドン発射は、日本が戦争の準備をしてからなんと『3年後』に行われたのです。
 何よりも、テポドン発射の理由は「威嚇」にあります。それは、以下のエピソードからもわかるでしょう。

 北朝鮮は、テポドン発射後、なんと遠く離れた「オーストラリア」にもミサイルが届くと声明を発表していました。これはアメリカを牽制する狙いがありました。そして、核実験を成功させたと大々的に発表し、国際社会に立ち向かうと、まさにその通り宣言しました。

 冷静に考えれば北朝鮮は悪い国である事は間違いありませんが、自分達の事を棚上げにして一方的に経済制裁などに踏み切って、両国のために本当になったのでしょうか。
 北朝鮮国民は、金正日氏や金正恩氏に奴隷とされた可哀想な国民で、情報公開をして革命を起こさせねばならないとでも言うのでしょうか。
 私達は、ナイラに騙されたアメリカを笑えないし、関係がないとも言えません。

 2013年8月現在、日本では防衛大綱の見直しが行われており「敵基地への攻撃力」を持つか否かという段階まで軍力拡充が検討されています。
それは、金正恩氏に政権が移り、政権基盤の弱い今の北朝鮮がなにをしでかすかわからないからです。また、中国や韓国の領土侵犯の恐れも同時に理由として挙げられています。

 しかし、中国や韓国の基地に攻め入ることがあるとでもいうのでしょうか。それこそ第三次大戦になりかねませんし、ありえません。これは軍拡の理由として不適切でしょう。
 では、北朝鮮の基地に攻め入るのでしょうか。しかし、それで日本国民が守れるとは到底思えません。なぜなら「防衛戦争」だとしても、実際に被害が出るまで日本政府は動けないと思うからです。
 また、なんでそれをアメリカにやってもらわないのかも意味が分かりません。そんなことをさせられるぐらいなら、沖縄の基地を即座に捨ててもらうべきでしょう。

 一つだけ言えることは
刺激要素だけ増やして、相手を忌み嫌って、盲目的に行動することは、最悪の結果だけをもたらすということです。

【日本の核と、北の核】

 話を2.資源が無いに移すと、北朝鮮は日本同様資源が乏しい国です。だから、国民の生活のために「核(原子力)」が必要です。
 ところで日本はどうだったのでしょう。東日本大震災まで、日本国内で原子力発電所を建てるとそこの自治体にはお金が出ていました。日本は、環境にやさしいと言って原子力発電を推奨していたのです。

 結果として、2008年での日本の電気の「30.2%」は原子力発電で供給されていました。気づかぬ間に日本の電気の3分の1を「核」に頼っていたのです。
それほどの量のエネルギーを棄てたのに、どこに軍備を拡大するお金があるのか・・・・・・。

 日本は、アメリカの味方だから軍備拡大を許され、迫られ、いつかは、自衛隊は世界中へと行き国民を騙して戦争に直接参加するようになるかもしれません。
 対して北朝鮮は、アメリカの敵だから、アメリカが得する形以外では発展するなと言われています。軍備拡大も認められていません。

 こんな事実を聞かされたら、北朝鮮国民が海外に出て真の情報を得たとしても、日本に不満をつのらせるというのは自然な事だと思いませんか。ラジオ・テレビのハッキングや大量のビラのバラマキで北朝鮮に情報公開すれば革命が起こるはずだなどという笑い話と本気を入り混ぜたような話がされることがありますが、現実はそんなことありえないわけです。
 日本の軍備拡大より深刻な問題を北朝鮮は数多く抱えているわけですが、平和を目指すなら日本が切るべきカードは見えてきます。

 北朝鮮は今、2.資源の問題が深刻であり外交のカードを上手く切り始めました。その手始めとなったのが「テロ支援国家指定解除」でした。
 資源のない北朝鮮は、世界から断絶されると飢餓しか待っていません。事実、大量の餓死者が出ています。それでも国家転覆は企てられる程度の段階で現実化しません。なぜなら、北朝鮮がいつもニュースで外国に責任を擦り付けられるのは、日本も含め諸外国に信じられないほど多くの問題があるからです。

 北朝鮮にも情報は入ってきています。北朝鮮に行けばたくさんの外国人がいますし、IAEA(国際原子力機関)の査察も受け入れられるようになっていました・・・・・・。
 ただし、2013年に北朝鮮は核実験を強行したことにより、国際世論は完全に北朝鮮を擁護できなくなりましたが。
 故に、当事者である我々が冷静に判断しなければなりません。

 今まで私達は、自分達は何もしていないから、外国が変な行動をするのは自分達とは一切関係なく向こうが悪者だからと決め付け、罪悪感も抱かず生きてきました。しかし、実態は違います。
 完全に作られただけの嘘は、それほど多くはありません。ですが、真実を覆い隠す事によって生じる嘘は、世界中に溢れています。ナイラの涙で世界は包まれているのです。

 その涙が実際に溢されることを食い止めるためには、私たちは現実に起こっている問題と向き合っていかねばならないのです。
+注意+
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