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異世界落語 作者:朱雀新吾

ダマヤ問答【蒟蒻問答】

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ダマヤ問答【蒟蒻問答】①

「えー、皆様にはいつもこちら『極楽酒場』にたくさんのお運び、誠にありがとうございます。お馴染み、楽々亭一福でございます。本日も馬鹿馬鹿しいお噺でお付き合い願います」

「よ!ターミナル一の芸人!」
「世紀の二枚舌!」
「顔は三枚目!」
「イップク、ニプク、サンプク!!」
「サンプク!!」
「サンプク!!」

 挨拶をしただけで、いつもの様に客席から威勢の良い合いの手が飛んでくる。一福は毎度の事ながら苦笑いを浮かべて、負けじと言い返す。
「一も二も結構です。真実ですからね。但し三つ目は訂正してくださいな。あたしは三枚目ではなく、三代目ですから。三枚目が見たいなら家に帰って鏡を覗いて御覧なさい。すぐに目の前に現れますよ」
 そう言って、ターミナル至上初のエルフ噺家、三代目楽々亭一福は客席を馬鹿にした様に指差す。
 その仕草に客はドッと笑った。

「さて、本日ですが、国営放送の撮影が入っているんですよね。どんなネタを演ろうかと今も考えている所なのですが、うーん……どうしましょうかね。願わくば出来るだけえげつない廓噺をして『(ピー)』を沢山入れてやりたいと思っているんですけど……そうだ、『名娼トム=ヤム=クム』とかどうですかね?」
 一福の人を喰った態度に、弾かれた様な笑いが起きる。

「おいイップク!『ステンドグラスビーチ』を演ってくれよ!」
 一人のドワーフが手を上げてそう言うと、店にいた他のドワーフもそれは良いと、こぞって手を叩いた。

 それを聞いて、一福は腕を組んで考えこむ。
「『ステンドグラスビーチ』ですか。ふむふむ…………はい、決めました」
 その言葉に、ドワーフ達から歓声が上がる。
「『ステンドグラスビーチ』だけは演りません」
 期待に目を輝かせていたドワーフ達の身体が一斉にガクっと崩れた。そして、すぐに非難の声を上げ始める。
「何でだイップク!『ステンドグラスビーチ』なら国営放送にぴったりだろうが!」
「何言ってんすか。あれは主人公、ドワーフじゃないですか。真面目に商売をしないドワーフが浜辺で伝説の斧を拾ったけど、女房から夢だと言われる……そんな心温まる人情噺なんて、誰が演ってやるもんですか!」
 一福は唇を尖らせてそう反論した。
「大体落語には、ドワーフは大成する役ばかり、一方エルフは頭が良いのを鼻にかけた、偏屈で意地が悪い役が多いんですよ。『ヘキュホラプン』のタケだって、いつの間にかエルフだって事で定着しているし……。これはね、完全なる種族差別ですよ!だから、あたしは絶対ドワーフ噺はしないと決めているんです!」
 ふんぞり返ってそう言う一福に「お前この間『抜けドラゴン』でミギチカ王子を演ってたじゃないか!」という野次が飛ぶが、聞こえない振りを決め込み、話を先に進める。

「えーと、先日は何を演りましたっけ?勇者ラッカの改名百周年という事で『魔剣オクラホマスタンピード』を演らせて頂きましたか?ああ、そうですか。あ、そういえば今日は勇者のお孫さんがいらっしゃってますね。あたしと同じく、三代目が」

 そう一福が言うと、客席からヒョコッと可愛らしい小柄な少女が顔を出して、ペコリと頭を下げた。
「あはは、どうも皆さん。生前はおじいちゃんが御迷惑をお掛けしまして……」

「よ!三代目!」
「ラッカちゃん!」
「可愛いよラッカちゃん!!」
「ターミナルの天使!」
「ラッカちゃん!!」

 世界を救った勇者の末裔に、拍手と口笛が鳴り響く。
 その様子を見て、自分で紹介しておいて不貞腐れているのは、一福だ。
「ちょいと皆さん。あたしの時と態度が違うんじゃないですか……」

