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異世界落語 作者:朱雀新吾

聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】

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聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】③

「えー、どうも皆さん。毎度お馴染み宮廷放送のお時間です。毎度お馴染みと言いながらも、一体お前は誰だと思われている事でしょう。もう一度、自己紹介させて頂きます。少し前にターミナルに召喚されて参りました、異世界人、楽々亭一福と申す者です。是非お名前だけでも覚えて頂ければ幸いです。『落語』と言います異世界の伝統芸能を生業としております。ひょっとしましたら噂程度には、聞かれた事がある方もいらっしゃるやもしれませんね」

 一福は誰もいない壁に向かって、いつもの様に話しかけている。周りから見ているイヘブコ達からすれば、やはり異様に感じられた。

「さて、これはこちらに来てからよく聞かれる質問なのですが『異世界とターミナルとの違いは?』という事です。まあ、それはそもそも世界が違う訳ですから、色々な事が違って当然ですよね。不思議な事に何故か言語はほぼ同じなのですが、残りの文化が大きく違います。あたしの着ている服をご覧になれば分かるかと思いますが、素材はサイトピア産の革の服なんですが、形はというと、かなり独特ですよね」
 映像の先によく見える様に、正面に向かって体を傾ける。
「逆にターミナルの武器や防具は勿論、薬草なんかも、あたしのいた世界では全て大層な価値が出ると断言します。なんせ、あたしが元いた世界には存在しないものですから。研究者からコレクター、更には国をあげての調査として、ターミナルの物なら馬の糞でも欲しいという方も大袈裟ではなくいらっしゃると思います。大体こちらで100万ヒップ、1000万ヒップは出しても下らないでしょう。どうでしょうか、少しは興味を持たれましたか?それともまだふーんって感じですか?糞だけに」
 そう言って一福は一人でおかしそうに笑った。

「おいイヘブコ。よいのか?あんな俗っぽい事ばかり言っていて。今のギャグもなんだかしょうもなかったぞ」
 サブリミナルが心配そうな表情を浮かべながらも、ズケズケと思っている事を口に出す。
「ええ、良いのですよ。勿論、国民全員に聴かせる落語ではありますが、それとは別に、今回は聖剣を探すという任務もあります。あれは、ターゲットを絞ってらっしゃるのでしょう」
「ターゲット?つまり、道具屋にか?」
「まあ、それもあるとは思いますが、あれはどちらかと言うと多分……道具屋の女房に、ですね」
「女房?」
「今の時刻はドラグーン=ドラゴ(午後1時)です。男達は仕事に行っていて、映像が反映されている家には女房しかいませんよ。それに、女房の方がこういう時、意外と逞しいものですから」
 イヘブコは姫に笑ってみせるが、サブリミナルはよく分からないと首を傾げるだけであった。

 だが次に、作家と演者の絆を根拠付ける様に一福はこう語り出す。

「さあ、今この放送を御覧になっている方々には、色んな方がいらっしゃるとは思いますが、道具屋、特に移動道具屋の奥さんはよく聴いておかれた方が良いかと思われます。聴き逃した方は、ええ、絶対に(・・・)損をしますよ」

「絶対に」を強調し、次は画面に向かい小さな声で、ひそひそ話をする様に、しかししっかりと画面と目を合わせる様に、呟く。

「ひょっとすると、とんでもない掘り出し物が混ざっているかもしれませんよ。いつも少々飽き飽きしていらっしゃる宮廷放送にもね……」
 普段の舞台に於いて、一福があまり使わない技法が多く見られるので、イヘブコはそれを興味深く眺めていた。

「うーむ、反応がないというのはこんなにも人を不安にさせるものなのじゃな」
 そわそわしているサブリミナルの懸念には、イヘブコも正直に同意する。
「確かに、想像するしかありませんからね」
「白けていたらどうしよう」
「どうですかね。確かに今の所、きちんとした笑うポイントはありませんからね」

 だが、イヘブコ達は知らない。
 ある家では女房が家事の手を止めて放送を眺めている事を。またある家では子守唄を歌いながら子供を寝かしつけていた女房が、耳だけはしっかりと放送に向けている事を。またある家の前では、井戸端会議をしていた女房達に、別の家の女房が声をかけ、なんだかいつもと違う放送があっている旨を、伝えている事を。
 この序盤の語りで、一福は「笑い」ではなく「興味」を引いていたのだ。幾ら後で面白くなったとしても、初めに相手に聴く気になってもらわない事には、先には続かない。特に映像ともなれば、目の前に一生懸命話をしている演者がいる訳でもない。何の気兼ねもなく無視する事が出来る。
 まず第一に興味を引く事。今回に於いて、それが必須なのだった。

