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異世界落語 作者:朱雀新吾

クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】

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クランエ師匠のドキドキ☆ラブラブ大作戦【延陽伯】①

 サイトピア国宮廷執務室。そこでは秘書官が大臣に対魔族戦に関しての近況報告を行っていた。
「ドワーフ国の奪還に成功した今、我らが軍勢の士気は完全に高まっております。ミギチカ新王の下に大半のドワーフ兵は返しましたが、種族間の結束の証としまして、エルフドワーフ同盟隊は存続する事となっております。きたるエルフ国の奪還に向けても最大限の協力をして頂けると、ミギチカ新王は約束してくれました」
「そうかそうか。うむうむ。よいぞ」
 大臣は心から満足そうに頷く。
「二体のエンシェントドラゴンにかかっては、いかな魔族といえども、ひとたまりもなかっただろう」
「ええ、勇者ラッカは最高の武勲を上げてくれました」
 ミギチカ新王と共に対のエンシェントドラゴンで魔族からドワーフ城を奪還した勇者ラッカ=シンサ。
 サイトピアの勇者が、ターミナルの勇者へと成長を遂げようとしていた。後に伝説として語られる勇者ラッカ、武勇の始まりであった。
「このまま『伝説の拳師ミスターカカット』の頂きまで登り詰めるのではないかと、世間では専らの噂です」
「ミスターカカットだと!?」
 秘書官が口にした一世代前の英雄の名に、大臣は苦々しい表情を浮かべる。
「ミスターカカットは、確かに武勲は今のラッカと同じく、いや、それ以上に凄まじかったが。だが奴は武勲よりも更にその奇行が目立っておったからの……。まあ、それもまたラッカと一緒ではあるか」
 自分で言いながら最終的には納得してしまうが、それでも、腑に落ちない様子の大臣。

「ミスターカカット」とは、二十年以上前にサイトピアで活躍した英雄の名である。
 凶悪な魔族や、魔神すらものともせず、その華麗なる体術で一気呵成に打破した、無敵の人物である。
 額に「K」の文字が書かれた覆面を被っている為、その正体は謎に包まれている。
 摩訶不思議な容姿と、二十年前のある時点からふと姿を消した事により、謎の英雄として語り継がれる事となった。

「まあ、ヤツの事だ。どこか人知れぬ闘いででも命を落としたのだろう。さあ、カカットの話はここまでだ」
 そうきっぱりと断言して、大臣は話を戻す。
ミスターカカットの話になるとこの様に大臣はいつも不機嫌になるので、秘書官は密かに怪訝に思っていた。 

「ラッカめ。ドラゴンを得たとなるとあとはやはり聖剣なのだがな。ヤツめ、どこぞに売り払ったと言っておったか」
「本人から直接話を聞いてみますと、売ったのは露店商だったそうで。方々探させてはいるのですが、難航しそうです」
「ううむ……」
 大臣は渋い顔で俯いた。聖魔の洞窟で勇者が聖剣ではなく、魔剣を選び、振るっているというのは、やはり色々と具合が悪い。早く聖剣を手に入れてラッカに装備させなくてはならない。

「まあ大臣。勇者ラッカにはまだまだ悩まされそうですが、状況としてはこちらにとってかなり優勢になってきております」
 秘書官は明るい声で大臣を励ます様に言う。
「魔族はターミナル全土に手を伸ばす事により、戦力を分散させ過ぎました。総力ではこちらに分はありませんが、魔族の小隊に対して、こちらが全種族で結束して当たれば、各々の戦況で負ける事はありません。つまり、お互いの総力戦にさえならなければ、我々にも勝ち目はあるのです。ジンダ=スプリング様もそう仰ってました」
「うむうむ。風向きは完全にこちらのものと言う訳だ」
 憂鬱な気持ちを忘れ、笑顔で頷きながら、大臣はふと思った。

――本当に、一体いつからあんなに絶望的だった状況が覆ったのだろうか。何か原因でもあるのか。

 大臣は思い返してみたが、それが明確にいつからの事なのか、答えは出なかった。
 秘書官にそれを訊ねたなら即座に「救世主召喚に失敗したダマヤ様を追い出してからです」という答えが返ってくるのだが、それを聞いた所で大臣は「そうか。疫病神を追い払ったおかげか!なるほど、そういう事だな!」と明後日の方向へと思考を飛ばしてしまうのは、目に見えていた。
――まあよい。原因は分からなくとも、悪い事が起きている訳ではないのだから。
 大臣はそう考え、ふと浮かんだ疑問をすぐに打ち消した。

 だが正面を見ると、今度は秘書官が少し小首を傾げている事に気がついた。
「どうした?何か気になる事でもあるのか?」
「ええ、魔族に関して実は少々、私には理解出来ない部分がありまして」
「なんだ。言ってみろ」
 秘書官が積極的に疑問を口に出す事自体珍しい。大臣は興味を持ち、意見を促した。
 だが、秘書官の口から語られた疑問は、予想以上の鋭さで大臣自身の胸を貫く事になる。

