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異世界落語 作者:朱雀新吾

ちりとてちん【ちりとてちん】

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ちりとてちん【ちりとてちん】――解説――

 ちりとてちん【ちりとてちん】でした。

 ストーリーに関しましては、本編の通りです(笑)。
 一福がそのまま「ちりとてちん」をするというお話です。
 正々堂々、正面からの直球勝負をいつかはやりたいと思っておりましたので(見たか、落語はこんなに面白いんだぜ!という話ですね)、「笑わない姫君」のこのタイミングでやれて、結果的に一番良かったかなと思います。

 創作裏話として、一旦話を引いて、ターミナルの他の芸人も入り交じっての、姫君を笑わせる天下一笑道会的展開にしようかとも思ったのですが、なんとなく今回は敬遠しました。
 ターミナルの他の芸人には興味あるのですけどね。
「一福の本気」というテーマが優先でしたので、それが一番映えるシチュエーションにしたつもりです。

 さて、ネタの解説です。
 この「ちりとてちん」というネタは、かなり有名です。
 朝の連続テレビ小説のタイトルでご存知という方もいらっしゃるかと思われます。
 いやあ、あれは本当に面白かったですね。毎日楽しみにして観ていました。落語モノのドラマは本当に傑作が多いです。
 上方では「ちりとてちん」江戸では「酢豆腐」と、名称が変わる落語です。
 内容も少々変わりますが、私自身が慣れ親しんでいるのはやはり上方版であり、内容的にも「ちりとてちん」が好きなので、ミックスもしませんでした。ですから今回登場したのも「喜六」だったという訳です。今までの話でもそうですが、全体的に私は上方寄りですね。といいますか「異世界落語」ではほぼ全て上方バージョンを参考にしています。
 ならば、やはり何故一福が関西弁でないのかというご意見も出るかと思いますが、そこはいつもの様に演出上の都合という事で、目を瞑って頂けたら有難いです。
 本当に面白い噺です。前半の喜六の可愛らしいまでの喜び様と、対称的な竹の嫌味ったらしいキャラ。ラストの竹のもがき苦しむ様は最高に痛快で、舞台では必ず盛り上がります。

 この噺に関して、実は私独自の持論があります。
 あくまで持論ですので、特に明確な根拠がある訳ではないのですが、一応発表させて頂きます。

「『ちりとてちん』は演者自身が性格が悪い人間であればある程、面白い」というものです。

 やはりこの噺の核となりますのは、後半の竹です。
 勿論前半の喜六と旦さんの件でお客様を飽きさせないというのは肝心です。
 ですが主役は誰かといいますと、最後にギャフンとナイスリアクションを披露する竹ですから、彼がどれだけ嫌なヤツかによってネタの出来は決まります。バッ○マンの敵役がフィーチャーされる様なものです。
 そうなると、演者自身も、普段から性格の悪い人間の方がごく自然に演じやすく、イコール竹の完成度に繋がるのです。
 性格の良い人が竹を演じているとどうしても人の良さがネタに滲み出てしまい「あー、無理しちゃって。本当は旦さんにあんな事言いたくない癖に……」と見ているこちらが気の毒になってしまうのです。それは人間性としては良い事なのですが、落語にとってはマイナスとなってしまいます。
 今回に限らず、噺家自身とネタの相性というのはとても重要な事でして、その人自身にあったネタというのは、その様な要因でも決められるものなのではないでしょうか。

 そして、私の一つ上の学年の先輩が、本当に「ちりとてちん」が上手くて、面白かったです。抜群です。悔しいぐらいに、面白いのです。
 いや、まあつまり、性格が悪かったという事ですが(笑)。悪いと言いますか、うーん、癖のある性格でした。
 ここではM先輩としておきます。
 いつかの解説でリアル一福君の落語口調の事を言いましたが、このM先輩も似たような感じでして。この人は本当に竹にそっくりです。
 ああ言えばこう言う。
 一言えば百返ってくる方。
 嫌味もそうですが、あとは小ボケ中ボケ大ボケを常に撒き散らす、まさに「関西人」的な人です。
 落研に入りたての私はまだ真面目でして、その一つ一つに反応しようとして、心身共に疲れ果ててしまいました。「関西は恐ろしい街だ」と初めて私に思い知らせてくれた方です。
 但し、何度も(といいますかほぼ毎日)奢って頂いたり、落語を全くしない私に創作落語の道を指し示してくれた恩人でもあります。
 あと、私と誕生日が同じだったりと、色々と縁のある方です。
 そんなM先輩は結局四回留年して、八年間大学に通い、私より大分遅れて卒業していきました。なかなかのダメ人間では、ありました。