「さて、では時間もあまりない事ですので、そろそろ演らせて頂きましょうか。毎度馬鹿馬鹿しいお笑いで、お付き合い願います。『聖剣キャンドルサービス』というお噺でございます」

 一福が扇子でトンと、地面を叩く。
 その瞬間――世界が、変わる。


『あんた、あんた。いつまで寝てるんだい。もう昼過ぎだよ。ゴロゴロしてるんなら、起きてその辺でも掃いておくれよ』
 女房に言われ、大あくびをしながら不服そうに体を起こすのは、道具屋の主人だった。
『何だよ。たまの休みぐらいゆっくり寝かせてくれよな。俺は仕事で疲れてるんだよ』
『仕事?あんたがしっかり仕事してるんならあたしも文句は言わないよ。ゆっくり寝かしてやろうって気にもなるよ。でも、あんたはいつも何の価値もない、変なものばかり買い取ってくるじゃないか。買ったは良いけど売れた事はあったかい?全く冗談じゃないよ』
 女房の棘のある言葉にあからさまに機嫌を悪くする道具屋。
『なんだよ、夫の仕事にケチつけようってのか?俺の目は確かだよ。俺が買い取ってきたものは、全て立派なもんじゃねえか』
『じゃあこれは何よ』
 そう言って女房は道具棚から、七色に輝く鳥の羽根の装飾が付いた、黒眼鏡を取り出す。
『おお、それは「空飛ぶグラサン」じゃねえか。凄い商品だぜ』
『「空飛ぶグラサン」って何よ。靴でいいじゃないの。こういうのって普通靴でしょ』
 女房の意見に対して道具屋は自信満々に答える。
『「空飛ぶ靴」の時代は終わったんだよ。つまりこれからの流行は、グラサンが来るって事なんだよ』
『来ないわよ。この前、薬草の安売りにどうしても間に合いたいから仕方なくこれを使ったんだけど、近所の子供達に「派手なメガネのおばさんが空飛んでる!!」って下からずーっと追いかけられて、しまいには石を投げられたんだから』
 女房は渋い顔で文句を言った。
『んだよ。良いじゃねえかよ。空飛んだ上にお洒落まで出来るんだぜ?靴なんかより何倍も良いぜ』
『馬鹿な事言ってんじゃないわよ。他にもあるわよ』

 更に女房が道具箱から取り出してきたのは、至る所に禍々しいドクロが装飾された血塗られた鎧だった。
『おお!ドクロアーマーじゃねえか!最高のレアアイテムだよそれは』
『完全に呪われた装備じゃないの!あんたこういうのよく家に持って帰って来られるわね。その神経を真っ向から疑うよ』
 女房は激しく旦那を非難する。
『それだけじゃないよ。ドクロはまだあるからね』
 そして女房が取り出したのは、同じくドクロが装飾された剣に、兜に、手甲だった。リビングのテーブルに置かれたその光景は、まさに壮観だった。
『これだけドクロシリーズ揃えて一体何がしたいのよあんた。これ、完全にうちは呪われているわよ』
 その言葉に道具屋は大声で反論する。
『馬鹿!何言ってんだよ!まだドクロシールドが足りてねえだろうが!あーあ……あと一つなんだよな。誰か売ってくんねえかなあ!』
『馬鹿はあんたよ!全部揃ったら完全におしまいよ』
『いや、そんな事はねえよ。おしまいじゃなくてな。言い伝えでは「始まる」らしいよ?』
『始まる?一体何が始まろうってんだい』
『「終わりが始まる」んだってさ』
『おしまいって事じゃないか!』
 鋭く突っ込み旦那を一蹴すると、女房は大きくため息をついた。

