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異世界落語 作者:朱雀新吾

踵裁き【天狗裁き】

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踵裁き【天狗裁き】③

「懐かしかー。ちかっぱ懐かしかったい―。ちょっと前に壁に映像が出よった事がありんしゃったろ?あれがばり面白かし懐かしくて。あれ、ラクゴって言うっちゃろ?ばってん、何で懐かしいのかがいっちょん分からんったいね。どげんかして思い出せんかねーち思って、是非イップク様に弟子入りばしたかっちゃけど。ああ、ばってんほんなこつ懐かしかー」
「…………」
 老人が話せば話すほど、皆は何を言っているのか分からない。

「ほらイヘブコ様。イヘブコ様からもイップク様にお願いばしちゃってくんさい」
 突然頼まれ、イヘブコは露骨に困った表情を浮かべる。
「え?いやあ……あはは。どうですかねえ。ちょっと厳しいかも……」
「なしてですか?弟子は無理ち言うとらっしゃるとですか?あたしがどこがいかんとか教えてください。ちかっぱ努力ばしてなおしますけん!」
「いやあ……努力と言いましても……」
 必死の形相の老人に、イヘブコはどう答えたらよいものか、頭を抱えてしまう。

――そこで、あの男が立ち上がった。

「おいジジイてめえ」

「はい?」

 強い者には絶対の服従を誓い、プライドの隅から隅までを捧げ、何のためらいもなく靴を舐め媚び諂う。
 そして、弱い者には一切の同情も愛情も示さず、ただひたすらに見下し、己が強者である事を誇示する為だけの道具として利用する男。

 そう、ダマヤである。

「貴様には落語は絶対に無理だ。私には分かる。諦めてクソ田舎に帰って農作業でもしているんだな」
「はあー。ちかっぱ酷い事言う人のおりんしゃあねえ。あんさん、そんなこつ言いよったら、人は傷つくばい?」
 ダマヤのその言い草に、ずっと笑顔だった老人も流石にムッとした表情を見せる。
「おいおーい、さっきから何を言っているのだ貴様は?ふん、よいか。何故貴様には無理だと言っているのか、この私が教えてやろう。その老い先短いおいぼれの耳でしっかりと聞きな……。方言だよ。そんな訳の分からん口調で落語を演られたらたまったもんじゃない。客は理解出来ないし、感情移入も出来ない。失笑だよ?分かるかね?S・H・I・S・S・Y・O・U」
 老人の方言はサイトピア近隣では全く聞いた事の無いものであった。ダマヤの言葉ではないが、どこの辺境の部族出身なのか、皆が気になっていた。
「だから、弟子になんてなれないのよ?お分かりになって?おじいちゃん?」
 ニタニタと嫌らしく笑いながら、ダマヤは老人に顔を近づけ、心底馬鹿にする。
「しゃーしかねえ。ぼてくりこかしとうなるー。そげんこつ言わんでも、どげんかして弟子に……」
「はっはっはっはっは!!だから無理無理ー。無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理★ジジイ貴様には無理なんだよ!例え天地が引っ繰り返ってもな!」
「しょんな……天地が引っ繰り返っても無理とね」
 ダマヤの一方的な責め句にショックを受け、俯く老人。
「ははははは!分かったか。分かったならさっさとこの場を立ち去るんだなジジイオブジジイ!」
「じゃあ……ひとまず天地を引っ繰り返すとしますばい」
「え?」
 老人がパチンと指を鳴らす。
 次の瞬間――くるんとダマヤの天地が引っ繰り返った。

「うわああああああああ!!何だこれは」
 情けない声を上げ、絶叫するダマヤ。
「あんさんが天地が引っ繰り返ってもげな言うけん、天地を引っ繰り返しただけばい」
「天地を……??ど、どうやって?」
「あんたの頭を足にしたとよ」
 よく見ると、老人の言う通り、ダマヤの後頭部が変形して、足の形になっている。
 足の形をしたダマヤの頭が、地面に立っているのた。ダマヤにとっては天地逆さまの状態である。

「あれは……上級踵属性魔法『天地踵無用』」
 それを見て、クランエが呟く。

「ひいいい!!何で私の頭が足になってんのおおおお??」
 ダマヤは泣いていた。速攻で泣いていた。
「元に戻せ―!!」
「ほい」
 老人がパチンと指を鳴らすと、ダマヤの頭は元に戻り、天地も再び入れ替わった。
「ああ、地面だ!良かった。もう、絶対地面から足を離さないぞ」
「ああそうね。じゃあその夢ばかなえちゃろう」
 そう言って老人が再び指を鳴らす。
「あれ……足が、離れない。あれ?足が重いよ?」
 ダマヤは、次は何度足を動かそうとしても、重くて持ち上がらない。
「おいジジイ!今度は何をしたんだ!?」
「ああ、踵の角質を5億倍にしたばい」
「ごおくばい!!??」
 ダマヤは驚愕で目が飛び出しそうになった。

「格が違いすぎる。あの方は、さぞや名のある踵属性魔法使いだろう……」
「ええ、その様ですね」
 クランエとイヘブコが顔を見合わせた。
 そこで、ナナセがおずおずと口を開く。
「あの……本人だそうです」
「え?」
 二人は思わずナナセを振り返る。

「私の横にいるジンさんがさっきからずっと睨みつけながら言っています。あのおじいちゃんは、正真正銘本物の踵属性の精霊、のぶを様だそうです」

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