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異世界落語 作者:朱雀新吾

クロノ・チンチローネ【時うどん】

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クロノ・チンチローネ【時うどん】――解説――

 まず、作者の落語に関する知識を白状しておきます。「一般人より少し知っているが、落語好きな人の百倍知らない」といった所です。
 一応、大学では落語研究会に所属しておりましたが、不良部員でして、殆ど落語をやっていませんでした。部員が落語の話をしている所に「おいおい、また落語の話かよ。それよりも『ぷりぷり県』の話しようぜ!」と吉田戦車先生の「ぷりぷり県」を部員に勧める様な卑劣な男でした(「ぷりぷり県」が卑劣という意味ではありません。吉田戦車先生の傑作、最高に面白い「ぷりぷり県」を勧めたら、落語どころではなくなるだろうという感覚の私が卑劣、という意味です)。
 ですので、作品内に出てくる、主にダマヤが解説する落語描写や内容に、誤りがある事もあると思います。といいますか、あります。既にあると思います。
 もし、お気づきの点等がございましたら、感想でも、メッセージでも構いませんので、教えて頂ければ有り難いです。
 そして、本作をその様な男が書いているという前提で捉え、温かい目で読んで頂けたらと、思います。つまり「あんまり、目くじらを立てないで下さいね」という媚びの表明であります。

 さて、第一話「時うどん」についてです。このお話は「時そば」として知ってらっしゃる方もおられると思います。
 違いはといいますと、そのまま「うどん」と「そば」の違いと、ストーリーの細かな違い、更に「時うどん」は上方落語、「時そば」は江戸落語という点です。上方落語とは、関西の落語という意味です。ですので本来でしたら、一福は関西弁でなければならないのですが、ここは小説としての描写を考えまして、標準語ちっくな言葉づかいとなりました。そういう意味では彼は江戸弁でもありませんので、口調に関しましては、ターミナルの人々に分かりやすく、一福が自ら現代語アレンジしながら演じているのだとご理解下さい。
 この様に、上方と江戸では名前は同じでもストーリーが違う、ストーリが同じでも名前が違う等と、特徴がそれぞれ異なっています。元々はどちらかから流れてきた噺ですので元を辿れば一つなのですが、自分の地域でやり易い様に、様式が変わったのでしょう。まさに「異世界落語」の様に(笑)。

 ちなみに私は、関西圏の大学に通っていました。ですので、落研の時には上方落語をやっていました(いえ、そんなにやってはいませんでした)。
 そして、大学を卒業して10年が経ったある日、通勤でいつも音楽を聴いていました私は「たまには落語でも聴いてみるか」と何気なく思い、落語をイヤホンで聴きながら通勤をしていました。それが柳家喬太郎さんの「井戸の茶碗」でした。そこで私は、学生の頃にはそんなに取り立てて面白いと思わなかった落語を再評価する事となりました。「なんじゃこりゃ、最高に面白いじゃあないか」と。
 それから私は10年越しでとうとう落語にハマる事となりました。
 そして、その主たる落語は上方落語ではなく、江戸落語です。
 ここで私は「上方落語より江戸落語の方が面白い」と言っている訳ではありません。断じて違います。そこは誤解なさらないように。現に第1話の「クロノ・チンチローネ」の筋は上方の「時うどん」の流れに沿っています。それは上方の「時うどん」のストーリーの方が私は好みだからです。
「時うどん」と「時そば」の大きな違い。
 それは「時そば」の場合、一人の男がそばを食べに行くだけで、友人二人が連れ立ってそば屋に行くという筋ではないという事です。後の流れは、とてつもなく大雑把に言うと、大体同じです。一人の男がそば屋を騙して、16文のそばを15文で食べます。その行為を外から見ていた別の男(・・・・・・・・・・)が真似をして、失敗するというお話です。
 私は「時そば」よりも「時うどん」の、友人同士で色々言い合いながら、身体を引っ張りながら、うどんを分け合う雰囲気(分けあったとは言えませんが)が好きなので、今回は「時うどん」をベースにさせて頂きました。
 この様に「異世界落語」では、上方が合うと思った時は上方の筋で、いや、今回は江戸だと思った時は江戸と、更にはミックスさせたりと、少ない知識で使い分けていこうと考えております。ですので、一福がどの地域の噺家なのか、というご質問には答えかねます。そうですね、どちらも可能なハイブリッドな噺家だと思って頂ければ、幸いです。

