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異世界落語 作者:朱雀新吾

クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】

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クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】⑤

「えー、この男、別嬪さんの嫁さんが来るという事で、とんでもない喜び様です。ジンさんが帰って、一人になってからもその興奮は冷めません」

『とうとうオイラにも嫁さんかー。今まで女っ気なんてなかったからな。 家に女がいるだけで全然違うんだろうなー。でも、気を使わないといけないって考えると、面倒くさいけどなー。あー、本当に面倒くさい。面倒くさいなあ……』
 何とも面倒くさそうな表情で面倒くさい面倒くさいと言いながらロックはベッドに横たわる。
『面倒くさいけど……。なに、なんなの?この今まで味わった事のない胸の高鳴りは?!ワクワクは?!ひええええ』
 ベットに顔を埋めながら押さえきれない高揚感に身もだえするロック。

 その様子を眺めながら、酒場の男達はうんうんと暖かい微笑みを浮かべながら頷く。
 男なら、ロックの気持ちが良く理解出来るのだ。

『いやだって、だってさ!一緒に暮らしていたらそのエルフの嫁さん。着替えとかするわけでしょ?』
 誰に言うでもなくロックは当たり前の事を口にする。
『そうしたら、オイラはいつもの様に生活してるんだけどさ。やっぱり慣れるのに時間がかかると思うんだ。ほら、今まで誰かと共同生活なんてしてきてない訳だからさ。でさ、オイラが何の気なしに、あくまで何の気なしによ?いつもの様に隣の部屋からお菓子でも取ろうかなーと思って入ってみるとさ……。まさか嫁さんが入っているとは思わない訳よ。また良い……じゃなくて悪いタイミングで着替えなんかしちゃってる訳で……』
 そこでロックはおもむろにドアノブを掴んで、扉を開ける振りをする。
『こうやってオイラがガチャと扉を開けたら「キャー、エッチ!!」なんて言われちゃったりする訳よ』
 ロックは高い声で器用に女性を演じる。
『そうしたらオイラは思わずこう言うのよ……「ムフ♪」ってね』
 自らの寸劇にしばらくうんうんと満足そうに頷いていたロックだが、ふと首を傾げる。
『…………「ムフ♪」か?オイラ「ムフ♪」か?今のシチュエーションであんまり「ムフ♪」は良くない気がするな……。でも今のは本当に何気なしに出た言葉だったもんなー。飾り気のない「ムフ♪」だったもんなー』
 何だか腑に落ちない様子で考え込んでしまうロック。 
『うーん、もう一度やって雰囲気を確かめてみるか』
 そう言って仕切り直した。
『オイラが扉をガチャっと開けたらそこには着替え中の嫁さん。「キャー、エッチ!!」さあ俺はそこで何と言う?』
 ロックはあくまで自然に、己の中から湧き出る感情に身を任せて、次の言葉を発する。
『「ムフ♪」』
 すると、やはりムフが出た。それにはロックも頭を掻きながら苦笑する。
『あー、やっぱり「ムフ♪」かー。いや、確かにここは何度考えても「ムフ♪」しか出ないもんな。例え何度輪廻して人生を百回やり直す事になってもオイラはここでは「ムフ♪」って言ってしまう自信があるね。これは確実なんだ』
 けれども、とそこでロックは考え込む。
『やっぱり「ムフ♪」ってのは具合がよくないよな。オイラがそれしか浮かばなくても、それで嫁さんに嫌われたら元も子もないからな。……ようし、ちょっと考えようかな』
 そう宣言すると、再び同じシチュエーションでやり直す。
『オイラが扉をガチャっと開けると、着替え中の嫁さん。「キャー、エッチ!!」「おやおや、これはどうもありがとうさんで、目の保養になりましたな……」うん、これはエロジジイみたいだなー!これはないか!うん、ないね!』
 きゃっきゃと楽しそうに笑いながら首を横に振り、再びやり直す。
『扉をガチャ「キャー、エッチ!!」「あ、着替え中だったのか。いや、まさか着替え中だったとは夢にも思わなかった……。そもそも俺は長年の一人暮らしに慣れてしまって誰か別の者がいるという事があった試しがないからな。まだこの共同生活に慣れるまでには時間がかかって当然な訳で、一人暮らしの頃の癖で確かめずに扉を開けてしまう事があってもまったく不思議ではない訳で、決して故意ではなくこういう事態が度々起こるのは否めないとしか言いようがない訳で、わざとではないがこれからもしばらくはこんな失敗が続くのは仕方がないだろう。決して覗きたい訳ではないのだからな。うん、仕方がない。わざとではないのだから、仕方がない」……なんだか必死に言い訳しているヤツみたいだな。ていうかコイツ、絶対わざと覗いてるよな』
 ロックは腕を組み、必死に考える。
『言い訳がましいのは駄目だな。男らしく、短めがいいかな。……「いや、すまん……」とかどうかな。一言「いや、すまん……」だけ。うん、男らしいんじゃない?』
 何やら良い感触を得たロックは、早速試してみる事にした。
『扉ガチャ「キャー、エッチ!!」「いや、すまん……」』
 実践後、パッと顔を輝かせるロック。
『これいいかもな。格好良いよ、男らしくて。よし、これで決まりだ!身体に馴染ませるようにあと何回かやっておこう』
 そう言って、ロックは嬉しそうに練習を始めた。
『扉ガチャ「キャー、エッチ!!」「いや、すまん……」』
『扉ガチャ「キャー、エッチ!!」「いや、すまん……」』
『扉ガチャ「キャー、エッチ!!」「いや、すまん……」』
『扉ガチャ「キャー、エッチ!!」「いや、すまん……」』
『扉ガチャ「キャー、エッチ!!」「いや、すまん……」』

