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異世界落語 作者:朱雀新吾

聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】

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聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】①

「聖剣を探し出すだと?『ハナシカ』風情に一体何が出来ると言うのだ」
 大臣は一福に吐き捨てる様にそう言った。
「噺家だからこそ出来る事もありますよ。相手が聖剣を持っている()なら、尚更」
 微笑を浮かべて大臣の前に平然と佇む噺家。
 口を生業にする者とは言ったものである。
 いつの間にか、大臣の秘書官であるミヤビを、更には偏屈な姫まで完全に味方につけている。
 その時点で既に侮ってかかって良い相手ではない事を、大臣は十分理解していた。

「まあよい。そこまで言うのであればやってみるがよかろう。褒美はいくらでも取らせよう」
「ああ、それでしたらダマヤさんを宮廷に戻して頂けますか?」
「それはならん」
 大臣の一切迷いのない即答に、一福は片眉を上げ、困った様に笑う。
「頑なですねえ。何故ですか。そんなにダマヤさんがお嫌いなのですか?」
「ふん、お主に対して答える義務はない」
「うーむ、やっぱり変ですねえ、大臣様」
「何がだ?」
「いえ、その態度はミヤビ様から聞いた通りなんですがね。ダマヤさんの事となると一気に聞く耳を持たなくなると。それはその通りなんですけど、果たして本当にそれだけかと思いまして……」
 一福の持って回った言い方に大臣は苛立ちを覚える。
「……何が言いたい?」
「いえ、あたしだったりして?と思いましてね」
「…………」
 その時の大臣の瞳は、何も感じていない様にも、動揺を必死に耐えている様にも、どちらにも解釈出来る、微妙な揺らぎを覗かせていた。
「ダマヤさんを遠ざけるのなら分かりますが、それは即ちあたしを遠ざける事にも繋がるんですよね。大臣さん、ダマヤさんが憎いんですか?あたしが憎いんですか?それとも……?」
「お主は……なんだ」
 大臣は一福を凝視して、振り絞る様に言った。それしか言葉が出なかったのだ。
 それに対して一福は目を細めて笑いながら答える。
「あたしはただの噺家ですよ。口からでまかせ、言葉巧みに人を惑わすのはお手のものです。特に意味があって言っている事ではありません」
「…………」

 二人はそのまましばらく視線を交わしたが、先に目を逸らしたのは大臣だった。
「ふん。何を訳の分からない事を言っておる。これは、個人的な思いだ……」
 大臣はそう呟くと、何かを押し隠すかの様に早口で喋り出した。
「そうだ、ダマヤが気に入らんのだ。ヤツは私が魔法学校の講師をしていた頃に一番手を焼いた生徒だからな。良い印象は正直持っておらん。それに関しては誰もが知っている事だ」
 確かに、二人に確執がある事は、一福もミヤビから聞いて知っていた。
「だからダマヤが召喚したお主も気に入らん。ただ、それだけの事よ。理屈にかなっておろう。昨日もパンツ一丁のダマヤが宮廷を徘徊して大変だったのだからな。ヤツが迷い込んだ宝物庫は荒れ放題で今も整理中だ。どうせそれもお主のラクゴとやらが関係しておるのだろうが!」
「あ、それは私も原因があるんですけど……」
 ミヤビが申し訳なさ半分、照れくささ半分で手を上げるが、大臣は気にも留めずに話し続ける。
「お主が何を勘繰っているのかは知らんが、無い腹を探れはせん。ただの個人的感情、それだけだ!」
「…………」

 顔を真っ赤にさせて必死に叫ぶ大臣の顔をしばらく見つめていた一福だが、何かに納得した様に一度頷くと、今度はサブリミナルに話しかけ、あっさりと話題を変えた。
「姫様、大臣様の了解が取れた事ですし、早速聖剣探しに移りたいのですが。なんでも、あたしの落語を国中に広める、何やら良い案があるようで?」
「おお!そうなのじゃ!」
 サブリミナルは自信満々に頷き、満面の笑みをその整った顔に浮かべた。
「それには大司祭の魔法が必要でな。さあ、大司祭を呼んでくるがよい、イヘブコよ!」
「はい、姫様」
 サブリミナルの斜め後ろに控えていたイヘブコが元気よく返事をする。
「あれ?イヘブコ先生、いつの間にいらしてたのですか?」
 当たり前の様に執務室にイヘブコがいるので、一福は目を丸くして驚く。
「ついさっき、姫様を追って入ってきておりました。ジンダ=スプリング様から姫様のお守り……じゃなかった、お世話を仰せつかっておりましてね」
「なるほど、それはイヘブコ先生も大変ですな」
「まったくですよ。最近じゃジンダ様は私に戦略まで任せられるので、このままでは身が持ちませんよ」
「あはは、めざましい御活躍、何よりです」
 噺家と作家。気の知れた二人は顔を見合わせて笑いあった。
「何をしておるイヘブコ!早く大司祭を呼んで来んか!」
「はい、直ちに!」
 イヘブコは一切焦る事なく、サイトピア流の会釈を優雅に決め、マントを翻し颯爽と執務室を出ていった。
 普段エルフやドワーフの間に立ち、争いを諫めているイヘブコにとって、姫の叱責など赤子のぐずり泣き程度の、可愛いものであった。
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