 そして最後に、第1話が「時うどん」だった理由です。
 内容が喧嘩の仲裁ですので、ダマヤの言っていた通り「胴乱の幸助」(喧嘩の仲裁が好きな男が主役の話です)でも良いかと思ったのですが、もし自分がターミナルに召喚されたと考えましたら、やはり「時うどん」だろうなと思いまして、決めました。
 あの時あの場で、一番に考えるべきなのは、内容にそった落語ではなく「笑い」です。
 とにかく皆を笑顔にしなくては「異世界落語」は始まらない。それなら、一番面白い噺をするのが、ベストではないかと一福は思いました。相手は自分を知らない、敵意剥き出しの見たこともない、耳が必要以上に尖っていたり、髭が訳が分からない程伸びまくっていたりする種族です。何が笑いのツボで、何が怒りのツボか分かりません。耳の長さに触れた途端、魔法で塵にされるかもしれません。髭の長さに触れた途端、斧で八つ裂きにされるかもしれません。
 なので、とにかく見た目で面白い、うどんをすするインパクトが抜群の「時うどん」で勝負をかけました。

 私が落研時代、老人ホームや小学校から依頼を受け、落語をさせて頂いていた時、「時うどん」をやっていればまず間違いなく受けました。鉄板も鉄板です。老人ホームに関しましては、同じホームで10回以上やっても、笑いが起こります。小学校ではうどんをすする部分が受けますので、いつもの10倍すすったりしていました。また、それが大袈裟にやればやるだけ、受けるんです。
 内容が分かっていても面白い。それほど、完成されたネタなのです。
 そもそも私は不良部員でしたので、出来る落語の数も限られておりまして、と言いますかほぼ「時うどん」しか出来ないと言って良い程でした。ですが先述の通り、この一席がまあ使える使える。十徳ナイフばりの便利さを発揮して、私を幾度も危機から救ってくれました。
 前振り、仕込みの段階で普通に面白い。
 うどんをすする場面や身体を引っ張る場面の、見た目で面白い。
 後半になったら仕込みが効いて更に面白い。
 前半で誰かが上手くやって、後半にそれを真似した間抜けな男が失敗するというパターンは、落語にはよくあります。
 この手法はドラ○もんでも使われています。
 ドラ○もんが道具の使い方のお手本を見せますが、家を飛び出したの○太君が道具の使い方を間違えて最終的に痛い目をみる、お決まりのパターンです。
 一福は何よりも笑いが欲しかった。なので「安くチンチローネを食べる」という、状況がすぐに理解出来、仕込み段階でも十分笑いの取れるこのネタを選んだという事です。

 ちなみに余談ですが、ダマヤの言っていた「うどんとそばとではすする音が違う」というのは、実際に指導されます。
 自分がうどんと思ってズズっとすすっても、先輩から「お前のは違う。軽い。それじゃあそうめんか、ところてんや!」と言われ、「見とれ、これがうどんや!」と言って先輩がズズっとすするのを聞く。それを参考に「先輩こうですか!」ともう一度ズズっとすすり、「全然違う!」ズズや!こうですかズズ、違う、ズズや!ならばズズ、ああでもないズズ、こうでもないズズ、とやっている所をベンチで座って見ていた(私の大学の落研は稽古は大体、大学の建物の外でやっていました。入りたての頃は道行く人の視線が気になって仕方がないものでした)カップルの会話が聞こえてきて「ねえ、違い分かる?」「いや……全く。だが彼らにしてみれば、俺達には全く同じに聞こえる『ズズ』でも、あれはうどん、これはそば、それはパスタと、明確に違いが分かるんやろう。そういうもんや。ひよこのオスメスみたいなもんや」「ふーん。じゃあお客さんも、聞き分けられるお客さんやと良いね」等と言われたりしていました。
 私が先輩になって後輩を指導する時も、後輩にうどんを食べるシーンをやらせ、「ちょっと待て」と止めては「お前のうどんは……コシが入ってないな。四国の本場のうどんを食ったことがないのか?」「はい!スイマセン」「よく見ておけ……これが、本場のうどんやで!!」ズズ!!とやっておりました。これが、かなり気持ち良かったです。先輩になるとやはりやりたくなるものなのですね。
 え?本当に違いが分かっているのか?さあ、私にはよく分かりません。そもそもうどんの食べ方なんて、人それぞれですから。
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