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異世界落語 作者:朱雀新吾

クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】

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クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】――解説――

 今回の演目は「延陽伯」でした。
 江戸では「たらちね」で有名ですね。
 長屋を舞台とする所謂長屋噺で、今までに「異世界落語」で扱ったものでは「子ほめ」「まんじゅうこわい」も仲間となります。

 話の流れとしましては、大体原典通りと言えると思います。
 甚平さんから喜六に縁談が舞い込み、喜びのぼせ上がり、色々と妄想を膨らませる。
 今回から異世界落語オリジナルキャラクター「ロック」と「ジンさん」が登場しました。バニラスタッフ様からフルネームも頂きました「キー=ロック」と「ジン=ベイン」。この二人はほぼレギュラーで「セイ=ハッチ」は準レギュラーといった所でしょうか。
 こうしてみるとファンタジーにしやすい名前ですね。多分、いずれ生まれるであろうこの「異世界落語」の為に何百年前の落語の祖である先達が御考慮してくれたのでしょう。本当にありがたい事です。
 ただ江戸落語だと「ヨタ=ロウ」「ハチゴ=ロウ」「クマゴ=ロウ」になりますので少々無理があるような気もしますね。

「延陽伯」に於ける喜六の妄想ですが、元は「嫁さんと差し向かいでご飯を食べる」という可愛らしい妄想なのですが、異世界落語ではそれを脚色して「嫁さんの着替えを覗く」に変えてみました。
 ステータスネタは元々どこかの話で入れたいなと思っていまして、ちょうど今回だと上手く入れ込めそうだと思いましたので、やってみました。ですからこれは原典にはない部分ですね。結局それがオリジナルのサゲに繋がる訳でして、異世界落語「ミス・バミューダ=トライアングル」としても一石二鳥だったと言えましょう。 
 そして嫁さんが現れてからの件は、原典では「参上つかまつり候う」と言った古典語の様な丁寧な言葉使い(これでは武家ですが。確か延陽伯は武家の娘だったような?違っていたらスイマセン)をする部分を、ちょっと痛い発言、いわゆる中二的に描いてみました。そこから聞き間違い、勘違いルートに進むという流れです。
 言葉やシチュエーションの勘違いは、今回ほぼ初めて書いたのですが、なかなか難しいですね。漫画なんかで読むと「へん、こんなの駄洒落じゃないの。よくこんなしょうもない事思い付くぜ」と思って笑うよりかは多少馬鹿にした感じだったのですが、いざ自分が考えるとなると、なかなか大変ですね。頭を使います。
 特にサゲに関してはかなり悩みまして、仕事中でも「にんたい……ぐんたい?……へんたい?……さんざい?……いや、うーん」等とブツブツ言って、職場の女の子に変な目で見られて少し興奮した程です。

 嫁さんが名前を名乗る部分は「延陽伯」に於いてかなりの重要場面でして、実際の台詞はこうです。
「わらわの姓名なるや、父は京都の産にして、姓は安藤、名は敬三、字を五光と申せしが、わが母三十三歳の折、ある夜丹頂を夢見、わらわをはらみしがゆえに、たらちねの胎内より生でし頃は、鶴女、鶴女と申せしが、これは幼名。成長の後これを改め、延陽伯と申すなり」
 父母の素性から自らの幼名までを名乗る延陽伯に「長い名前やなあ」と驚く喜六。それからはこの名前を喜六が「おい『わらわの姓名なるや、父は京都の産にして、姓は安藤、名は敬三、字を五光と申せしが、わが母三十三歳の折、ある夜丹頂を夢見、わらわをはらみしがゆえに、たらちねの胎内より生でし頃は、鶴女、鶴女と申せしが、これは幼名。成長の後これを改め、延陽伯と申すなり』お茶注いで」等と早口で呼びながら「これじゃあ呼んでるだけで日が暮れるがな」的な流れ、つまり「寿限無」の様な展開になるのですが、「寿限無」的なノリは「エターナル」でやっていますのでここは大幅に割愛しました。後は名前を呼びながらいつの間にかお経の様になってしまう所も面白いんですよね。いや、まあ、割愛しましたけどね……。そこは原典の「たらちね」なり「延陽伯」でお楽しみ下さい。

 まあ、そうやって色々割愛していっても今回は話全体、落語全体共に長くなりました。多分過去最長だと思います。
 落語自体で三話たっぷり使っていますので。
 ちょっと熱が入ってしまったのかもしれません。
 と言いますのも、この「延陽伯」というネタは私にとって思い入れのある噺なのです。
 実は、これは私が途中で挫折したネタなのです。
 落研時代に、時うどんの次に選んだネタです。
 新入生の登竜門「つる」を一番で合格をもらい、当たりネタの「時うどん」を得て、更にステップアップの「延陽伯」。ここから私の転落が始まります、
 結果を先に述べますと、私はこの「延陽伯」を習得する事なく、二回生になり、幹部となる落研三回生となろうとしておりました。
 つまり、約一年半を、丸々落語をせずに過ごしたという事になります。
 意外だと思われるでしょう。まあ、以前の解説でもちょくちょく不良部員だったや、落語を全然やっていなかった等とは述べてましたから、そうでもないかもしれませんが。
 そんな男が「異世界落語」という作品を書いているという事を、今回の一福ではありませんが、改めて懺悔させて頂きます。

