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異世界落語 作者:朱雀新吾

クロノ・チンチローネ【時うどん】

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クロノ・チンチローネ【時うどん】⑦

「皆様のお世界は、大変な事になっていらっしゃるようで。なんでも魔族が攻めてきて、国を追われ、今やこのサイトピアという国が全てだそうで。あたしは実は今日異世界からやってきましてね。どうやって?ターミナルですから、電車で。何て言っても皆様には分かりませんかね、ははははは」
 ピリピリとした空気の中、一福の場違いに元気な声だけが薄ら寒く聞こえる。
 ダマヤは、一福が何をするのか、気が気ではなかった。
「一福様は、一体何をするつもりなのだろうか……」
「ダマヤ様、多分一福様はエルフとドワーフの喧嘩の、仲裁に入られたのでしょう」
「それは分かっておる!」
 ダマヤはキッとクランエを睨み付ける
「私が言いたいのは一福様が、一体何のネタをするのだろうか、という事に決まっておるだろうが!」
――あ、ダメだ。この人はもうあの気持ち悪いモードに入っている。
 クランエはダマヤの言動と、瞳の奇妙な輝きからその事を悟り、諦める事にした。

「で、さっきその事情とやらを聞いたのですが、まあ皆様色々と大変だとは思いますが、仲良くしなくてはいけませんよ。ほら、仲良くすれば、いつかエルフとドワーフの夫婦なんてものも生まれるかもしれませんし」
 そのフレーズにダマヤが鋭く反応する。
「夫婦?『井戸の茶碗』か?だが、仲良くしなくてはならないと言っているしな。それなら『胴乱の幸助』の方がネタ的には合っているが……どうだろうか?」
 ダマヤは落語好きなら誰もが通る「前振りから何のネタかを当てるゲーム」にすっかり熱中している。

「まあ、とは言いましても腹が減っては戦は出来ぬ。折角酒場にいるんです。一緒に食事でもして、親睦を深められてはどうでしょうか。先程あちらのクランエ師匠に聞いたのですが、この世界にも屋台なんてものがあるそうではないですか。こちら『極楽酒場』で飲んで打ち解けたその後は、屋台でシメの一杯なんてのも、オツなものですね……」

「まさか!時うどんか?そばか?」
 ダマヤは一福がやろうとしているネタが自分の想像とは全く違う事に衝撃を受け、更に、もう一つの絶望的な事実に気が付き、がっくりと項垂れた。
「ダマヤ様?どうなさいました?その『時うどん』では何か問題があるのですか?」
「……ダメだ。時うどん、時そばは。何故なら、うどんやそばはこの世界には……無いのだから!!」 
 存在しない食べ物のネタをこの雰囲気でやって、面白い筈がない。「うどんというものはですね、あたしが来ました異世界の白い麺でして……」という説明から入り、間を殺してしまう等、あってはならない事である。
 ダマヤはがっくりとうなだれ、死を覚悟した。ここで言う死とは、一福が全く受けずに高座を降りる事である。
――もう、おしまいだ。
 だが、次の瞬間、一福の放った言葉にダマヤは目から鱗を落とし、衝撃を受ける事となる。
「それではお聴き下さい『(クロノ)・チンチローネ』というお噺でございます」
「おお……なるほど!チンチローネとは!なるほどだ!流石だ!うどんの代わりにチンチローネ!」
 ダマヤは大声で叫ぶと、思わず柏手を打った。
 そして、一福が扇子でトン、とテーブルを突くと――世界が変わった。
 そう錯覚する程に「極楽酒場」の空気が、柔らかさと硬さを兼ね揃えた、液体の様な、鉱物の様な、形容し難い雰囲気になったのだ。

