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異世界落語 作者:朱雀新吾

クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】

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クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】⑥

 ジンさんが連れてきたエルフの女性を観て、ロックは仰天した。
 魔法で映し出された映像も美しかったが、実際に目の前に現れるとその神々しいまでに端麗な容姿に思わず目が眩んでしまう程である。
 エルフ特有の尖った耳に意志の強さを感じさせる切れ長の瞳。彫刻の様に整った唇は微笑を湛えている。スラッと伸びた手足はまるで寓話や神話から飛び出してきた女神そのものである。
 黒水晶の様に滑らかで艶やかな長い黒髪をなびかせながら、エルフはロックの家へと入ってきた。

『…………』
 ロックが口をあんぐりと開けて見惚れていると、エルフは口元をゆっくり緩め、初めて言葉を発する。
『ふむ、人間種族の住まいか。繁栄と退廃を幾度となく潜り抜けた歴史を感じさせる、懐かしき匂いがするものだな。ああそうか、思い出すな……。400年前に修業中の身ながら勇者メルカトルに素質を認められ、冒険を共にしたあの時の日々を。小人族に古代より粛々と眠る秘宝を求めて訪れた秘境。そこで我を見初めた小人族の族長の家。歴史的建造物に等しい、脆くも儚い造型ながらもどことなく懐かしき慕情を秘めたあの柱や天井に類似しているではないか。趣もあれば風情もあり、そこはかとなく世の無情を感じる。……まさに愉悦』
 エルフは何とも愉快そうにロックの家の中を見回し、そう言った。
 ロックはしばらく訳も分からず突っ立っていたが、なんとか振り絞るように声を出し、ジンさんに訊ねた。
『……ええと、ジンさん。この方が?あの、オイラの嫁さん……?』
『ああ、その通りじゃ』
 ジンさんはにっこりと微笑むと、大きく頷いた。

『人間種族の御老体、いや、我にとってみればそなたも子供同然なのだが、ここは便宜的にそう呼ばせて頂こう。ふ、我の些末な拘りだと嘲り笑ってもらって構わない。で、こちらの男君が我の婿となりし者か?』
 エルフもロックと同様にジンさんに自分の結婚相手を訊ねる。ジンさんは恐縮した様に何度も頭を下げながら肯定した。
『ええ、ええ、その通りでございます。こちらの男でございます』
『そうか……』
 エルフはロックを正視する。初めてお互いに目を合わせた瞬間であった。
『おや?』
 そこでエルフの表情が変わった。
『そなた……』
『は、はい。な、なにか?』
 絶世の美女にまじまじと見つめられ、ロックは気が気ではない。
『……似ているな』
『は?』
 そう言うと、エルフは口の端を軽く持ち上げ、笑った。
『ふ、思い出すな……。322年前の常闇戦争を。ああ、間違いない、その時だ。人間種族軍の将軍とエルフ軍魔導師だった我が出会ったのは。敵同士ながらも何度も刃を合わせ、死線を潜る事により、我とその人間種族軍の将軍は自然と心惹かれあうようになった。当然、逢瀬を交わす事は愚か、二人きりで会話する事さえなく散った戦場の恋ではあったがな。長い闘いの末、我が自ら将軍にトドメを刺したあの時に感じた胸の張り裂ける様な痛みは、昨日の事のように覚えておる。だが、あの時ヤツは確かに笑ったのだ。その瞬間我は悟った。既にお互いの心は完全に通じあっていたという事実にな。人生を振り返ると、あれほど幸せな瞬間はなかった様に思える。精悍な顔つき、鍛錬された肉体に、意志のこもった瞳。今でも目を閉じれば完全に思い出す事が出来る。ああ、そっくりだ……。その人間種族の将軍が常時装備して食べていた草だんごに、そなたはそっくりだ。丸い輪郭に薄汚れた肌の色、その顔に刺さった体躯は細く、まさに串のようだ。我が魔法神より授けられた邪眼によって視える、そなたの全身から滲み出る緑色のオーラは、まさに草だんごそのもの。確実だな。食された後は人間種族に転生しておったのか。よもや被食者から捕食者となろうとは、皮肉なものだな。これだから長生きはするものだ。一つだけ忠告をしておこう。そなた、だんごを食す時には気をつけるがよいぞ。その瞬間そなたが口にし、歯を立て、咀嚼しているだんごは、そなた自身やもしれぬのだからな。ふふ、冗句を口にしたのは45年ぶりか。まあ、それもまた世の理……。いやはや、世界とは愉悦なり』
 そう言ってエルフは口許に手をあて高らかに笑うのだった。
『……』
『さて、我とそなた、再び現世で出会う事となった宿命を祝うとするか』
 エルフがパチンと指を鳴らすと、魔法により果実酒の入ったグラスが二つ現れる。その一つをロックに差し出す。
『エルフと草だんご、生物と無機物、カタカナとひらがな、敵同士として宿命づけられた二人が、エルフと人間種族の男子となり、今宵夫婦となろうとはな。神も1000年に一度は洒落た事をする。まさに愉悦。我とそなたの、神々に仕組まれた再会、縁と絆に乾杯!』
 チンと、二つのグラスの共鳴する音が響く。エルフは美味しそうに果実酒を飲み干した。

