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異世界落語 作者:朱雀新吾

火属性魔法こわい【まんじゅうこわい】

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火属性魔法こわい【まんじゅうこわい】⑤

 城下町の近辺にワープゲートを出現させ、魔族がサイトピアに攻めてきた。

「勇敢なる騎士団よ!民を守り、魔族を撃破せよ!」
 カンエは城下町の入り口に即座に兵を配置し、町の守りを固める。
 町の中には水属性障壁のカバーが掛かった大盾が魔法隊によって運び込まれている。
――ああ、あれがカムフラージュされている火属性障壁か……。
 カンエは障壁を目の端で捉えたが、直ぐに町の外を見遣り、魔族の動向を注意深く見据える。

 魔族の軍団は、魔法使い達が先頭に立つと、揃って詠唱を始めた。

 作戦通り、魔族の間者に情報が渡っているのなら、敵が使うのは火属性魔法の筈。
 カンエは固唾を飲んで敵の出方を伺う。

 大人数の魔法使い達が規則正しく同時に唱えている詠唱に耳を澄ます。
――ナガレナガレミズナガレヤトナリテキヲウチクダク……。
 その詠唱を聞いた瞬間、カンエは血相を変えて叫んだ。
「これは……水属性魔法の詠唱ではないか!!」
 カンエは確信した。
 魔族に情報が漏れたのだ。敵は一切火属性魔法を使わないつもりである。

 ◇  ◇  ◇  ◇

 数日前、魔族の城マドカピア。
 謁見の間で間者がマドカピア王にある報告をしていた。
「サイトピアでは現在、火属性魔法が怖いという噂が流れております」
「そうか、なら火属性魔法で攻めるのだ。ヤツらが一番怖れている方法で攻撃し、目的を果たすのだ」
 マドカピア王の雄々しい言葉に間者が首を振る。
「いえ、それはなりません」
「なに……?何故だ。ヤツらは火が怖いのであろう?」
「その様な情報を流して我々に火属性魔法を使わせようという魂胆でございましょう。サイトピアには現在『火属性魔法こわい』というラクゴがあります」
「ラクゴ……。先日ゴブリンの大群を滅ぼした『エターナル』を生み出したという……あれか」
「はい、その通りです」
「エターナル」の脅威により、ラクゴの存在はマドカピア王の耳にも入っていた。今回もそのラクゴが関わっているのだとしたら、慎重にならなくてはいけないだろう。
「『火属性魔法こわい』というラクゴはあるサラマンダーが『俺は火属性魔法が怖い、火が苦手だ』と言って、友人達に火攻めを誘導し、自らのレベルアップの為に利用するというストーリーです。ですから、ヤツらは我々に火が怖いとアピールしながら、火属性魔法を多用させ、火属性障壁を多く導入し、対抗するつもりでしょう」
「おお、それならつまり……」
「ええ、こちらはヤツらの裏をかいて、水属性魔法で攻めるべきかと思います」
 間者はそう言って、力強く頷いた。

 ◇  ◇  ◇  ◇

「おのれ!作戦を魔族に読まれていたか!」
 悔しそうに叫ぶカンエ。参謀に詰め寄る。
「おいジンダ=スプリング!策などを弄するからこうなるのだ。このままでは大打撃だぞ!どう、責任を取るつもりだ!」
 カンエの殺気をはらんだ剣幕にも表情一つ変えず、ジンダ=スプリングは答える。
「カンエ殿。心配せずとも俺はいくらでも責任を取る」
「は!その命を以てか!?」
 言っても詮無い事と分かっておきながらも、カンエはジンダ=スプリングを追求せずにはいられない。
 だがジンダ=スプリングの返答に、カンエは耳を疑った。
「命を以て?いや、俺の出世を以てだが?」
「出世だと……?こんな大失態を犯しておきながら、何故出世出来ると思っておる?血迷ったかジンダ=スプリング!」
 掴みかかろうとするカンエをひらりと躱し、参謀は言う。
「大失態ではない、大成功なのだ。カンエ殿」
「……なんだと?」
「敵は水属性魔法で攻めてきたか……うむ。では、チョウカ殿」
 ジンダ=スプリングは隣に控えていた魔法隊の先頭にいるチョウカを一瞥する。
 その時、魔族の水属性魔法が放たれ、町へと向かってきていた。
 それを眺めながら、チョウカはゆっくりと口を開く。
「王宮魔法隊。水属性障壁、構え」

 次の瞬間、魔法隊が障壁を発動する。魔族の放った水属性魔法は町の至る所に配置された障壁に次々に吸い込まれていった。

「な…………なんだと?」
 カンエは驚愕に目を見開き、呆然と立ち尽くす。
「これは、一体……どういう事だ?」
 その呟きに、ジンダ=スプリングが答える。
「裏の裏をかいた。あれは水属性障壁にカムフラージュした火属性障壁ではない。水属性障壁そのものだ」
 そこで参謀は初めて腰の剣を抜く。
「『火属性魔法こわい』作戦の真の内容はチョウカ殿だけに伝え、裏で段取りをしてもらった。民だけではなく、トップ連中も騙さなくてはならなかったのは心苦しかったがな。だが、お陰で魔族を出し抜く事が出来た」
 ジンダ=スプリングは一歩前に出て、剣先を魔族に向けると、大声で叫んだ。
「さあ、魔族の攻撃は防いだ。全隊、反撃!」

 初手を完全に防がれた魔族はサイトピア軍の猛反撃にあい、それから一時間もせずに退散していった。

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