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異世界落語 作者:朱雀新吾

聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】

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聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】――解説――

「火焔太鼓」でした。
 前回が長めでしたので今回はコンパクトにまとめてみたつもりです。
 短すぎて微妙だったでしょうか。自分でも極端かなと思っております。

「火焔太鼓」はネタの有名性でいえば中の上ぐらいですが、落研の寄席では、私は多分一番観ています。
 学生落語で演じる人が多い。
 理由はズバリ面白いからでしょう。
 技術的にプロと劣る学生がやっても、ハズレが無い。
 道具屋の「成り上がり」に女房の「テンドン」にボケの多彩な「バリエーション」。笑いとストーリーの波が多くあるので、観ていて飽きないのだと思います。

 なので今回の内容は、ほぼ原典です。筋を変えたら面白くなくなると思いましたので。単語を少し弄っただけの異世界落語になっています。ですから今回の「聖剣キャンドルサービス」を読んだけど、「火焔太鼓」は知らないという方でも「俺は『火焔太鼓』を知っているんだぜ』と友達に豪語しても問題ないレベルだと思います。
「ずうとるび」を聞いて「ビートルズ」を聞いたと豪語するよりかは幾分大丈夫だと、私が保証します。

 今回はテレビ収録的な話を書きました。
 必然的に一福が初めて「極楽酒場」以外で落語を演じる事になりました。
 いつも同じ小屋だと代わり映えしないかと思いまして。ただ映像魔法をあまり前面に押すとダマヤの役職である「視聴者」の価値が薄らぐ様な気もして、少々悩みました。
「何だ。テレビあるんだ」と思われた方もいらっしゃると思います。ただ、魔法なので、魔力的な制約でテレビ番組の様に凝った演出がしづらく、ターミナルではただの情報伝達手段としてしか使われていなかったという背景で、私達の知っているテレビとは少し感覚が違うと、ここで言い訳させて下さい(「本編で説明しろよ」という話ですが)。

 そして、大司祭にネタを短縮する様に頼まれるシーンについてですが。
 ネタを演る時「短くしてくれ、何分で収めてくれ」という事は、結構あります。
 私も老人ホーム慰問や小学校で落語をする際には、よく言われました。
 どちらも施設としての一日の時間の流れがありますから、当然です。

 ただ、これが自分達が主催する寄席では、結構な滅茶苦茶をやったものでした。
 私にいたっては、マクラを30分近く喋るなんて、当たり前でした。
 何故なら、マクラは受けたら止められなくなってしまうからです。
 私みたいな不良部員は、ネタに入ると全く面白くなくなり、笑いも一切起きませんので、尚更です。
「何でこんなに受けているマクラを切り上げて、全く受けない落語に入らなくてはいけないのか」と、憤りに近い感情を抱いていました。

 落研部員は、それぞれが各自鉄板マクラを持っているものでして、ここぞという大舞台で使っていました。
 私の鉄板マクラは「深い考え事をしていた時にスーパーに買い物に行き、会計をした後、そのままぼーっと買い物カゴを持って店を出てしまい、店員さんに追いかけられた話」です。
 これはその時の言い方次第ではありますが、大体受けました。
 それに関しても、色んな所で語るにつれて自分が小慣れて、もっと受ける様になったり、逆に受けなくなったり(自分が飽きてしまうからでしょうね)と、難しいバランスがあるものでした。
 後は私は自分の体験談や後輩の失敗談なんかを語ったりして、当時の近々に起きた出来事をマクラにしていました。

 ネタを覚えて、練習を重ねた後、寄席が近付いてくるとやらなくてはいけないのが、マクラを考える事です。
 これが、なかなか難しい。
 今でこそ滑らない話という形で世間に浸透してますが、あれは言うなればマクラの事ですね。
 そして、世の中のマクラは大体、二種類に分けられます。

 その日に演る落語と「関連付けるマクラ」と「関連付けないマクラ」です。

 仕事を貰う為に身体を張るという意味の三種類目もありますが、それは今回の話とほんの少しだけ関係ないので省きます。
 基本的には前者の「落語と関連付けるマクラ」が多いと思います。
「火焔太鼓」の場合だと「自分の経験した思いもよらない掘り出し物話」をマクラに入れ込む等ですね。
 それは「中古ゲーム屋で買ったファミコンソフトがネットで高値で売れた話」程度で構いません。
 それから「まあ、そういった何の価値もないと思っていた物に価値がつくという事がありまして…………」と言って「火焔太鼓」に突入すれば完璧です。
 ネタと関連性をつけるマクラは、この導入部が決まると演者もかなり気持ちが良いものです。
「おお、まるで噺家になったみたいだ……」と演りながら快感を覚えます。
 更にはそれによって通の客に「お、今日は『火焔太鼓』かな?いや、ひょっとして『猫の皿』?『はてなの茶碗』?いやはや、『井戸の茶碗』かな?」と「ネタ当て」ゲームを楽しんでもらう事も出来ます。
 この「ネタ当て」ゲームをするとそのお客さんは「おお、まるで落語通になったみたいだ……」と感動して、演者と客、双方が幸せになるのです。

