挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界落語 作者:朱雀新吾

クロノ・チンチローネ【時うどん】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/117

クロノ・チンチローネ【時うどん】⑧

「ダマヤ様。どういう事ですか。説明してください。何故この『クロノ・チンチローネ』を選んではいけなかったのですか?」
 クランエの必死の追求に、振り絞る様な声で、ダマヤが答える。
「……『時刻の概念』が、違う」
「『時刻の概念』?どういう事ですか?」
 ダマヤはゆっくりと顔を上げると、ようやく、幾分落ち着いた表情で説明を始めた。
「我々は時間の経過を表す際、どの様に表現する?1時間は?30分は?45秒は?」
「え、簡単ですよ。『1時間経過した』だとか『30分遅刻した』だとか『45秒で決着がついた』と言って使いますよ」
 それはターミナルの常識である。今更ダマヤが何を言っているのか、クランエには理解出来なかった。
「そう、それは異世界でも同じ。では聞こう、クランエ。今、何時だ?」
「へ?今はロンダーロメオン(日本に於ける午後7時)でしょう?」
 酒場にかかっている時計を見上げると、直ぐに答えた。
「クランエ、再び聞くぞ。我々は時間を表す時には数字を使う。だが、時刻を表す時には……どうだ?」
「数字を使う訳ないじゃないですか(・・・・・・・・・・)ダマヤ様。それは神への冒涜ですよ」
 それはターミナルの常識である。今更ダマヤが何を言っているのか、クランエには理解出来なかった。
「1秒、1分、1時間」と、流動する時間経過には数字を使って構わないが、時刻には神が住むと云われており、数字の使用を禁じているのだ。その時間帯を司る神の名前で時刻を表すだけで、他の言い方は一切存在しない。
「つまり、時刻に関してだけ、異世界とターミナルでは、概念が異なるのだ。『1時、2時、3時』という、数字を使った時刻は存在しない(・・・・・)
 ターミナルの時刻は、神々や英雄の名前で構成されている。ドラグーン=ドラゴ(午後1時にあたる)トルネリコ(午後2時にあたる)シヴァ=シルヴィア(午後3時にあたる)トーマス=ギブソン(午後4時にあたる)ネイティブ(午後5時にあたる)ヘビーザロック(午後6時にあたる)ロンダー=ロメオン(午後7時にあたる)ヘンゲン=コリイチ(午後8時にあたる)リヴァイア=サン(午後9時にあたる)ネツール(午後10時にあたる)ヨイマール(午後11時にあたる)カーヴァン=キュー(午後12時にあたる)。ちなみに午前中には神が寝ていると言われ、午前には基本、便衣的に眠りドラグーン=ドラゴ(午前1時にあたる)裏ヘビーザロック(午前6時にあたる)などと呼ばれている。
 例えるなら、異世界の日本で、子、丑、寅の時刻表示だけを現代になっても使用しているのと同じ事なのである。
「ですが、それが一体何の問題なのですか?」
「大問題なのだ。時うどんは、時刻を数字で数えられないと……破綻する」
 ダマヤは要領が掴めないクランエに説明を始める。
「この後だが、勘定を払う場面になる。16文のうどんを16文にする場面だが。
《うどん屋。いくらだ。》
《へい、16文です》
《そうか。うどん屋、銭が細かいんで、手を出してくれ》
《へい、ありがとうさんで》
《それじゃあいくぞ。1、2、3、4、5、6、7、8。……うどん屋。今何時かい?》
《へい、確か今は……9つ(9時)です》
《10、11、12、13、14、15、16。うどん屋、ごちそうさん》
《へい、まいどあり》
 ……という流れなのだ」
「へー、ダマヤ様、お上手ですね」
「そんな事はどうでも良いのだ。意味が分かったのかと聞いておる」
「はい、お金を払っている途中でうどん屋に時刻を聞いて、つまり、うどん屋に1文分を数えてもらうんですね。それで実際は15文しか持っていないのに、16文払ったと錯覚させ、誤魔化す」
「まあ、そういう事だ」
「よく分かりました」
 まともにダマヤの落語に感心するクランエ。だが、本当に理解して欲しいのはそこではない。
「で、だな。つまり、結局何が言いたいのかというとだな……」
「分かりますよ。時刻を数字で数える文化のないターミナルでは、そもそも意味が通じなくなるという事でしょう?」
 ダマヤは大きく頷く。
「ああ、ネタが破綻してしまう。このネタは絶対に時刻は数字で言わなくてはならない。だが、この世界には時刻を数字で数える文化がない。『時うどん』は、『クロノ・チンチローネ』は間違いだったんだ」
 よもやここに来ての大誤算である。
 1杯16文と16ヒップの値段の相場が奇跡的に上手く行ったというのに。
 それに気を取られていたのかもしれない。足を掬われた。