 ではその期間、落語もせずに何をしていたかと言いますと、私が尊敬してやまない小説家様を輩出した、京都のとある大学の落研の「談平君」という子とコンビを組んで漫才をやって、一応の落研としての体面は守っていました。
 落研は、他大学との交流も結構あって、年に一度は合同寄席を開いたりしておりました。
 談平君との友情や説話はかなりありますので、また機会があれば紹介させて頂きます。

 そして、二回生の途中の夏合宿で、とあるOBさんと「ちりとてちん」の解説で登場したM先輩に「創作落語を演ってみないか」と言われ、私の落研生活はなんとか息を吹き返す事になります。
 一年半のブランクからの再スタート。ですから、最終的に私が演ったネタはとても少ないです。
 それらもまた機会があれば、解説にて紹介させて頂きます。「死神」の時等、創作落語繋がりで、丁度良いかもしれませんね。忘れない様にしておきます。

 さあ、では何が私を挫折させたのかについて、答えはとても簡単です。ただの練習嫌いでした。
 私は本当に練習嫌いでした。
 私の所属していた落研には練習方法が二つありました。「ネタ繰り」と言って、一人で大学校内で小さな御座を引いて、ただ、延々とネタを演じるやり方。
 もう一つは、上回生に「マンツーマン」で指導を受けるやり方。
 前者は主にネタを覚える、口に馴染ませる為のもので、一番大事なのはやはりマンツーマンなのです。
 ただ私はそのマンツーマンが本当に苦手でした。
 人前で大声を出したりする事は全く平気だったのですが、人前で指導されるのを見られるのが嫌だったのだと思います。
 そして、折角教えてもらった演技や間の空け方、ニンの切り方(ニンとは「人物」。ニンを切るとは「演じている人物を顔を左右に振って交代する」という意味です)等も、その場では素直にはいはいと頷いていても、本番では一つもやりませんでした。
 要するに異様にプライドが高かったのです。
 上達する筈もありませんね。完璧に自分を客観視出来ている人間ならいざ知らず、そんな人は世の中にいません。
 書いた小説も、読者の皆様の目を通して初めて作品になる感覚を、最近になってようやく知る事が出来ました。独りよがりでは良いものは出来ない、という簡単な答えなのですが、あの頃の私は本当に若かった。全くもって勉強不足でした。

 ただ世渡りの要領はそこそこ良かった私は後輩が出来た時、マンツーマン練習を見る際に「ここからここまで見てやった事にしてやるからさ、ご飯でも食べに行こうぜ。勿論、奢るよ」と言って次から次に後輩を堕落させていきました。
 大学に入りたての右も左も分からない一回生は、こんな優しい先輩がいるのかと、殆どが目を輝かせて素直に私の毒牙にかかりました。
 これで「落語は出来ないけど、優しくて面白い先輩」という地位を確立出来る。「へへ、世の中オツムだぜ……」と心の中でほくそ笑みました。
 ですが、リアル一福君だけは違いました。
「先輩、ちゃんと練習見てくれへんとあきまへんで」と言って私の誘惑を拒絶したのです。
 これには本当に驚きました。
 私の懐柔が通用しないなんて。
「まともに落語をしようなんて……コイツは一体何を考えているのだ?」とまで思いました。いや、彼が百パーセント正しいのですけどね。落研ですから。
 ですが、例え私が一福君の練習を本気で見た所で、入部時点で実力が遥かに上の彼には何も言う事がないのです。
 仕方なく私は「うーん、今の喜六から甚平さんに変わる所は、もう0,1秒空けようか」とか「今の子狸だと四歳だから幼な過ぎる、五歳ぐらいにしようか」「ちゃんと清八の気持ちになっている?それじゃあ清五か清六ぐらいだな」などと言って「なんとなく分かっている体を装い、それらしい事だけ並べ立てる」指導で、誤魔化しました。いや、一福君は気がついていたと思いますけどね。だって本番では指導した事一つもやってませんでしたから。

 そんなこんなで、今後も彼は懐柔の効かないモンスターとして、私を脅かす事となります。
 そんな彼を攻略するにはかなりの歳月を要するのですが、彼を手懐ける決め手となるものは、思いもよらないものでした。その話はまた今度とさせて頂きます。

 少し話が逸れました。
 その様に、私が投げ出してしまった「延陽伯」ですが今回、約十年越しでなんとか最後までやり遂げる事が出来たのかなと思っております。
 更には思っていた以上の高評価を皆様から頂き、ホッとしております。

