挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界落語 作者:朱雀新吾

魔剣オクラホマスタンピード【死神】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

93/117

魔剣オクラホマスタンピード【死神】④

 サイトピアとマドカピアの、丁度中間に位置する場所。聖と魔の境目。

 そこに聖魔の洞窟はある。

 道中、不思議な事に、魔物と遭遇しなかった。
 まるで世界はオレとラッカだけになった様に、沈黙を連れ立って歩いた。

 そして辿り着いたのが、巨大な剥き出しの岩壁に、大きな穴が空いた洞窟。
 その中へ躊躇いなく、ラッカは足を踏み入れる。


 洞窟の奥には、まあ、ご想像通りというかラクゴ通りというか、岩で自然に作られたテーブルの上に、蝋燭がびっしりと並んでいた。
「以前は無かった筈だが、何故だ?」なんて野暮な事をラッカは言わない。
 素晴らしい潔さだ。

 その蝋燭の中にある、自分の命の灯火に、ラッカはとっくに気がついているだろう。

 それでもやはりオレは最高に嫌らしく訊ねる。
「さあラッカ、どれがお前の蝋燭だと思うよ?」
「これだろ?」

 勇者は表情一つ変えずに真ん中にある、一番短い、今にも消えそうな蝋燭を顎で指し示す。

「…………正解」

 オレはこれ以上ないくらい口を裂けさせて、ニタリと笑った。
 ラッカは笑いながら俺を睨みつける。

「は!いよいよ『死神』じゃねえかよ。これが消えたら、俺は死ぬんだろう?」
「ああ、理解が早くて助かるぜ。これが消えたらお前は死ぬ。敵わない魔物をズルして倒した報いだ」
 オレはヤツの問いにハッキリと答えてやる。

「で、落語みたいに、チャンスをくれるんなら、俺はどうすればいいんだ?火を継げばいいのかよ?」
 流石ラッカ。話が早い。どんどん展開が進んでいくぜ。
「いや、そこまでまんまにはしねえよ。少しはオリジナリティってもんがねえとな…… 」

 オレがそう言うと、洞窟の奥から複数の影が、ゆっくりと姿を現した。
「…………!」
 それは皆、魔物だった

 プレミアムゴーレム。
 エンシェントスライム。
 ゴッドゴブリン。
 シャカラビット。
 トリッキーエンジェル。
 地獄ナイト。
 ホーリーアンデット。
 ハイネスパンプキン。
 ガーゴイルウルフ。


「こいつらは……」
 ラッカは直ぐにそのメンツに気が付いた。
「そうさ、こいつらは全部お前が禁忌を犯して倒した魔物達さ。チャンスはこれだ。その火を守って、消さずに全員倒せたら、蝋燭を継ぎ足してやろう」
 オレの提案にラッカが笑う。
「なるほど、これが異世界落語版の『死神』って事か」
「死神はオレさ。『魔剣オクラホマスタンピード』。それが死神の名前だ」

 当然、これはラクゴよりも断然ハードルが高い。倒せる筈がないからだ。一体でも敵わない相手がぞろぞろと現れ、更には火を守ってなど、無理に決まっている。それはラッカが一番分かっている筈だ。

「ああ、別にオレを使ってもいいぜ」
「へ!誰が使うかよ!」
 折角の善意を拒否して、ラッカはオレを背中から抜くと、近くの岩壁に放り投げた。
「おいおい、もっと優しく扱ってくれよ」
「うるせえ。お前はそこでボケッと眺めてろよ」

 まさか、素手で戦うつもりなのか。無茶だ。命を捨てるのと同じだ。
 だが、それはそれでヤツらしい。オレは面白いと、愉快に笑った。

「……さあ、ショータイムだ」

 そうオレが言うと、すぐさま魔物達がラッカに襲いかかる。
 その風圧だけで火が消えるんじゃねえかってぐらいの、物凄い勢いだ。

 プレミアムゴーレムの、岩石の様な拳がラッカに降り注ぐ。
 それをラッカは身軽にジャンプでかわす。
 元いた地面がゴーレムの拳で大きく抉れ、つぶてが飛ぶ。
 そのままラッカは身の丈3モートル(メートル)はあるプレミアムゴーレムの肩に乗った。
 流石に戦い慣れしていやがる。高い場所から他の魔物の様子を窺うつもりだ。 
 だが、相手は全員、格上。当然何枚も上手だ。
 ラッカのヤツは気がついているかな。下にいる魔物が既に一体減っている事に。

「…………!上か!?」

 気配を感じて上を見るラッカ。そこには洞窟の天井に張り付いていたエンシェントスライムが、大きな網の様な形状に姿を変え、降って来る所だった。
 ラッカは身を呈して蝋燭を庇いながら、体当たりで網に捕獲されない様にスライムに突っ込む。
 まあ、それ以外選択肢はないわな。

