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異世界落語 作者:朱雀新吾

エターナル【寿限無】

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エターナル【寿限無】④

 秘書官が執務室へと入室した時、既に先客がいた。

 その珍しい来客に秘書官は少なからず驚きを覚える。
「これはこれは大司祭様。どうされました」 
「おお、お主か。久しいの、元気であったか?」
 大司祭は秘書官の姿を認めると、優しく目を細めた。
「はい。未熟ながらも敬愛する大臣の為、ひいてはサイトピアの為、日々職務に励んでおります」
「ふふふ……お主もクランエも少々真面目過ぎるな。もっと柔軟になれば更に視野も広がるのだが。まあ、かといってダマヤやラッカの小僧の様に緩すぎるのもどうかとは思うが……」
 大司祭と顔を合わせると、いつも孫の様に扱われる。ダマヤとラッカを同様に小僧扱いするのだから、無理もないが。秘書官も大司祭の事を祖父以上の存在として慕っていた。
「これが私の性分ですから。クラ兄……いえ、クランエ召喚師も、同様に」  
「うむ、それがお主らの良い所でもあるからな。励めよ」
 満足そうに頷く大司祭。大きな皺だらけの手を秘書官の頭に置くと、そのまま扉まで歩き出す。
「では、私はこれで。ちいと大臣殿に報告せねばならん事があっただけでな……」 
「そうですか。もう少しごゆっくりされても。私は席を外しますので……」
「いやいや、もう用件は済んだでな。ここで失礼させてもらう」
 大司祭は扉を開けると、最後に一言、背中で大臣に語る。
「では大臣殿。確かに伝えましたぞ。この件に関しては……」
「はい、大司祭様にお任せします。ありがとうございました」
 大司祭は振り返る事なく去っていった。


「お元気そうで、安心しました」
 去った後の扉を名残惜しそうに見つめながら、秘書官はそう呟いた。
「ああ……あの方にはまだ長生きしてもらわねばならん。私如きの浅はかな頭脳では到底考え付かない様な事を、その経験と叡智によって生み出されるのだからな」
「あの、大司祭様の報告とは……何か魔法関連で問題でも?」
「いや、何、兼ねてより案のあった、魔法部隊設立の件と、とある魔法の裏詠唱が発見されたという、報告だな」
「なるほど」
 口には当然出さないが、その案件で大司祭が直々に大臣の執務室を訪れるという事に、秘書官は首を傾げざるを得なかった。立場的にも能力的にも、大臣に報告等せず、勝手に進めても何の問題もない事案である。
「ああ。まあ報告を受けたとは言っても、その対処もいつも通り、全て大司祭様にお任せするという事になったがの。まあ、律儀な方だからな」
「はい」
 秘書官の疑念を感じ取ったのだろう。大臣が言葉を付け加えた。
 大司祭は昔、大臣が魔法使いだった頃の師匠である。魔力が他の者より劣り、だが他者よりも数段聡い頭脳を持っていた大臣に魔法を極める道ではなく、政道を勧めたのは大司祭であった。
 年齢はいくつなのか。エルフの長老格とも互角に昔話をしている所などを見ると、百を超えているのではないかという噂も王宮内で立っている。それが事実だとしても秘書官はなんら不思議ではなかった。
 宮廷内ではサイトピア王宮騎士団に肩を並べる勢力。魔法使いを束ねる長、大司祭。誰からも慕われ、誰からも畏れられる存在である。 