「何故魔族は攻めあぐねているのでしょうか?」

「…………ほう。どういう事だ」
 自分の表情が凍りついた事に秘書官が気が付いたのではないか。大臣は動揺を隠し切れなかった己の未熟さをその一瞬で、悔いた。

「先程も言いましたが、魔族の勢力は絶大です。抵抗する隙もない程の時間で他国を制圧したと聞きます。なのに、何故サイトピアにはそう簡単に攻めてこないのか。小規模な戦闘なら城下外でも行われてきましたが、戦争と呼べるものでもない、小競り合いばかりです。魔族は我々サイトピアに対してだけ、どうしてこうも慎重なのでしょうか」
「……それは、あれだろう。我々サイトピアが他国よりも強大な軍を持っているからであろう。魔族共も一朝一夕にはいかぬと、恐れ、様子を窺っているのだ」
「なるほど」
 大臣の解釈を聞き、秘書官は半分は納得して頷いた。だが残りの半分、尚も疑問が残る。
「確かにサイトピア軍は他国に比べますと強大ではあります。ですが、やはり相手が魔族となりますといくら身内びいきをした所で、悔しいですが戦力では比べものになりません」
 凶暴な魔物を率いる魔族の力は、ターミナルでは絶対的なものとして恐れられていた。更に彼らは驚異的な威力を秘めた、呪われた闇属性の魔法も使いこなすのだ。秘書官の言う通り、魔族が本気になれば明日にでもサイトピアを滅ぼす事が出来るだろう。
「それが何故自ら戦力を分散させ、結果、我々サイトピアだけ周囲を取り囲み、じわじわと攻めるか攻めぬのか分からない態度を取っているのか……」
 秘書官の瞳に大臣への猜疑心は窺えない。本当に、心から理解出来ないといった表情である。
 大臣は部下の様子を内心注意深く観察しながら、なんとか次の言葉を絞り出す。
「うむ……つまり、それはだな……うむ。そうだ、カカットが原因かもしれんぞ」
 大臣は自ら逸らしたカカットの話を、別の話を逸らす為にやむなく引き戻した。
「カカット?ミスターカカットですか?」
「ああ、ヤツには魔族も随分痛い目を見ているだろう。その恐怖が魔族を寸での所で尻込みさせているのかもしれんぞ」
 我ながら苦し紛れだと内心舌打ちをしながらも、大臣はもっともらしく持論を展開する。
 だが、優秀な秘書官がそんな話で納得する筈もない。すぐに反論される。
「ですが、ミスターカカットの消息が途絶えた事は魔族にも当然伝わっているでしょう。二十年間消息不明の英雄を魔族がいまだに恐れているとは考えにくいと思いますが。それならまだ勇者ラッカを恐れているという話の方が信憑性は高いでしょう。魔族軍の将軍シーンダと互角に刃を交えたりと、近年に於ける因縁もありますし」
「ううむ、いや、そうなのだが。だが、カカットが死んだという確証がある訳ではないというのもまた事実であってだな……」
 最早しどろもどろの大臣に、秘書官は訝しげな表情で聞いた。
「……もしかして、大臣はミスターカカットの正体をご存知なのですか?」
「…………!!」
 まさにヤブヘビだった。
 話を逸らそうとして逸らした話を引き戻した所、今度は別の核心を突かれてしまう。
 先程以上の大臣の動揺は当然、秘書官にも伝わっただろう。
「いや、あんな覆面男の正体など私は知らんがだな。そうだ、カカットと言えば当時『複数人正体説』というのが巷に流れた事があってな……」
 大臣が新しい言い逃れを口に出そうとしたその瞬間、執務室の扉が強く叩かれた。
「誰だ。入れ!」
 大臣が早口でそう言うや否や、部屋へと飛び込んできたのは補佐官であった。
「城門でダマヤ様!……いえ、ちりとてダマヤちんが!」
「またあやつか……毎日毎日懲りんヤツだ」
 大臣は頭を抱えて机に肘をつく。
 だが、内心ではホッとしていた。

「ちりとてダマヤちん」が現在のダマヤの呼び名である。
 ある日、突然執務室を訪れたサブリミナル姫が命名していったのだ。
「大臣。これはわらわからの重大なメッセージなのじゃが……まあ、お主には分かるまいな……」
 そう言って美しい表情で姫は笑ったが、言う通り、大臣には意味が分からなかった。

「大臣。この度のドワーフ国奪還について『ラクゴ』が関与しているとの事でして、話を聞いて欲しいそうですが、どうされますか?」
「ええい、追い返せ。ヤツの話など聞きたくないわ!」
 大臣は忌々しく吐き捨てた。
 補佐官は困った表情で再び口を開く。
「いえ、ですが……今日はちりとてダマヤちんは全身に腐った玉子を巻き付けてきておりまして。『色よい返事がもらえなければ、それらを全て割って、城門を臭くする』と喚いておるのです」
「……あやつは一体何を考えておるのだ。そもそも『城門を臭くする』とはなんだ。どういう脅しなんだ。訳が分からん」
 姫がその場にいたなら「腐った玉子?それはまさに『ちりとてダマヤちん』の名に恥じぬ行為じゃな。はっはっは」と大笑いしていた事だろう。

「……まあよい。城門を臭くされてはかなわん。秘書官、お主が行って説得して来るがよい」
「はい」
「説得して追い返せ。それが終わったら、お主、今日は用事があると言っておったな。そのまま帰ってよい」
「……はい。では、失礼します」
 秘書官は命じられるとすぐに補佐官を伴い、部屋を出て行った。

 秘書官ならダマヤぐらい直ぐに説得出来るだろう。

 大臣は一人になった執務室でしばらく呆然と天井を眺め、大きく息を吐いた。

――今回ばかりはダマヤに救われたな……。いや、そんな事はない。誰がヤツなんかに……。本当に……迷惑なヤツだ。

 大臣は脳内でも必死にダマヤを否定し続けた。
 そしてその次に秘書官の言葉を思い返す。

――何故魔族は攻めあぐねているのでしょうか?

「分かっていた事だが、聡い者だ。まったく、なんと愚かな。いつまでも隠しきれるものでもなかろうに…………」

 溜息を吐き、自嘲気味に呟きながら、大臣は窓の外を眺めた。
 そこには秘書官にたっぷり説教されたダマヤが、城門前で泣きながら武装解除して(腐った玉子を外して)いる姿があった。
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