 学生時代は本当に嫌で嫌でたまらなかったのですが、先程縁があると言いましたように、ひょんな事から卒業後に仕事場でばったり会いまして、それを機に交流が再び始まりました(しかもそれがお互いの誕生日の日だったりしたのです。なんという偶然)。
 人手不足で困っていた私の仕事を快く手伝ってくれる事もありました。
 まあ、本当は良い人でしたという分かりやすいオチですね。じゃあ持論はどうなるんだという話ですが(笑)。いやいや、持論が正解なら一福も性格悪い事になってしまうではないですか。ですので、これに関しては話半分だったと、聞いておいて下さい。
 ただ単に私が未熟だっただけなのです。
 卒業した後に会った時も変わらず、M先輩はマシンガンの様にボケや漫画の批判や世間に対する不満を並べてきました。以前までの私ならそれら一つ一つに対して突っ込みを考えては、結局すぐに行き詰まっていたのですが、正解はなんとも簡単なものだったのです。
「はいはい、分かりました分かりました。本当、よくそんなしょうもない事ばかり思いつきますね」
 これだけで良かったのです。
 その証拠にM先輩は私のその言葉に「ヒヒヒ」と笑顔を見せ喜んでくれました。
 とても嬉しかったです。
 関西で学んだ大きな事ですね。
 関西の人は笑いに関しての「無礼」に寛容なのです。
 たまにタメ口で突っ込む。これが本当に喜ばれます。先輩だからといって気を使うと逆に怒られます。そこは踵の精霊のぶを様に似ている所かもしれません。
「ほんとあんた最低だな!」とタメ口で突っ込むぐらいが、関西の人には丁度良いのです。
 ですから「まあ……なんて失礼な。目上の方にタメ口なんて……いけません!」という真面目な方は、関西には合いません。断言出来ます。関西圏には近寄らない方が身のためです。
 まあ中にはタメ口をきいて本気で怒る人もいますので、見極めが大事であり、これも絶対ではないという事だけご了承下さい。

 あと「ちりとてちん」を演じる人間は実際に「ちりとてちん」を作って食べる、というしきたりが私の落研にはありました。
「本当に腐った豆腐を食べてみない事には、竹の気持ちが分からない」という理屈なのですが、まあ、今考えるとなかなか凄い事をやっていたものだと思います。
 演じる部員は頑張って食べていましたが、本当に不味いものを食べた時のリアクションは、リアルに「おえ……」なんですよね。
 竹の気持ちにはなったものの、「おえ……」をそのまま落語で演じる訳にはいかない。やはり、笑える様に、コミカルに大袈裟にデフォルメして、高座ではお送りする事になります。
 つまり、ただのちりとてちんの食べ損になるというオチがつくわけです。
 これに関しましてもM先輩なんかは一枚上手でした。「ちりとてちんを実際に食べてしまったら、食べる前の純粋な竹の気持ちが分からなくなるやないか。役作りに支障をきたすわ。ボケが」という訳の分からない理屈で、見事に回避しておりました。
 そういう機転の良く効く、悪い一休さんみたいな人だったのです。

 ですが、私もそのしきたりは内心どうかと思っていました。その理屈なら、俳優さんや女優さんが「医者を演じるなら医師免許。弁護士を演じるなら司法試験合格。犯罪者なら逮捕歴がなくてはならない」となります。
 それならば、私だって廓ネタばかりやっていたと思います。「廓噺をするなら、やはりそういう店の雰囲気を知らなくては」と部費で歓楽街を練り歩く。うん、悪くないですね。いえ、冗談です(笑)。

 次回のネタは「抜け雀」です。普通に有名で、人情味溢れるとても良い噺です。私は好きです、このネタ。
「延陽伯」と最後まで迷ったのですが、今回が原典そのままの落語でしたから、次回はがっつりと異世界落語をやりたいと思い、ファンタジーにしやすいネタにしました。
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