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おでんオーケストラ

作者:あぶさん
冬の童話祭、楽しそうですので参加させていただきました。

おでんが食べたくなってしまったらごめんなさい。


「ひまだのぉ」


出し汁のお風呂に浸かっていたつぶ貝さんが、ひまだひまだと、ぶつぶつぶつぶつ言い出しました。


「んだどもお、味が染みるまで、わしらはもうすこしこのままじゃあ」


まだ真っ白なはんぺんさんが、つぶ貝さんをたしなめます。
つぶ貝さんのひとりごとは、となりのはんぺんさんにも聞こえていたようです。
鍋のお風呂の中では、おでんのみなさんはまるでおしくら饅頭のように、体をぎゅーっと寄せあっているのですから。

はんぺんさんが茶色くなるまでは、みなさんは鍋の中でじーっと待っていなければいけません。
あとしばらくすれば、はんぺんさんも茶色くなって、きっと皆さんも食べごろになるのでしょうが。


「がまんや、がまん。あせってもええことはないで」


がまん上手ながんもさんが「がまんだ、がまんだ」といいながら、熱い出し汁お風呂の中にもぐりました。まあるい頭からぶくぶくと泡が立ちました。


「でもね、でもね、たまには気分転換もいいとおもうの」


つるんとした肌の玉子ちゃんが、ひよこさんのような可愛らしい声でそういいました。
玉子ちゃんのお肌もまだ真っ白で、まるで赤ちゃんみたいです。


「気分転換っていってもねえ。僕達になにができるんだい? 思いつかないよ。」


こんにゃくさんは、こんわくしました。
なべの中で、味がしみるまで待っているだけのおでんさんたちに、一体なにができるというのでしょうか。


みんなはうんうんとうなって考え始めました。ダイコンさんも、じゃがいもさんも、タコさんも、みんなみんな頭から湯気を立てながら、うんうんうんうんうなっていました。


鍋だけが、グラグラグラグラやかましく煮えています。


強火から弱火に変わり、ぐらぐらからぐつぐつという音に変わった時、いつも無口なきんちゃくさんが、ぽつりとこう言いました。


「…オーケストラ…」


「オーケストラ?」きんちゃくさんの言葉に、おでんのみなさんはそろって首をかしげました。

オーケストラとは、たくさんの音楽家たちが、いっしょになって一つの曲を演奏するものです。行進曲や、交響曲、バレエの音楽を、おおきなホールで演奏するのです。

ホールの中で、沢山の楽器で、大きな音で、色んな曲が演奏されるのです。
楽しかったり、寂しかったり、かなしかったり、オーケストラを聴くといろんな気持ちになれるのです。

しかし、おでんの皆さんがオーケストラをするには少し問題がありました。


「きんちゃくさん、俺達音楽家じゃないですから」


しらたきさんが、しらけた顔でいいました。

しらたきさんの言うとおりです。おでんのみなさんは音楽家ではありません。
音楽家ではないので、音楽をひくことはできません。


きんちゃくさんはかなしそうに袋の口を閉じると、それきり黙ってしまいました。

しらたきさんは悪いことをしてしまったと、ぷるぷると体を震わせながら、鍋の隅の方にこっそりと隠れました。

しょぼんと俯くきんちゃくさんを見ていると、なんだかみんなもとても申し訳ない気持ちになり、いたたまれなくなってきました。
こういう時に、楽しい音楽をきくことができればよいのでしょうが、ここは音楽ホールではなくて鍋の中です。
おでんさん達には、音楽をひくこともきくこともできません。


鍋だけがぐつぐつと鳴っています。


その時です。


ボエー


鍋の中に低いオーボエのような音が響きました。
オーボエは笛の楽器です。でも、おでんの中には笛なんてありません。
一体どこから笛の音が聞こえてきたのかと、おでんの皆さんが不思議におもっていると、ちくわさんが、元気な声でこういいました。


「ふけたわ! ほら、こうやって」


ボエー


ちくわさんが、もういちどボエーと笛をふきました。もちろん、ちくわさんは笛なんて持っていません。
ちくわさんは、自分の体を笛にして、音楽を鳴らしたのです。


「音楽家じゃないけど、音楽をしてもいいよね?」


ちくわさんはもう一度、ボエーとちくわのオーボエを鳴らしました。
ふんわりとやわらかい音は、まるでちくわさんそのものです。


キュッ キュッ キューッ


続いて、かわいらしいバイオリンのような音が響きました。


「私もひけた! ひけたよ!」


玉子ちゃんが自分のつるんとした肌をこすると、キュッ キュッという可愛らしい音がなりました。それは本当に、白くてかわいいバイオリンの音でした。


タココココンッ


軽快な、木琴のような音が弾みました。
タコさんが自分の吸盤を叩いたのです。よっぱらいように赤くなっているタコさんは、ごきげんで吸盤の木琴を鳴らしていきます。
タココココンッっと、楽しい音がひびきます。低い音からから高い音へ、タコさんは吸盤を順番に鳴らしていきます。


