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異世界落語 作者:朱雀新吾

アマテラス【平林】

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アマテラス【平林】①

 私の名前はナナセ=フラウ。
 魔法学校を卒業したばかり、魔法使いになりたての新人冒険者だ。
 お父さんが人間でお母さんがエルフで、私はハーフエルフ。
 だから元々魔力が強くて、特に考えもせずに魔法学校に入学して、卒業して、お父さんとお母さんが若い頃に出会った思い出の職業である冒険者になった。
 そう考えると私に自分の意志というものが存在するのか、不安になってくる。昔からの仲良しの友人にこんな事を言われた事がある。「ナナセが羨ましい。何も考えずにぽけーっとして、それで好きな様に喜怒哀楽を表に出せて。ストレスなんてないんじゃないのあんた?」と。
 確かに、その言葉は正解だった。
 私は特に考えない。常にぼけーっとしている。そして、流される時に流されて、笑いたい時に笑い、泣きたい時に泣く。突然怒り出したり、楽しくなったりも頻繁だ。 
 でも、それでも良いんだと思う。だって、それで16年間やってきたんだもん。目標だって、旅をしていたらきっと見つかるだろう。それを探す為に、冒険者になったんだって、後で思えればそれで良いんじゃないかしら。うん、そうに決まっている。

 私は晴れて冒険者になった事で、ハイテンションだった。
 散歩がてらに大河の方まで行ってみようと思い立ち、鼻歌混じりにテクテクと歩いていた。この付近はそんなに強いモンスターも現れないから、特に緊張感もない。道中スライム一匹と三十分に渡る死闘を繰り広げたが、見事に勝利し、初クエストの初戦闘を白星で飾った。

 そして大河に着いて、草原に腰をおろし、ぼんやりと水の流れを見つめていた。私は風属性なので本来なら風の囁きに耳を傾けないといけないのだけれど、たまには浮気したって風の精霊ジンは怒らないだろう。ジンとウンディーネは仲が良い精霊同士だし。
 だけど私は決して自分の踵を見ない様にした。風の精霊ジンと踵の精霊のぶをは仲が悪いと聞く。昔ジンが風邪を引いた時にのぶをがお見舞いでくれた踵サブレに虫が入っていたのを注意した時、のぶをがそれはゴマだと言い張ったからだそうだ。その後ジンは虫だ、のぶをはゴマだと言いあいになり、最終的には精霊界を巻き込む風と踵の大戦争になったという逸話がある。
 だからなのかは分からないけれど、踵属性の人とは実際相性が悪い事が多かった。

 そして私はしばらく大河を眺めて過ごした。
 そしてふと、あるモノに気が付く。
――あれ、なんだろう。
 少し離れた畔に誰かがいる。
 遠くてよく見えないが、ローブを着た、魔法使いの様なシルエット。

 向こうも確実に私には気が付いているみたいだけれど、気にも留めない素振りで、何か呪文を詠唱している。
 その魔法使いの様な人が両手を掲げると、突如そこに次元の歪みの様なものが現れた。
 そこからすぐに、ゾロゾロとゴブリンが出現する。

――あ、あの魔法使い、魔族だ。そして、あれはワープゲートだ。
 それに気が付いた時には、既にゴブリンの数は数十匹になっていた。

 ゴブリンが私の下へ向かってきている。
 目を血走らせ、牙をむき出しに、爪を光らせて。

 あ、これは――死ぬな。
 現実感のない光景をぼんやり眺めながら、私はそう確信した。
 本気で逃げてもヤツらのスピードには敵わない。
 スライムを三十分かけてしか倒せない私に、無数のゴブリンを倒せる筈もない。
 はじめての冒険で私は命を落とす。