『いやあ、腹が減ったなー』
『ああ、そうだな』 
『何か食べに行こうよ。あ、近くにチンチローネの屋台があるじゃないの』
『チンチローネか。それは良いなあ。今日みたいに寒い日は、特にだ』
『よし、決まりだ。それ行こうやれ行こう。ダッシュ!』
『コラコラ。そう急ぐ事もないだろうが。チンチローネの屋台は逃げやしないよ』
 声色と表情を首の左右の振りで変化させ、人物を表現する。
 それは、先程まで喋っていた一福とは、全く違っていた。まさに別人が乗り移った、という表現がピタリと当てはまる。
 酒場の者達には、テーブルの上に、二人の人物が見えていた。
 少し抜けている人の良さそうな男と、その男を引っ張る、兄貴分の男。
 この短時間で「一人芝居」という意味を、酒場の者達は教えられるでもなく、全身で理解していた(・・・・・・・・)

『あ!ダメだ!チンチローネはダメだ』
 間の抜けた男が突然叫ぶ。
『おいおい、どうしたよ。藪から棒に』
 兄貴分の男が尋ねる。
『金がね、ないの』
『ヒップが?』
『ああ』
『だけど、ないないって言ってもお前、まさか0ヒップじゃあないんだろうよ。一体いくら持ってんだ。出してみろ』
『ええとね。ちょっと待ってね』
 間の抜けた男が着物の袂に手をやり、ヒップを取り出す。
『ええと、12345678。……8ヒップだよ』
『8ヒップぅぅぅ?』
 兄貴分の男は心底馬鹿にした様な声で、相方を見る。
『お前は馬鹿か?今時8ヒップでなにが買えるよ?こんぼうか?皮の服か?8ヒップじゃあ何も買えんだろうが。へっ、馬の糞でも買っとけお前は。8ヒップで』
 その言いぐさに腹を立てたのは間の抜けた男である。
『じゃ、じゃあお前はいくら持ってんのよ』
『ちょっと待ってろよ。今出してやるからよ。……驚くなよ』
 兄貴分の男はニヤリと笑い、袂に手をやると、ヒップを取り出す。
『1234567。……7ヒップだな』
『じゃあ俺のほうが1ヒップ多いんじゃないか!』

「上手い!今のは絶妙な間だ!。ニンの使い分けは完璧、フリも悪くない、最高のタイミングだ!返しも芸術的!」
 ダマヤは一福の人並外れた高い技術に舌を巻いた。
――これは、笑いが起こるに違いない。ダマヤは確信した。
 だが、酒場の誰も、クスリともしない。
「な、なに……?」
 ダマヤは信じられない顔で周囲を見回した。だが普通に考えてみれば、それはそうである。
 酒場は最前まで、今にも殺し合いが起きそうなムードだったのだ。
 一福がネタを始めた事で、確かに空気は変わった。それは事実だ。
 だが、殺気立った雰囲気が消えた訳ではない。そして、そんな中で、笑いが起きる筈もない。 

 それでも一福は何ら気にする様子もなく続ける。

『まあ俺が7ヒップな件については別にいいだろう。よし、2人のヒップを合わせてチンチローネを食べるぞ』
『ちょっと待ってよ。7と8。2人合わせたって15ヒップだよ。それでチンチローネが食えるか。チンチローネの値段は、16ヒップだよ?』

――先程一福様がチンチローネの値段を聞いていたのには、そういう理由があったのか。
 クランエはその情報収集能力と応用力にこそ、視点を置いた。いや、あの時にはこんなにすぐにチンチローネを使ったネタをするビジョン等なかった筈だ。だが、あの時の彼の瞳には、どこか確信めいた輝きがあった。いつかの為のストックとして、引き出しに入れていたのだ。それを少々早めに開けただけの事なのだろう。だが、並の頭の回転でそれが出来るとは思えない。
「ダマヤ様、この『クロノ・チンチローネ』というラクゴは、どういう話なんですか?あ、簡単で良いですので。最高にかいつまんで、教えて下さい」
 クランエはダマヤに尋ねた。あくまで簡潔で良いという釘も忘れずに刺す。
「ああ、この噺は元々『時うどん』と言ってな。簡単に言うと、金のない二人が、15文しかないのに16文のうどんを食べるというお話だ」
「うどんは16文で、チンチローネは16ヒップ。偶然でしょうが、値段に関しては異世界とターミナルとで、全く一緒ですね」
「ああ、それは一福様も助かったと思われているだろう。その数字の部分が、この噺の大事な所でもあるからな」
 うどんをチンチローネにするだけで、こちらの世界の人間にもすんなり意味が伝わる事となる。
 一福はそれを瞬時に見極め「クロノ・チンチローネ」という異世界落語を始めたのだ。

