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異世界落語 作者:朱雀新吾

エターナル【寿限無】

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エターナル【寿限無】⑥

「あはは。なるほど、やはりそういう事ですか」

――騎士団に入れ。

 クランエは流石の一福でも騎士団長直々の、突然の申し出には驚くと思っていた。だからやはりという一福の軽い反応に、クランエの方が驚かされる結果となった。
「何だ。知っていたのか。それなら話が早い」
「いえ、知っていたという訳でもないのですが、なんとなくそんな雰囲気かな、と思いまして」
 一福は笑みを浮かべたままカンエと会話を続ける。そこにたまらずダマヤが割って入る。
「カンエ。お主もしや、一福様を指南役として、落語を通して必殺技の訓練をさせたり、今後も新たな必殺技を作らせようとしているのではないだろうな」
「おお!ダマヤにしては冴えとるな!まさしくその通りだ!」 
「ふん、当然だ。これぐらい、赤子でも分かるわい」 
――あ、これはダマヤ様は冴え過ぎている。
 先程の一福の態度といい、これには何か裏があるとクランエはその時すぐに気が付いた。
「イップクよ。騎士団に入り、騎士達にラクゴを教えるのだ。ひとまず『エターナル』をな」
 有無を言わさぬ態度のカンエ。そこにラッカが笑いながら口を挟んでくる。
「おいおい、カンエのおっさん。俺は観ただけで『エターナル』を使えたんだぜ。別にわざわざ旦那から教わる必要なんかねえんじゃねえの?」
「ラッカ。お主の物差しで物を言うではない。誰もがお主なら、とっくに魔族など滅ぼし尽くしておるわ」
「ハハハ、そいつは違いねえな」
 一切否定せずに不遜にラッカが笑う。 
「教わる必要がない、か。まあ見ておれ。……おい、ここに、騎士団の者がおるな」
 カンエが店内を見渡し言うと、そこにいた騎士達がサッと起立し、カンエの前に並ぶ。
 カンエはその中の一人の騎士の前に立つ。
「よし、お主、やってみよ」
「はい」
 その騎士は一歩前に出て、剣を抜き、構える。緊張した面持ちで、すうと息を整えると、口を開いた。
「エターナルエターナルこがgkjh」
 噛んだ。
「ぐわああああああああ!!」
 次の瞬間、騎士の身体が見えない力で弾かれる様に吹き飛び、店の窓から外へと、あっという間に消えていった。
「な、なんで外に飛ばされ……」
 クランエが驚いて騎士が飛んでいった方向を眺める。ダマヤがクランエの肩を触りながら言う。
「『エターナル』はあまりにも強大過ぎる技の為、失敗時の反動が大き過ぎ、エネルギーが逆流し、あの様に吹き飛ばされてしまうのだ」
「はあ、そうですか。ですがそれを何故ダマヤ様がご存知で?」
「ふん、これぐらい史上最年少視聴者である私なら……見れば分かるわ」
「そうですか……」
 そこでナナセがクランエにそっと耳うちして、真相を教えてくれる。
「昼の部で、魔法使いの方々も来て、同じ様な事をやっていったんですよ」
「……なるほど」 
 それなら一福がカンエの訪問の理由に察しがついたのも頷ける。
 そういえばクランエは来る途中、怪我をした魔法使いの集団ともすれ違った。あれはそういう事だったのか。今の騎士と同じように詠唱に失敗して吹き飛ばされた者達だったのだ。

「エターナルエターナルたいぬんぐugfy……ぐわああああああああ!!」
「エターナルエターにゃjgjgh……ぐわああああああああ!!」
「えちゃーhgfkhj……ぐわあああああああ!!」
 それからも何人もの騎士達が店の外に吹き飛ばされていく。

 ラッカがそれを見ながら、手を叩いて喜ぶ。 
「はっはっは、騎士団の連中はどうしようもないね。普段『烈風斬!』とか『雷神斬!』とか、格好つけた短い名前の技しか使わないからだよ?というか、それにしたって皆いくらなんでも酷すぎない!?最後のヤツなんか、日常会話もままならないんじゃねえの?」 
「ふん。騎士はお前の様に普段から口ばかり動かしておるお調子者とは違うのだ。だがこの技。国の為に使わない手はない。よいかイップク、もう一度言うぞ。お主は騎士団に所属して、騎士達にラクゴを教えるのだ」
 一福に再びそう言うと、カンエはダマヤを振り返る。
「ダマヤ喜べよ。ちいと癪だが、これはイップクを召喚したお前の功績となる。これで大臣の怒りも収まる事だろう」
「…………」

