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異世界落語 作者:朱雀新吾

クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】

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クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】②

 サイトピア城下町、極楽酒場。そこではまもなく毎度お馴染み、楽々亭一福の落語が始まろうとしていた。

「あれ?ミヤビじゃん。珍しいな。何してんのこんな所で」
 クランエの隣の席に座っている女性を見て、思わずラッカは声をかけた。
「あはは、ラッカ兄。いや、クラ兄に誘われてさ。ラクゴを聞きにきたんだ。実は前から気になっていて、いつかは行こうと思っていたんだけどね。良い機会になったよ。ありがとうね、クラ兄?」
「いやいや、お前も少しは気分転換をしないとな」
 そう言うとクランエは穏やかな笑顔をミヤビに向ける。
「えへへ……」
 ミヤビは直ぐに顔を赤らめて下を向いた。
「ふうん……。まあ旦那の落語は一遍は聴いておいた方が絶対良いぜ。すぐに二遍も三遍も聴きたくなるからな!」
 ケラケラ笑いながらラッカはミヤビにそう言った。
 兄譲りのふわふわした栗毛にはリボンの装飾の髪飾りがつけられている。ここが酒場だと忘れてしまいそうな程色彩豊かな花柄のワンピースを着て、随分と洒落こんでいる。
――まあ、ミヤビがクラから誘われるなんざ、そうそう無いからな。女子として気合が入るってもんだろう。

 ミヤビ=ブルース。ラッカの元相棒、今は亡きピート=ブルースの妹である。宮廷育ちのラッカとクランエとは兄妹同然に育ってきた。
 特に、優しい性格のクランエに幼い頃からよくなつき、心を寄せてきた。

――こ、これってやっぱり……デートなのかな。

 クランエから落語に誘われて、ミヤビは天にも昇る気持ちだった。
 最近ではお互い仕事が忙しく、会う事すら難しい。
 だが、ミヤビが以前言っていた「ラクゴを観てみたい」という言葉をクランエはちゃんと覚えていてくれ、誘ってくれたのだ。嬉しくない筈がなかった。

 ワクワクしながらミヤビは落語が始まるのを待っている。城下町の酒場に来る事自体久しぶりである。目に映るもの全てが新鮮で、きょろきょろと周囲を見回していると、ミヤビはある事に気が付いた。

「あれは……」
 向かって右側のテーブルに座っている短く白い髭を蓄えた、銀色の甲冑を着た中年男性。あれはひょっとして、王宮騎士団長のカンエではないだろうか。数名の騎士が取り巻きとして同じテーブルに座っている。間違いない。
 そして、向かって左側のテーブル。長くて白い顎髭を蓄えている、ローブを着た中年男性。あれは王宮魔法隊長のチョウカである。カンエと同じく、弟子を何人か連れてきている。
 更に正面には黒い髭を顔面に蓄えた青年か中年か分からない恰幅の良いドワーフ。その額にはこの世のものとは思えない程美麗で精巧な細工を施された王冠を被っている。あれはドワーフ国の新たな王、ミギチカで間違いない。
 そして、奥の席でフードを目深に被っている小柄な少女はもしや、サイトピア国第一王位継承権の持ち主、サブリミナル姫ではないだろうか。隣にサイトピア軍参謀長のジンダ=スプリングがいるので、これも間違いなさそうだ。

 サイトピアの重鎮から王女、ドワーフ王。錚々たる面子が一介の城下街酒場に勢揃いしていた。 
 それはきっと、ラクラクテイイップクの「ラクゴ」を観る為。

――ラクゴとは、一体……。 
 ミヤビは落語に触れるその前から、底知れぬ存在感に、呑まれそうになった。

 ミヤビの視線に気がついたクランエがフッと口元を緩め、説明する。
「ああ、姫やドワーフ王か?お二人とも公言されている通り、すっかり落語にはまってしまわれてな。あの様に姫はお忍びで、ミギチカ様は堂々と、落語を観においでになっておられるのだ。カンエ様にチョウカ様はまた少々事情が違うが……。度々ああやってお供を連れ、一福様を御自分の部隊に勧誘されにきているのだ」
「へえ」
 ハナシカが宮廷に誘われている。その話はミヤビもよく知っていた。
 落語によって生み出された剣技と魔法。その力の秘密をなんとしても得る為に騎士と魔導師の長であるカンエとチョウカが火花を散らしているのだ。