『16ヒップのチンチローネを、15ヒップで食べるのか?』
『ああ、そこは、俺がなんとかする』
『チンチローネ屋にまけてもらうのか?』
『そんな情けない事するか!』
 ダマヤの話した通り、兄貴分の男が15ヒップでチンチローネを食べられると言い張り、結局2人で一杯を分けあうという事で、近くのチンチローネの屋台へと向かう。

『いいか。チンチローネ屋との話は全部俺がするから、お前は黙ってろよ』
『分かったから、ちゃんと半分食べさせておくれよ?』
『分かった分かった。おう、チンチローネ屋、チンチローネ一杯おくれ』
『へい、いらっしゃいませ』
 そこで一福の演じる中に、威勢の良い登場人物が増える。チンチローネ屋である。
『お客さん、一杯で宜しいんですか?お連れの方もいかがですか?』
 兄貴分が隣を見て、へへと鼻で笑う。
『お連れ?おいおいチンチローネ屋よ。コイツのこの貧相な装備見てくれよ。チンチローネ食うには100年早いよ』

 依然、酒場の空気は変わらない。

『へい、お待ちどうさまです』
 チンチローネ屋がお椀を差し出す。
 兄貴分はそのお椀をもらうと、今度はゆっくりと視線を上へと昇らせていった。
 湯気を見たのだ。
『いやあ、頼んですぐ出てくるのは気持ちが良いな。また何かの折に来よう。店の名前を聞かせてもらおうか』
『へい、うちは「極楽屋」と申します』
『「極楽屋」か。それは良い名前だな。お前の店、絶対に繁盛するぞ』
 今一福のいる「極楽酒場」を意識した名前だろう。そんな気遣い等意味があるのかとクランエは思ったが、酒場の店主は、笑いこそしていないが、心なしか嬉しそうにはしていた。これが異世界映像端末(テレビジョン)の「おもてなし講座」で言っていた「ヨイショ」というヤツだろうか。

『それじゃあ、いただくぜ』
 兄貴分がお椀を持ち上げ、スープをズズ、とすする。
 その瞬間――ざわと、酒場の空気が動いた。 
 前の方の席の者が、少し身を乗り出して、一福の手元を見ている。そして、しばらくして首を傾げた。
 今の音を聞いて、一福が本当にスープを飲んだのだと思ったのだ。
 だが、実際には一福は両手を丸く形づくりそれをお椀に見立てているだけであり、当然、その「エアーお椀」の中に実際チンチローネがある筈はない。分かっているのだが、それでも皆釈然としていない。
――ふん、魔法に違いない。
 エルフのリーダーは内心の動揺を隠し、平静を装った。
――ふん、どこかに本物のチンチローネを隠し持っているに違いない。
 ドワーフのリーダーは内心の動揺を隠し、平静を装った。

『いやあ、チンチローネ屋。お前の所、良いダシを使ってんな。いや、チンチローネは麺も大事だが、スープも肝心だ。これは、何か隠し味があるだろう?』
『いやあ、旦那。よくお分かりで。これは隠し味にドラゴンのウロコを入れているんですよ』
『ドラゴンのウロコ?道理で香ばしい味と風味がすると思った。はあ、それならこんなに美味いのも頷ける』
『へい、ありがとうございます』
『それじゃあ、次は麺を頂くとしようかね』
 そう言うと一福は扇子を5分の1程開き、右手に持つ。扇子で、二又棒を表現しているのだ。