 ようやくオリハルコンの様に硬かった観客から笑いが起こり始め、波に乗って来たのだ。
 だが、それでも、神の宿る時刻に数字を用いるなどという冒涜を行えば、全ては水の泡である。
 エルフやドワーフは、いや、人間やホビットも怒り狂い、その矛先は一福へと向かうだろう。
「ああ、なんとかして一福様にこの事実を知ってもらわなくては」
 ダマヤは考えを巡らせる。いっそ乱入して、ネタをやめさせるか。
 結果的にはまだそちらの方が良いかもしれない。
 それほど、時刻を数字で呼ぶのは、許されない行為なのだ。
「よし、クランエ。ネタをやめさせるぞ!」
「ダマヤ様、お待ちください」
「なんだクランエ。邪魔してはならんぞ」
「いえ、違うのです。実は……ターミナルと異世界の時刻の数え方が違う事は、私は既に一福様に教えているのです」
「……な、に?」
 ダマヤは思わず聞き返す。
「教えた?本当か?」
「はい」
 クランエははっきりと首を縦に振る。
「私もこの何日かで異世界の文化に少し触れましたから。ターミナルとの違いとして、時刻の概念が違うな、とは気が付いておりました。これは一福様にお教えしておかないと、後々大変な事になるやもと思いまして、早い段階から教えておきました」
「だったら何故、『時うどん』を……」
 ダマヤには理解出来なかった。
 ターミナルでは、数字を時刻に用いない事を、知っている。
 だが、それでも「クロノ・チンチローネ」というネタをかけた。
 一体、どうするつもりなのだ。数字なしで、どう勘定を誤魔化すのか。

『おう、チンチローネ屋。ごちそうさん。いくらだ?』
『へい、16ヒップです』 

 そうこう言っている内に一福の落語はもう勘定する場面まで来ていた。
 今から走っても、もう間に合わない。ネタを止める事は出来ない。
――一福様…………!!!!
 最早、ダマヤは一福を信じる外、なかった。

『16ヒップね。悪いがチンチローネ屋、金が細かくてね。手を出してくれるかい』
『へい、ありがとうさんで』
 両手を差し出すチンチローネ屋。
『じゃあいくぜ……。1、2、3、4、5、6、7、8。チンチローネ屋……今何時だい?』
『へい、今は大体……カーヴァン=キュー(・・・)かと』
『10、11、12、13、14、15、16。ほい、店主。払ったな』
『へい、まいど。またお越し下さい!』

 次の瞬間、酒場の感情はくっきりと二分された。
 エルフや人間は、感心したように頷いており、
 ドワーフやホビット達は、首を捻っている。

「なんと!!その手があったか!」
 そしてダマヤは両眼をカッと見開き、大声で吠えた。
「ダマヤ様、今のは……」
「ああ……奇跡だ。クランエ、お主、分かったか?今の驚天動地の技法が!!」
「ええ。数字として時刻を使わない代わりに、『カーヴァン=キュー(12時にあたる)』の言葉尻の『キュー』を『9』に引っかけて、つまり、洒落で『9』を生み出して、そのまま『10、11、12……』と繋げて勘定を誤魔化したんですね」
「そうだ!なんだ、あのお方は一体何者なのだ!ええ!?凄いぞ!!」
「確かに凄いですが……でも、あれが、ハナシカというものなのでしょう?」
 ダマヤはぶんぶんと物凄い勢いで首を横に振る。
「ただのハナシカではない――とてつもないセンスに溢れる噺家だ!!」

