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異世界落語 作者:朱雀新吾

クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】

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クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】⑨

一福とミヤビは連れだって服屋に入っていった。
 そんな二人の後をつけていた人物がいる。
 クランエとラッカである。

「あの二人、何を長い事立ち止まって話してたんだろうな、クラ?」
「さあ、何でしょうね」
「ていうかお前仕事なんじゃねえのかよ?行かなくていいの?」
「いいんです。仕事は嘘ですから」
 あっさりと白状するクランエにラッカは目を見開いて驚く。
「はあ?嘘?お前、何でそんな嘘つくの?」
 ラッカの質問には答えず、クランエは一福とミヤビが入っていった服屋をじっと見つめながら呟いた。
「私は吃驚してしまいました……」
「何がだよ?俺の方が今びっくりしてんだよ」
「まさに神の啓示の様にベストタイミングの落語でしたからね」
「だから何がよ?」
「結婚の話ですよ」
 クランエは一人で何もかも理解している様にうんうんと何度も頷くが、ラッカは欠片も理解出来ない。
「いえ、一福様には是非ともこのままこちらの世界にお留まり頂きたいと思ってまして。ラッカ兄さんもそうは思いませんか。あんな優秀な方ですから」
 それにはラッカも素直に同意する
「いや、まあ確かに旦那は頭も切れるし人当たりも良いし、なにより落語が面白いから、このままいてくれたら、と思う事はあるよ。本人は断ったけど、それこそ宮廷噺家にでもなったら、十分こっちの世界でも暮らしていけるしな」
 そこでクランエはラッカをビシッと指差した。
「全くその通りです、ラッカ兄さん。その通りなのです。一福様はサイトピアに必要な御方なのです」
 意気揚々とクランエは話し続ける。
「更にはですよ。十年後、召喚輪倶(サモナイトリング)に次の異世界召喚分の魔力が溜まった際には、一福様を元の世界へ帰す為でなく、別の要件で使用する事が出来るのです。まさに至れり尽くせりではありませんか」
「なるほどな」
 ラッカはクランエの真剣な顔を見つめながら納得して頷いた。
「お前が何を言いたいのかは分かったけどよ、そんなの無理じゃねえのかよ。やっぱり旦那は元いた世界に帰さないと」
「だったら、帰りたくないと一福様ご本人が仰ったら、どうですか?」
「まあ、それなら無理に追い返す必要もないかもしれんなあ」
「そうですよね?その通りですよね」
 顔を輝かせ、自分に言い聞かせる様にクランエは何度も頷いた。
「では、どうすればその願いは実現するでしょうか。一福様御自身から帰りたくないと言わせる為には。ラッカ兄さんはどう思いますか?」
 ラッカは腕を組んで考える。
「そりゃあ……やっぱり仲の良い友達が出来たら、じゃねえか?別れにくくなるもんな。あ、それなら俺がもう似たようなもんだから、大丈夫なんじゃねえの?へへへ」
 呑気に鼻の下を人差し指で擦るラッカを見据えて、クランエはふっと笑った。
「何だよその馬鹿にしたような笑いはよ」
「いえいえ、ラッカ兄さんがあまりに可愛らしい事を言いますので。そうですか、『お友達』ですか……」
「いや、『お』はつけてねえだろうがよ」
 ラッカはクランエの態度に腹を立てる。
「んだよ、だったらお前の意見を聞かせろよ」
 クランエは待ってましたとばかりに得意顔で答えた。
「ずばり、伴侶でしょう」
「なんだよ、狩りでもするのか?」
「それはハントです。落語をしている暇はないのですよ。いいですか、伴侶とはですね…… 」
「分かってるよ。ボケたんだよ。嫁さんって事だろう?」
「ええ、そうです。こちらの世界の女性と良い仲になれば、一福様も男ですから。帰り難くなるに違いありません」
「まあ、確かにそれはそうかもしんねえな」
 それはラッカにも説得力のある話だった。旅先でねんごろになった村娘と、過去に同じような状況になった事を思い出したのだ。

「いつか、こちらで橋渡しをせねばと思っていたのです。それが、今日の落語を聞く限り、どうやら一福様も伴侶を欲しがっているご様子。まさに渡りに船。見事なタイミングでした」
「いや、それはどうかと思うけどよ。確かに嫁さんが欲しいみたいな事言ってたけど。あれはそもそもマクラだろ?それに噺自体聴くと『凄い嫁をもらっちまったぜ!参ったな!』みたいな噺だったろうがよ」
 ラッカは至って真っ当な指摘をする。
「落語を真に受けない方が良いんじゃねえの。だったらよ、「ちりとてちん」演るからって演者は腐った豆腐食べたいのかよって話じゃん?」
 ラッカの意見にクランエはあからさまに眉を顰める。
「そんな屁理屈はいいんですよ兄さん」
 どっちが屁理屈だよという言葉をラッカはなんとか飲み込んだ。

「で、その相手が、よりによってミヤビかよ?」
 ラッカはクランエのその選択にも呆れてしまう。
 ミヤビが昔からクランエを好きだったのは、当然の如く知っている。
 ピートもクランエになら妹を任せて良いと言っていた程だ。
 クランエだってミヤビを嫌いな筈がない。
 急がずとも、いつかそういう機会が訪れるだろうとラッカはのんびり考えていた。
 だが、まさかこんな事になろうとは。
――全く、とびきり優秀な癖に、本当に抜けているヤツだよ。
 ラッカは困った弟分を見つめ、大きく溜め息をついた。

「で、後をつけてどうしようってんだよ……」

 ラッカが具体的な話を聞こうとした時、背中のオクラホマスタンピードが話しかけてきた。
「おいラッカ」
「んだよオクラ?」
「気づいているだろう?プク達の後をつけているお前達の後をつけている、最高に暇な連中がいるって事」
 その言葉にラッカは興味なさそうに反応する。
「ああ?まあ、それなら今に始まった事じゃねえしな。放っておいていいよ」
「いや、オレは別にどうでもいいんだが、レフが妙に気に入ったみたいだからよ」
「ん?」
 それを聞いてラッカは空を見上げた。
 するとそこには、ラッカの使役するレフトドラゴンが二人の黒づくめの男達をくわえて飛んでいた。
 間違いない。宮廷秘密部隊の人間だった。
「はっはっは!」
 それを見てラッカは痛快に笑った。
「見ろよクラ。あれをよ!傑作だぜ!全然秘密になっちゃいねえ!」
 大笑いするラッカを横目に、クランエはやれやれと首を振る。
「かわいそうに。彼らだって任務なのですから」
「まあ、いつもお前の監視してるより、たまにはヤツらも刺激があっていいんじゃねえの。レフト!そいつらにはしばらく空中散歩を楽しんでもらって、最後は宮廷にでも降ろしてやりな!」
 そう言うラッカに、レフトドラゴンは目で合図し、遥か彼方へと飛びさっていった。

 点になっていくドラゴンの背中を見つめながら、クランエは自嘲気味に呟く。
「監視等つけなくても、私は逃げませんよ。逃げる場所など、この世界のどこにもないのですから。本当、尾行なんて悪趣味ですね……」
「いや、ヤツらもお前にだけは言われたくないだろうよ」
 ラッカは呆れ顔でクランエに突っ込むのだった。
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