 つまり私にとっての挫折の落語という事だったのですが、今回の本編の内容自体もミヤビ、クランエ、一福と、様々な挫折を織り混ぜてましたね。今この解説を書いていて初めて気がつきましたので本当に無意識でしたが、なるほど、そういうこともあるのですね。
 イメージが無意識に作品に反映されていたのでしょうか。なんだか格好良いので、そういう事にしておきましょう。はい。

 あとは、本編で語られる、一福が別の事を考えながらも落語を演じたシーンについて、説明しようかと思います。
 あれは、実際にやろうと思えば出来ます。
 バンドをやられている方は分かるかもしれませんが、歌いながら「えーと、次の歌詞は『愛のキッチンでチキンをきちんと頬張ろう♪』だったよな……」とか「次のコードはEマイナーからのFからのEマイナー……」等とはいちいち考えませんよね。
 歌詞や楽譜は基本的に体に叩き込んでいないと、人前で披露出来るものにはなりません。
 反復練習で体に馴染ませる。全てはそこからで、アレンジであったり、自分なりの解釈や味を加えて、舞台を作り上げる事となります。
 そんな中、自分で自分を客観視する様な状況が生まれる事があります。多分、この地点がエンターテイナーとしては一番良い塩梅なのだと思います。
 体は自動的に芸を演じ、心は客の機微に集中する。様子を窺いながら、芸をコントロールする。
 ミュージシャンと言いましたが、最強の料理人みたいで、格好良いですね。
「俺は客の顔を見ただけでどんなコンディションで、何を食べたいのか分かる。今日の彼は……オムライスだ」「シェフ、オーダーです。オムライス入りました!!」
 うん、超格好良いですね。
 プロの噺家さんでも、高座に上がってお客さんの顔を見てから何のネタを演るのか決める方がいます。
 それもまた、同じことなんでしょうね。

 そして、意識が更にその上をいく事もあります。上といいますか、バランスが変わるといいますか。
 体が勝手に芸を演じてくれる事に流されて、意識が飛ぶ現象です。
 良い言い方をすると「ゾーンに入った」。
 悪い言い方をすると「ルーティーン化した」。

「ゾーン」はスポーツ漫画なんかで最近よく見かけますね。

 落語で言うと、ただただ自動的に口が動いて時間が過ぎていく事になるのです。
 私も何度かそういう経験があります。
 落語を演じている途中に、意識を失い、気がつけばサゲが終わり、目の前はお客さん方からの割れんばかりの拍手喝采。
 格闘漫画などでよくある「そこからは記憶がない。気がつけば目の前には何者かにボコボコにされ倒れている相手がいた……」みたいな感覚です。
「主人公の隠された力が覚醒!」的なエピソードで使われる、あれです。
「これが……俺の……力?」といって血塗れの両手を見つめる、あれです。
「眠りの小○郎」的なあれです。
 それがなんと、落語でも体験する事が出来るのです。
 これはとても気持ちが良いものです。

 ただこれには逆の場合もあります。
 落語を演じている途中に意識がなくなり、気がつけばサゲが終わり、目の前には鬼の様に白けた視線のお客様がいる。これは地獄です。

 つまり、ただの台詞の垂れ流しマシーンになってしまったパターンですね。
 こうなったらもう何が正しいのか訳が分からなくなります。

 今回の一福は意識を失いながらもそこはやはりプロという事で、最低限のクオリティは無意識下で守った、という事になるのでしょうね。
 ラッカ辺りに「今日の旦那はイマイチだったな」という台詞を言わせて、もっと一福の違和感をアピールしようかと結構悩んだのですが、そうなると初めて落語を観たミヤビの感動に水を差すような演出になりかねないので、落語前の違和感にミヤビだけが気付くという形にしました。

 あと、ミヤビの正体なんかは、トリック仕立てにしようかと思いましたが、前回もやってますし、今回話が込み合っていましたので、軽めのネタバラシでスマートにいってみました。
 伏線回収や種明かしを大々的にではなく、サラッと流せる作家さんに憧れておりまして、いつかはやってみたかった事なのですが、やはり性には合わないみたいでして、疼くんですよね。
「ミヤビはもっと溜めて溜めて、最後の大臣の所で『実は私が秘書官だったんですよ!!やっぴい。騙されましたかああ??』と描けば読者は『騙された!!こんちくしょうめ!!』となるぞ」と悪魔が何度も耳元で囁いてきました。
 ですが、そんな自分に喝を入れる為、今回はガッツリと情報を出してやりました。
 ええ、勿体ぶるのはなしです。おまけにクランエの正体も明らかにしてやりましたから。
 まあ、流石に投稿ボタンを押すのはしばらく時間がかかりましたね。駅のホームで深呼吸をいっぱいしました。

 本編も長ければ解説も長くなりましたね。
 これくらいにしておきましょう。次回は頑張って短めを目指します。

「火焔太鼓」で、聖剣探しです。
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