「何だ何だ?今のはどういう事なんだ?」
「なんだよドワーフの旦那、分からなかったのか?」
 エルフが笑いながらドワーフに話しかける。
「いや、分かるぞ!つまりあの男は15ヒップしかないと嘘をついていて、本当はちゃんと16ヒップ持っていたって事だろう?」
「ぶはっ!!」
 思わずエルフが吹き出す。
 ダマヤはエルフが「ぶはっ」と笑うのを生まれて初めて見た。
「クックック……おいおい。……よく聞けよ。いいか、今のはな。1、2、3、4、5、6、7、8とヒップを払った後に、時刻を尋ねただろう?そしてチンチローネ屋が……」
 エルフが笑いながら、ドワーフに今の落語の意味を教えてあげている。
 ドワーフはドワーフでうんうんと、必死に話を聞いている。

 それを見るとダマヤは、ふうと一息つき、腰を落ち着けた。
「あれ?ダマヤ様、宜しいのですか。解説しなくて」
「ああ、仕込みが終わった時点でこの状態なら、もう問題ないだろう」
 あれだけしっかり仕込んで、ネタフリを効かせれば――
「――後は、一福様の独壇場だ。この酒場が大爆笑に包まれる」

『なんだなんだ。そんな方法があったのか!「1、2、3、4、5、6、7、8。チンチローネ屋……今何時だい?」「へい、今は大体……カーヴァン=キュー(・・・)かと」「10、11、12、13、14、15、16。ほい、店主。払ったな」……こいつは凄いな。よし、明日の晩、俺もまたやってやろう!!今日のまんまで。全く同じ様にやってやるぜ!』
『いや、お前みたいに抜けているヤツには無理だって。やめときな。おい!……あーあ、俺の話も聞かずに行っちまいやがった』 
「えー、という訳で、チンチローネを食い損ねたこの間抜けな男ですが。明くる日に、昨夜と全く同じ事をしようと考え、夜の町へと繰り出します。だが、この男、やはり抜けております。はやる気持ちに勝てず、昨晩とは違う時刻に出掛けてしまいます。さて、この事が一体どういう結末へ繋がるのか。あら、エルフの方々はなんとなく察しがつかれているようですね。へっへっへ、ダメですよ。ドワーフの方々に教えては」

 エルフが「そんな事頼まれたってしないよ」と返す。「へん、俺だってもう全部分かっているわ!」と言うドワーフの強がりに、酒場がドッと沸く。

 後半部分に入ると、ダマヤの言葉通り。
 そこからはもう、独壇場であった。
 毎秒と言っても良い程に、居酒屋は大爆笑に包まれた。

『おう、チンチローネ屋、チンチローネ一杯おくれ』
『へい、いらっしゃいませ』
『…………』
『いやあお客さん、今日は冷えますねー。風邪など引かない様に気をつけないと』
『…………』
『昨日まではまだ温かかったんですけどねー。突然寒くなっちゃって』
『…………』
『……お客さん?』
『黙れ……』
『え?』
 間の抜けた男は、怒りをあらわにチンチローネ屋を責め立てる。
『そこはそうじゃないだろうが。何が「今日は冷えますね」だ!ボケが!死ね!そこは「お客さん、一杯で宜しいんですか?お連れの方もいかがですか?」だろうがよ!』
 そう言われたチンチローネ屋は真顔になり、間の抜けた男の横と後ろを交互に見つめる。
『お客さん。お連れさんって……何を言ってらっしゃるんですか?ここにはお客さん、あなた一人しかいませんよ?』
『黙れボケが!昨夜と同じ様にやってんだよ!お前は言われた通りにすれば良いの!』
『……そうですか?じゃあ、言わせてもらいます。「お客さん、一杯で宜しいんですか?お連れの方もいかがですか?」』
 チンチローネ屋がそう言うと、間の抜けた男は誰もいない隣を見て、へへと笑い、自信満々に言う。
『お連れ?おいおいチンチローネ屋よ。コイツのこの貧相な装備見てくれよ。チンチローネ食うには100年早いよ』
『だったら言わせないで下さいよ!というか誰もいませんから』

 酒場は大爆笑の渦である。一福が話す度に、大きな笑い声が飛び交う。それは、前半の比ではない。
 落語というルールも理解し、更に前半部分が後半になって伏線となり、活きてくる。
 笑いの方程式の下では、笑うなと言う方が無理な話であった。 