『もうこりごりだわ。本当に、ほとほと愛想が尽きた。更に極めつけは、つい先日買い取ってきたおかしな剣……』
 それを聞くと道具屋はパアっと顔を輝かせる。
『ウ○コ剣だろう?なんだよ、あれこそ今世紀最高の商品じゃねえかよ』
『いやだねこの人は。大声で下品な事言って……。あれは、ロウソクかなんかじゃないの?色も白かったじゃない。ロウソク剣、若しくはキャンドル剣よ』
 至極真っ当な女房の意見を、道具屋は完全に否定する。
『いいや、違うね。あのグルグル巻きのトグロフォルムは絶対にウ○コだよ。俺は命賭けてもいいぜ』
『そんなものに大切な命賭けるんじゃないよ』
 呆れて突っ込む女房。
『16ヒップで売ってくれた冒険者風のちゃらい兄ちゃんと、あれだけで一時間ぐらい大笑いしたもんな。「ウ○コだぞ~」っておいかけっこして、もう汗だくでさ』
『良い大人が子供みたいにはしゃぐんじゃないわよ。まったくドクロだったりトグロだったり……本当にろくなもの仕入れてこないんだから』
『お、ドクロにトグロ?ウマいこと言うね』
『うるさいわよ』
 呑気な態度の旦那に、諦めた様に首を振る女房。

『で、あの剣は?今どこにあるんだい?』
 旦那が訊ねると、女房はあっけらかんと答える。
『ああ、あれなら坊が遊びに持っていったよ』
 その答えに旦那は慌てる。
『おい、売り物だぞ!?』
『いいのよ、あんなウ○コ剣』
『お前もウ○コ剣って言ってんじゃねえか』
 思わず道具屋は突っ込んだ。
『ふん、だったらトグロ剣とでも言えば良いのかい?』

 大司祭の魔法のお陰で、上手く放送禁止用語に(ピー)が入っている。イヘブコは魔法の効果と、その順応性に舌を巻いた。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「さて、所変わりましてこちらはウ○コ剣を持っていった子供が大勢の友達と遊んでいる空き地でございます。通りかかった初老の騎士がその剣を見て、目の色を変えます」

 初老の騎士は空き地に足を踏み入れ、剣を持っている子供に声をかける。 
『おい坊主。そのロウソクの様な剣、少し見せてはくれんか』
 子供は首を横に振って答える。
『ロウソクじゃないよ。ウ○コだよ』
『ウ○コ?本当か?ロウソクではないのか?』
『本当だよ。命かけてもいいよ』
『そんなものに大切な命を賭けるではない』
 騎士は呆れながら突っ込む。
『すまんが、その剣を少し見せてもらっても構わんかの』
『うん、いいよ!』
『素直な子供だ。かたじけない』
 初老の騎士が礼を言い、子供から差し出された剣を手に取った――その瞬間であった。
『ウ○コ触った!』
『ウ○コ触った!』
『ウ○コ騎士だ!』
『ウ○コ騎士!』
『ウ○コナイト!』
『ウ○コマン!』
『ウ○コマン!』
 子供達が騎士の周りをグルグル廻りながら囃し立て出したのだ。
『貴様らああああああ!!』
 騎士は怒りに震え、叫んだ。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『え?剣を城に見せにこい?相手は王宮騎士団長?子供じゃ話が出来ないから、お父ちゃんが持ってきてくれって?』
 息子が家に帰り、事情を説明すると、道具屋は面食らった。今まで商いで城内に足を運んだ経験など一度もない。
 どういう事かと困惑している道具屋を女房はふんと鼻で笑う。
『どうせ城の余興か何かで使う、パーティーグッズかなにかで所望されているんでしょうよ。そんな剣、1ヒップでもタダでもいいから、さっさと売り払っておいで』
『いや、まあ。確かにそうかもしれねえな』
『くれぐれも失礼ないようにね。ひょっとしたら、子供にこんな変な剣を持たせたって騎士様が怒っているのかもしれないよ。あんたが首を斬られたりして?ウ○コ剣で首斬られたら浮かばれないだろうねえ』
 そう言って女房が意地悪そうな笑みを浮かべると、道具屋はゾッとした。
『よせよ。そんなまさか。おい坊、その騎士の方には失礼してないだろうな?』
『大丈夫だよ』
 息子はニコニコと笑顔で頷いた。それを聞いて道具屋も安心する。
『そうか、そいつは良かった』
『皆で取り囲んで「ウ○コ騎士」って叫んだだけだよ』
『貴様ああああああ』
 道具屋は怒りに震え、叫んだ。
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