 ロックは最大級に混乱していた。
――この人は一体何を言っているのだろうか。前世が草だんご?何だそれは?
 完全についていけない。
 容姿は凄まじく美しい。だが、言葉を発すれば発する程、その美しさが色褪せる様な、不安な気持ちがロックを襲う。

『ロック。何をボーッとしておるのじゃ。口を開かんか。おもてなしをせい』
 いつまでも口を開かないロックに、ジンさんが注意する。
『……あ、ああ。そうだ』
 そこでロックは我に返り、用意していた茶菓子を出した。
『あの、お酒を飲んだばかりの所でなんですけど。お茶でもどうぞ。お菓子もありますので』
『おお、すまんな。頂こう』
 何の躊躇いも文句もなく、エルフは果実酒のグラスとは反対の手でお茶を受け取り、一口すすった。
『む……』
 そこでエルフはピクリと片眉を上げる。その表情に、ロックは不安を覚える。
『あの、どうしました?美味しくありませんでしたか?』
『ふ、思い出すな……』
『え?』
『あれは356年前の事だ。世界一の魔導師を目指しておった我はモンスリート大陸で究極魔法の古文書を探しておった。その時、刻の回廊での七つの試練の三つ目、炎獄の床にて炎獄王ゲーテンフリークと戦った時に吹いた風と同等の類を、今現在、人間種族の住みかにて感じる事となるとは。これぞ廻る輪廻。巡る業。重なる解脱に阿る堕落と言った所か。まさに、これぞ愉悦』
『…………』
 部屋中に静寂が流れる。
 ロックは思わずジンさんに助けを求めた。
『ええと、あちらは今、一体何を仰ったんですか、ジンさん?』
 ジンさんはゆっくりと頭を縦に振ると、こう答えた。
『ああ、今のはな「お茶が熱い」と言っておられたのじゃ』
『ええ!?今の長台詞が「熱い」って意味なんですか?面倒くさ!言っている間に熱くなくなってるでしょう。しかも最後「愉悦」って言ってるし……』
『まあまあ、長生きをされているからな。言葉が丁寧なんじゃよ』
『丁寧……?はあ。なるほど』
 ジンさんに窘められロックは首を捻りながらもその場は何とか頷いてみせた。

 次にエルフはロックの用意した菓子を口に含む。
 すると再び片眉がピクリと上がる。
『これは……思い出すな。289年前、特にやる事もなく暇だったので近所を散歩していたら、精霊の森に迷い込んだ事があった。ちょうどその日こそ新月と真月のバランスが比例と反比例で重なりあう符牒の日であり、森の扉が開いておったのだ。100年ぶりの客という事で精霊達に盛大な歓迎の儀を開いてもらったのだが、その時精霊族に代々伝わる舞いを披露してくれての。まさに今、あのおかしくも奥ゆかしき甘き輪舞曲(ロンド)が口の中で舞われているかの様だ。……まさに愉悦。のう人間種族の御老体。そうは思わんか?』
『いやはやまさにそれは最大級の愉悦ですなあ。はっはっは』
 ジンさんはエルフの言う事に、大笑いしながらうんうんと何度も頷き返す。
 だがやはりロックには何を言っているのか理解出来ない。再びジンさんに訊ねた。
『ジンさん、今のは何て……?』
『ああ「お菓子が旨い」と仰ったのじゃ』
『長いでしょ!「旨い」で済むものを!』
 思わずロックは突っ込んだ。