ぶおー


いままでで一番低い音がしました。


「おお、これはいいひまつぶしだのぉ」


つぶ貝さんが巻き貝のホルンを吹いたのです。ぐるぐるの巻き貝から、ぶおーっという低い音が鳴りました


ぎゅー ぎゅー


すじ肉さんが筋を串でひきました。コントラバスのような、重たい、ぎゅー、ぎゅーっという音が、締め付けるように鍋の中に響きました。


「とろとろまではまだまだだねえ」


すじ肉さんは少し不満そうに言いました。
もう少し煮込めば、すじ肉さんのぎゅーぎゅーという音は、とろとろという、とろけるような柔らかい音になるはずです。


バーン バーン


シンバルのような大きな音が響きました。だいこんさん達が2人一組で思い切りぶつかり合ったのです。


ヒューッ ヒューッ


がんもさんがぎゅうっと体をしぼませたりふくらませたりすると、がんもさんの小さな穴から、フルートのような音が立ちました。


トン トン トン トン


まあるいこんにゃくさんが、自分の体を叩くと、太鼓のような音がしました。


ポロロロロッ ポロロロロッ


鍋のすみで隠れていたしらたきさんが、こっそりと、いとこんにゃくのハープを鳴らしました。


「やれますね。オーケストラ。私達でもやれますね!」


あつあげさんが、嬉しそうに言いました。あんまりよろこんでいるものですから、出し汁を沢山吸いこんで、体が大きく膨らんでいました。


「んだどもぉ、オーケストラするなら何の曲をひくべか?」


そう言ったのは、随分と茶色くなってきたハンペンさんです。

オーケストラはみんなでするものです。みんなが知ってる曲でないといけません。

ベートーベンだ、モーツァルトだ、シューベルトだと言われても、おでんのみなさんはよくわからないのです。


「あれはどうだっぺ、あれ! あれならみんな知っとるっしょ!」


じゃがいもさんが、「あれだ、あれ!」と言い出しました。
しかし、あれと言われてもみんなには何のことだかよくわかりません。

そらならばと、じゃがいもさんは大きな声で歌い始めました。


「じゃんじゃがじゃがじゃが じゃんじゃがじゃがじゃが じゃんじゃがじゃがじゃがじゃーん」


じゃがいもさんが歌った歌は、たしかにみんなどこかで聞いたことのある音楽でした。

題名はしりませんでしたが、確かに聞いたことがある曲だったのです。

なんだか楽しくて、今にも踊りだしてしまいそうな曲です。

実は、じゃがいもさんがうたった曲は、カルメンという曲でした。


「じゃんじゃがじゃがじゃが じゃんじゃがじゃがじゃが じゃんじゃがじゃんじゃがじゃーん」


じゃがいもさんが続きを歌います。
カルメンは闘牛士の戦いの曲です。じゃがいもさんが口ずさむカルメンの音楽は、とてもワクワクするものでした。

興奮したすじ肉さんがモォーッ モォーッ と鳴きはじめました。


「知っとるしっとる! ぺんぺぺぺぺぺん ぺんぺぺぺぺぺん ぺんぺぺ ぺんぺぺぺーん」


愉快なリズムにつられて、ハンペンさんも、歌い出しました。


「…きんちゃくちゃくちゃく きんちゃくちゃくちゃく きんちゃくきんちゃくきんちゃくきんちゃく ちゃーーーーく、ちゃっく」


落ち込んでいた巾着さんが、きゅっと閉じていた口を開いて歌い出しました。歌い終わったきんちゃくさんの口は、とても楽しそうにゆるゆるになっていました。



「ええなあ、これええなあ。みんなでオーケストラしよか?」


がんもさんの言葉に、みんなも「それがいい! それがいい!」と口をそろえて言いました。
みんなで楽器をひいたり、歌ったりするのはきっと楽しいことでしょう。


「それでは誰かが指揮者さんをしなければいけませんね」


厚揚げさんが言いました。オーケストラには指揮者さんが必要です。

指揮者さんというのは、皆の音楽をまとめる係のことです。
楽器をひくことはしませんが、オーケストラでは一番大切な仕事なのです。


「そりゃあ、こんぶさんしかおらんっぺ」

「うん。こんぶさんがいいよね」

「こんぶさん! お願いします」


こんぶさんは、鍋の中に一番最初にはいった、年長者です。
コンブさんから出ただしは、おでんさん達みんなの体に染みこんでいくのです。
みんなの味を仲良くまとめるコンブさん。
おでんオーケストラの指揮者さんには、こんぶさんほど適任なひとはいないでしょう。


「ではせんえつながら、私が指揮者をつとめさせていただきましょうか」


そう言うとコンブさんは、四角いこんぶの裾をすーっと割いてさきました。


「指揮者をするにはそれなりの格好をしなければなりませんからな。燕尾服などでよろしいでしょうかね?」


指揮棒を持って、すっくりと立ちあがったコンブさんは、黒い燕尾服を着た本物の指揮者さんのように見えました。
おでんの皆さんからも、歓声と拍手があがりました。



「それではみなさん。準備はよろしいですかな?」


沢山練習をしたおでんさん達は、もう準備万端もです。色もすっかり茶色くなって、食べごろになっていました。

コンブさんは礼をすると、大きく腕を振り上げました。



「それではこれより、おでんオーケストラの開幕です」




蓋がパカッと開きました。




おわりです

つぶ貝を殻ごと鍋に入れられていたのはうちの家だけではないはず

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