 そして一福は二又棒に見立てた扇子を――眼球に押し当てる。

――そこで、クスッと小さな笑いが起きた。

 それは、ドワーフの子供だった。
「こら、何笑ってんだ」
 親のドワーフが子供を叱るが、子供は我慢出来ずに笑いながら一福を指差す。
「だって、あれおとっちゃんがいっつも食べる前にやるヤツじゃん。そっくりだよ」
「いや、まあ、確かに……」
 そこで酒場に柔らかい空気が、生まれた。
 確かに、この世界の人間は食べる前に、二又棒で眼球のマッサージをする事がある。
 ダマヤも一日中目を使う職種なので、癖になっているが、主に細工物等を手掛け、目が疲れやすいドワーフに多く見られる習慣だ。
 その鮮明な、親がいつもやっている描写に、子供は顔を綻ばせたのだ。
 何より驚くべき事に、彼は先程この世界に来たばかりである。酒場に入ってから、どれだけ人間観察を行ったのかが窺える。

 その空気の変化を逃すまいと、一福は右手に持った扇子、いや二又棒を、お椀の中へと入れる。

「でるぞでるぞ……」
「何ですか?魔法でも出るんですか?」
「ばかもん!チンチローネを食べるに決まっておろうが」
「チンチローネを食べる……ですか。あ、じゃあチンチローネは持っていかなくていいんですか?あの方の食べ残しがまだこちらに」
「馬鹿!描写だ。フリだ」
「フリ……ですか?」
「先程のスープと同じだ。だが、スープであれだ。麺は凄いぞ。見ておれ見ておれ。クックック」
「はあ」
 クランエはあまり要領を得なかったが、とりあえず気のない返事だけは返しておく事にした。

 一福はお椀から二又棒を出すと、フーフーと息を吹きかけ、チンチローネを冷ますフリをする。
 そして、次の瞬間、大口を開け二又棒の先端に食らいついた! 
『ズズズ!ズズズ!ズズズズズ!』

 おおおおお!!と観客からたまらずどよめきが起こる。
 エルフが、ドワーフが、ホビットが、人間が、酒場にいる全ての人間がその動作に目を奪われ、驚きの声を上げた。

『ホフホフ、モグモグモグモグ……。ゴクン』
 一福はモグモグと口を動かし、チンチローネを咀嚼して、飲み込む。
 そして直ぐに再び二又棒をお椀に突っ込み、チンチローネを食べる。
『ズズ!ズズズ!ズズズズズズズ!』

 おおおおおお!!
 再びの観客のどよめきで、酒場全体が震える。
「なんだヤツは?どこからチンチローネを出しているのだ?」
「召喚魔法か?別の場所にあるチンチローネを、口の中に呼び寄せているのだ。そうだ。そうに違いない」
「いや、ヤツの妙に袖の長い服にヒントがあるんじゃないのか?」
 隣の者同士でああでもないこうでもないと意見を言い合う。
 まさか一福がただ食べているフリをしているとは、誰も想像だにしていない。

「ダマヤ様。何がフリですか?間違いなくチンチローネを食べていますよ。あれは」
 冷静なクランエも、興奮した面持ちでダマヤを責める。
 ダマヤは愉快そうにクランエを見つめると、ゆっくり首を横に振る。
「本当に食べてなどいないのだ。『飲んだフリをする。食べたフリをする。笑ったフリをする。怒ったフリをする』……それが落語だ」
「……これが……ラクゴ」
「ああ」
 ダマヤはつい先刻ビンタされたとは思えない程の、とてつもないドヤ顔で、力強く頷いた。
「しかも一福様、すする音まで使い分けておる。当然、うどんとそばでは音が違うのは知っておるが。そばは細めで『ズズ』と小刻みにすすり、うどんはそばよりも太い為、大きく『ズズ』と大胆にすする。そして、チンチローネはそばよりも太いがうどんよりかは細い!必然的に、すする音もそばとうどんの中間になる。……『ズズ』とな」
 クランエにはどの『ズズ』も同じ『ズズ』に聞こえたが、一福から与えられた衝撃が大きすぎて、ダマヤに反論する気さえ起きなかった。 
「その微妙な匙加減を、先程生まれて初めて食べたチンチローネでリサーチしたのだ。つまり、一福様はチンチローネを口に含んだ瞬間、落語で使用する時のシミュレーションを開始していたというのだろうか。突然異世界に召喚されて、右も左も分からない状態で、落語の事を考えていたのか。楽々亭一福……おそるべし」