――何かがおかしい。あのエルフはひょっとして……。

 ロックはジンさんに小さな声で話し掛ける。

『ジンさん、教えて下さい。あの人のステータスを……』
『何を言っておるのじゃ。前に教えたじゃろう。あの方の「うつくしさ」は250じゃと。嘘じゃない。見れば分かるだろう?』
『それは分かりますよ。疑いようもありません。オイラが聞いているのはそうじゃなくて……』
 一度言い難そうに言葉を切るが、意を決した様に顔を上げるとロックは訊ねた。

『あの人のステータス……「いたさ」はどれだけなんですか?』
『…………』
『……ジンさん』
 永遠に続くかと思われる沈黙の後、ぽつりと、ジンさんが呟いた。
『……526じゃ』
 凄まじい「いたさ」だった。
『やっぱり!とんでもなく痛い人じゃないですか!』
 ロックが悲痛な声を上げる。
『まあ、言葉が丁寧過ぎる所があるからのう』
『丁寧とは違うでしょう。絶対違うと思うけどなあ』
 ロックはしきりに首を捻る。そう、丁寧とはまた違う次元のセンスを、あの美しいエルフは持っているのだ。
『まあ、基本的には「はいはい愉悦愉悦」と頷いて笑っていれば大丈夫だから。ワシもあの方の言っている事の半分以上は理解しておらんわ』
『ええ?ダメじゃないですか!?』
『大丈夫大丈夫。それじゃあワシはこのへんで帰らせてもらうかの。よいかロック。夫婦生活に必要なのは「にんたい」と「おもいやり」じゃぞ!それを忘れずに、仲良くやるんじゃぞ!』
『あ、ジンさん待って!二人きりにしないで!』
 ロックの話など聞かずにジンさんはそそくさと帰ってしまった。

 後に残されたのはアホな男と、痛いエルフ。

『ふん、老体は闇に消えたか……』
『ジンさんが死んだみたいに言わないでよ』
 二人きりになってしまい、ロックは困り果ててしまう。
『ううむ、参ったな』
『ふむ?老体がまた参ったのか?今去ったばかりだぞ』
『いや、そうじゃなくて。参ったって言ったんです。あ、あってるのか?うーん、こいつは会話が難しいな。いやはや、まさにこれこそキズだなあ』
 いちいち会話がやりにくい。向こうの言葉は難しいし、こちらの簡単な言葉も勝手に難しく解釈される。
 言葉の壁にロックは途方に暮れる。

『誰かいればまだ間が持つんだろうけど。なんせ二人きりだからなあ』
 溜息混じりに呟くその言葉に、エルフが反応した。
『何?二人きりとな。いや、思い出すな……。過去に世界で我とあやつ、二人しかいなかった瞬間があった事を……』
『あのー、思い出さないでもらえますか。面倒くさいんで。あなた思い出すとそれから随分長いでしょ?
それとさっきから頻繁にしてますけど、昔の男の話とかしない方が良いと思いますよ。人間とエルフの倫理観の違いはあると思いますけど』
 ロックは自分でも驚くほど冷静になっていた。
 そう、先程から彼はずっと突っ込みに回っている。自分がボケる土壌など用意されていない事を無意識に理解しているのだ。

 一方エルフはなんだか楽しそうに笑っている。
『ふふ……よもや人間種族にたしなめられるとはな。125年ぶりだな。…………愉悦』
『…………』
――面倒くさい。
 ロックはすっかり嫌になってしまった。
 だが、そんな気持ちをぐっとこらえて歩み寄るのがこの男の良い所である。

『まあ、暗い顔していたって仕方ないや。縁があって夫婦になる訳ですから、お互いの事を知らないといけませんね』
『おお、良い事を言ったな。では我から訊ねよう。そもそも、そなたの姓名(・・)は何だ?』

『え?生命(・・)?あ、ヒットポイントですか?それなら69です。ロックですから』
『ほう、ロックか?それはまた短名(・・)だな』
『そりゃあ、エルフに比べましたら寿命は短いですから。ええ、短命(・・)ですよ』
 噛みあわない様で、何故か繋がっている二人の会話。

