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作:Jan Ford



第4章(4)/15


 おじさんたちの言っていたことが嘘なのは、お袋の実家についたその最初の1日ではっきりした。
 お袋は田中が引っ越す当日まで、1度も顔を見せに来たことがなかった。だから不安だったというわけではないけれど、むこうでの生活はもう今までのようにはいかないんだとは予感していた。もともとは引きとるのがいやで父親に預けたはずの子が自分の元に戻ってくるというのを、お袋が穏やかに受け止めてくれるはずがなかった。
 不安は、悪いほうの意味で裏切られた。
 お袋の実家での生活はとても信じられないものだった。
 家は思っていたよりも大きく、2世帯が暮らすのにも十分な広さもあって、そのおかげで何とか自分の部屋をもらうことができた。
 学校はそれなりに通い易く、入学してすぐに何人かの友達もできた。学校は楽しく、新鮮さに満ちていた。そのおかげで、家に帰るときの苦痛はよけいに大きくなったが。
 中学に入って体も大きくなったためか、暴力を振るわれるようなことはなかった。親父がいなくなったことで、お袋の不満が俺のほうに全てのしかかってくるかもしれないと恐れていたのだ。
 もっともそれは、おじさんたちの家で暮して曲がりなりにも“普通”の家庭の姿というものを知ってから、暴力にあっても今までの様に無抵抗ではなくて、お袋を変えてみようと勇んでいた田中にとって、いくらか拍子抜けしたことでもあった。
 そして田中にとって悪いことに、おふくろ達の不満のぶつけ方は、暴力のように目に見えた、分かりやすいものじゃあなかった。
 田中は家の中で、徹底的に無視されるようになったのだ。
 さらには、敵はお袋一人ではなかった。
 子は親に似るのだということを、田中は自分の身をもって学んだつもりだった。
 暴力もしかり、キレかたもしかり、生活習慣もしかり、田中は親父やお袋と似ているところがあった。そのせいでこれまでに何度も苦しみ、どうにか2人の呪縛なら逃れられないかと願いながら、過ごしてきたのだ。もちろんそれは誰だって同じことだった。自分以外の人もまた良かれ悪かれ親に影響を受けて生きてるはずなんだから、それを免罪符にして人生に言い逃れすることなんてできなかった。
 しかしこれを、田中のまわりにいる人たち、たとえば友達には当てはめてはみても、自分の両親そのものについて考えたことはなかった。親父は親父、お袋はお袋で生まれた時の性格のままに生きてきたんだと思いこんでいた。
 だがこの家に来て、お袋もまた同じなのだとを知った。
 お袋と、祖父と祖母は、同じくらいに田中のことを憎んでいた。正確には親父のことを、死んでもなおやまないくらいに憎んでいた。
 そして俺は行き場のない憎しみを向ける矛先にされた。小さい頃から祖父母に会った記憶があまりない理由も良く分かった。祖父母は親父と血のつながった俺を見るのも嫌がったのだろう。親父側の人間とは、縁を切いたいとずっと思っていたのだ。
 2年経った頃には引越しが決まった。学校にもすっかり慣れて、部活動も大会に向けて盛り上がってくる頃だ。引越しは唐突で、田中にはろくに身支度をする時間も与えられなかった。
 同じことがまた何度か繰り返され、大学に上がってからようやく、で一人暮らしをすることに決まった。
 お袋はもうあんたの顔を見ないで済む、と言って田中を送り出した。
 そのときも田中は怒りを抑えて何も言わなかった。
 大学を卒業し、田中は横須証券に就職が決まった。大企業とまではいえないものの、収入もある程度安定した物が期待できるところだった。親戚の手を借りることなく、自分の手で生活できると知ったとき、田中はお袋に別れの挨拶をしに行くことを決めた。
 春先に、突然家にやってきた田中を、お袋と家の人たちは少し驚いて、それでも動揺を隠そうといつも以上に邪険に振舞った。遠まわしに帰るよう促すお袋たちの間を、笑顔を装いながら押し入った。
 ろくに会話もしたことのなかったお袋に感情をぶつけて怒鳴ったのは、そのときが初めで最後だった。
 俺はそれこそ小学生の頃から、あんたらから離れるためなら一人暮らしでも何でも構わないって思ってたんだ。けれどもうこれでお前らなんかと顔を合わさないで済むんだ。ありがとよ。そして、永遠にさようなら。
 呆然とするおふくろ達を尻目に、田中は家をでた。そして二度と戻ることはなかった。












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