『へい、お待ちどうさまです』
 チンチローネ屋がお椀を差し出す。
『いやあ、頼んですぐ出てくるのは気持ちが良いな。また何かの折に来よう。店の名前を聞かせてもらおうか?お前の所、「極楽屋」と言うんだろう!ええ?』
『いえ、うちは「地獄屋」と申します』
『「地獄屋」!!??。……なんて縁起の悪い名前だ。お前の店、明日潰れるぞ』

 競合店である「地獄食堂」を引き合いに出したものだから、これには店長も手を叩いて笑い転げた。

『それじゃあ、いただくぜ』
 お椀を持ち上げ、スープをズズ、とすする。
『いやあ、チンチローネ屋。お前の所、良いダシを使ってんな。いや、チンチローネは麺も大事だが、スープも肝心だ。これは、何か隠し味があるだろう?ドラゴンの……な?』
『いやあ、旦那。よくお分かりで。これは隠し味にドラゴンのウンコを入れているんですよ』
『道理で独特の苦味と腐った風味がすると思った。……ウンコ!!??チンチローネ屋!お前今ウンコって言った?』
『へい!ウンコと言いました!』
『元気よく返事すんなこのウンコ野郎が!!……はあ、それならこんなにマズイのも頷けるぜ……ウンコ……』
『へい、ウンコです』
『…………とんでもないチンチローネ屋に来たな。まさに「地獄屋」だわ。……いかんいかん、15ヒップで食べるんだ。昨夜と同じ様に昨夜と同じ様に。よし、それだけを目標に頑張ろう。それじゃあ、次は麺を頂くとしようかね』
 ズズ、ズズズ、ズズズズズ!と麺をすする。

 最早、麺を食べるシーンは鉄板である。
 待ってましたとばかりに歓声を上げる観客。あるエルフの魔法使いは、その映像を動画魔法で記憶容量に保存していた。

 モグモグ口を動かしている所に、前半と同じく、上半身を誰かから引っ張られた様に、横にスライドさせる。隣を見て、文句を言う間の抜けた男。
『ええい、アーマーを引っ張るな。取っ手が外れるだろうが』
『……いや、お客さん。あなたアーマーなんて装備してませんけど。着てらっしゃるの、皮の服ですよね?それに、隣には誰もいません』
『ええい、だから引っ張るなって。お前、ドラゴンの餌にするぞ。ほら、チンチローネ屋が笑ってるだろうが』
『いやいやいやいや、笑ってません!とてつもなく気味悪がってはいますけどね!』
『ほら、お前の番だ。残しておいてやったぞ。ええ!?お、おい。これが俺のチンチローネか……チンチローネが3本程泳いでいるだけじゃないかよ』
『あなた自分で食べたんでしょうが!!ああ、この人頭がおかしいんだ!!頭がおかしい人なんだ!怖い!早く帰って!!』
 その今にも泣き出しそうなチンチローネ屋の台詞でドッと大大大爆笑が巻き起こる。
 ドワーフが笑い転げて叩く所為でテーブルはひしゃげ、壁はへこむ。
 誰も笑いを我慢等していない。全身で面白さに反応していた。

『よし、食べた!おう、チンチローネ屋。ごちそうさん。いくらだい?』
『へい、16ヒップです』 
『16ヒップね……。クックックックック……悪いがチンチローネ屋、ププ……金が細かくてね。ヘヘへへ……手を出してくれるかい。ぶへへ!』
『……何を笑ってるんですか。気持ち悪いなあ。へい、ありがとうさんで』
 素直に両手を差し出すチンチローネ屋。
『クックック……チンチローネ屋。お前も気の毒だな。いやいや、こっちの話こっちの話。……じゃあ、いくぜ……。1、2、3、4、5、6、7、8!チンチローネ屋、今何時だい!?』
『へい、リヴァイア=サン(・・)です』
『4、5、6、7、8、9……と、アホが5ヒップ損をした』

 そこで最後の大爆笑。誰も、笑いを我慢していない。心から湧き上がる感情に身を任せている。
 エルフもハーフエルフも、ドワーフもホビットも、人間も、皆が一福を一心に見つめ、その挙動で、言動で、手を叩いて笑いあった。