 そこで、ナナセが一歩前に出て何か言おうとする。それをサッと片手で制し、ダマヤが口を開く。 

「そうだのう。これで私は宮廷に返り咲き。ひょっとすれば出世もさせてもらえるかもしれん。名誉視聴者にのう」
「おお、そうだ。俺はお前の出世の後押しをしてやる事になるのは正直悔しくてならんが、まあ国の為だ。仕方がなかろう」
 そう言うと二人は顔を見合わせ、笑いあった。

 そして、次にダマヤは、きっぱりと言い放つ。
「おい、カンエ。騎士達を連れて、今すぐここを立ち去れ」

 カンエの表情が変わる。殺気を帯びた鋭い眼光でダマヤを睨む。
「ダマヤ……貴様、今何と言った?」
「聞こえなかったのか。今すぐここから出て行けといったのだ」
 対するダマヤも憮然とした表情である。
「ダマヤ。お前、気でも触れたか?自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「そうですよダマヤ様。落ち着かれて下さい」
 突然のダマヤの発言に慌ててクランエも間に入る。
「カンエ様への反感だけで物を言ってはいけません。よいですかダマヤ様。これは大臣にお許しを頂く最大のチャンスなのですよ。一福様に王宮騎士団に入って頂き、騎士達に落語を指南し『エターナル』を修得させる。その御活躍が大臣の耳に入れば、きっとダマヤ様はご自身でも仰られた様に、今より出世されての宮廷への返り咲きを果たせられるのです。一体何がご不満だと言うのですか?」
 クランエの言葉にダマヤは軽く眉を持ち上げ、普段見せる事のない、凄味の効いた笑みを浮かべる。
「……ほうクランエ。お主までもがそんな意見を述べるとはな……。失望したぞ」
「何を……それもこれもダマヤ様の、引いては国の為、一福様の為にも……」
「国の為ならば、落語を戦争の道具にしても良いと言うのか?」 
「それは…………」
 その指摘にクランエは言葉を失う。
「自分の世界さえ救われるのならば他の世界の文化など、いくら利用しても、蹂躙しても構わないと、そう言いたいのか?」
「それは……」
「例えば、エルフやドワーフの肉が、ここでない別の世界で完全治癒の薬となり、平和をもたらすとして、お主は笑って同朋である彼らを差し出せると言うのか。それが自分の家族であったら、大切な者であったらどう思うのか。お主こそ、自分の身に置き換えて物を言わんか!」
 ダマヤは物凄い剣幕で、クランエを怒鳴りつける。その気迫に、クランエは思わず怯んでしまう。
「よいかクランエ。落語というのはな、人々の笑顔の為にあるものだ。決して、政治や、戦争の道具であってはならない。今回『エターナル』がラッカ様の必殺技として成功したのは確かだ。騎士達が真似をして成功させるのも、別に構わん。だが、それでも『エターナル』という噺は、技は、本来、落語のネタとして作られたものなのだ。人を笑わせる事が第一の目的の噺なのだ。そんな落語のネタが偶然この世界の必殺技として成立しただけの事。だが、それを逆手に取り『戦いの為に落語を作り出す』様な真似をしてみろ。本末転倒とはまさにこの事だ。そんな事が許されると思っておるのか。落語を意図的に、積極的に、政治に、戦争に利用しようと言うのならば、それは最早落語ではない。政略であり、策略でしかないものに成り果てる。クランエ、お主はな、一福様に『笑い』ではなく『戦争』の為に落語をしろと言っているのだぞ」
「…………私は……なんて……」
 理路整然と語るダマヤに、クランエは一言も反論が出来なかった。己の誤りを指摘され、罪に気付き、項垂れる。

「さあカンエよ、そういう事だ。とっととこの場から立ち去れ!ここは人々が酒と落語を楽しむ場所だ!」
 ダマヤが騎士達を見遣り、一喝する。その迫力は、武人であるカンエすらも跳ね除ける威厳と迫力に満ちていた。