「ぐ…………ぐ…………ぐおおおお!!」

 スライムの癖にオリハルコンの様に硬い弾力に押し負けそうになるが、必死に力を込めて、なんとか全身でその檻を貫く。
 地面への着地と同時に息をつくラッカ。その隙をついて冷静に攻めてくるのがゴッドゴブリンだ。通常のゴブリンの1000倍の知能を持つゴッドゴブリンは極めて正確にラッカの手にある蝋燭を鋭い爪で狙ってくる。

「……クッ!……ハッ!」

 右、左と、手元を気にして何とかかわすが、その目にもとまらぬ凄まじいスピードに、ラッカの腕からは鮮血が飛ぶ。
 だが、血なんかで動揺してはいけない。焦りを打ち消し、精神を集中して蝋燭を優先して避ける。
 防戦一方ではどうしようもない。ラッカはカウンターを狙い、ゴッドゴブリンの攻撃に合わせて、拳を放つ。ゴッドゴブリンは、それを避けもせずに腹で受けるが、びくともしない。
「う……うおおおお!!」
 ラッカは渾身の力を込め、そのまま連打で攻撃を喰らわせるが、やはり一切ダメージは与えられない。
 ゴッドゴブリンはそんな勇者を馬鹿にするように口の端を持ち上げ、ニヤリと笑った。
「てめえ……!」
 ラッカの頭に血が上ったその瞬間――背後から物凄い殺気が襲い掛かる。
 振り向いた時にはシャカラビットの強烈な蹴りがラッカの鳩尾に叩き込まれていた。

「――――――――ガハッ!」

 まったく、油断するなよな。
 人間の華奢な身体に相応しく、ラッカは勢いよく吹き飛ばされ、 壁に強く叩きつけられる。
 口から一筋、血が流れ落ち、そのまま膝をついた。
 その大きな隙を他の魔物が許してくれる訳はない。矢のような攻撃が次々に襲いかかってくる。

 袋叩きにされながらもラッカは地面に身体を丸めて蝋燭の火だけは守る。

 さあ、だがこれはどうだろうね。
 健気に蝋燭の火を守った所で、このまま延々と攻撃を喰らっていたら、普通に死んじまうぜ。
 これだとあと一分も持たない。
「…………」
 必死に打開策を考えている所に、小さな刺客がその消えかけの灯火を狙ってくる。
 ラッカの身体と地面の、蝋燭を覆う為だけに作られた、小さな空間に、フッと小さな天使が姿を現して、にっこりと笑いかけた。
「…………!!」
 一瞬でラッカの背筋が凍ったのが、オレにも伝わってきた。
 殺戮の天使の名は伊達じゃねえ。
 トリッキーエンジェルが現れたんだ。天使の様に愛くるしい微笑みを浮かべて、火を消そうと口をすぼめる。
「ク…………ソッッ!!」
 内からも外からも攻められ、その体勢を維持していられない事を悟ったラッカは直ぐ様立ち上がり、攻撃の雨の中を駆けまわる。

 地獄ナイトとホーリーアンデットが魔力を合わせて鬼火を発生させ、ラッカを追い回す。
 名誉も誇りも何もかも忘れちまった騎士と聖騎士はケタケタと愚かな人間を指差しながら笑っている。
 それは素晴らしい光景だった。
 誰も容赦しちゃくれねえ。
 どう考えても、ラッカに勝ち目はなかった。

 魔物達の追い討ちは続く。
 蓄積されたダメージで、荒い息を吐いているラッカを取り囲み、ある者は体勢を低くし、ある者は剣を構え、ある者は目を光らせ、血気盛んなヤツ等が、各々のやり方で力を溜めだす。

 必殺技だ。

 シャカラビットの「シャイニングシュート(閃光脚)」が炸裂する。
 地獄ナイトの「ヘルシングスラッシュ(地獄斬り)」が発動する。
 ホーリーアンデットの「ホーリーメテオ(聖なる鉄槌)」が落下する。
 ハイネスパンプキンの「カオスキッチン(最期の晩餐)」が死を彩る。
 ガーゴイルウルフの「ギガンティックボイス(遠吠え)」が唸りを上げる。


「グッ…………!!うわああああああああ!!!」

 全ての攻撃を多角的に同時に喰らい、ラッカは吹き飛ぶ事も出来ずに、そのままがっくりと地面に倒れた。

 まあ、結構持ったほうじゃねえかな。
 これだけの数の、自分より数段格上の相手と戦えたんだ。
 上出来だよ。

 オレは闇の力で地面からゆっくり宙へ浮くと、洞窟の壁に背を持たれた。

 地面に突っ伏している勇者様を見下ろし、最大限の敬意を表して語りかける。

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!楽しいな!どうだよ?絶対に勝てない相手に挑む気持ちは?絶望的だよなあ?命乞いをしてみろよ?ラクゴみたいになあ。助けてやんねえけどな、ラクゴみたいにな!」

