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異世界落語 作者:朱雀新吾

踵裁き【天狗裁き】

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踵裁き【天狗裁き】②

 その日も極楽酒場は大盛況。いや、その日は普段よりも更に輪をかけて大盛況だった。ここ数日客足は鰻昇りとなっており、店主は嬉しい悲鳴を上げながらも、仮設の客席を増やしたり、普段より倍の注文を取ったりと、仕事に追われていた。

 とにかく、一福は誰からも声をかけられる。話題の中心は一福となっていた。
「イップク!また今度映像魔法でラクゴやってくれよ。うちのかみさんがまた観たいって言って聞かねえんだよ」
「あはは、毎度大司祭様の魔力をお借りするのは申し訳ありませんけどね。ですがまた機会があれば……」
「あんた、姫様から宮廷噺家にならないかって直々に誘われているんだろう?それなら一日一回なり、場と時間を設けてくれそうだけどな。あんたが宮廷付きになったら、国の人気も一段と上がるよ」
「いやいや。ですが、あたしは堅苦しい肩書きなんかは苦手ですので」
 一福が苦笑を浮かべて手をひらひら振ると、小太りの中年男が割って入ってくる。
「そうだそうだ、まずイップク様には私の店で一席演って頂かないといけないんだからな」
「やあこれは『地獄食堂』の御店主。こんにちは」

 一福の周りから取り巻きが離れようとしない。スーパースターさながらである。

 その光景を眺めながら、ラッカは愉快そうに口笛を吹く。
「いやあ、旦那は凄まじい人気だなあ」
「ええ、先日の映像魔法のおかげでしょう」
 テーブル席に座って相槌を打つクランエ。
 嬉しそうに向かいのナナセが声を上げる。
「凄い反響だったんでしょう?『また国営放送でラクゴをやってくれ』って、王宮には問い合わせが殺到しているそうじゃないですか」
「ええ、その通りなんです。宮廷では対応に四苦八苦しておりますよ」
 クランエの隣に座るミヤビがそう言って笑い、ナナセを見た。
 クランエにミヤビという恋人が出来たと紹介された時、ナナセはなんてお似合いのカップルなのかと感動を覚えた。なんでも二人は幼馴染だと言う。
 そんな希少な存在を持たないナナセには、本当に只々溜息をつきながら憧れを抱く、物語の中の人物の様であった。
 恋人の影響か、クランエは最近以前にも増して優しく笑う様になっていた。

「ふっふっふ。更に嬉しいニュースは、私の復帰だな」
 クランエ同様、ダマヤも最近は常に上機嫌である。
「宮廷からはお達しを待てとだけ言われておりますが、まあ問題ないでしょう」
「どうだかなーミヤビよ。あの大臣が素直にとっつあんを復帰させてくれると思うか?」
 ラッカがからかう様にそう言うと、ダマヤは不安そうに顔を曇らせる。
「いや、確かにそれは……あの性格ではどんな手を使って私の復帰を妨害してくるか分かったものではありませんな。そもそも大臣は昔から私を本当に目の敵にして、それはそれは私が視界に入れば苦痛で顔を歪める程露骨でしたからな」
「まあ、視聴者に復帰するとそれはそれで俺はつまらなくなるからな。このままとっつあんとは一緒に魔族討伐に出掛けたいくらいなんだぜ?」
「……なっ!!何を仰るラッカ様。それだけはご勘弁ですぞ」
 ダマヤが驚いて悲鳴の様な声を上げると、皆が一斉にドッと笑った。

 そんなラッカとダマヤの会話に、クランエが心配そうに割って入る。
「ところでラッカ兄さん、最近、少しやつれたんじゃありませんか?」
 クランエはラッカの異変に気が付いていた。少し疲れているのか、以前より頬がこけているのだ。
「ちゃんとご飯は食べていますか?休みもとっていますか?せめてリフレッシュ魔法だけでも受けておかないと……」
「分かってるよ、大丈夫だってば。お前、ミヤビと良い仲になったからって、言う事まで似てきたな。ていうかなんだかピートみたいになってきたよ」
「ラッカ兄さん、クラは兄さんを心配しているのよ。勇者たるもの健康が一番なんだから」
「へいへい、分かった分かった、分かりましたよー」
 そこにミヤビまで加わり協力して攻めてくるからたまらない。ラッカはお似合いカップルの小言をうんざりした顔で適当に受け流した。
 そこへナナセが何の気なしに話し掛けてくる。
「勇者様、やっぱりあの新必殺技が体力を消耗するんじゃないですか?」
「新必殺技、ですか?」
「ええ!凄いんですよ!えーと、アジャラカモクレン……」
 ナナセがクランエに答えようとした――その時である。

「余計な事言うなよ、お嬢ちゃん」

 それは、普段と変わらないラッカの口調ではあったが、どこか、有無を言わせぬ迫力があった。
「は……はい、すいません」
 ナナセが慌てて謝ると、その場に不穏な空気が流れる。
 だが、ラッカ自身はその事に気がついていない様で、すぐにいつもの口調に戻り、クランエに笑いかける。
「ていうかクラ、勇者たるものっていってもな。俺勇者じゃないかもしれねえじゃねえか。結局聖剣は装備出来なかったんだしよ」
「それは……」
 それを言われてクランエは言葉に詰まる。

 そう、ラッカは聖剣キャンドルサービスを装備する事が出来なかったのだ。

 初めは本人も「イヤだぜ。こんなダサい剣持つの」と冗談めかして渋っていたのだが、いざ聖剣を持ってみても、ステータスが変化しないのだ。
「……あれ?装備出来ない?」
 それにはラッカ本人も少し動揺している様だった。
 勇者が装備する聖剣が、自分を受け入れなかったのだ。軽薄なラッカでも感じる所はあるのだろう。