「では、そなたの報告を聞こうかの」
「はい」
 秘書官は大臣の机の前に起立し、報告を始める。
「勇者ラッカが、魔族の魔法使いによって生み出されたゴブリンのワープゲートを塞いだそうです。それにより無限とも言える大量のゴブリンの国への侵攻を未然に防ぐ事が出来ました」
「おお、そうか!それはお手柄じゃな!ラッカのヤツめ。これはお見事じゃ!」
 大臣は机に身を乗り出し、歓喜する。
「はい、新必殺技で何万体ものゴブリンと術者とワープゲート本体を一気に消滅させたとの事です」
「何!?新必殺技とな!」 
 新必殺技という言葉に大臣は表情を輝かせる。
「新必殺技とは、ラッカのヤツめ、精進しておるな。して、どんな必殺技じゃ?」
 大臣が尋ねる。秘書官は、はいと一度頷くと、質問に答えた。
「エターナルエターナルシャイニングウィズダムブレイド神アクア神エミタル神モル神ケピネプ神ナアキ伸ゴンゴルプリプリ神チンチロピロピロ神チョンモネ神その他1787神の名の下に風の精霊ジン水の精霊ウンディーネ火の精霊イフリート土の精霊タイタン踵の精霊のぶをの加護を受けシュレディンガーガガーリンアルシンドピニャコラーダジンギスカンスフンフフンヤマダホフッフ我が刃は闇を斬りターミナルに光差す慈愛と創生の夜明け待つ人々の為立ち上がりし我こそ完全無欠なる絶対勇者栄光溢れるこの名に於いていかなる邪悪も許さぬ所存いざ喰らえ愛と正義と勇気と根性と欲望に満ちた曇りなき揺るぎなきやんごとなきこの秘剣その名も超絶滅殺必殺剣『ギガンテスファイナライズイリュージョンスマッシュ』です」
「………………なんだ、それは」
 息も継がずに技名を唱えた秘書官を、大臣は怪訝そうに見つめる。
「今のが、必殺技という事か?」
「はい、そうです」 
 秘書官は真顔でしっかりと頷く。
「ええと、なんだって?エターナルエターナルシャロンウィンクラブミー……?」
「違います。エターナルエターナルシャイニングウィズダムブレイド神アクア神エミタル神モル神ケピネプ神ナアキ伸ゴンゴルプリプリ神チンチロピロピロ神チョンモネ神その他1787神の名の下に風の精霊ジン水の精霊ウンディーネ火の精霊イフリート土の精霊タイタン踵の精霊のぶをの加護を受けシュレディンガーガガーリンアルシンドピニャコラーダジンギスカンスフンフフンヤマダホフッフ我が刃は闇を斬りターミナルに光差す慈愛と創生の夜明け待つ人々の為立ち上がりし我こそ完全無欠なる絶対勇者栄光溢れるこの名に於いていかなる邪悪も許さぬ所存いざ喰らえ愛と正義と勇気と根性と欲望に満ちた曇りなき揺るぎなきやんごとなきこの秘剣その名も超絶滅殺必殺剣『ギガンテスファイナライズイリュージョンスマッシュ』です」 
「…………」
「聞こえにくかったのでしたら、もう一度言いましょうか。エターナルエターナルシャイニングウィズダムブレイド神アクア神……」
「ああ、もうよいもうよい。分かった分かった」
 大臣はうんざりした様に手を左右に振り、秘書官を止めた。
「……なんとも長い名前だのう」
「ええ、その長さと縁起の良さに最強の力がこもるようでして、城下ならず城内でも評判となっております」
「なるほどな。よし、その技を普及して、我が国の更なる武力の向上に努めるが良かろう」
「はい」
 秘書官はその時、少しの違和感を感じた。
 大臣の反応が薄すぎる様な気がしたのだ。
 普段ならもっと豪快に驚き「長すぎるわ!なんだそれは!!」や「息継ぎどこでするのだ!」「言っている間に攻撃されるわ!」というお得意の突っ込みを縦横無尽に繰り出し、そこで大臣の血圧を心配する事こそ、秘書官である自分の仕事であった。
 これでは少々張り合いがないと言うか……。ひょっとして大臣はどこか体調が悪いのではと勘繰ってしまう程、よくよく考えればありえない反応であった。
「どうした?何を考えこんでおる?」
「……いえ。何もございません」
「そうか、具合が悪い時は無理をするでないぞ。大司祭様も言っておられた様に、お主は真面目で責任感が強過ぎる所があるからな」
「はい。ありがとうございます。ですが、本当に大丈夫ですので」
 逆に大臣から心配される始末であった。
 秘書官は懸念を胸に押しやると、話を戻した。
「で、新必殺技の話ですが、やはりあれは名乗りがかなり難解な技でして、修得するには特別な修練が必要になるかと……」
 秘書官の言葉に大臣は尤もだと頷く。 
「それはそうだろう。使うなら……集団戦の軍でも利用出来ない事はないが……それよりも騎士団だな。騎士団で一人でもその技を使える者がいたなら、今後の戦闘隊形も変わってくるだろうて」
 大臣の言葉を秘書官は力強く頷き、肯定する。
「はい。仰る通り騎士団で活用出来ないかと、騎士団長も興味を持っておられる様です」
「カンエがか。うむ、それならば思ったより早く導入出来るやもしれんな」
 大臣は騎士団長であるカンエに絶対の信頼を寄せていた。