『うんうん、いい感じだな。これでいつ嫁さんが来ても大丈夫だ!』

「冒頭で言いましたが、この男が住むのは長屋であります。隣の家と薄い壁を隔てているだけですので、声はだだ漏れです。更に、壁に丁度小さな穴も開いていて、覗ける様になっていました。隣の家から甲高い声が聞こえてくるので不審に思った隣家のセイ=ハッチという男なのですが。気になって覗いてしまいます」

『おい、お前……』
 セイ=ハッチは穴を覗きながら、台所で料理をしている女房に声をかける。
『なんだい』
『いや、隣のロクさんなんだけど、いよいよおかしくなっちまったみたいだよ。さっきから一人で「ガチャ、キャーエッチ」とか言って、気持ち悪い声出してんだよ』
『……なんだいそれ。お隣のロクさんがおかしいのは今に始まった事じゃないでしょ。放っておきなさいよ』
『あ、おい』

「女房はそれだけ言うと家事の続きを始めますが、セイ=ハッチは好奇心には勝てず、いい加減不気味になってロックに声をかけます」

『おい 、ロクさん』
『あ、セイやん』
 隣の壁から話しかけられたロックは嬉しそうに声を上げる。
『……あのさ、申し訳ないけど勝手に見させてもらったんだが……さっきからそれ、何してんの?』
『ん?練習だけど』
 当たり前の様にあっさりと答えるロック。だが、当然セイ=ハッチはそれだけでは何の事か分からない。
『練習って、何の?』
 そう聞かれてロックは更にきっぱりと答えた。
『決まってんじゃん。着替えをうっかり覗いちゃった時の練習だよ』
『何の練習してんだよ!そんな練習があるか!初めから覗く気満々やないかい!』
 ロックの奇想天外な返答に、思わずセイ=ハッチは大声で突っ込んでしまう。
 ロックはそれに対してへらへら笑いながら手を振り、弁明する。
『違う違う、そういうんじゃなくてさ。万が一、偶然そうなった時のというか。そうなっても動じずいる為というか。「ムフ♪」を押さえてどれだけ男らしく「いや、すまん」が言えるかという、来るべきその瞬間の為の、男の意地を示す練習なの。ね?セイやん、分かるでしょ?』
『……ああ、分かった。お前が変態だという事がな……』