「なあ、今のはどういう意味だ?」
「『姓名』と『生命』、『短名』と『短命』をお互いに勘違いしているんだ。面白いのは、それで会話がなんとなく成立している点だな」
「はあ、なるほどな」
 エルフがドワーフに丁寧に説明してあげている光景を見て、ミヤビはどの様にして落語がこの犬猿の仲だった種族の間を取り持ったのか、ほんの少しだが、垣間見た気がした。

『じゃあ次はオイラが質問しますね。あなたは名前なんて言うんですか?』
 その問いにエルフは胸を張って答える。
『我の名か?我は漆黒の闇より出でし深淵の世界で微睡む忘却の使徒。幼名は「アスタリスク」仮名は「キャンディロップ」なるが二つ名「疾風と怒濤と戦慄と驚愕と微睡みの眠り姫」。現世と呼ばれし理に苛まれたその刹那、愚に堕落せし黄昏の民は我をこう呼ぶ。「血染めのミス・バミューダ=トライアングル」とな』
 全てを聞き終えたロックは、目を丸くして、大きく溜息を吐いた。
『はあ、なんとも長い名前ですねえ!覚えられるかしら。えーと「しっこ喰うの病よりヒデーし新年の世界で窓ROMオー脚の人?YOUMEは明日リス、熊、那覇」……え、違う?』
 美しい顔をしかめて首を振るエルフ。
『まあ、そうだな。バミューダと呼ぶが良い』
『ああ、そうですか。ではバミューダさんって呼ばせて頂きます』
 短い名前にしてくれて、ロックは心の底からホッとした。

『それじゃあ質問を続けますね。次は好きな食べ物を聞こうかな』
『なんだと?』
『いや、ええと。好きな食べ……好物(・・)はなんですか?』
『ふむ、好きな鉱物か(・・)。そうだな。オリハルコンにダークマター。なかでも取り分けイビルダイヤモンドには目がないのう』
 バミューダ=トライアングルの答えにロックは戦々恐々とする。
『はあ、何だか固いものばかり食べられるんですね。食文化の違いですな。こりゃあ、食卓に何が並ぶか、混沌としてそうで、恐ろしいです』
『混沌?ははは、世の中のカオスやカタストロフ(・・・・・・・・・・)は今に始まった事ではあるまい』
 その言葉を聞くと、ロックは安心した表情を浮かべた。
オカズはストロガノフ(・・・・・・・・・・)?ビーフストロガノフが好きなんですか?いやあ、やっと料理らしいものが出てきましたね。でもやっぱり高級(・・)そうな料理が好きなんですね。バミューダさん、見た目から上品ですから』
『ふ、確かにカオスは恒久(・・)の存在ではある。だが、そんなに誉めるなよロック。白状するなら先程の言葉は我も受け売りなのだ。かの有名な賢人ローネ(・・・・・)のな』
『あ、チンチローネ(・・・・・・)も好きなんですか?いやあ、庶民的なものも食べるんですね!嬉しいな!』
 いつの間にか二人の距離はグッと縮まってきていた。

 ロックは更に質問を続ける。

『趣味は何ですか?』
『嗜好か?100年前ならば他種族の死生観察とでも言っておったのだろうな。だが、我の人生は長すぎる。それにも飽いてしまった』
 そこで自嘲気味に笑い、こう言った。
『最早戦場に立ち込める死臭(・・)にも紅潮(・・)を覚えずただ毒笑(・・)だけがわいてくるのみ』
『へえ、趣味は刺繍(・・)紅茶(・・)読書(・・)ですか。なんだか深窓の令嬢(・・・・・)みたいですね』
 ロックの言葉にバミューダ=トライアングルは瞳を大きく見開き、その日一番の驚いた表情を見せた。
真祖の霊嬢(・・・・・)とはよくぞ言ったな。驚いたぞ……。いや、その通りだ。よくぞ言い当てたな。我こそがエルフェン族の真の芯にして神源なる巫女。先達同胞先祖の霊を供養する使命を背負いし、まさしく真祖の霊嬢(・・・・・)。500年以上守ってきた秘密を、初めて会った人間種族に言い当てられるとは。しかもそれが我と夫婦となる人物。運命というものを信じなくてはならなくなったぞ。まさに、人生最大の愉悦!』
 バミューダ=トライアングルは天井を見上げ、高らかに笑った。
『ロック、我はそなたを気に入ったぞ。禁呪にて寿命を100年伸ばしてやろう』
 バミューダ=トライアングがパチンと指を鳴らすと、ロックの周りを天使の羽を生やした髑髏がケタケタ笑いながら踊り狂った。
『なんだか気に入られた!寿命も100年伸びたし!なんで!?ラッキー』
 ロックはピースサインをして心から喜んだ。