 カンエが悔しそうにダマヤを睨む。
「おのれダマヤ。こんな態度を取って、大臣から許しは出ないと思え」
「かまわん。一福様を差し出す事で救われる身分など、こちらから願い下げだ!」
 そう言うと手を払い、カンエを追い払うジェスチャーをした。
 カンエは忌々しそうに舌打ちをすると、騎士達を引き連れ、酒場を去っていった。

「……ふん。相変わらずいけすかんヤツだ。一福様、我が世界の者が大変な御無礼を働きまして、私が代表しましてお詫び申し上げます」
 ダマヤは一福を振り返ると、深々と頭を下げた。一福も恐縮するように頭を下げる。
「いえ、頭を上げてくださいダマヤさん。ありがとうございました。でも、よろしかったんですか?ダマヤさん。随分さっきと……」
「あっはっは!一福様はお気になさらないで下さい!」
 一福の言葉をかき消すようにダマヤは豪快な笑い声を上げた。
「ハッハッハッハッ!!流石はとっつあん!最高だぜ」
 ラッカは手を叩いて大爆笑し、ナナセは驚いた様に目を丸くさせダマヤを見つめていた。

 クランエだけが下を向き、拳を握りしめ、己の行為を凄まじく悔いていた。
――私は何て愚かな事を。
 国の為、ダマヤ様の為、あげくには一福様の為だと……?
 愚かにも程がある。浅はかな考えでカンエ様の相談に乗り、紹介役を承諾し、それが……よもや異世界の文化を蹂躙する行為の片棒を担ぐとは。

 死んでしまいたい程の失態である。

 クランエは一福の前に跪き、頭が地面に着きそうな程下げた。
「一福様。この愚かなクランエ。大変失礼を致しました!何度お詫びしても足りません。本当に、本当に大変なご無礼を働きました。重ね重ね申し訳ございま……」
「いやいや、よして下さいよクランエ師匠。あたしは気にしちゃいませんから」
 笑って一福はクランエの両肩を持ち、頭を上げさせる。
「いや。ダマヤさんはああ言ってくれましたけど、あたし自身はそんなに深くは考えてはいないんですけどね。ただ、宮廷の所属になりますと、確かに窮屈にはなりますからね。攻撃性の強い落語ばかりをやると考えると、辟易しますし。まあ、それぐらいの認識ですから、あまり思いつめずに。師匠はもう少し軟らかくなられたら良いんですよ。あたしや、ラッカ様みたいにね」
 優しい言葉をかけられ、救われた気持ちになると同時に、自らを心底情けなく思うクランエ。
「一福様、ありがとうございます。ダマヤ様にも、ご迷惑をおかけしました。今日の所は私はこれで。失礼します」
 いたたまれない気持ちが膨れ、一福とダマヤに一礼するとトボトボと背中を向け、酒場を後にした。


 後ろをラッカが追いかけてきた。
「おいクラ。どうしたよ。とっつぁんに怒られたくらいで落ち込んでどうすんだよ。とっつぁんを見習え。大臣にビンタされても平気な顔してんだからよ」
 そう言ってラッカは笑う。クランエは笑わなかった。 
「だけどさ。落語を戦争に使わないって言ったって、使えるもんは使わないと、どうしようもねえんじゃねえのかな」
「え?」
 思わぬ言葉にクランエはラッカの顔を見る。
「だってよ。旦那は事情はどうあれターミナルに来た訳だろう?だったらこっちの世界にちょっとぐらい協力してくれたって良いだろうよ。じゃないと、滅ぶんだぜ、世界」
 勇者のその言葉は、冷たくクランエの胸に響いた。
「『勇者』と『救世主』ね……。どこが違うってんだよ……この世界にとって……」
「え?ラッカ様、今なんと?」
「いや、何でもねえよ。独り言さ」
 そう言うと勇者は、空に浮かぶ月を見上げた。

「『エターナル』の最後ってさ、ほら、技名を言っている間に戦闘が終わっているっていうアレな」
「はい」
「この世界の事なのかもしれねえな」
「え?」
 どういう事かと、クランエはラッカに目で訊ねた。
「いやな、旦那がこの世界でずっとラクゴをやっている内に、戦闘が終わったら、どうするよ」
「終わったら……?」
 ああ、と相槌を打つと、ラッカは軽く、簡単に言い放った。

――ラクゴやってる内に魔族が勝って、世界が終わったら、どうすんの?
おあとがよろしいようで。
次回「アマテラス【平林】」でお会いしましょう。
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