 酒場は大爆笑の渦であった。
 只々面白い。ロックの陽気さが、純粋さが、考え方が。まるで本当に存在する人間かの様なリアリティと「いや、こんなアホなヤツがいる筈がない」という矛盾とのバランス。それらが絶妙にマッチして、人々の笑いを誘う。一つ一つの発言やネタの面白さ+人物に対する愛しさで笑いが加速する。
 カンエもチョウカもミギチカも、皆、身分等気にする事なく、自然と笑っていた。
 サブリミナル姫など、ジンダ=スプリングの肩をバンバン叩いて、泣きながら笑い転げている。

『まあいいよ、よく分からないけど練習なら。でも頼むから憲兵に捕まる様な事だけはしてくれるなよ』
 それだけ言うとセイ=ハッチは覗き穴からその場を離れた。

『あ、ちょっとセイやん!待って!誤解だよ!……あーあ、行っちゃった。うーん、分かってくれると思ったんだけどなあ』
 腕を組んで悩んだのも一瞬、まあいいかと思い直して、ロックは今度は別の状況を想定する。
『後は何かあるかな。共同生活と言えば、着替えだけじゃあないよな。あとは……そうだ。風呂もあるよな』
 そう言うとロックは口の端を持ち上げ、ニヤニヤと笑いだした。
『俺はあくまで、ただあくまで!!嫁さんのいる生活に慣れていないだけで、普段通りお風呂に入ろうと思ったら!まさか誰かが入っているなんて!夢にも思わなくて!だって慣れてないからね!そういう事は、共同生活の初めには往々にある訳であって!』
 大声で誰かに言い訳しながらも、ロックは先程と同じように風呂の扉を開けるジャスチャーを始める。
『オイラが風呂の扉をガチャっと開けるとそこには嫁さんが……「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
 ごく自然に流れたそのファーストシミュレーションに、ロックは再び首を傾げる。
『うーん、今度は「ムヒョッス!!」と来たか……。これがオイラの魂から零れ落ちた正直な言葉なんだろうけど、やっぱりこれは良くないよな。「すまん、そんなつもりは……」か?「いや、まさか誰か入っているとは……」とか?』
 ロックはしばらく良い台詞を考えるが、ふと何かが根本的に間違っている事に気が付いた。 
『なんだかオイラさっきから謝ってばかりだな。言い訳がましいし、全然男らしくないや。というかさ、夫婦なんだから、着替え見ようが風呂を見ようが、何の問題があるってんだよ』
 そこへ思い至ると、顔を上げ、堂々と胸を張る。
『そうだよ!あれこれ考え込んでる方がおかしいんだ!男らしくいこう。飾り気のない言葉で良いんだよ!そう……答えは初めから決まっていたんだ!「ムヒョッス!!」でな!』

 そして始まった。男ロックの「嫁の風呂を覗いてしまった時の対処法練習」が。

『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』
『風呂ガチャ「キャー、エッチ!!」「ムヒョッス!!」』

 何度も何度も繰り返し練習して、ロックは汗だくである。だが、その瞳に宿る魂の灯は、決して消える事はなく、爛々と燃え盛っている。
 全ては来たるべき「嫁の風呂を偶然覗いてしまう」その瞬間の為。
『よし、もう少しで何か掴めそうだな……後20セットいっとこうか』
 額の汗を拭いそう呟くと、ロックは更なる研鑚を重ねる。

「またしてもおかしな事を始めたと、再び観ていますのが隣のセイ=ハッチ。奥さんに話しかけます」

『おい、隣のロクさん、やっぱり頭おかしくなったんだって。さっきは着替えを覗いていたけど、次は風呂を覗いてるよ』
『まさか。一体誰のを覗くってのよ。ロクさんは一人身じゃないの』
『いや、それはそうなんだが……うーん、どう説明したらいいものやら』 
 そうこう言っている内に、セイ=ハッチの女房はどこかへ行ってしまった。
『いや、おい!本当なんだから、見てみろよ』