『結婚した経験がないって言ってましたけど、他に何かないんですか?未経験な事って』
『ふむ、それはやはり、死かな(・・・)
鹿()?鹿になりたいんですか?』
バミューダ=トライアングルは笑って手を振る。
『否。死なり。仮死こそ経験あるが(・・・・・・・・・)、死はないのでな』
『「かしこさ軽減あるか(・・・・・・・・・)?」あはは、大丈夫です。オイラ減るほど「かしこさ」ないですから』
『何?「ヘル(地獄)ほど可視こそナイトカラー?」ロックは面白き事を言うのう。その通りだ。212年前に一度だけ訪れた事があるが、言う通り、地獄は夜の様な暗闇色をしておった』
『はあはあ、そうですかそうですか』

 二人の会話は滅茶苦茶なのだが、その食い違いと勘違いが客には面白くて仕方がない。
 二人が会話をする度に笑いが起きていた。
 ミヤビはよくこんな風に考えられるなと、すっかり感心してしまっている。 

『「かしこさ」とか言っているけど、ステータスを気にしてるのかな?まあオイラも結構ジンさんに聞いたもんな。ま、でもオイラの頭が悪いのは今に始まった事じゃないですからね。ウジウジ(・・・・)してられませんよ。しおらしく(・・・・・)したってしょうが(・・・・)ない。オイラとしてはさっぱりした(・・・・・・)もんです
 ロックがおどけて手をひらひらさせながら笑うと、バミューダ=トライアングルも同調して魅力的な笑顔を浮かべ、言った。
『ああ、確かに地獄のウジ虫(・・・)()ショウガ(・・・・)をかけて食べるとさっぱり(・・・・)した味だったな』
「何で突然地獄のウジ虫食べた話してるんですか!?やめて!気持ち悪い!』

 話が通じている描写を続けて、突然通じなくなる。裏切られた様な気持ちと同時に、新鮮な驚きを受け手に感じさせる手法。そのまま兵法にも利用出来そうな、見事な手際だと、ミヤビは思った。

『でもまあ、大体話は通じてるね。なんだか大丈夫なんじゃない?』
 始めはどうなる事かと思ったが、ロックはすっかり安心していた。
『あとは、何か気になる事はないですかね。あ、職ですか?オイラ一応、力仕事や便利使いをして、日雇いみたいなことをやってますけど。基本的には時任せ、風任せの、無責任な生活を送っています』
『ほう、風来の身か?』
『いえいえ、そんな大層なもんじゃありませんよ。本当は仕事は嫌なんですよ。ゴロゴロしていたいの。年中ダラーッとしていたいんです』
『倦怠を好むか』
『あと、昼寝が大好きです。ポカポカ暖かい場所で夢なんか見ちゃったら最高ですよね』
『ふん、昼から見る暖かい夢か。さしずめ甘い闇だな』
『まあ、そんな所です。本当、難しい言い回しが好きですね』
 ロックとバミューダ=トライアングルは顔を見合わせ笑いあった。
『なるほどな。風来(・・)にとって倦怠(・・)甘い闇(・・・)こそ、何より大切という事だな』
『ああ、そうですそうです!いやあ、最初はどうなる事かと思ったけど、話も全然通じるじゃないの!これなら上手く夫婦生活が出来そうだ!』
 ロックは両手をパチンと打つと、満足そうに頷き、言った。

『バミューダさんの仰る通り!夫婦(・・)にとって「にんたい(・・・・)」と「おもいやり(・・・・・)」こそ、何より大切です』


 一福が頭を下げると、盛大な拍手が巻き起こった。ミヤビも自然に手を叩いた。
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