「それではラッカに頼み、その技を指南させるがよかろう」
「いえ、騎士団長はクランエ様の下を訊ねて行かれました」
「クランエ?何故じゃ?ヤツは召喚師じゃぞ」
 大臣は軽く眉を上げ、疑問の面持ちで秘書官を見据える。
「ええ。実はですね……その」
 そこで秘書官は一度間を置くと、意を決して話す。
「その新必殺技を生み出したものこそダマヤ様の……いえ、ダマヤが異世界より召喚したハナシカなる者で、あるそうです」
 ダマヤに「様」を付けるなという大臣の言いつけを守り、秘書官はダマヤを呼び捨てにした。
「ダマヤだと!!」
 そして、ダマヤの名前を耳にした瞬間、大臣はもはや反射の様に憤慨し、叫び声を上げた。
 秘書官はその大臣の変わらぬ反応に安心した。
 いや、安心してはいけないのだが、大臣らしさが戻った事に、正直安堵を覚えたのだった。
「いえ、ですが大臣、ラクゴが……」
「ああ、ヤツはまさしく人生の落伍者であるわ!」
「いえ、それがラッカ様も仰っておられてダマヤ様が、いえダマヤも……」
「ええいうるさい!!その名は聞きたくないわ!!もはや呼び捨てでも生温いわ!今度からヤツの事は『何の役にも立たない人の形を成した塊』とでも呼べ!」 
「…………」 
 これは、ダメだ。完全に聞く耳を持っていない。こうなった大臣を説得するのは不可能に近い。ダマヤイヤ症候群(シンドローム)にかかってしまったようだ。秘書官はダマヤに関しては、ほとぼりが冷めるまでもうしばらく時間がかかりそうだと認識した。
「まったく、どいつもこいつも、大司祭様までもがラクゴラクゴと……ダマヤの妄言に騙されおって。芸事で魔族を殲滅出来るわけがあるまいて……」
 大臣が不満そうにぶつぶつと文句を述べる。その言葉を秘書官は聞き逃さなかった。
 どいつもこいつも?大司祭も?
 内容に興味を持ったが、不躾に問うのも気が咎め、結局秘書官は聞いていなかった振りをして、話をラッカに戻す。
「それにしても近頃のラッカ様のご活躍には目を見張るものがありますね」
「おお、そうじゃのう」
 大臣が嬉しそうな顔で乗ってきてくれ、秘書官はホッとした。
「聖剣を売って、魔剣を持って帰ってきた時には心底驚いたが、上手く使いこなしておる様だしの。おお、そうじゃ、あの時連れてきたホビットはどうじゃ?」
「イへブコでございますか。エルフとドワーフの橋渡し役として、素晴らしい働きを見せておると聞きます。良い人材を見つけてくれたと同盟隊の隊長殿が大変評価されておりました」
「そうかそうか。いやはや、我が国もようやく歯車が合い始めた様じゃのう。うんうん」
 大臣はご満悦であった。
「おお、そうだ。そのワープゾーンの件じゃが、ラッカは一人だったのか?」
「いえ、偶然その場に居合わせたハーフエルフの魔法使いが一緒だったそうで。当然、ラッカ様に命を救われる結果になったそうですが」
「おお、そうかそうか。ふむ……ハーフエルフの魔法使いか」
 大臣はしばらく意味もなく頷いていたが、一息つくと一転して神妙な顔になり、小さな声で呟いた。
「……ラッカも一人では大変じゃろう。その、ピートは惜しい事をしたが……そろそろ新しい相棒を探しても良い頃ではないか。のう、お主はどう思う?」
「……そうですね」
 秘書官は物腰の柔らかい笑顔の優しい青年を思い浮かべる。
 ピート=ブルース。ラッカの幼馴染で、親友で、相棒だった魔法戦士。
 破天荒なラッカには、彼の様に穏やかな男がぴったりだった。旅の途中で命を落としたと聞いた時は……信じられなかった。 
 思い返してみるとあれ以来、元々目立ったラッカの奇行が更に激しくなったのではないかと、秘書官は感じていた。大臣は当然、自明の如く理解しているだろう。
 絶対勇者は孤独の勇者となり、親代わりとも呼べる大臣の手綱でも御しきれなくなったのだ。

 そのラッカが、変わった。
 積極的に魔族を討伐するようになり、その活躍ぶりは以前の彼を彷彿とさせた。
 その一因が今巷を騒がせているラクゴにあるのでは――そう、秘書官は考えていた。

 騎士団を始め、既に宮廷内の他の部署でも彼に――ラクゴを操るハナシカ、ラクラクテイイップクに接触を試みている者がいるかもしれない。

――私も一度観てみる価値は、ありそうだ。
 その人物を、その技を見極めなくては。
 勿論、大臣には内緒で。

 そこで執務室の扉を叩く音が響いた。外から補佐官の声がする。
「大臣、ダマヤ様が、いえ、ダマヤが謁見を求めていますが……」
「ええいうるさい!毎日毎日懲りもせず……さっさと追い払う様に門番に伝えろ!!あと今後ダマヤはダマヤではなくだな、『何の役にも立たない人の形を成した塊』と呼べ!」
 怒り狂う大臣を見て、やはり何故だかホッとする秘書官であった。
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