 その声を聞いて、再びセイ=ハッチがいる事に気が付いたロック。嬉しそうに壁に向かって声をかける。
『セイやん。戻ってきてくれたんだね』
『いや、お前があんまり騒がしいからだよ』
 言い訳がましくそう述べるセイ=ハッチにロックは笑顔で手招きする。
『セイやん。そこから覗いてばかりいないでうちへおいでよ。覗きは良くないよ』
『お前にだけは言われたくないよその台詞』

 そしてセイ=ハッチは渋々ロックの家へと行く事になった。

『いやあ良かったよ。こういうのはやっぱり先輩の妻帯者に聞かないとね』
 安心しきった表情のロックにセイ=ハッチは要領を得ずに訊ねる。
『いや、一体何の話をしてんだよ?』
『いやいや、セイやんに教えてもらおうと思ってさ』
『何を?』
『そうだね。着替えと風呂に関しては独学で大体掴んだからさ。次は……トイレかな?トイレの時はどうすんの?』
『トイレの時って何だよ?』
 セイ=ハッチが怪訝そうに聞くと、ロックは平然と答えた。
『決まってんじゃん。トイレ覗く時だよ』
『何言ってんの!?お前トイレ覗く気かよ!?変態じゃねえかよ!?』
 セイ=ハッチが軽蔑の眼を向けてそう言うと、ロックは何故か大笑いする。
『何言ってんのセイやん。嫌だなあ。さっきから言ってるじゃん。練習だって』
『だから練習ってなんだよおおおおおお!!』
 セイ=ハッチはとうとう叫び声を上げて突っ込んだ。


 酒場は大爆笑に包まれている。
 魔法使いはひーひー腹を抱えて、呼吸も困難な程である。
 いつも厳粛な雰囲気の彼らがこんなに笑っているのを、ミヤビは初めて見た。 
――凄い……。面白い。
 ミヤビ自身も素直に感動していた。
 ただ話術のみで人を引きつけ、魅了するその業。
 これが、ラクゴ。


「えー、ロックがなんとか事情を説明しますと、疑いの目を向けておりましたセイ=ハッチもようやく理解してくれます」

『なるほど、そういう訳か。いや、こいつはめでたい!とうとうお前さんも所帯持ちか!』
 セイ=ハッチは本当に嬉しそうに、ロックに言う。
『ありがとうセイやん。だからさ、俺練習したいんだよ。今まで誰かと暮らした事なんかねえしさ。それなのに突然美女が来るってなったら、どうしていいか分からないよ』
『うーむ、そうだな。分かった!それなら喜んで協力させてもらおう!』
『ありがとうセイやん!』
 二人はがっちりと友情の握手を交わした。
『だが、その「覗く練習」ってのは良くないよロクさん。根本的に間違っている。やるならもっと男らしいシチュエーションの練習がいいな』
『ほうほう。もっと男らしいシチュエーションと言うと?』
 セイ=ハッチの意見にロックは興味津々である。
『ズバリ「虫が出たから退治してあげる」とかな。ほら、リブキゴが出たりした場合だよ。女ってのはリブキゴが本当に嫌いだからな』
『なるほど!そういう事もあるわな。そん時はオイラが守ってやらないと』
 セイ=ハッチは力強く頷く。
『ああ、その通りだ。うちの女房も昔はリブキゴ見るときゃあきゃあ騒いで可愛かったもんだけどな。今じゃあ足でグチャリと踏み潰して笑ってるよ。あそこまでいくともう女じゃないね。モンスターだよ』
『おいおいセイやん、そんな事言ってたら奥さんに聞こえるよ』
『聞こえたって構うもんか!ガツンと言ってやるぜ!』
 豪気にそう答えるセイ=ハッチにロックは最高の頼もしさを覚えた。
『ロクさん。お前「リブキゴイホイホ」の魔法使えたろう?』
『ああ、通信講座で習ったヤツな。「これで貴方も伝説の魔導師」ってキャッチコピーの』

 この件には魔法使いをはじめ、酒場の全員が弾かれた様に笑った。
 これは完全な時事ネタである。「リブキゴイホイホ」とは今サイトピアで流行っている通信魔法講座である。魔法ランクで言うならフンババと同等であるその魔法は、同封の専用杖を使えば魔法使いでなくても唱える事が出来ると、口コミで評判になり大流行しているのだ。