 そして更に驚くべき事は、その聖剣を一福が装備出来た事である。
「ケケケ、プクの攻撃力がプラス3されたぜ」
 オクラホマスタンピードのステータスアイで分析した所、そういう結果になった。
 それを聞いたラッカは馬鹿馬鹿しいと、吹き出す。
「んだよ。装備出来た所でプラス3かよ。国で莫大な金かけて買ったのに、勿体なかったな。まあ、いいんじゃねえの?それは旦那が持ってなよ」
「いえいえ、あたしは剣なんて使いませんからね。使い方もわかりませんし、持っていても仕方がありませんよ」
 困った様に白いロウソク形の剣を手に持ち、一福は言った。
「まあ、聖魔で俺達が持つっていうのが、何かあるんじゃねえの」
 特に深い意味も考えずに、そう言ってラッカは笑ったのだった。


「大臣がとっつあんを責めてくるとすればそこらへんじゃねえの?『結局ラッカは聖剣を装備出来なかったではないかこの役立たずが!』ってな」
「そんな……。それはいくらなんでも言いがかりですよ」
 ダマヤは反論するが、大臣の事だ。それも大いにあり得ると思ったのだろう、ダマヤは今にも泣きそうにな表情を浮かべていた。
「ラッカ様、なんとか装備してくださいよ。お願いですから」
「いやあ、それは聖剣に聞いてくんねえとよ。すまねえな」
 まさに他人事と言った体で、ラッカがケラケラ笑った。
「そんなー。お願いします」
「ていうか何でとっつあんが足元なんだろうな?」
「は?」
 会話になっていないラッカの受け答えに、ダマヤは首を傾げる。
「……何を言っているんですか突然?意味が分かりませんが」
「ああ、いや、こっちの話なんだけどよ……」
 それから、いくらダマヤが頼んでも何故かラッカはダマヤの足元に目を落としてばかりで、何も言わなかった。
 クランエはその少々おかしなラッカの様子を注意深く観察していた。


「いやあ、参りましたね。久しぶりにサインなんか書きましたよ。ターミナルにもサインの文化があるんですね」
 そこへ、一福がようやく解放されたらしく、人だかりの中からよろよろと帰ってきた。
 ミヤビが甲斐甲斐しくお茶を出し、クランエが労わりの言葉をかける。
「お疲れ様です。本当に凄い人気ですね」
「いえいえ、そんな事ありませんよ。落語のおかげです」
 そう謙遜する一福に、ダマヤが茶化すように言う。
「一福様。あの人気じゃあ、そのうち弟子入りしたいっていう者まで出てくるのではありませんか?」
「弟子!?弟子だなんて、そんな器じゃありませんよあたしは」
 とんでもないと、一福は大げさに両手を広げる。それを見て周りの者が笑い声を上げた。

「一福様。参りました」
「ああ、これはイヘブコ先生」
 一福が人だかりから解放されたのを見て、奥の席に座っていたイヘブコがにこやかに近づいてきた。
「はい、これですね」
 直ぐに一福は着物の懐から紙の束を取り出すと、イヘブコへ差し出す。
「どうもありがとうございます。拝見させて頂きます」
「新作ですか?一福様、私にも見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
 興味深そうにクランエがそう言うと、一福は嬉しそうに頷いた。
「ええ是非。どうぞご覧になってください」
 そうしてクランエはイヘブコが一福から受け取った台本をそのまま廻してもらい、早速パラパラと目を通すのだった。

「で、イヘブコ先生。そちらの方は?」
 一福はイヘブコの後ろを窺いながら、訊ねる。

 そう、イヘブコは一人ではなかった。

 一福達のテーブルへやってきた時から、後ろに一人の老人を連れていたのだ。
 黙っていたが、当然皆その老人の事が気になっていた。
 身なりはお世辞でも決して綺麗とは言えない、少々汚れた服を着た、垂れ目で顎のしゃくれた男。表情は太陽の様にニコニコと、満面の笑みである。どことなく既視感のある容貌であった。
「いやあ、それが何と言いますか……。私も先程店の前で出会ったばかりなのですが……」
 イヘブコは困った様に頭を掻き、言葉を継ぐ。

「なんでもこの方、一福様の弟子にしてもらいたいとの事なのです」

「弟子、ですか」
 その言葉に皆が驚く。
「イヘブコ様、丁度たった今、皆でそんな話をしていたばかりなのです」
 ミヤビがイヘブコに説明すると、一福も先刻と同じ様に、柔らかく断りの意を表す。
「弟子を取るなんてまだあたしには早いですよ」
「ええ、私もこのおっちゃんには言っているんですけどね。ちょっと難しいんじゃないかって。いえ、一福様がどうこうというよりか、それには当然、別の理由がありましてね……」
「別の理由、ですか?」
 それには一福も少し興味を引かれた。
「うーん……まあ、聞いてもらうのが一番手っ取り早いかな」
 イヘブコはポリポリと頬を人差し指で掻くと、スッと斜め後ろに下がり、老人を一福の前に立たせる。

「……おっちゃん。一福様にご挨拶をして」
 そうイヘブコが促すと、その老人は満面の笑みのまま、元気よく声を出した。

「はじめましてやねイップク様。突然で悪かとばってん、お願いがあるっちゃけど……。どげんかこげんかしてあたしの事ば弟子にして欲しいとよ。ちかっぱ努力ばしますけん、どうか……宜しく頼みますばい!」

 老人のその言葉を聞き――その場にいる全員が固まった。
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