 既にゴブリンは私まであと数モートル(メートル)の所まで迫ってきている。
 私は死を覚悟した。 
――さようならお父さん、お母さん。先立つ不孝をお許し下さい。

――その時だった。

「お嬢ちゃん。お困りかい?死にそうだぜ」

 突如、目の前に軽装の戦士が現れた。ニッコリと、笑顔が眩しい。装備と同じく、軽そうな青年。
 その人は私とゴブリンの間に立っている。そして、ゴブリンはもう目と鼻の先にまで迫っていた。
「危ない!」 
 私がそう叫ぶのと、戦士が真っ黒な大剣を一閃するのと、同時だった。
 次の瞬間、数十体のゴブリンの首が宙を舞っていた。私はそれを眺めながら、ああ、ゴブリンの顔にもそれぞれ違いや個性があるのだな、一番端のゴブリンは、ちょっとひょうきんな表情ね、なんて事をぼんやりと思った。
「ほらお嬢ちゃん。何やってんの。とりあえず逃げるぞ」
「あ、うわ。きゃああ」
 思案を止められ、急に手を掴まれ、青年が走り出し、私も引っ張られる。
 凄いスピードで引きずられ、どんどんワープゾーンから遠ざかる。

 ようやく止まってくれた時には、私の息は絶え絶えだった。
「ふう、ここまでくれば、あと数分は稼げるかな。とは言っても……」
 そこでようやくその軽装の青年戦士の顔をしっかりと見る事が出来た。
 その顔を指差し、私は思わず声を上げてしまった。
「あれ、勇者ラッカ=シンサ!?」
「お、正解。サインあげようか?」 
 その軽薄そうな表情は、教科書に載っている通りだった。 
 勇者になるべくして生み出され、育てられた、絶対勇者。

「凄い、本物だ……」
『ケケケ!ラッカ。お前もなかなかの有名人だな。何で教科書に載ってんだよ』
 別の声が聞こえた。見ると、勇者ラッカ=シンサの持っている黒い大剣に目と口があり、どうやらそこから声が発されているようだ。
「魔剣オクラホマスタンピード……」
『お、オレの事も知ってんの!?やったね。嬢ちゃん、オレの事は気軽に「ピード」って呼びな』
 勇者が魔剣を手にしたという噂は、魔法学校の男子が話をしているのを聞いて知っていた。
 本当に、本物だ。凄い。

――とにかく、これで助かった。私は素直にそう思い、喜んだ。
 後は勇者に任せて、私は逃げよう。
「勇者様。助けて頂いてありがとうございます。私はこのままじゃ足手まといになると思いますので、ここらへんで。じゃあ頑張って下さいね。さようならー」
 早口でお礼を言い、そのままそそくさと立ち去ろうとする私の手を勇者ラッカ=シンサがガシッと掴む。ドキリ。
「ちょっと待った」
「え?」 
 何でしょう?
「ひょっとしてお嬢ちゃん、魔法使い?耳が尖がってるけど」
「はい、ナナセ=フラウと言います。ハーフエルフです。属性は風です」
「あ、そう……ふーん」
 そう言うと勇者ラッカ=シンサは斜め上を眺めながら、何やら考え始めた。

「俺一人なら『エターナル』を試してみようかと思ったけど、おあつらえむきに魔法使いが来たね。これはタイミング良過ぎじゃねえか?なあオクラよ?」
『おいラッカ。お前まさかこの嬢ちゃんを先に実験台にしようってんじゃねえだろうな。そもそもラクゴの技を試すってのはお前の思いつきで、成功する確率の方が低いんだぜ?』
「いや、だからお嬢ちゃんに先にやってもらってさ。そうしたらお嬢ちゃんの詠唱中は俺が守ってやれば言いわけだしさ……なあ?効率良いだろう?」
 何やらゴソゴソ剣と会話をしているが、実験台だとか、確率が低いとか、内容が不穏過ぎる。私は帰ってはダメなのだろうか。私に出来る事など何もない。足を引っ張るか、良くて犬死しか選択肢がないんですけど……。
「あのー。私はどうすれば……」 
 いてもたってもいられなくなり思わず訊ねる。
 すると勇者ラッカ=シンサは私を振り返り、満面の笑みを浮かべて、こう言った。

「よし、じゃあ今からお嬢ちゃんに素敵な呪文を授けよう。ちょっと舌が絡まりそうな呪文だから、しっかり覚えてね」
「呪文……ですか?」

 突然勇者から、呪文を教わる。
 そんな現実感のない状況で、私はなすすべもなく、流されるしかなかった。

「ああ、裏詠唱魔法。名前はね、『アマテラス』って言うの」

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