 落語は続く。酒場の皆は、既に身を乗り出して一福の挙動に注目している。

『おい、俺にも食わせてよ。約束だろう』
『ああ、分かっているよ。先に俺が半分食べるから。もうちょっと待ってろ』
 間の抜けた男をいなすと、再びズズズズと兄貴分がチンチローネを食べる。
 モグモグ口を動かしている所に、兄貴分の上半身が誰かから引っ張られた様に、横にスライドした。
『ええい、アーマーを引っ張るな。取っ手が外れるだろうが』


「見ろよおい、本当にアーマーを引っ張っているみたいじゃないか」
「アハハ!しかもあれは便利アーマーだ。装備している時に取っ手を引っ張られたらイラっとするんだよな。ハハハ。よく、再現しているよ」
 客達の間で自然と笑いが起き、隣の者と笑顔で会話をする。


 兄貴分がチンチローネを食べる度にアーマーを引っ張られる。そしてその度に観客からは笑いが起きる。特に子供は指を差してゲラゲラ笑っていた。
『だから引っ張るなって。お前、ドラゴンの餌にするぞ。ほら、チンチローネ屋が笑ってるだろうが。ほら、お前の番だ。残しておいてやったぞ』
 ようやくお椀を受け取る事が出来た間の抜けた男。だが、中身を見て驚愕の声を上げる。
『ええ!?お、おい。これが俺のチンチローネか?』
『ああ、そうだろうがよ』
『そうだろうがよって……チンチローネが3本程泳いでいるだけじゃないかよ』

 その今にも泣き出しそうな台詞でドッと大爆笑が巻き起こる。
 誰もが、「クロノ・チンチローネ」の世界にはまり込んでいた。
 泣きながらも、大事そうに一本、一本『ズ』『ズズ』とチンチローネを食べていく間の抜けた男の様子がまた観客の笑いを誘う。

「あの独り占めしたヤツはきっとドワーフ族に違いない。なんせ食い意地が張っているからな」
 エルフのリーダーが愉快そうに呟くと、ドワーフのリーダーが反論した。
「いや、友人に対しての煙の巻き方、横着な態度がエルフだよ。あいつはエルフに違いない」
「何を?」 
 エルフがドワーフを睨みつける。
 クランエはまた一悶着が起きるのかと、身構えた。
 だが、2人は顔を見合わせ、フッと笑い合ったかと思うと、そのまま落語の続きを観始めたではないか。
 エルフとドワーフ。この種族間で、こんな優しい表情が漂う事が、いまだかつてあっただろうか。
 クランエは記憶にない。共通の敵がいるにも関わらず、彼らはいつも憎みあっていたのだ。
――ついさっきまで。
 これが、落語の力。
 ひょっとしたら、彼はやってくれるかもしれない。
 本当に魔法みたいである。「クロノ・チンチローネ」。
 この話は、一体どんな未来に繋がっているのだろうか。
「ダマヤ様。この2人は一体どうやって15ヒップしかないのに16ヒップのチンチローネ代を払うのですか?」
「おお!そこがこの話のミソでだな。そこは『クロノ・チンチローネ』と言うぐらいだから、時刻で値段の数字を誤魔化………………あ」
 そう言いながら、ダマヤはみるみる頭から血の気が引いていくのを感じた。
「なんて事だ……。これは、ダメだ」
「……ダマヤ様?」
 突然のダマヤの狼狽え振りの理由が分からないクランエ。ダマヤは己の迂闊さと、あまりにもの悔しさに、テーブルを叩いた。
「致命的な問題だ。このネタは、このネタだけは、ターミナルでは絶対に選んではダメだったんだ!」

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