「ふん。ヤツらめ、性懲りもなく毎度やって来おって。いつもの様に私が追い払ってやるわ」
 どこから現れたのか、ダマヤがミヤビの隣から顔を出し、忌々しそうにカンエとチョウカを睨みつけていた。
「これはダマヤ様、ごきげんよう」
 ミヤビはすぐに挨拶をした。
「おお、これはミヤビ殿。御無沙汰しておりますな」
「え、ええ……」
……御無沙汰も何も、先程会ったばかりなのですが。
 ミヤビは口からこぼれそうになる言葉をぐっと堪えた。
 その態度がダマヤの見栄なのか本気なのか、ミヤビには正直計り知れなかった。
――まあいいか。
 ミヤビは話題をかえる為、努めて明るい声を出す。
「いやあ、それにしてもラクゴって凄いんですね。カンエ様やチョウカ様があそこまで執心されるなんて」
「ふん。私が門前払いにしてやっているのですがな!」
「あはは……」
 ダマヤに向かって笑い返すが、ミヤビは知っていた。
 以前、宮廷に返り咲く為に、ダマヤがハナシカを簡単に売り払い、チョウカの靴をぺろぺろと率先して舐めた事を。
 先程の発言にしろ、その爽やかで何の後ろめたい感情も見受けられない表情から判断すると、どうやらダマヤは見栄を張っている訳ではないようだ。彼は自分の過去の汚点を完全に忘れているだけなのだ。
 自分の都合の悪い事は完全に無かった事に出来る。それこそダマヤの持つ唯一無二の才能であった。

「さあミヤビ殿。そろそろはじまりますぞ」 
 ダマヤがミヤビにそう言うのと同時に、クランエが慌てて声を上げた。
「あ、私は出囃子の太鼓を叩かねば!ミヤビ。ちょっと行ってくるから。すまない」
「あ、クラ兄!待って」
 ミヤビの制止も聞かずにクランエは颯爽と走っていってしまった。
「クラ兄……」
 不安そうにクランエの去った方を眺めるミヤビにダマヤが笑いかける。
「大丈夫ですよミヤビ殿。落語が始まる際に『出囃子』といって曲が流れるのですが、クランエはその太鼓を担当しておるのです。叩き終えたらすぐに戻って参りますから、ご安心を」
「……そうですか。それなら良かったです」
 出囃子の説明をしながら、ダマヤが当然の様に自分の隣の席に腰を落ち着かせている事に、ミヤビは驚愕を覚えた。
 茶化し魔で空気の読めないラッカでさえ、クランエと二人きりにしてあげようと、気を使って少し離れた席に座ってくれているのに。
 きっとダマヤはミヤビの気持ちにすら気づいていないのだろう。だからこんな行動が取れるのだ。
 恋する乙女の敵であった。
「ふっふっふ……ミヤビ殿」
「なんでしょう?」
 不気味な笑みを浮かべながら顔を近づけてくるダマヤが、そっと囁いた。
「ガ★ン★バ★で★す★ぞ。私がしっかり落語観劇をサポートして差し上げますから。クランエのハートをガッチリキャッチするのですぞ」 
 気づいていた!!!
 気づいていた上で平然と隣の席に座ったのか!!
 その想像の遥か上を行く凄まじい空気の読めなさ具合に、ミヤビは戦慄を覚えた。

――この方はやはり……モンスターだ。
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