 たった一人の、今日この世界にやってきた男の口先に、全て支配されていた。

 頭を下げる一福を包み込む、盛大な拍手。喝采。歓声。
 その光景を見てダマヤは思った。 
 ほら、仕方がなかろう。そうなのだ。彼の芸に、拍手を送らない訳にはいかない。例え、その手のひらに世界の命運が乗っていたとしても、この芸に対して、嘘はつけない。

 落語が終わり、エルフのリーダーが一福に話しかける。
「悪かったな。あんたの芸を馬鹿にして。本当に素晴らしいものを見せてもらった。心から謝罪しよう」
 その言葉に一福はちょいと首を傾げて笑う。
「何を仰ってるんですか?あたしは最初に何て言いました?あたしの芸で笑ったら謝ってくれなんて言いましたか?」
 そうだ。一福はただこれだけを言っていたのだ。「仲良くしてくれ」と。
「ははは、あんたには負けたよ」
 エルフのリーダーは、一福に片手を上げると、別席にいるドワーフのリーダーのいるテーブルに、自分のグラスを持って、歩き出した。周りを見ると既に種族間の壁はなく、色んな種族が混ざり合って、笑いあって、酒を酌み交わしていた。
 一福はその様子を、しばらくニコニコと眺めていた。

「おい、ダマヤのとっつぁん。こいつは一体どういう事なんだよ」
 誰かと思えば、ダマヤの後ろにいつのまにかラッカが立っていた。
「さっきのあれはなんだい?犬猿の仲のエルフとドワーフがこんなに笑いあってるなんて、魔法かい?いや、シャーマンだろう?霊を乗り移らせたんだ。な?正解だろう?」
 ダマヤは笑いながら、首を横に振る。
「いいえ。魔法なんてものじゃありません。あれはただのお喋りですよ。『落語』といいます」
「ラクゴ?」
「ええ、そうです」
「ラクゴね……次はいつ見れるんだ?」
「さあ、どうでしょうかね」
 ダマヤは得意気に肩をすくめる。
「あの旦那が、あれだろ?異世界からやってきた救世主ってヤツだろ?」
 思わずダマヤは振り返る。何故それを。だが、ラッカなら知っていてもおかしくなかった。
「で、救世主殿がやってきて、魔族をやっつけるのに、あと何年かかるんだよ?」
 ダマヤは、まさか一福を手違いで召喚してしまったとは言い出せなかった。
「えー、と。エルフとドワーフが協力体勢になるまで、あと1、2年ですかな。ですが、問題はまだ山積みですからな。魔族の砦を攻略。各地の国々も救い3、4年。伝説の武器の入手に5、6年、禁断魔法の研究に7、8年。魔族の国に攻め入るまでに9、10年」
 そして、10年経ったら、異世界から真の救世主を召喚しなくてはならない。
 それも、一福の好意に甘える場合である。彼を先に帰す事になれば、更に10年を加算しなくてはならない。
 そんな頭の痛い事をダマヤが思案している所に、ラッカが尋ねてきた。
「おい、ダマヤ。今何時だい?」
「え?」
 ダマヤは時計を見る。ヘンゲン=コリイチ(午後8時にあたる)を指していた。
「今は、ヘンゲン=コリイチ(・・)ですな」
「ほう、魔族殲滅まで1年か。まあ、そんなもんだろうな?」
 ラッカがニヤリと笑う。ダマヤもすぐに気が付いた。時刻で年数を誤魔化された事に。
「クロノ・チンチローネか……。面白いじゃねえか」
「いやですが1年とは、いやそれは幾らなんでも……」
 狼狽えるダマヤの眼前に手のひらを構えるラッカ。
「1年でも長すぎるくらいだぜ。半年だな」
「半年??」
 目を見開くダマヤを尻眼に、ラッカはビールを一気に呷り、テーブルにドンと、グラスを置く。 
「ああ、半年で十分だろうよ。この俺をほんの少し、やる気にさせたんだからよ」
 そう言って、サイトピアの絶対勇者「ラッカ=シンサ」はニヤリと笑うのであった。
おあとがよろしいようで。
次回、「ソードほめ【こほめ】」でお会いしましょう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