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異世界落語 作者:朱雀新吾

MY FRIEND FOREVER【だんじり狸】

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MY FRIEND FOREVER【だんじり狸】④

 次の日、極楽酒場にレンが飛び込んできた。
「おじちゃんおじちゃん!ラッカおじちゃん。あ、クラ兄ちゃんも、こんにちわ」
「ああレン坊。こんにちわ」
 クランエは優しい表情でレンに挨拶を返す。 
「ねえラッカおじちゃんにクラ兄ちゃん、昨日、聞いた?」
 二人は含み笑いを浮かべて顔を見合わせると、わざとらしく首を傾げ、レンに訊ねた。
「ん?何をだい?」
「もう……夕立吟遊詩人だよ!」
「ああ……?ああ、あれを聞いたのかい、レン坊?」
「聞いたよ!昨日、夕立が降ってきたらどこからかリュートの音が聞こえてきたんだ。いたんだね、本当に!」
「だからいるって言ったじゃねえか。あいつは俺らが子供の頃からいるんだからよ。お前の父ちゃんは嘘なんてつかねえんだよ。なあ、クラ?」
「ええ、全くその通りです」
「うん!凄いや。わーいわーい!」
 レンは本当に嬉しそうに何度も両手を上げて喜んだ。
「それでね、さっき、隣町のヤツらがやって来たんだ」
「お、そうか。ちゃんとガツンと言ってやったか?」
「うん。僕が『昨日聞いたか!?リュートの音が聞こえただろう!』って言ったら、アイツら僕に謝ってきたんだ。『ごめん、お前の言う通り夕立吟遊詩人はいたな。昨日リュートを聞いた』ってさ」
「そうか!で、仕返ししてやったか?ボコボコにしてやったんだろうな?」
 ラッカが血走った目で訊ねたが、レンは笑いながら首を横に振る。
「してやろうかと思ったんだけど……中に僕より小さい子がいたからさ、叩くのはやめたんだ」
「…………そうか。そうか!レン坊は、えらいな。流石だ。流石だな!」
 ラッカが嬉しそうに何度も頷き、レンの頭を撫でる。
 クランエとナナセも顔を見合わせて笑いあった。昨日の苦労が一遍に報われた瞬間であった。

 さあ、これにて一件落着。良い話だった。
――と誰もが思った、その時である。
 レンが無邪気にラッカに話しかけてきた。
「ねえ、ラッカおじちゃん」
「おお、なんだレン坊?」
「今日も雲が厚いね!」
「…………………………ん?」
 その一言で、酒場内は一気に嫌な予感に包まれた。
「んーー…………そうだな。少し厚い……かな?」
「夕立がきそうだね!」
「うーふーん………………そう……かもね」
 ラッカは歯切れ悪く答える。
「今夜もリュートが聞こえるかな!?」
「…………うーんと……」 
 嫌な予感は的中した。ラッカはなんとかこの状況を取り繕ろうとする。
「いや、でもレン坊や。もういじめっこは謝ってきたんだろう?夕立吟遊詩人が本当にいるって事は、証明出来た訳で……」
「いや、実はさ。一人昨日早く寝ちゃって聞けなかった子がいてさ。その子だけ聞いていないって、今日からかわれてたんだ。ねえ、可哀想でしょ?だからさ、今日も出るよね?聞こえるよね?僕、その子に聞かせてあげたいんだ!」
「えーと………………ね」
 ラッカがすがるような表情でクランエとナナセを振り返ると、二人は直ぐに目を逸らした。
 それは、協力は昨日だけだというサインである。

「ねえラッカおじちゃん。今日も聞こえるよね!?」
「ええと……。いや、そうだな。……うん、今夜も……出るかもね……多分ねえ」
 そして、レンの輝く瞳に耐えきれず、とうとうラッカはそう答えてしまった。
 レンは飛び跳ねて喜ぶ。
「やったあ!じゃあその子に今から言ってくるね。今日聞けるよって!じゃあね!」
「あ、レン坊!レン坊!……あーあ、行っちまったよ。参ったね、あいつは……」
 そう言いながら、ラッカは背中に当たる冷たい視線を強く感じていた。
「…………えーと、ですね」
 ゆっくり後ろを振り返ると、笑いながら頭を下げる。
「……てなわけで二人とも、今夜も頼みます」
「このお調子者!」
「NOと言えない勇者!」
 当然、非難の矢が飛んでくる。
「何で今夜も来るなんて言ったんですか!誤魔化して下さいよ」
「そうですよ。風邪を引いたとか、成仏したとか、なんとでも言えばいいんですよ」
「そもそもなんで設定を雨の日にしたんですか?」
「雨じゃなかったらまだ何日かは構わないとも思いますけど、風邪でも引いたらどうするんですか」
「勇者は風邪引かないからいいかもしれませんけどね」
 散々言われ倒し、ラッカもいい加減我慢の限界だった。
「ええい!うるさい!お前達だってあの笑顔を前にして同じ事言えるのかよ」
 ラッカは文句を言い返しながらも直ぐに頭を下げる。
「明日になったらレン坊を上手い事言いくるめるからさ。本当に今日までだ!頼む!!」
「……」
「……」
 二人は困った様に顔を見合わせると、苦笑を浮かべるしかなかった。
「まったく、勇者に頭を下げられて、断れる訳がないでしょう」
「もう、本当に最後ですからね」
 ラッカは顔を上げると、救われた様な表情で二人を交互に見つめた。
「すまない。恩に着るぜ」

 そしてその日も予想通り夕立が降り、三人は橋の下へ集まると、小一時間ほどリュートを鳴らして、帰ってくるのであった。

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