 逆に後者はと言いますと、関連性なくただ好きなマクラを垂れ流す事です。話好きな人がこちらの傾向が強い様に思われます。
 全然違う話を散々しておいて「えー、今日は今長々とお話しした『女の子の身に付けている下着によってその子の入っている部活動が分かる』という話とは全く関係ない『三十石夢の通い路』というお噺です」と落語に突入する。
 これはこれで笑いが起きる事もあるので、一つのテクニックとして定石になっています。

 先程言いました長マクラですが、自分は大層気持ちが良いですが、次の演者には鬼の様に睨まれるので、おすすめはしません。
 そもそもプロはそんな事出来ません。大体次の出番は兄弟子や師匠方なのですから。
 私も長マクラをやって、次の演者に袖で胸ぐらを掴まれた事があります。学生でそれなのですから、プロの世界で許される筈もありません。

 逆に、人の長マクラで大変な目にあった事もあります。
 前回紹介した、私の漫才の相方だった談平君。彼の大学の落研での出来事です。
 彼らはその日、学内で少し大きめの公演を開いていました。
 その中で、四回生のSさんが、長マクラを始めてしまったのです。
 Sさんは、何故それがお客さんに受けると思ったのか未だに分かりませんが、趣味の鉄道模型の話を延々と話し始めたのです。それもお客さんに分かりやすく噛み砕く事も一切なくです。
「キハ」や「クモハ」といった単語が飛び交う、自分に全く興味のない趣味の話をずっと目の前でされる。
 お客さんの空気が一気に凍りついていくのが袖にも伝わってきます。
 更にそれが長い。いつまで経っても終わらないのです。
 とうとう席を立つお客さんまで現れました。
 これはマズイ。かなり良くない事です。
 徐々にブックマークが減っていく、あのとんでもない焦燥感と同様に良くない事だと感じて頂ければ有り難いです。

――早く誰かが止めなくては公演が大変な事になってしまう……!

 そこでその地獄の様な長マクラを止める使命を課されたのが、談平君と漫才をする為に授業を休んで京○くんだりまでやって来ていた、私でした。
「何でこの中で唯一の他大学生である俺が止めに行くんだよ!?自分達の先輩だろう?」
 私が至極当然な、何も間違っていない真っ当な意見を述べますと、彼らは口を揃えて言いました。
「自分達では今後角がたつ。毎日顔を合わせるんだぞ」と。
 確かにその意見は尤もではありますが、それは彼らの言い分であって、私が今後たった一人で、他大学の先輩の恨みを一身に受ける事を甘んじる理由にはなりません。
 ですがそこは多勢に無勢。皆から拝み倒されて、私は了承せざるを得なくなりました。
 こうなったら仕方ない。覚悟を決めて袖から飛び出しました。

「はーい、終了でーす!!」

 私は兎に角元気よく手を鳴らし、大声で舞台に姿を現しました。
 あの時のSさんの、一体何が起きたのか理解出来ない表情は、今でも忘れられません。
 自分が座る高座とは、聖域の様なものでして。その瞬間に演者以外誰も立ち入る事の出来ない絶対不可侵な領域なのです。当然、自分が喋っているその時に、誰か別の人間が現れるなんて、想像もつかない事です。
「ゆっくりとお風呂に入っている時に突然異世界から超絶可愛い女神様が裸で召喚されて湯船に現れる」程、想像がつかない事です。
 いや、違いますね。そんなに良いものではありません。
「ゆっくりとお風呂に入っている時に突然異世界から超絶頭の禿げ上がった醜いおっさんが裸で召喚されて湯船に現れる」程、ですね。

 その時のSさんは本当に気の毒でした。いえ、私が実行犯ではあるのですが。
 しかも時間の都合上、本ネタを演らせる訳にもいかず、そのままマクラだけで強制退場させました。
 また、お客さんは助かったとばかりに盛大に拍手をして、会場は盛り上がる盛り上がる。私もその瞬間は正義の味方の気持ちになってしまい、調子に乗った台詞を幾つか言った様な気がします。
 今思えば、下座からサゲ囃子を鳴らす等と、他にも方法はあったかと思いますが、そもそもサゲ囃子で素直に退場してくれる様な方が、居直り長マクラをする筈もありませんので、やはり強制退場はやむを得なかったのかと、思います。

 この様に、覚えて練習を積めば最低限はなんとかなる本ネタと違い、演者の独自性を出し、客の空気を読まなくてはならないマクラの方が、様々な逸話や事件が残っているものなのです。
 マクラも含めての落語の趣、とでも言った所でしょうか。
 これだから落語は面白い、と上手に締めたいと思います。

 次回は「天狗裁き」。原典からなかなかファンタジー寄りな噺でございます。
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