「………………」

「お前は勇者だと言われて舞い上がってたんだよ。レールの上を走らされながら、結局そこから逃げ出せなかった。無駄だったって訳だ!地ヘドを吐いた修行の日々も。人々に蔑まれ、嘲られた日々も。努力が報われないと、絶望した日々も。お前に想いを託した親友の死も。何もかも全てな!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あああああ!!」

 オレはケタケタ笑いながらラッカに話し続ける。

「だが大丈夫だ。心配すんな、お前はちゃんと勇者だよ。何故なら、道半ばで命を落とした勇者も数多くいるからな。ほら、『悲劇の勇者』って言葉があるだろう?」

 つまり、ラッカが勇者である事に、嘘はない。
 預言師ヴェルツが責を負う事はないって訳だ。
 ハハハ、虫の良い話だわ。

「………………」

 何も言い返してこないラッカを見て、オレはヤツが既に死んでしまっているのかと思った。

 だが、しばらくして、うめき声の様な、低い、返答があった。

「…………分かってんだよ。俺にだって。もう、ずっと前から限界だったって事ぐらいな」

 苦痛と屈辱に顔を歪ませ、なんとか立ち上がり、オレを睨みつける。

「聖剣だって!俺は装備出来ない!!何でだよ!俺はようやく、この世界を救いたいと思う様になったってのに!俺は…………勇者なんじゃねえのかよ!!ふざけんなよ!!」

 とうとうその口から本音が吐露される。

「どれだけ努力したって……誰も認めてくれない!挙げ句は、この世界自体が、俺を拒絶しようってのか!!クソッタレ!!俺の人生は……一体何だったんだよ!!」
「………………」

 とんだ……ピエロだな。

 まあ、仕方ねえ。
 オレにはどうしようもねえ。
 オレはただの役者だよ
 ターミナルという舞台で与えられた役になりきらなくちゃならねえ。

 ラッカは更に振り絞る様に、話し続ける。

「分かってんだよ……。落語みたいに、俺は死ぬんだろう。だけど、あんな無様な死に方は我慢ならねえ。命乞いもしねえ」

「おい……お前、まさか……」

 まさか、とは思わなかった。
 死神にはそういうサゲも存在する。
 それをオレは知っている。

――男が火を自分で消すという、結末だ。

「ラッカああああ!!!てめえええええええ!!」

 知っているが、それでもオレは叫ぶ。
 それがこの場でのオレが振る舞うべき、ヤツへの手向けだと思ったからだ。

 ラッカ。お前はお前らしく…………死ね。
 その権利が、お前にはある。

「うおおおおおおおおお!!………………ッッ!」

 左手に置いた蝋燭に、上から振りかぶる様に、右手の手のひらを叩き付けた。
 火は押しつぶされて、完全に消える。

「……………………」

 ラッカは次の瞬間、プツンと糸が切れた操り人形の様に、地面に崩れ落ちて、死んだ。

 ラッカは最後の最後、そのクソッタレな運命に、自分自身で幕を降ろしたんだ。

 いやはや、すげえもんだな。

 たいしたもんだよ。

 命の灯火を見せられても怯まず。
 強大な敵と対峙しても脅えず。
 死ぬ間際まで、媚びず、自分を貫く。

 勇者だよ、お前は。

 オレに手がまだあったら拍手を送りたかったぜ。

「あーあ、つまんねえな……」

 オレは独りになった洞窟の中でポツリと呟く。
 だが、ずっとやってきた事だ。
 オレだって魂を喰わなきゃやってられない。
 いや、ラッカとなら、ずっとやってはいけたんだろうけどな。無尽蔵な生命力があったんだからよ。

 結局は、飽きただけなのかもしれないな。
 これは、オレが何の因果かこう(魔剣に)なってしまってから、使命の様に行っている、暇潰しだ。

 何でこんな事やってんだろうな。いつまでもいつまでも。
 それが、オレの罰なのか。
 オレはこんな姿になっている時点で、十分罰ゲームだと思うんだけどな。

 洞窟の壁に寄り掛かったまま、倒れた勇者を見下ろす。

「ラッカ。勇者という大変な役。お疲れさまだったな……」


 勇者ラッカ=シンサ。ここに眠る。




















 その時、誰かの声が、洞窟に響いた。

「『遂に息絶えたかと思われました勇者ラッカ=シンサ。ですが、ここで不思議な事が起こります…………』」

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