「イップク!お前も三代目なら初代を見習ってお客様を大切にしたらどうだ!」
「ラッカちゃんは初代に似ず、本当に謙虚で最高だけどな!」

 その言葉に一福は苦笑を浮かべて反論しようとする。
「あのね、何をあべこべな事を言ってんですか……」
 そこへ、別の叫び声が響く。
「おい客共!ラッカが勇者になれたのもこのオレ様という相棒がいたからだぞ!分かってんのか!」
 ラッカちゃんの小さな背中を覆い尽くす、黒い大剣が、大口を開いて喚き立てたのだ。
 ラッカちゃんは顔を真っ赤にさせて背中を振り向き、大剣に文句を言う。
「スキャンダラス!もう、恥ずかしいからやめてよ!」
「お前がその恥ずかしい呼び方をやめろ!!オレの呼び方は代々『オクラ』って決まってんだよ!おじいちゃんから聞いてなかったのかよ!?」
 それはシンブ一族に代々伝わる名刀「聖魔剣オクラホマスキャンダラスサービス」。
 そして「勇者の焔」を受け継ぎし次代の勇者こそが今歓声を浴びた、初代ラッカの孫娘である、三代目ラッカ=シンブであった。

 彼女は現在、ターミナルに新たに現れた謎の魔物と戦いを繰り広げている最中である。
 勇者に平穏な日々はやって来ないと祖父がよく言っていたのを、彼女は思い出していた。

 ラッカ=シンブは代々落語好きで、よく寄席に顔を出す事で有名である。
 楽々亭一福とも浅からぬ縁を持っており、その交流は未だに続いていた。 

 ペコペコと頭を下げながら少女が自分の席に座るのを見届け、一福はマクラの続きを語り出す。

「まあ、どうしましょうかね。前回の『魔剣オクラホマスタンピード』からの時間の流れをそのまま追ってという事で、うーん。オーソドックスですけど……それじゃあ『ダマヤ問答』にしましょうかね」

 一福がそう言った瞬間、客から大歓声が上がる。
 その中には、つい寸前まで文句を言っていたドワーフ達も含まれていた。

 それもその筈。
 ターミナルに伝わる落語の中で、ダントツ一番の人気を誇る噺の部類。
 それが「ダマヤ噺」である。
「ダマヤほめ」「ダマヤ廻し」「ダマヤ盗人」「ダマヤ心中」「地獄八景亡者戯(ダマヤのたわむれ)」と、多種多様な演目が存在する。

 しかも三代目一福はダマヤ噺の名手として知られており「三代目のダマヤは、ダマヤよりダメでもないしジャマでもないが、それでも誰よりも一番ダマヤらしさを再現出来ている稀有な噺家」と言われ、サイトピア至上最高に駄目な視聴者、ダマヤのダメさを正しく後世に伝える担い手として、期待されていた。

「実際のダマヤ様に関して、あたしはそんなに話した事はないのですが。まあ、遠巻きに見る程度でした。ですが、確かに個性的な人でしたね。それこそ落語の登場人物の様に……」
 そうして一福が落語の導入を語り出した途端、酒場の喧騒も静まり返り、客はしっかりと聞き入る。
 客弄り、客絡みを得意とする三代目の寄席が最終的に荒れないのは、人心をコントロールする話術と、何よりターミナル随一と評される落語の腕があってこそであった。

「聖魔剣を手にし、ラッカ=シンサがシンブと名を変え、サイトピアの勢いは留まる事を知りません。まさにターミナルの転換期!そしてこれからすぐに起きる出来事は、皆さん学校で絶対に習ってますから、ご存知ですね。そう『マドカピア軍の強襲』です。落語で語られる所の『ターミナル夜明け前』ですね。この『ダマヤ問答』はその、前日譚にあたります」
 そこで一福は、すうと息を吐いて周りを見渡した。
 期待と緊張感と早く噺を聴きたいという空気が酒場中に充満する。
 演出としての間の取り方を、よく心得ていた。
 三代目は誰よりも客を見る。
 噺家になる前、客だった経験が長かった彼は、客である自分と、演者である自分のバランスを取りながら、臨機応変に噺を進めていく。

「歴史が動く瞬間の宮廷での出来事。ですが、ダマヤはやはり自分の保身の事ばかり。彼はこの後の事件には一切関わってまいりません。それが彼の特異性とユーモラスな人物を浮彫にします。場所は宮廷執務室。居合わせておりますのは大臣にその秘書官ミヤビ、初代楽々亭一福、召喚士クランエ、そして我らがダマヤでございます。物語は、ダマヤが視聴者復帰する、その当日から始まります……」

 一福が扇子でトンと、地面を叩く。
 その瞬間――世界が、変わる。
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