『えーっと、確か専用杖は押入れに……ああ、あったあった。よし、じゃあ練習するか。セイやん、嫁さんやってよ』
『了解』
 頷くと、セイ=ハッチは即座に肩を丸めてしなを作り、ノリノリで甲高い声を上げた。
『キャー、リブキゴよ!助けてー』
 ロックが杖を持ち、詠唱を始める。
『「闇よりいでし異形の民よ……世界を照らす光と共に、消滅せよ。光属性魔法リブキゴイホイホ!」』
 えいと杖を掲げると、パッと小さな光が輝き、直ぐに消えた。攻撃対象のリブキゴがいないので、効果自体は何も起きていない。実際はリブキゴが発生した光の中へと吸い込まれ、消えて行く魔法である。
『どうだった?』
 結果を訊ねるロックにセイ=ハッチはうんうんと頷いてみせる。
『うん、悪くない。初めてにしてはかなり良いセンいってるんじゃないか。後はもっと個性を出しても良いかもしれないな』
『個性か……分かった、やってみるよ。セイやん。頼む』
『おう』
 了解すると、セイ=ハッチは再び肩を丸めてしなを作り、甲高い声を上げる。
『キャー、リブキゴよ!助けてー』
 するとロックはサッとセイ=ハッチの前に両手を広げて立ちはだかる。
『危ない!ここはオイラに任せて下がってな!「闇よりいでし異形の民よ……世界を照らす光と共に、消滅せよ。光属性魔法リブキゴイホイホ!」』
 再び小さな光が輝くと、直ぐに消えた。
 このロックの対応にはセイ=ハッチも拍手で称える程であった。
『格好良いじゃないか!「危ない!下がってな!」が良い味出してるね。滅茶苦茶格好良いよ』
『おお、本当かい?』
『ああ、正直言って今俺はきゅんとなった』
『おお、そうか!!やった!』
 笑顔で喜びを分かち合う二人。

『じゃあちょっと聞いてみようか。ね、今の良かったですかね?セイやんの奥さん』
 ロックはそう言うと、家の壁に向かって話しかけた。
『ええ、そうね。悪くなかったわね』
 間髪入れずに壁から返事が返ってくる。
 見ると、壁の穴から覗いている瞳が一つ。

『え……』
 そこでセイ=ハッチの表情が凍りつく。

『えーと……いつから見てたの?』
 セイ=ハッチのその問いにロックがあっけらかんと答える。
『え?セイやん気づいてなかったの?ついさっきだよ。「うちの女房も昔はリブキゴ見るときゃあきゃあ騒いで可愛かったもんだけどな。今じゃあ足でグチャリと踏み潰して笑ってるよ。あそこまでいくともう女じゃないね。モンスターだよ」ぐらいからかな』
『いや、言えよ!言ってくれよ!』
 セイ=ハッチは物凄い剣幕でロックを非難する。
『え?オイラ言ったよ?「おいおいセイやん、そんな事言ってたら、(今そこで覗いている)奥さんに聞こえるよ」って』
『いや…………いるって言えよ!』
『ああ、そうだね。あはは、ゴメンゴメン』
『ゴメンゴメンって……お前。そんな軽く。夫婦生活を一体何だと思ってやがるんだ……』
 今にも消え入りそうな声で呟くセイ=ハッチ。壁からは更に追い打ちをかける言葉が放たれる。
『その後の「聞こえたって構うもんか!ガツンと言ってやるぜ!」もしっかり聞いていたよ。楽しみだね、どうガツンと言ってくれるのか。……あんた、帰ってきたら後で話があるからね』
『…………はい』
 セイ=ハッチのテンションは一瞬で地獄まで落ちていった。
『セイやん。夫婦生活は「にんたい」と「おもいやり」だよ。ガンバ』
『…………』
 ロックの軽口に言い返す気力もないセイ=ハッチであった。

「とまあ馬鹿な事をやっております、いつも賑やかな長屋でございます。そして数日後、このアホな男の家に、とうとうエルフの嫁さんがやって参ります」
+注意+
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